八代目尾上菊五郎が語るMoN歌舞伎舞踊公演「テクノロジーの力を借りて、歌舞伎の染みわたるような感動を伝えたい」

3月に港区のTAKANAWA GATEWAY CITYにオープンした新施設MoN Takanawa: The Museum of Narrativesの開館記念プログラムとして、「MoN歌舞伎舞踊公演─京鹿子娘道成寺─他」が上演される。MoN Takanawa: The Museum of Narrativesは、「100年先へ文化をつなぐ」をミッションに、新たな日本文化を世界に発信することを目指す文化施設。「MoN歌舞伎舞踊公演」は、400年以上の歴史を持つ歌舞伎に新たなアプローチで迫るシリーズで、第1弾では、八代目尾上菊五郎による「京鹿子娘道成寺」ほかを披露する。本特集では前半で八代目菊五郎のインタビュー、後半でMoN 歌舞伎舞踊公演「─京鹿子娘道成寺─他」の楽しみ方を紹介する。

取材・文 / 川添史子

八代目尾上菊五郎 インタビュー

──「MoN歌舞伎舞踊公演」第1弾は、八代目尾上菊五郎さんによる「京鹿子娘道成寺」。報われない恋に焦がれる切ない心情、身を焼き尽くすほどの情念を描いた道成寺伝説をもとに、恋する女性のさまざまな表情を踊り分けていく女方舞踊の大曲です。まずは、この作品を選ばれた理由を教えてください。

六代目菊五郎以降、祖父尾上梅幸、父である七代目菊五郎もたびたび勤めてきた演目です。まだ女方の舞踊というものがまったく手に入っていなかった十代の頃、祖父・父と共に「三人道成寺」という形で踊ったときは、自分の力の至らなさを痛感すると同時に、音羽屋という家に生まれた自覚を持たせてくれた演目でもありました。その後、何度も踊る機会をいただきましたが、納得できるものにはなかなか到達できません。体力的にも精神的にも非常に大変な演目ですし、上演するたびに稽古を重ね、改めて花子という役について考えるのですが、どう表現できるのか、何が生まれてくるのかは、実際の舞台に立ってみないとわからないことが多いんです。今回は最新技術の力もお借りしながら、お客様に「道成寺」の世界に没入していただけるよう、そして私自身まだ見ぬ花子に出会えるよう、日々精進して舞台に向かいたいです。

──「京鹿子娘道成寺」は、2025年5月歌舞伎座での襲名演目でもありました(参照:八代目尾上菊五郎&六代目尾上菊之助の襲名披露興行開幕、「伝統と革新に則り精進してまいる覚悟」)。新・菊五郎さん、新・菊之助さんに加え、人間国宝の坂東玉三郎さんも並ぶ「三人道成寺」は大きな話題となりましたね。

当初は、倅と私による「二人道成寺」として発表しておりましたが、思いがけず玉三郎のお兄さんがご出演くださることになり、「三人道成寺」という華やかな形で襲名披露をさせていただくことができました。以前お兄さんと「二人道成寺」を踊らせていただいた際、長唄の詞章(歌詞)の捉え方、花子の心情を深く掘り下げた踊り方など、いろいろ細やかなご指導をいただきました。菊之助も昨年一緒に踊らせていただいたことが、大きな財産になったと思っております。襲名というものは、名前を継ぐのと同時に、先人たちが練り上げた型や役の心情、そして魂を受け継ぎ、さらにそれを後世に伝えていくことだと思っています。私が十代のとき、そして繰り返し上演することで発見していった「道成寺」を、ぜひ倅の六代目菊之助にも、さまざまなことを感じながら踊ってもらいたいと考えました。

「京鹿子娘道成寺 三人花子にて相勤め申し候」(2025年5月歌舞伎座)より。左から白拍子花子を演じる八代目尾上菊五郎、尾上菊之助、坂東玉三郎。©︎松竹

「京鹿子娘道成寺 三人花子にて相勤め申し候」(2025年5月歌舞伎座)より。左から白拍子花子を演じる八代目尾上菊五郎、尾上菊之助、坂東玉三郎。©︎松竹

──今回の会場となるBox1000は、ステージ全面にLEDスクリーンが設置された最新のシアター空間。デジタル演出による新感覚のライブやパフォーマンスが可能です。「MoN歌舞伎舞踊公演」でも映像などを織り交ぜた、新しい演出の公演が行われます。

テクノロジーの力を借りながら、あくまで我々が本質的に守ってきた伝統的な表現をお客様にお伝えできればと考えております。ではそれは何かと申しますと、歌舞伎が持つ深くて、染みわたるような感動、心情。そういったものだと思うんですね。伝統とテクノロジーは決して対立するものではありません。どちらかに偏るのではなく、同じ軸に乗ることにより、現代のお客さまに歌舞伎の本質をお伝えしたい──そのためにテクノロジーをうまく絡めることができたら。今回でいえば、主人公である花子の心情や長唄の詞章の世界観を映像を通してより深く理解していただけるような工夫を考えています。

──この場所に期待するところを教えてください。

こちらの劇場は、高輪ゲートウェイ駅直結の空間。近くには我々が「忠臣蔵」を上演する際には必ずお参りに行く泉岳寺もございますし、いつかぜひ、ここで「忠臣蔵」に関連する演目ができたら素敵ですよね。仇討ち、武士道というものは、現代人の皆様から見ると少し理解しづらい価値観になってきているかもしれません。しかし、忠義や主君への思いを「人をいかに思うか」という言葉に置き換えれば、令和を生きる方々にもグッと身近に感じていただけるのだと思うんです。テクノロジーの力を通して、古典作品に織り込まれた日本人の美意識や価値観をより現代的にお伝えできるような舞台作りができるのではないかと期待しています。

──「MoN歌舞伎舞踊公演」では、“100年先へ文化をつなぐ”というテーマが掲げられています。ご襲名から1年。現在地のお気持ちをお聞かせください。

私は「菊五郎」、倅は「菊之助」という大きな名前に向き合うことで、歌舞伎に対する思い、そして責任が、以前よりグッと重くなったことを、親子でひしひしと感じています。「名前が変わったからすぐに変化する」という生やさしいものではないのですが、菊五郎という名前を私がお預かりしたことで、自分がこれから何をすべきか、それからどこに向かうべきか、それから音羽屋の芸をどのようにお客様にお伝えできるのか……ということを考えるようになりました。もちろん菊之助時代にも考えていたことではありますが、より深く、広く、歌舞伎の魅力を伝えるために自分ができることは何か?ということを思考し、自分の使命を果たしていく……それが今の私の思いです。

プロフィール

八代目尾上菊五郎(ハチダイメオノエキクゴロウ)

1977年、東京都生まれ。1984年に「絵本牛若丸」の牛若丸で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台。1996年に「弁天娘女男白浪」の弁天小僧ほかで五代目尾上菊之助を襲名。古典で幅広い役に挑むほか、「NINAGAWA十二夜」「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」、新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」など新作歌舞伎にも積極的に取り組んでいる。2025年5月に八代目尾上菊五郎を襲名した。

WHAT'S? 「MoN歌舞伎舞踊公演」

通常の上演とは違う、ここだけの演出が詰まったものになる「MoN歌舞伎舞踊公演」。口上、解説、ドキュメンタリー上映などを経て舞踊「京鹿子娘道成寺」を鑑賞するという、盛りだくさんの内容となるという。しかも舞踊も、普段の上演とは全く違う演出が施される。もう少し詳しく、その中身に迫ってみよう。

八代目尾上菊五郎

八代目尾上菊五郎

一、口上

八代目菊五郎が裃姿で登場し、観客へごあいさつ。MoN Takanawaの開館を祝い、そして「MoN歌舞伎舞踊公演」のスタートを告げる賑々しい「オープニング口上」で、ワクワクとした気持ちを高める時間となりそうだ。

二、解説 歌舞伎のみかた

「京鹿子娘道成寺」で、所化を演じる若手期待株、上村吉太朗がこちらの幕にも出演。わかりやすい解説で、歌舞伎の特徴などを教えてくれるので、初心者の方々も安心。演目についておさえておきたい、知っておきたいポイントなども教えてくれるので、より深い鑑賞が可能になる。

三、ドキュメンタリー上映

八代目尾上菊五郎のインタビューを中心に、「京鹿子娘道成寺」上演に向けた想いを届ける。貴重な資料も流れる予定。歌舞伎の歴史、歌舞伎の魅力、出演者・制作者の想いなどのバックステージなどを見て / 聞いて理解が深まったところで、いざ最後の舞踊へ──。この公演のために新しく背景美術を手掛ける山中隆成のコメントや制作の模様も交えて語り尽くす。

四、京鹿子娘道成寺

今公演では、書割がLEDビジョンに映され、最新テクノロジーとの融合で「京鹿子娘道成寺」が展開していく。詞章なども画面に投影され、場面場面の意味もくっきり。カメラでグッと演者や演奏者に迫るライブ映像なども投影され、今までにない臨場感を観客へ届ける演出が施される。