誰もやってない面白いことはないか
大塚氏も言ったように、オリジナル作の多さはTRIGGERの特色の1つ。それにはガイナックス時代の貴重な経験が大きく影響している。
「僕たちはガイナックスで先輩たちを手伝いながら、多くのスタッフがオリジナル作品の作り方を経験しています。これはかなり貴重なことで、アニメをいちから作るのって、望んでも経験できるものではないし、ノウハウのないスタッフがオリジナル作品をゼロから作るのは本当に大変なことなんです。我々は先輩のおかげでそれを経験できましたし、自分たちもチャンスをもらえました。
『エヴァ』もそうですが、『機動戦士ガンダム』だったり『宇宙戦艦ヤマト』だったり、オリジナル作品を観てアニメ業界を目指した人って多いと思うんです。自分たちも影響を受けたし、これから影響を与えるであろう作品もオリジナル作の中に多くあるはずだというのは感じています。せっかくオリジナル作を制作する機会をいただいたので、自分たちが、オリジナル作を作り続けるという文化、ノウハウが途絶えないように守っていくというのは、会社の使命みたいなものでもありますね」
そんな強い思いの裏には、尊敬する先輩からもらった言葉がある。
「ガイナックスにいた頃は、鶴巻さんたち先輩方から『そんな当たり前のことやってどうするの?』とよく言われていました。先達から渡された技術も使いながら、それだけではなく自分たちなりの工夫をしたり、先輩たちは新しいものを常に追い求めていました。その影響はすごく受けていると思います。
『それいいね』と言ってもらえるのはうれしいですし、誰もやってない面白いことはないか、みたいなことを探すというのはガイナックスの先輩たちから引き継いだ感覚だと思います。“ガイナ流”って言っていいのかわからないですけど、TRIGGERじゃないと引き継げないオリジナル作品の作り方は、自分たちの中で持ち続けていきたいなと思っています」
バトンを渡せる監督をちゃんと見つけて、それを引き継いでもらう
「TRIGGERのカラー=監督のカラー」であると大塚氏は語るが、それは長年、今石監督、
「雨宮はアニメーター時代に、カット数をとても多くさばいてくれていたんです。これは昨今珍しいことで、昔は原画が4、5人なんてことも普通だったんですが、今では1人で担当できるカット数が減って、原画の人数もどんどん増えていっています。たいていの人は少ないカットを集中して描くので、全体の流れを見れないけれど、雨宮は数多くのカットを描くことで、カットではなくてシーンとして捉えることができる。そうすると、ここはポイントになるカットだからがんばる、このカットはそんなに力を入れなくていいと、カロリーコントロールができるようになるんです。雨宮はアニメーター時代に多くのカットを担当したことで、演出に対する素養が付いて、一番スケジュールコントロールができる監督になりました」
雨宮監督に対する称賛は止まらず、大塚氏がいかに信頼を寄せているかが伝わってきた。
「最初にTRIGGERに入って生え抜きで育ったスタッフが監督になるまでの流れは、絶対に自分が社長をやっている間に作っておきたいと思っています。そういう意味では雨宮が出てきてくれたのは、その流れを作るうえで大きいポイントになってくれました」
大塚氏が監督育成にこだわるのには、キャリアの中で出会った“偉大すぎる”監督たちの姿がある。
「僕が最初にアニメに携わったスタジオジブリは、監督が偉大すぎてなかなか後進が出てきづらかったんです。ガイナックスでも庵野さんが作品を作っていると、僕らはそれを手伝っていればいいやという感覚になってしまっていました。個性的、独創的な作品を作る監督がいるスタジオを経験したことで、監督がいなくなったらスタジオが育んだ文化も消えてしまうと思ったんです。TRIGGERでは『今石や吉成が作らなくなったら終わり』にはしたくない。そこのバトンを渡せる監督をちゃんと見つけて、それを引き継いでもらうのが当面の目標です」
若い子たちにとっての「グレンラガン」を体験させてあげたい
ところで、オリジナル作がほとんどを占めるTRIGGERの作品ラインナップにあって “異色作”と言っていいのが、2014年に放送された同名のライトノベルを原作とする「異能バトルは日常系のなかで」。同作について聞いてみると、オリジナルを作り続ける大変さと、新人育成のための試みから制作に至ったことを語ってくれた。
「オリジナル作を世に出すのはすごく時間がかかるんです。それに、オリジナル作は経験がある人じゃないとメインスタッフを張れないので、若い人にいつまでも経験を積ませられなくなるという問題も起きてくるんです。アニメを作るというところではオリジナルものも原作ものも根本は一緒。やはり数をこなすことが経験値としては大事だと思っているので、若い人にチャレンジや挑戦する場を与えたかったんです。クライアントもうちが受けてくれるとは、あまり思ってなかったみたいで、『えっやってくれるの!?』という感じだったんですけど(笑)。
もちろん若手の機会といっても変なものは作れないですし、僕自身も若手の面倒を見ながら、総監督という立場で手伝わせてもらいました。スタッフに原作ものはちょっと……とはなってほしくないですし、型にはまらない作品しかやらないということではなく、原作ものだって楽しく作れる、一生懸命作るという姿勢を示すためにもやっておきたいなと思った作品でした」
以降も原作もののアニメ化の話はいくつかあったそうだ。しかし、メインスタッフがオリジナル作品に時間をかける関係でタイミングが合わなかったり、若手にやらせたいが監督ありきでのオファーだったりと、なかなかチャンスが巡って来なかった。
そんなTRIGGERの最新作が九井諒子のマンガを原作とした「ダンジョン飯」。「このマンガがすごい!」「全国書店員が選んだおすすめコミック」など数々の賞で1位を獲得した人気原作をあのTRIGGERがアニメ化するとあって注目度も高い。監督はTVアニメデビューとなる
「今石や吉成がやるようなイメージのタイトルでもないですし、『ダンジョン飯』はTRIGGERのイメージで頼まれた仕事ではなく、スタジオとして信用してもらえた仕事だと思うんです。だからこそ、これだけのものを作れるんだというのは見せないといけないと、スタッフには発破をかけています。各話の演出も社内のスタッフ中心で組んでいますし、ほとんどのアニメーターもTRIGGERで育った人がやってくれています。新しい世代で作品を作ることで、今回の経験が次の作品に活きることもありますし、若い人が『これは俺たちの作品だ』と思って力を尽くしてくれれば、ベテランとは違うエネルギーが入った作品になると思います。
原作のファンがTRIGGERは知らなかったけど観てみるかとか、『ダンジョン飯』は知らなかったけど、TRIGGERが作るなら観てみようとか、そんなことが起きるといいですね。ファンの思いに応えられる作品になると思いますので、楽しみに待っていてください」
最後に大塚氏自身のアニメ業界でのターニングポイントを聞いてみた。
「『グレンラガン』ですね。僕は『グレンラガン』を経験して、先輩の手伝いではなく、自分たちで作品を作るのは、やっぱり違うなと思いました。なので、この会社で若い子たちにとっての『グレンラガン』を体験させてあげたいです。そういう機会を作れるかどうか、それが自分たちの今の責任だし課題ですね。けど後輩たちにそういう体験をさせてあげられたら、また彼らはそこからすごい作品を作ってくれると信じています」
大塚雅彦(オオツカマサヒコ)
1964年4月14日、福岡県生まれ。TRIGGER代表取締役、アニメーション演出家。1992年にスタジオジブリに演出助手として入社し、「平成狸合戦ぽんぽこ」「耳をすませば」などに携わる。1995年にガイナックスに所属し、「新世紀エヴァンゲリオン」「天元突破グレンラガン」などにメインスタッフとして参加。2011年に
「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」「螺巌篇」リバイバル上映・4D上映
劇場公開15周年プロジェクトとして「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」「螺巌篇」のリバイバル上映、および作品初となる4D上映が決定している。
通常上映
「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」
上映期間:2023年8月25日(金)~9月7日(木)
「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」
上映期間:2023年9月22日(金)~10月5月(木)
4D上映
「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」
上映期間:2023年10月6日(金)公開 ~ 10月19日(木)
「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」
上映期間:2023年10月20日(金)公開 ~ 11月2日(木)
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