新たな空間での再演に“広がり”を期待!岩崎正裕・西尾友樹がそれぞれの“ラヴェル”を持ち寄る「ラヴェル最期の日々」

“クラシック音楽の殿堂”こと東京文化会館が企画・制作するシアター・デビュー・プログラムで、2024年に初演された「ラヴェル最期の日々」が、2026年6月に新国立劇場 中劇場で再演される。

シアター・デビュー・プログラムは、成長段階に合わせた題材をクラシック音楽と他ジャンルのコラボレートによってオリジナルの舞台作品として創作するシリーズ。音楽・ダンス・演劇の要素を用いた「ラヴェル最期の日々」では、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルの波乱に満ちた人生が、友人ジャック・ド・ゾゲブの視点から“回想録”として立ち上げられた。

1961年に開館した東京文化会館は、この春65周年を迎え、5月に大規模改修のため約3年間の長期休館に入った。芸術文化の発信拠点として人々に親しまれた場所で生まれた意欲作が、新たな空間で目指すものとは? ステージナタリーでは、脚本・演出を手がける劇団太陽族の岩崎正裕、初演よりゾゲブ役を続投する劇団チョコレートケーキの西尾友樹に、再演への思いを聞いた。

取材・文 / 大滝知里撮影 / 片山貴博

ファーストシーンでピタリと合った奇跡

──今回、2年ぶりに「ラヴェル最期の日々」に臨まれるお二人は、初演時の手応えとしてどのようなことが記憶に残っていますか?

岩崎正裕 何から話せばいいんだろう?と思うくらい、頭の中でいろいろなことが駆け巡る作品です。僕は小劇場の人間だから、作曲家の加藤昌則さんに、ラヴェルの和声の作り方、年代別の響きの違い、作曲について、イチから教わったんですね。初期の頃は、「語りとダンスと音楽は融合できるのか?」と2人で頭を悩ませていました。そこに小㞍(健太)さん、西尾(友樹)さんが合流して、まさに手探りでのスタートでした。でも、初めてお三方とファーストシーンをやったときに、ピタリと合う感覚があったんです。「奇跡だ!」と思うと同時に、「この奇跡が続いていくだろうな」という予感もあって、それからは、苦労はしなかったかな。

西尾友樹 僕も最初から手応えはありました! 俳優以外の方とセリフや芝居を合わせるのは初めてでしたが、それぞれが感じていることをシンプルに表現してみたら、うまいこと息が合った、という感覚で。加藤さんがピアノ、小㞍さんがダンス、僕がセリフや動きという三者三様の役割でしたが、良いチーム感だったんです。そのあと、音楽が出来上がって段取りが見えてきてからは、かなり苦労した記憶はありますが(笑)。

左から岩崎正裕、西尾友樹。

左から岩崎正裕、西尾友樹。

岩崎 分厚い譜面と薄い台本があって、それらを合わせなきゃいけないから大変でしたよね。

西尾 そうなんです。「このセリフは、この曲のこの音に合わせる」という構造になるので、気が付いたら4小節分ずれていた、みたいなことが多々あるんです。「数ページ前からずれていったよ」と言われても、僕は楽譜が読めないので、身体で覚えるしかなくて。演奏家の方にお願いして稽古場で特別に音を録らせてもらい、ずっと練習していました。

──西尾さんは以前からラヴェルに親しみがありましたか?

西尾 ラヴェルといえば「ボレロ」のイメージしかなかったので、岩崎さんと同じように、初演の稽古が、ラヴェルのことを知っていく時間になりました。俗っぽい話ですけど、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聴きながら、「ドラクエ(RPGドラゴンクエストシリーズ)に似ているなあ」なんて思って演奏家の方に聞くと、「音楽はつながっている」という話をしてくださったりして。

岩崎 あれはドラクエのほうが寄せているんだよ!

西尾 そうですよね(笑)。現代クラシック音楽の在り方として、ラヴェルが大きな影響を与えていることを教わりました。

“小劇場イチいい人”西尾友樹が演じる友人

──「ラヴェル最期の日々」では、ラヴェルの輝かしい時代から、晩年に言語・記憶障害が加速していく様子までが、ラヴェルのさまざまな楽曲の生演奏に乗せて描かれます。西尾さんが演じる友人ジャック・ド・ゾゲブは、案内役となって生前のラヴェルを回想しますが、ゾゲブ役を演じる面白さはどのようなところにありましたか?

西尾 音楽のことは、突き詰めるとわからないことがいっぱいあるのですが、偉大な作曲家の友人を演じるにあたって、お客さんにラヴェルを自分の友人のように感じてほしい、という目標がありました。お客さんが、ゾゲブを介してラヴェルという1人の人間に迫ることができたらいいなと。

「Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム『ラヴェル最期の日々』《新制作》」(2024年公演)より、ジャック・ド・ゾゲブ役の西尾友樹。(撮影:飯田耕治、提供:東京文化会館)

「Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム『ラヴェル最期の日々』《新制作》」(2024年公演)より、ジャック・ド・ゾゲブ役の西尾友樹。(撮影:飯田耕治、提供:東京文化会館)

岩崎 僕は、西尾さんの舞台はこれまでも何本か拝見していますが、“小劇場イチいい人”なんです、西尾さんって。いろいろな演技のスタイルがある中で、自分を中心にして輝く人がいれば、誰かのそばにいることで輝く人もいますけれど、西尾さんはどちらかと言うと後者で、まさにゾゲブでした。

また、日本人が海外の人を演じることはよくありますが、さらにそこに音楽の要素が入ると、トゥーマッチな感覚があります。でも、しゃべらないダンサーの小㞍さんがあえてラヴェルを演じ、ラヴェルの人生を友人ゾゲブの視点で見ていくことで、ドラマが自然と発生する。そういうもくろみで執筆してはいましたが、西尾さんと小㞍さんの掛け合いから、狙い通りのドラマが生まれていたと思います。

「Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム『ラヴェル最期の日々』《新制作》」(2024年公演)より。(撮影:飯田耕治、提供:東京文化会館)

「Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム『ラヴェル最期の日々』《新制作》」(2024年公演)より。(撮影:飯田耕治、提供:東京文化会館)

西尾 いただいた台本の音(セリフ)がすごく美しいんです。ラヴェルの返答はなくても会話をしている感覚が確かにある。僕が所属する劇団チョコレートケーキは割と硬めの作品が多く、年号や固有名詞が羅列する説明ゼリフには慣れているつもりですが、岩崎さんの台本は、説明ゼリフ1つとっても血が通っていて、その繊細さは大切にしようと考えていました。またゾゲブには、語り手として状況を説明するだけではなく、“友人”としての役割が与えられていると強く感じたので、お客さんにもその感覚でお伝えしたいなと。

岩崎 うれしいなあ。僕は、戯曲執筆を始めたときの師匠に「自分でしゃべれ。言葉になっていない限り、俳優が消化するのは無理だから」と言われたんですよ。「俳優だから言えるはず」という変な確信が作家にはあって、言いにくいセリフを平気で書く人も多いですが、そうならないように、今でも気を付けています。