座・高円寺 芸術監督のシライケイタと新館長の大川智史が目指す未来

座・高円寺が2026年4月、リスタートを切った。座・高円寺は佐藤信を初代芸術監督として2009年に開館。2023年にシライケイタが2代目芸術監督に就任し、2026年4月より指定管理者が合同会社syuz'gen(シュツゲン)に変わったことで大きく体制変更することになった。合同会社syuz'genはシライ率いる劇団温泉ドラゴンの制作面を長く支えてきたスタッフチームであり、ある意味“気心知れた間柄”。劇場が積み重ねてきた17年間の歴史や、地域との関わりを引き継ぎながら、新たにどんな絵を描いていくのか。合同会社syuz'genのスタッフで座・高円寺新館長の大川智史とシライに今後の展望について話を聞いた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 平岩享

ここから“新しい仕事ができる”と感じた

──シライさんは2023年4月に公示された座・高円寺の芸術監督募集に応募し、同年7月1日に2代目芸術監督に就任しました。また大川さんが所属する合同会社syuz'genは2025年4月に公示された座・高円寺の指定管理者募集に応募し、指定管理者に選出されました(編集注:指定管理者制度では、自治体が所有する公共施設の管理・運営を行う民間企業やNPOなどをコンペによって決める)。まずはお二人が座・高円寺にそれまでどんな印象を持っていたのか、そしてなぜ応募しようと思われたのかを伺いたいです。

シライケイタ 芸術監督になるまでは、一演劇人、一作り手として劇団で提携公演をやらせていただいたり、観客としてお芝居を観に行くということでしか座・高円寺には関わったことがありませんでした。なのでこの劇場と地域の関わりなど、演劇を上演する場所として以上の認識はあまりなかったです。

ではなぜ公共劇場に関わろうと思ったかというと、一番大きな出来事はコロナ禍でした。それまで演劇を作るということは個人的な行為で、演じたり本を書いたり演出したりということに集団性があるとはいえ、やはり自分たちの表現のためにやっていた部分が大きかったんです。でもコロナ禍によって個人の活動すらままならない事態に直面してしまった。ドイツでは当時の(アンゲラ・)メルケル首相が「芸術家は生命維持に不可欠」と言っていたけれども、日本は「不要不急なものは自粛」という形で、文化が軽んじられていることに危機感を覚えました。またその頃、仲間とグループを作って、省庁に要望に行ったり、記者会見を開いたりしたのですが、そういうときに僕は積極的に関わる立場だったこともあり、最初は自分のために始めたはずの活動が、いつの間にか業界のための活動になっていて、「ああ、これが公共ということなのかな」と考えるきっかけになりました。同時に、この国の国民に文化芸術に対する理解がもっと広まってほしいとも思いました。じゃないと、いくら作り手だけが声を上げても仕方ないのではないかと。なので、土壌を耕すとか裾野を広げることが必要だと思っていたタイミングで、座・高円寺の芸術監督公募のニュースを見て、またいろいろな人にも背中を押されて、「挑戦してみようかな」と思った次第です。

左から大川智史、シライケイタ。

左から大川智史、シライケイタ。

大川智史 僕もこれまでのキャリアの中では実は座・高円寺とあまり関わりがなくて、お仕事はしたことがなかったですし、劇場の中がどういう設備なのかとか、楽屋などのバックヤードがどういう感じなのかは今回関わるまで全然知りませんでした。一観客として足を運ぶ機会もそんなに多くなかったというのが正直なところで、レパートリー演目や、劇作家協会のプログラムが充実している印象が強かったです。

ただ5年前に杉並区に引っ越してきまして、そこからは地元の劇場という意識で、自分の仕事とは関係なくどのような取り組みをしている劇場なのか気にするようになりました。僕が好きだったのは子供向けの「リトル高円寺」というイベントで、劇場をいろいろな形で見せてくれる企画だったんですけど、それは自分がやりたいことと近いなと感じて楽しみました。その後、座・高円寺が芸術監督を公募すると知ったときは驚きましたし、まさかシライさんが芸術監督になられるとは露ほども思わなかったので、驚きと喜びがありましたね(笑)。一演劇ファンとして、杉並区民として、ここからどんどん変革が起き、新しいフェーズが待っているんだろうと期待が膨らみました。

ですので、syuz'genが座・高円寺のコンペに出すか否かを検討する際には、個人的にすごく面白い挑戦ができると感じました。私はもともと公共ホールの出身なので、自分が今まで取り組んできたことと近いこと、これまで培ってきたことや温めてきた思いを形にできるチャンスなんじゃないか、そしてこの座・高円寺という場所を前に進めていくお力になれるんじゃないかと感じました。

──シライさんが芸術監督だということも、コンペに応募する後押しになったのでしょうか?

大川 もちろん後押しにはなっています。syuz'genにとっては一番長いお付き合いのアーティストがシライさん率いる劇団温泉ドラゴンですし、シライさんと一緒にコロナ禍の苦節を乗り越えてきて、そこでシライさんにどんな変化があったのかも代表をはじめ近くで見ていた人たちはわかっているので、シライさんがやりたいと思っていて、でも芸術監督に就任されてからのこの2年でまだ形にできていないことを、私たちなら実現できるかもしれないと思いました。

シライ 僕にとってもsyuz'genが指定管理者に決まったことは、驚いたしうれしかったです。一番長く一緒に仕事してきた人たちだったし、syuz'genの風通しの良さとかオープンさが僕はすごく好きで、これから一緒に新しい仕事ができるなと思いました。

左から大川智史、シライケイタ。

左から大川智史、シライケイタ。

──芸術監督に就任されてから3年弱、シライさんはどのような手応えを感じていますか?

シライ そうですね……ほかの劇場だと芸術監督が交代するときに少なくとも1・2年は芸術参与などの形で現芸術監督に並走する期間があるんですよね。でも僕の場合は、2023年7月1日を境にいきなり変わりました。初年度の2023年度はもちろんプログラムはすべて決まっている状態で、2年目の2024年もほぼプログラムは決まっていました。なので、最初の2年で何か変革をもたらせたかというと、決まったことをこなしていくというのが実際だったと思います。昨年2025年は、提携公演のプログラムを僕が劇場と一緒に初めて選ぶことになったんですけど、その選び方を巡って、それまでの指定管理者のやり方と僕の考えが違ったので、まずはコミュニケーションを取っていく必要がありました。が、2025年の夏に指定管理者が変わることになって……何というか、劇場の変化の真っ只中に身を置き続けている感覚(笑)。なので、この春から僕もリスタートという感じです。

──大川さんは吉祥寺シアターの副支配人などを経て、2022年にsyuz'genに入社。その後、愛知県のメニコン シアターAoiの運営・制作などに携わっています。ほかの劇場を経験してきた大川さんは、座・高円寺の特徴についてどのように感じていますか?

大川 地域とのつながりがすごく強いと感じます。たとえば高円寺には阿波おどりをはじめ、ほかにも大道芸などさまざまなお祭りがありますし、それほど大きな街ではありませんが、いくつも商店街があってそれぞれに組織があり、劇場もそこに密接に関わっています。公共劇場の中でもこれほど地域と強いつながりがあり、地域の皆様に支えられている劇場はそんなに多くはないのではないかと感じますし、それはすごくいいところだと思います。その点に関しては、これまでも座・高円寺で働いていたスタッフさんが一部残ってくれているのでつながりを保っていけると思いますし、これからその部分をさらに広げていくことが大切だと思います。

劇場で起きているすべてが有機的につながっていけたら

──劇場の公式サイトの「座・高円寺とは」のページにある「わたしたちのミッション」には、「座・高円寺の目指すこと」「座・高円寺のすること」「事業の方向性4本柱」と、劇場の理念がシンプルかつ平易な言葉でまとめられています。またここで語られていることと、シライさんが2026年度ラインナップ発表時に示された「具体的な運営方針5つ」(「『多様性』から『インクルージョン』へ」「『広く』開いた劇場から『遠く』まで届く劇場へ」「国際交流の強化」「人材の育成」「世界に通じる高い水準の舞台芸術の創作・上演」)には一貫性があり、シライさんとスタッフの方たちの間でさまざまな話し合いがなされたのではないかと想像しました。アーティストと制作者という関係性から、劇場を共に形作るパートナーとして、新たな立場で向き合ったことによる気づきなどはありましたか?

大川 公式サイトに掲げた理念について、シライさんと直接的に話したわけではないのですが、昨年秋から今後劇場をどうしていくかに関しては定期的に話をしていたのでシライさんがお考えのこと、これから劇場をどうしていきたいかということは、ある程度共有ができていました。もちろん、無理に考えを1つにまとめる必要はないと思っていますが、シライさんと私たちが作りたいものが合わさって、どんどんマッシュアップされていき、最終的にこのような言葉になったと思います。

シライ ラインナップ発表の際に示したステートメントは、以前から言ってきたことではあります。ただ「『広く』開いた劇場から『遠く』まで届く劇場へ」「世界に通じる高い水準の舞台芸術の創作・上演」ということに関しては、これまでの座・高円寺ではあまり重視されていない感じがしました。区民向け、大人向け、子供向け、というふうに対象を切り分けているように僕には見えた。でも劇場として発信するメッセージは、誰々向けというふうに分けずに、有機的にすべてのものが結びついていたほうが良いと思っていて、それにはどうしたらいいんだろうと思っていたところ、syuz'genさんからいろいろなアイデアをいただいて。これまで僕が点と点でしか捉えられていなかったこの劇場を、割と軽々とクリアするような提案やアドバイスをもらったので、「今まで実現できなかったことがいよいよ具体的にできるかもしれない」と感じました。

左から大川智史、シライケイタ。

左から大川智史、シライケイタ。

──確かに、シライさんのステートメントには「世界」というワードが入っていますね。座・高円寺ではこれまでもヨーロッパをはじめとする海外のカンパニーを紹介する「世界をみよう!」シリーズなどがありましたが、シライさんやsyuz'genのこれまでの活動を振り返ると、協働する相手、対話する相手として世界、特にアジアのカンパニーを視野に入れているのかなと感じます。

シライ そうですね。もちろん僕もいつかはヨーロッパで、とは思ってはいますが、まずはこれだけ歴史的問題も抱えているお隣の国やアジアと協働することが大切だと思っています。

大川 現代演劇はその歴史的文脈を踏まえるとやむを得ないとは思いますが、ヨーロッパを「先進」として位置付け、ある種の権威性をもとに「世界」という言葉を使ってきたと思います。でもそこから脱する必要があるという思いはコロナ禍の頃から個人的には強く感じていました。自己反省も含めて、日本として向き合うべき歴史的責任がある相手であるアジアとの関係を誠実に築いていくことなしには、それより遠くの世界はないのではないかと考えています。逆に言えば、私はようやく本当に「世界」に出会い始めたような感覚があります。フットワーク軽く、という言い方が適切かはわかりませんが、若い世代に顕著なように、自分たちが手をつなげる人たちと手をつないでいこうとすることは大事だと思いますし、そういう姿勢をどんどん取り入れていきたいです。一方で、作品のクオリティだけでなくリテラシーや人権意識、アクセシビリティなど、あらゆる意味で高い水準を超えていかないと遠くまで届けられないということも事実だと思うので、そのような作品を生み出せる環境を作っていきたいなと思っています。そうすることで、作品が外に出ていくだけでなく、ほかの国からもこの劇場に集ってもらえる可能性が出てくるんじゃないかと思うので。