三浦透子、一人芝居に初挑戦 シス・カンパニー公演「プライマ・フェイシィ -私の声を聞いて-」

名は体を表す、という言葉があるが、三浦透子は、まさに澄んだ水のような、涼やかな風のような、心地よい鈴の音のような……それでいて地に根を張る樹木のような強さ、しなやかさを感じさせる俳優だ。すっと観客の心の中を通り抜け、脳裏に強烈な印象を残す。気づいたときにはもう、すっかり魅せられているのだ。

映像、舞台、ライブとさまざまな場で活動してきた三浦が、このたび初の一人芝居に挑戦する。作品は2019年にオーストラリアで初演されたスージー・ミラーの「プライマ・フェイシィ」。気鋭の法廷弁護士であったテッサが、自分の立場が変わったことをきっかけに、自らの過去や生き方、社会を見つめ直していく物語で、栗山民也が演出を担当する。

ステージナタリーでは、稽古がスタートして数日経った6月上旬、三浦にインタビュー。静かに、明晰に質問に答えるその姿に、多くのクリエイターが三浦に信頼を寄せる理由を見た。

※トリガーアラート:本作品には性的暴行についての表現や描写があります。

取材・文 / 川添史子撮影 / 須田卓馬
スタイリスト / 佐々木翔ヘアメイク / 山口恵理子

ロジカルに思考を重ねるテッサに、近しさを感じる

──三浦さんが演じるのは、気鋭の弁護士テッサ。彼女は予期せぬ“ある事件”をきっかけに、さまざまな法律の矛盾、絶望や困難にぶつかっていきます。

弁護士というと、多くの方は上流階級出身のエリートを連想するかもしれません。でも彼女は労働者階級出身で、ハングリーさを武器に努力を重ね、トップクラスの法廷弁護士へ上り詰めた女性なんです。欲望に対して正直で、自分の力で未来を掴み取るエネルギーがものすごく強い。その反面「自分を強く見せよう」とする脆さもあって、強さと弱さ、両面を持っている人物だと感じています。

三浦透子

三浦透子

──彼女のモノローグを通して、観客はある場面では事件の目撃者となり、裁判官や陪審員となり、あるいはテッサの家族や友人のような気持ちで舞台を見つめていきます。さまざまな視点を切り替えながら、息を詰めるように彼女と一緒に思考する時間となりそうです。

特に今回はザ・スズナリという、舞台と客席が密接な空間で上演するので、あたかも一緒の空間に同席しているような臨場感が生まれると想像しています。この芝居ではひとつの性暴力事件を扱っていますが、被害者であると主張する女性と、加害者とされる男性の関係性は全くの他人ではなく、もしかしたら恋人同士になる可能性もあった……という間柄で起きた事件に設定されているんです。ずっと性暴力の加害者を弁護していたテッサが、真逆の立場になる……というストーリーテリングも秀逸。こうした事件を扱ったほかの作品とは、まったく違うところに辿り着く、画期的な戯曲だと感じます。

──「ロスメルスホルム」(2023年)、「星の降る時」(2025年)に続いて3度目のタッグとなる栗山演出についてはいかがでしょう。

栗山さんは一つひとつのセリフに対して、大胆で大きな動きから繊細な仕草まで、本当に細かく一つひとつの動きを演出してくださるんです。戯曲を1人で読んでいたときには「このセリフは、なぜこの言葉なんだろう?」と思った箇所が、稽古場で身体を動かすうちに理解できるようになっていた……ということが何度もありました。役者はどうしても心で役を追ってしまうのですが、栗山さんの稽古場は“身体で読む”みたいなことができるんです。決められた動きがあると、「縛られている」と感じる方がいるかもしれませんが、むしろそのことで生まれる自由がある。驚きと発見に満ちた演出です。

三浦透子

三浦透子

──この戯曲の作者であるスージー・ミラーは元弁護士。そして大学では微生物学や免疫学を学ぶ理系の学生だったそうです。三浦さんも理系の大学で数学を学ばれていたそうですが、この作者の文体や思考方法に、共通点を感じたりしますか?

どうでしょう……明確なお答えは難しいかもしれませんが、そもそも数学って、言葉を扱う分野との相性がすごくいいと思っているんです。なので私にとって、戯曲を読むときの頭の使い方は数学に取り組むときとすごく似通っていて、どちらも思考を重ねながら、見えないところに世界を作っていく感じがあります。

──数学と言葉の親和性……それは面白い共通項です。

そしてテッサは弁護士ですから、彼女も言葉を使ってロジカルに思考を積み重ねていきます。自分の感情を理解するときにも、ちゃんと自分自身に質問をしながら紐解いていくんですよね。この思考方法も理系的というか、ちょっと私自身にも近いところを感じます。

三浦透子

三浦透子

三浦透子

三浦透子

“心が自然と動く”ことを大事に、作品に取り組む

──それにしても膨大なセリフ量です。初めての一人芝居はいかがですか?

役者が複数いる通常の芝居ならば、人間が違えば自ずと役も違うわけで、「演じ分け」なんて必要ないですよね。でも一人芝居では、今誰がしゃべっているのか、何をしているところなのか、しっかりその場面場面の情報をお客さまに伝えていかないといけません。今までまったく使ったことのない筋肉を求められているような、テクニカルな難しさを感じています。しかも栗山さんの演出では、声をあからさまに変えるとか、オーバーな演じ分けでは“ない”表現方法で複数の登場人物を区別していくんです。今この瞬間、この場面をどう解釈し、どう立体化していけばいいのか?を、脳をフル回転させながら、日々向き合っているところです。

──三浦さんはミュージシャンとしても活躍されていますが、稽古開始前のインタビューで「一人芝居と、ライブで1人で歌うのと、共通点があるかもしれない」とお話されているのを読みました。実際、地続き感はありそうですか?

私にとって演技は、相手役との対話によって、心を動かし合うことが魅力的なんですね。なので稽古開始前は「一人芝居って、何によって心を動かせばいいんだろう?」という疑問があったんです。でもいざ稽古に入って知ったのは、自分の声によって心が動かされていく感覚があること……これは意外で新鮮な発見でした。無理矢理「心をこっちに持っていこう、あっちに持っていこう」としなくても、“私が私によって動かされていく瞬間”が作れるかもしれない、と思っていて。

三浦透子

三浦透子

──ご自身の声、言葉によって、次の感情がちゃんと動いていく。

そうなんです。そして音楽においてはいつも、これに近いことを感じているんですよね。私は常に、意味や気持ちを込めるというよりは、聴いている人の気持ちが動かされるような音を出したいと思っているんです。その曲の魂にフィットする素敵な音を出せば、私の心もその音を聴いた瞬間に動くし、聴いている方にも届く……自分が信じた音によって、人の心が動くことを信じるというか。一人芝居と音楽、思いもよらなかった近さを感じています。

──歌も演技もできる方の、豊かな感受性を感じます。歌のつながりで伺うと、Netflixのドラマ「地獄に堕ちるわよ」で演じられた大物演歌歌手・島倉千代子役では、吹き替えを使用せず、驚くほどの再現度で歌われていました。あの役はどう作り上げたのでしょう。

多くの方が顔も声も知っている、実在の人物を演じる経験は初めてだったので、どういうアプローチをしようか非常に悩みました。まずは「島倉さんを愛している方々、そしてご本人に対しても失礼のないように歌と向き合わねば」という気持ちが、一番にありました。そのためにはまず、何度も何度も島倉さんの歌を聴いて、完璧に模倣し、完全に島倉さんになろうと努力することが重要でした。とはいえモノマネにはしたくなかったんですね。ちゃんとその人物として生きて、私が演じる意味も見出しながら、きちんと命を吹き込みたかった。なので実際の撮影では、訓練した技術を使いながら、自分の表現として演じることが一番難しかったです。でも先ほどお話した「決められた動きによって、自由になる」ではないですけれど、もともと、制限がある中で答えを見つけていくことが私、好きなんだと思います。

──実在の人物を演じるというハードルが、逆に演じる面白さに転じた。

そうなんです。制限を設けられたことで、逆に無心になれるような感覚がありました。

三浦透子

三浦透子

三浦透子

三浦透子

──最近のお仕事の関連で伺えば、6月末に最終回を迎えたテレビドラマ「銀河の一票」では、主人公を支える新聞記者、雨宮楓役で出演されました。黒木華さん演じる茉莉との連帯は、シスターフッドのようでグッときます。

彼女の根っこには、「特別な傷がないがゆえに感じてしまう孤独」みたいな複雑な思いがあって、これってあまり、今までフィーチャーされてこなかった感情ですよね。でもすごくリアルな孤独感だなと感じました。茉莉に対して依存に近いぐらいの恩と愛情があって、雨宮自身の中にある生きる意味とか、仕事に対する誇りをどう見つけていけばいいのかな、どうやって彼女と一緒に成長していけばいいのかな?といったことを考えながら役に取り組んでいきました。

──演劇と映像、次々と印象的なお仕事をされていますが、違いはどんなところにありますか?

映像は「この表現、もう二度とできないかもしれない」という奇跡の1回を切り取って残していくみたいな感覚が強いと思います。でも舞台は奇跡の1回ではダメで、再現可能な奇跡でなくてはいけない。そこが面白いですね。どっちもしびれる緊張感なんですが(笑)。

──映像でも舞台でも、三浦さんは何か大げさなことをしなくても人物が説得力ある存在として立ち上がる、その人として信じられる強い印象を残します。演技をするうえで常に大切にされていることはありますか。

「演技は恥ずかしい」と思う気持ちを忘れないことでしょうか。演技でしかできないことっていっぱいあって、だからこそいろいろな可能性がありますし、自分自身をいろいろなところに拡張できてしまう……だからつい、なんでもできちゃいそうな気持ちにもなるんです。でも「今、私、無理やり何かを動かしちゃったな」と思うと、すごく恥ずかしくなります。なので常に「自然に身体と心が反応してしまった」という状況を作るためにどうすればいいか?を考えるようにしています。自分を不自然に右に切ったり左に切ったりすることに対する抵抗感、羞恥心はずっと持っていたい。ちょっと天邪鬼な性格かもしれませんね(笑)。

三浦透子

三浦透子

三浦透子

三浦透子

プロフィール

三浦透子(ミウラ・トウコ)

1996年、北海道生まれ。第94回米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した映画「ドライブ・マイ・カー」(2021年 / 濱口竜介監督)で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞、第95回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞、第64回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。舞台では、「ロスメルスホルム」(2023年 / 栗山民也演出)にて、第58回紀伊國屋演劇賞個人賞、第31回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。主な出演作に主演映画「そばかす」(2022年 / 玉田真也監督)、テレビドラマ「エルピス‐希望、あるいは災い‐」(2022年 / カンテレ・フジテレビ系)、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(2021年 / NHK)、Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」(2026年)、ドラマ「銀河の一票」(2026年 / カンテレ・フジテレビ系)など。映画「天気の子」では主題歌にボーカリストとして参加し、第70回NHK紅白歌合戦にも出演するなど、歌手としても活動。10月24日に「三浦透子 at Billboard Live TOKYO 2026」が控える。