大槻裕一・野村裕基が膝丸・髭切に!「『能 狂言 刀剣乱舞』第一弾 妖蜘蛛編」まもなく開幕

PCブラウザ・スマートフォン向けゲーム「刀剣乱舞ONLINE」を原案とした舞台作品「能 狂言 刀剣乱舞」の第1弾「『能 狂言 刀剣乱舞』第一弾 妖蜘蛛編」が、7月28日に東京・国立能楽堂で開幕する。

「能 狂言 刀剣乱舞」は第3弾までの上演が予定されており、7月から9月にかけて上演される「妖蜘蛛編」では、能「土蜘蛛」をベースに、蜷川ヤエコのマンガ「刀剣乱舞 外伝 あやかし譚」(コアミックス)からインスパイアされた刀剣乱舞版・能「土蜘蛛」の物語が展開。「妖蜘蛛編」では、シテ方観世流能楽師の大槻裕一が膝丸役、狂言方和泉流能楽師の野村裕基が髭切役を勤める。共に二十代で、伝統芸能の新たな道を切り拓いてきた盟友2人に、公演にかける思いを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 佐々木康太

「能 狂言 刀剣乱舞」とは?

審神者さにわ”となったプレイヤーが刀剣男士を率いて敵を討伐する「刀剣乱舞ONLINE」が原案。「能 狂言 刀剣乱舞」シリーズは第3弾までの上演が予定されており、第1弾「妖蜘蛛編」には膝丸と髭切、第2弾には小狐丸、第3弾には謎の刀剣男士が登場する。「能 狂言 刀剣乱舞」シリーズの上演が決定した際、3人のマンガ家が刀剣男士から着想を得てイラストを描き下ろしたスペシャルコラボイラストが公開され話題となった。スペシャルコラボイラストには、「ポーの一族」で知られる萩尾望都の髭切と膝丸、「はいからさんが通る」の作者・大和和紀による小狐丸、「日出処の天子」の原作者である山岸凉子による謎の刀剣男士のイラストが使用されている。

「能 狂言 刀剣乱舞」スペシャルコラボイラスト ©2015 EXNOA LLC/NITRO PLUS ©萩尾望都/OFFICE OHTSUKI ©山岸凉子/OFFICE OHTSUKI ©大和和紀/OFFICE OHTSUKI

「能 狂言 刀剣乱舞」スペシャルコラボイラスト ©2015 EXNOA LLC/NITRO PLUS ©萩尾望都/OFFICE OHTSUKI ©山岸凉子/OFFICE OHTSUKI ©大和和紀/OFFICE OHTSUKI

第1弾「妖蜘蛛編」では、「能 狂言『鬼滅の刃』」や「-能 狂言-『日出処の天子』」に携わったシテ方観世流能楽師の大槻文藏、狂言方和泉流能楽師の野村萬斎、能楽師葛野流大鼓方の亀井広忠が、それぞれ作詞、監修、作調を担い、わかぎゑふが演出で参加する。「妖蜘蛛編」のベースとなる能「土蜘蛛」は、源家相伝の名刀・膝丸が登場する演目で、和紙で作った蜘蛛の糸を投げる演出で知られている。膝丸役の大槻裕一、髭切役の野村裕基らが「妖蜘蛛編」をどのように立ち上げるのか、注目だ。

大槻裕一(膝丸役)・野村裕基(髭切役)
インタビュー
左から野村裕基、大槻裕一。

左から野村裕基、大槻裕一。

能と狂言、新たな道を切り拓く2人

──裕一さんは1997年生まれの28歳、裕基さんは1999年生まれの26歳。年齢が近いお二人は、幼い頃から伝統芸能の世界に身を置き、切磋琢磨してきた盟友であると伺いました。

野村裕基 裕一さんと初めてお会いしたのは小学生の頃で、親しくなったのは大学生くらいのときだったと思います。私がイギリスへ留学して、日本に帰って来た頃、裕一さんが話しかけてくださって。父(野村萬斎)や周囲の方々からも「機会があれば裕一さんと話してみたら?」と言われていましたし、年齢が近くて身近に相談できる方があまりいなかったので、お話しすることができてありがたかったです。「大変だな」「難しいな」と思っていたことも、人と話すことで解消されることがありますよね。伝統芸能というジャンルで表現を続ける中で、同世代の裕一さんの存在はとても大きいものでした。

──同世代の表現者として、お互いの魅力をどのように感じていらっしゃいますか?

大槻裕一 裕基さんはとにかく素晴らしい吸収力をお持ちだなと。「奈須與市語」「釣狐」のような披キひらきものや「三番叟」などに出演されている姿を拝見して、お父様やおじい様(野村万作)から受け継いだものを取り入れつつ、ご自身の中で綺麗に整理してから舞台に乗せていると感じました。先日共演した「鷹姫」も、おじい様やお父様が長く勤めておられた空賦麟という役を、完コピするのではなく、裕基さんなりにしっかりと立ち上げていらっしゃいました。「ハムレット」のような演劇作品にも出演されていますし、狂言師という概念を超え、いち表現者として、伝統を守りつつ舞台に立たれている方だと思います。

裕基 なんと、ここまで褒めていただけるとは!

裕一 なんでこんなに褒めたかというと、自分も褒めてもらえたらうれしいなあと思ったから!(笑)

裕基 ははは!

裕一 冗談ですよ(笑)。

大槻裕一

大槻裕一

裕基 裕一さんは、人間国宝である大槻文藏先生の芸養子になられて、新たな環境に飛び込むのは非常に大変なことだったと思うのですが、文藏先生から芸を学ぶ時間をすごく大事になさっているなという印象が強いです。公演が予定されているわけではなくても、今のうちに習っておかなければならない演目がたくさんがあるというお話を聞き、本当に素晴らしい取り組みをされているなと。努力をしていることを表には出さないけれど、求められること以上の結果を出し、高いハードルを超えていくぞ!という気概を感じます。裕一さんのような方が、伝統芸能の世界を牽引する存在になっていくのだろうな、ということが活動から伝わってくるので、私ももっとがんばらなければ!と思っております。

裕一 うれしい! ありがとうございます。プライベートでは「裕基」「裕一くん」と呼び合うことが多い我々ですが、ただ仲が良いだけだと、馴れ合いになってしまうところがある。ですが、仕事モードになると、お互いの呼び方も変われば礼節も守ります。そういったところをわきまえているからこそ、今のような良い関係が築けているのではないかと思います。

左から野村裕基、大槻裕一。

左から野村裕基、大槻裕一。

新作を古典に、古典を新作に生かす──「能 狂言 鬼滅の刃」で得た学び

──そんな素敵な関係性のお二人が、今回の「妖蜘蛛編」で源氏の重宝である兄弟刀の刀剣男士を演じることになりました。実年齢とは異なりますが、裕一さんが弟の膝丸、裕基さんが兄の髭切役を勤めます。膝丸は、試し斬りで罪人を斬った際に、両膝まで一刀で断ったことが名の由来とされる太刀。“兄”である髭切を“兄者”と呼び慕っていますが、髭切から名前を忘れられてしまうことも。一方の髭切は、試し斬りで罪人の首を斬った際に、髭まで切れたことが名の由来とされる太刀です。実直な性格である膝丸とは対照的に、おおらかな性格の刀剣男士だと思いますが、ご自身が演じる役をどのように立ち上げていきたいと考えているか、現時点での構想を教えていただけますか?

裕基 これを言うとハードルが上がってしまうかもしれないのですが……私は割とさまざまな声を出せるタイプの役者だと自負しておりまして、たとえば新作舞台を上演するときに、原作のキャラクターボイスを聴いて研究することもあります。マンガ「鬼滅の刃」を原作とした「能 狂言『鬼滅の刃』-継-」で我妻善逸と魘夢の2役を勤めた際、声で演じ分けることもかなり意識しました。お客様に喜んでいただけそうな部分を立たせることと、能・狂言の舞台ならではの様式美を表現すること、どちらも両立させることを大切にしています。

野村裕基

野村裕基

裕一 狂言の口調は柔らかくフランクな印象があり、能の謡には硬さがあるので、能特有の口調で膝丸の誠実なキャラクター性を表現できたら良いなと。竈門炭治郎、竈門禰󠄀豆子役で出演した「能 狂言『鬼滅の刃』」シリーズで得た知見を応用して、シテ方はシテ方の、狂言方は狂言方としての役職を最大限に生かしながら、兄弟刀という役どころを演じられたら良いなと思います。また、能・狂言ならではの世界観も大切にしたいですね。もちろん、我々役者がキャラクター像を構築する部分もありますが、囃子方や地謡の方々が参加することにより、さらに立ち上がってくるものもある。そこに関しては、新作であることを意識しすぎずに、古典と変わらぬ感覚で勤められればと思っています。

──お二人から「能 狂言 鬼滅の刃」のお話が出ましたが、原作ものの作品を新作の能・狂言作品として立ち上げるうえで、やりがいを感じる点、難しいと感じる点があれば教えてください。

裕一 「能 狂言 鬼滅の刃」のとき、演出の萬斎さんから「この部分とこの部分にアクセントを付けると、お客様に伝わりやすい」とご指導いただき、お客様が抱える「何を言っているのか理解できなかったらどうしよう」という不安を払拭するためにはどう発語するのが良いのか思考錯誤して臨みました。「初めは難しいかもしれないと思っていたけれど、だんだんセリフが聞き取れるようになって、物語に入っていけるようになった」と思っていただければ、お客様も安心して最後まで舞台を見届けようという気持ちになってくださると思うので。父も萬斎さんと同じことを言っていたことがあり、2人共、古典、新作にかかわらず大切にせねばならないところが明確にわかっているんだ、と感服しました。「能 狂言 鬼滅の刃」を通じて、特にお客様に伝えたい単語に思いを乗せて謡うと、しっかり伝わることを学んだので、今後古典を演じる際にも生かせたらと思っています。

大槻裕一

大槻裕一

裕基 古典はある程度ルールが決まっているのですが、その決められた道をどうやって運転するかというところに面白さがあり、新作は最低限の交通ルールを守りながら、目的地までの新たなルートを自分たちで考えるところに面白さがあると思っていて、それこそが新作の醍醐味だと感じます。原作がある作品だと、コンテンツを愛しているお客様に喜んでいただきたい、という気持ちが先行してしまうこともあるのですが、自分は狂言師ですし、裕一さんは能楽師ですから、まずそこを忘れずに取り組まなければならないと思っていて。あえて役に寄せすぎない部分があるほうが、「私たちは能・狂言という表現方法を用いて、この作品を舞台化しています」ということを提示できる気がしています。

大切なのは観客の想像力

──お二人の活動を拝見していると、「自分たちの伝統芸能を守り、次の世代へつないでいく」という強い意思をお持ちだと感じます。その点に関して、日頃から意識して舞台に挑まれているのでしょうか?

裕一 特に私の場合は、父が非現行曲の復曲や新作の上演に力を入れていますので、それが私自身の意欲にもつながっていると感じます。父は今年84歳になりますが、元気の源はそこにあるのかもしれませんね。今、このように新作に取り組んでいることに対して、一番背中を押してくれたのも父ですし、一緒になってがんばろうというのが父のスタンスです。そういう点で考えてみると、萬斎さんや父、梅若桜雪先生のように道なき道を切り拓いてきた先人がいたから、我々も遠慮なく挑戦できるのではないかと思います。自分たちも皆さんに負けじと、必死にがんばっていかねばなりませんね!

裕基 そうですね。裕一さん私も、我々と同年代の方に能や狂言に触れていただきたいという思いで、自主公演を主宰しています。現代、ということでいうと、スマホやパソコンを使って、わからないことは何でも調べられる時代になったじゃないですか。でも、お芝居を観ているときはそれができない。わからないことだらけかもしれないけれど、私たちとお客様との間で何となくイメージを共有できる部分はあると思いますし、劇場空間へ来ていただくこと自体が、デジタルデトックスになるのではないかとも思っていて。

野村裕基

野村裕基

裕一 今回、初めて能楽堂へいらっしゃる方が多いと思うので、ぜひともこの空間で日常を忘れて、非日常を楽しんでいただきたいですよね。あと、10年前と比べると、時代の流れと共に同世代の観劇に対する意識が変わってきているのを感じます。決して10年前が悪かったというわけではないのですけどね。僕らと同世代の友人が古典を観に来てくれるとき、ただ席に座って時間を過ごすわけではなく、観劇の時間をすごく大切にしてくれるんです。「自分たちよりも詳しくなっていないか!?」というくらい、下調べをして観に来てくれることもある。「刀剣乱舞ONLINE」のファンの方も勉強熱心な方が多く、ご自分が好きな刀剣男士のモチーフとなった刀の展示を観に行かれる方がたくさんいらっしゃると伺いました。そんな方々に「能 狂言 刀剣乱舞」をご覧いただき、「記憶の1ぺージに残るような時間だった」と思っていただけたらうれしいです。

──5月に実施された「能 狂言 刀剣乱舞」制作発表記者会見にて、「刀剣乱舞 ONLINE」原作プロデューサーで株式会社ニトロプラス代表取締役社長のでじたろうさんが、「『刀剣乱舞ONLINE』はゲームの中でプレイヤーごとに本拠地(本丸)があり、その本拠地について明確に表現していません。プレイヤー自身がある種その本丸の原作者の1人であり、“みんなで一緒に原作を表現していく”という特殊性を持っているので、今回の『能 狂言 刀剣乱舞』も“原作の1つ”だと思って表現していただけたらうれしいです」とお話しされていたのが印象的でした。お二人も“原作者”のお一人として、「能 狂言 刀剣乱舞」に取り組むにあたり大切にしたいことを伺えますか?

裕基 「刀剣乱舞ONLINE」のファンの方々の中には、ミュージカルや舞台、歌舞伎など、これまでさまざまな形でメディアミックス化されたバージョンをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。そういった方々にも新たな「刀剣乱舞ONLINE」の本丸を“体験”していただけるような作品にできればと思います。極限まで無駄なものを省き、シンプルであることにこだわった能楽堂という空間で、我々が立ち上げる物語に彩りを与えてくださるのはお客様の想像力だと考えております。どうぞ楽しみにしていてください。

裕一 能は、人の痛みや執心などを題材にした作品を扱う舞台芸術ですので、その刀剣を所持してきた持ち主や逸話を物語として持っている刀剣男士が登場する「刀剣乱舞ONLINE」と非常に親和性が高いと考えております。刀剣男士の心の動きを丁寧に描写できるよう、真摯に稽古に取り組みますので、能楽堂に立ち現れた「妖蜘蛛編」の時代へ、お客様と一緒に“時間遡行”できれば幸いです。

左から野村裕基、大槻裕一。

左から野村裕基、大槻裕一。

プロフィール

大槻裕一(オオツキユウイチ)

1997年、大阪府生まれ。シテ方観世流能楽師。2000年に「老松」で初舞台。2013年に大槻文藏の芸養子となり、大槻裕一を襲名した。2023年、咲くやこの花賞、大阪文化祭奨励賞を受賞。

野村裕基(ノムラユウキ)

1999年、東京都生まれ。狂言方和泉流能楽師。祖父・野村万作および父・野村萬斎に師事。2003年、「靱猿」で初舞台を踏んだ。2025年より「狂言イデアの会」を主宰している。