池本祥真・生方隆之介・二山治雄が三者三様のアリで魅せる、東京バレエ団「海賊」

東京バレエ団が、2019年に初演したアンナ=マリー・ホームズ版「海賊」を5年ぶりに上演する。地中海を舞台に繰り広げられる、海賊の首領コンラッドと奴隷の少女メドーラの恋や海賊たちの絆を描き、古典バレエの金字塔として知られる本作で、東京バレエ団がレパートリーとするアンナ=マリー・ホームズ版は、男性ダンサーたちの見応えある踊りのシーンを厚くしたことでも有名だ。

2024年に創立60周年を迎え、斎藤友佳理団長が率いる東京バレエ団は今、ダンサーたちの個性や技術が充実した時期にある。ステージナタリーでは中でも、「海賊」で人気のアリ役を演じる池本祥真、生方隆之介、二山治雄にインタビューを実施。Kバレエカンパニー(現Kバレエ トウキョウ)を経て2018年に東京バレエ団に入団し、現在は男性ダンサーの中心を担う三十代の池本、東京バレエ学校でバレエを学び、2019年に入団した生方、パリ・オペラ座バレエ団の契約団員として研鑽を積み、フリーの期間を経て2025年に入団した二山。それぞれが自身の現在地と、バレエに対する思いを語った。

取材・文 / 小田島久恵撮影 / 平岩享

アリは、見せ場で確実に爪痕を残したい役

──アンナ=マリー・ホームズ版の「海賊」でアリを踊られる皆さん。「海賊」はこれまで、東京バレエ団では2019年、2021年に上演されましたが、池本祥真さんは2019年、2021年に続いて3回目、生方隆之介さんは2021年に続いて2回目で今回はコンラッドとの2役、二山治雄さんは初役となります。アリはコンラッドの右腕として活躍する奴隷青年で、跳躍や回転など見せ場が多い役どころですが、皆さんはアリ役にどんな印象をお持ちですか?

池本祥真 アリという役そのものについては、物語にそれほどからんでくるわけではないので実はあまり語れることがないんです。ただ初演時にアンナ先生(アンナ=マリー・ホームズ)が指導に来られたときには「かかとをつけて歩け」と言われたことが印象に残っていますね。ステップするときに、かかとをつけていないと注意されるんです。

東京バレエ団「海賊」(2021年公演)より、アリ役の池本祥真。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

東京バレエ団「海賊」(2021年公演)より、アリ役の池本祥真。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

生方隆之介 僕も前回公演(2021年)は準備期間が短かったこともあってそれほど記憶には残っていません。ただ5年前と比べると、バレエ団のメンバーにも新しい人が入ってきて、今、とても活気にあふれている状態だと思います。そのような中でアリを踊らせていただくことについては、“示しをつける”ではないですが、後輩たちに対しても恥のないようにやりたいです。このバージョン(アンナ=マリー・ホームズ版)のアリはジャンプをして出てくるのですが、短い時間でもインパクトを残せるようにがんばっていきたいです。2回目のアリ役ですので、成長した部分をお見せできたら。

二山治雄 アリ役を全幕通して踊るのは今回が初めてです。「海賊」はパ・ド・ドゥのアダージョとコーダだけは踊ったことがありますが、メインとなる見せ場はそこだけと言えばそこだけなので、どれだけ印象を残せるか。上半身裸で踊ることもあり、作品的にも“ザ・男”という感じなので、ちょっといつも(の自分)と違う印象になるかなと。男らしさみたいなものは出していこうと考えています。

生方 見せ場で爪痕を残さないとね。

──「海賊」で緊張する場面はどこですか?

生方 全部でしょうか。周りの海賊たちは一幕から踊っていて、心も身体も温まっている状態だと思うんですけど、アリはパ・ド・トロワの場面から動き始めて、そこから怒涛のバリエーション、そしてコーダと続く。その点でも緊張します。僕が好きな「海賊」アリ役のダンサーは(ミハイル・)バリシニコフなので、彼の「海賊」は毎日のように映像で観ています。バリシニコフが下手から走ってくる、あの疾走感が好きで。僕はもともと“速く、速く”っていうタイプじゃなくて、生活スタイルも“ゆっくり、ゆっくり”とした感じなんで、バリシニコフのスピード感を出せたらと思っています。僕はこれまで道化などもやったことがないし、「白鳥の湖」では貴族とか、その場を一歩引いて見ているようなキャラクターが多かったので、「海賊」のようなバレエでは別の性格を見せたいと思っています。

東京バレエ団「海賊」(2021年公演)より。メドーラ役の秋山瑛(写真左)とアリ役の生方隆之介。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

東京バレエ団「海賊」(2021年公演)より。メドーラ役の秋山瑛(写真左)とアリ役の生方隆之介。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

二山 僕にとってアリは初役で、2人に比べて「海賊」の経験がないので、自分なりの印象を残していきたいという思いはあります。また僕の出る回はベテランの方ばかりなので、皆さんに引けをとらないように、という思いもありますね。

若手もベテランも向上心を持ってバレエに臨むカンパニー

──現在の東京バレエ団についてもお話を伺います。ダンサーの層の厚さも大きな魅力ですが、お互いに先輩・後輩という意識はありますか?

池本 僕と生方くんは入った年は1年しか違わないけど、年齢は10歳違うんです。バレエ教室にゲストで行ったとき、生方くんは中学生だったんだよね。僕は二十代前半で。

池本祥真

池本祥真

生方 そのときは「すごい人が来たな……カッコいい」と思って、まねして身体を壊したりしました(笑)。池本さんと今一緒のカンパニーで踊れて光栄です。

──バレエ団の居心地はいかがですか?

池本 すごくいいです。この年になると、いい意味でも悪い意味でも慣れが出てくる面があると思うんですけれど、東京バレエ団は若手からベテランの人までそういうことがない。バレエに一生懸命で、真面目で向上心が常にあって、何回も踊った役でさえ練習を続けて、もっと良くしようという気持ちを持っている。絶対に手を抜かないんですよね。そういう意味でも居心地がいいですし、みんな人柄もすごく良くて、和気あいあいとやっています。お互いに信頼関係を持って取り組んでいるので、“頼れる仲間たち”という感じです。

生方 僕は日本のほかのカンパニーを経験したことがないので具体的なところはわからないですけれど、バレエ団のトップがしっかり指針を提示してくれるから、みんなそこについていけますし、バレエ団として素晴らしい団体だと思います。もともと新しい環境に身を投じるのが苦手なタイプなのですが、バレエ学校の頃からお世話になっており、入団してからも気負いなく溶け込むことができています。また、(モーリス・)ベジャールさんの作品ではジル・ロマンさんが指導してくださったり、「ザ・カブキ」では昔芸術監督だった溝下司朗さんが指導してくださったりと、いろいろな指導者の方に教えていただく機会があって、伝統を吸収しながら成長していけます。

生方隆之介

生方隆之介

──二山さんはパリ・オペラ座から移籍して東京バレエ団に入団されました。環境の違いを感じる部分はありますか?

二山 この年になって新たに所属を変えることって、多分あまりないと思うので、正直、なじめるか心配していたんですけれど、すごく温かいカンパニーだと感じています。入団後最初の公演(2025年「眠れる森の美女」)もそうでしたし、自分が真ん中(主役)を踊らせていただいたとき(2025年「ドン・キホーテ」)にも、みんなからエネルギーをもらってステージに立たせていただいていると実感しました。伝統あるカンパニーの一員になれたことをとっても誇りに思っています。

──池本さんと生方さんもそれぞれ、ボリショイ・バレエ学校、ワガノワ・バレエ・アカデミーと、ロシアで学ばれたご経験があります。東京バレエ団ならではの基礎や演じ方の違いはあるのでしょうか?

二山 僕がいたフランスとは全然違いますね。東京バレエ団ではどちらかというとロシアン・メソッドで、動きを大きく見せるスタイルです。ポール・ド・ブラ(バレエの腕の動かし方)の通り道や使い方も違う。恐らく劇場の大きさの違いも関係していて、ロシアのほうが客席のキャパシティが大きいですし、ヨーロッパは小さい劇場が多いので、細かい動きがメインになるのではないかと思います。

東京バレエ団「海賊」(2021年公演)より。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

東京バレエ団「海賊」(2021年公演)より。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

池本 同じロシアのスタイルでも、先生ごとの違いもありますよね。ボリショイ・バレエ学校のある先生は古いスタイルで、アラベスクのときに不思議な腕のポーズをつけていました。

──興味深いです。世代による意識の違いみたいなものもありますか?

池本 あります。僕が二十代前半だった頃、三十代後半のダンサーを観て「違うな」と思ったのですが、三十代になった今、後輩と自分の間にもそれが起きている。僕が小さい頃に好きだったダンサーは、(ヴラジーミル・)マラーホフのように綺麗なダンサーで、日本人だったら熊川(哲也)さんのテクニックに憧れていました。小柄なほうがテクニックができるという印象もあったんです。でも今はみんなスタイルが良いですし、身長もあって、それでテクニックもあるというダンサーが多い。時代が違うなあと。

生方 僕はそういう意味では池本さんにとっての“次の世代”に当たるのかもしれませんが、先輩たちのガッツに憧れてきましたし、バレエや鍛錬に妥協しない姿勢を、僕らが次の世代に伝えていかなきゃなと思っています。

二山 また海外と日本の違いという点では、日本のダンサーは努力家だと思います。僕がいたパリ・オペラ座は正団員になると終身雇用で、ライフコントラクトになり安定しているのでステージを求めない。でも日本ではバレエ団だけで生活するのが難しいですし、公演数も海外ほど多くなく、全員が踊れるチャンスがあまりないので必死になってそれに向かっていきます。どんなに小さな役でもみんな、責任を持って演じているなと日本に帰って来てからは思いますね。

二山治雄

二山治雄

池本 日本には“道”という考え方がありますが、バレエでも“バレエ道”としてやっている感じがある。今指導してくださっている東京バレエ団の団長・斎藤友佳理さんをはじめとする先生方は、バレエ道を究めて“もっともっと”という感じで取り組んでいらっしゃると思います。

生方 日本人だから日本の伝統芸能を学んでおけば良かったかなとも思うこともあるんですけど、日本のバレエダンサーとして、「M」や「ザ・カブキ」など東京バレエ団にしかないレパートリーを伝承していかないと、とも思います。そしてそれらを伝承し続けていくことは、バレエ界にとっても大きな意味があるのではないかと思います。