話題の劇団をいち早く三重の観客に届けてきた三重県文化会館が、2026年度は劇団アンパサンドと果てとチークを初招聘する。奇天烈かつパワフルな展開と笑いが魅力の劇団アンパサンドは11月に新作を、社会の中に潜む差別や分断にフォーカスする果てとチークは昨年初演した「きみはともだち」を、それぞれ小ホールで上演する。
本特集では、劇団アンパサンドの安藤奎と果てとチークの升味加耀による対談を実施。今回が初対談だという2人に、三重県文化会館の堤佳奈と小林由梨佳が、劇団のこと、創作のこと、今回三重で披露する作品のことなどさまざまな質問をぶつけ、2劇団それぞれの魅力を引き出す。
取材・文 / 熊井玲
強度のある作品を三重に呼びたい
──三重県文化会館は、これまでも旬の劇団をいち早く三重に呼んできました。2026年度は三重が初めてなだけでなく、ツアー自体が初の劇団アンパサンド、首都圏以外での公演は初めての果てとチークが登場します。この2劇団にお声がけした理由は?
堤佳奈 どちらの劇団も、東京で上演された公演を拝見したのがきっかけです。アンパサンドは2023年の「地上の骨」を拝見して、独特な世界観と笑いの勢いに圧倒され、「人生であんなに笑ったのは初めて」というくらい笑いました。その後、実はツアーのお話をいただいたんですけれども、そこではスケジュールが合わず断念したという悔しさがあったので「次こそは!」と思い、今回はこちらからご連絡してご快諾いただきました。
果てとチークは、アトリエ春風舎で公演を拝見し、センシティブなテーマを扱ってはいるけれどもテーマで終わらせない戯曲の力、そして、升味さんと共同主宰の川村瑞樹さんとのマシンガンのような言葉の応酬に圧倒されまして、この作品を絶対に三重でやっていただきたいと考え、お声がけしました。
──堤さん、小林さんは、東京や三重だけでなく、ほかの地域の劇場にもよく足を運ばれていますよね。どのようにリサーチされているのでしょうか?
小林由梨佳 劇場への売込や話題になっている劇団さんの映像を観ることもありますが、基本的には劇場で作品を観ることを心掛けています。随時情報収集をしつつ観劇予定を立てて、行けるときにさまざまな劇場で観るようにしています。「Mゲキセレクション」という、三重県文化会館がおすすめの劇団をセレクトするシリーズがあり、主に若手の劇団さん・劇作家・演出家の方にお越しいただいていて、初めての劇団さんはそのシリーズでお呼びすることが多いです。今回、果てとチークとアンパサンドそれぞれ「Mゲキセレクション」として招聘させていただきました。
堤 スタッフそれぞれが自主的にいろいろな場所に公演を観に行っていて、「あれ、観た?」と情報交換をしながら、「あなたがこっちを観るなら私はこっちを観ようかな」というふうに、できるだけ幅広い劇団さんを観るように、ということは気をつけています。その中から三重に来ていただきたいなと思う劇団さんを決める際には、今後も長くお付き合いできる可能性があるかどうか、団体として持続可能な活動をされているかどうか、公演を打つことだけでなく関連企画やワークショップなども丁寧にされているかどうかなどを基準に考えます。それと、個人的にはテーマの大小にかかわらず「これをやらなければ。これをやるしかない」というような、その作品を書かずにはいられなかった衝動や、作らずにはいられなかった切実さがある作品の強度に注目しています。
──安藤さんと升味さんは、三重県文化会館にこれまでどんな印象を持っていましたか?
安藤奎 三重県文化会館にはまだ行ったことがないのですが、以前から小劇場の劇団を呼んでくれる劇場だという印象がありました。また数年前からやられている戯曲講座の印象も強く、最初に知ったときはすごく新しいなと思い、私も通いたいと思ったんですけど、東京から通うにはちょっと遠くて(笑)。でも、すごい企画だと思っていました。
升味加耀 私も戯曲講座の印象が強かったです。また東京の若手の劇団が初めて地域の劇場に行くときやツアーを組むときに、三重県文化会館が快く受け入れてくれているという印象もありました。
──2劇団とも三重に初登場、お二人がお話しするのも初めてということで、まずは自己紹介の意味で、劇団名の由来を教えていただけますか?
升味 名前を考える中で、自分がどういうテーマを持っているのかを考えたときに、パワーのある抑圧的な、大きな構造に対するヘイト(hate)と、微かなホープ(hope)を入れたいという思いがあり、ローマ字で書くと「ハテとホッペ」にも読める、というところから、果てとチークにしました(笑)。また大きな社会構造とそこに生きる小さな人々を書いてきたので、遠くてよくわからない世界の果てと、自分にすごく近くて柔らかい頬(チーク)という意味も込めています。
安藤 ……すごく言いたくなくて。というのは、「劇団を作るぞ」となったときに、私があんぱんを食べていて、隣にいた友達がサンドイッチを食べてたんですよ。それを合わせて「アンパサンドにしよう」と。
一同 あははは!
──熟考して決めた果てとチークと、瞬間的な閃きで決めたアンパサンド、劇団名の決め方からすでに対照的ですね(笑)。
ジャンルと場所が拡大中、それぞれの創作の現在地
──ここからは堤さんと小林さんを中心にインタビューを進めていきます。
小林 まず、お二人が演劇を始めたきっかけを伺えますか?
安藤 私は小学校のときに初めて鴻上尚史さんの作品を観て、それがとても面白かったので演劇に興味を持ちました。高校時代は岡山に住んでいたのですが、卒業後に東京に出てきて、まずは演劇集団円の研究所に入りました。
升味 私は叔父が新劇の劇団の座長をやっていたので、子供向けの公演をよく観ていましたし、小学校でも演劇クラブに入っていたので、演劇は生活の近くにあったイメージです。中学からは上下関係がめちゃくちゃ厳しい演劇部に入り(笑)、演劇が楽しいとはあまり思わないまま高校まで演劇を続けたのですが、最後の演劇の大会がすごく楽しかったのを覚えています。その後、大学のサークルに入り、新人公演で初めて劇作をやらせてもらいました。
小林 果てとチークもアンパサンドも、2016年に結成されました。創作を始めたきっかけを教えてください。
安藤 私はそれまで劇作をしたことがなく、円の研究所にいたときには、脚本というのはチェーホフやシェイクスピアがやるものであって一般人がやるものではないという感覚でした。研究所を卒業してから俳優としていろいろなオーディションを受けたのですが、実は1回、あまり面白いと思っていなかった劇団のオーディションを受けて落ちるという経験をして、「私はなんて無駄なことしてるんだ!」と思いまして、それなら自分で書こうかなと思いました。
一同 あははは!
堤 ご自分で戯曲を書く、と思われたときに、参考にした人などはいましたか?
安藤 「別役実のコント教室:不条理な笑いへのレッスン」という本を読んで、それを参考にしたと思います。
堤 安藤さんは劇団公演以外にもテレビドラマの脚本執筆やコントの作・演出などさまざまなお仕事をされていますが、違いを感じていますか?
安藤 映像の仕事は舞台と全然違うと思います。私が映像で書くものは原作ありのものが多いのですが、原作があるものと自分のオリジナルという意味でもまったく違いますし、面白さも違うと思います。たとえばとある状況下で、言ってることとやってることが別、ということを表現したいときに、「今、喫茶店にいるよ」と言いつつ実際は別のお店にいることを表現するのに、映像だと一目瞭然ですが、舞台だと一瞬では難しい。そのような違いが随所にあるように思います。
小林 では升味さんが創作を始めたきっかけは?
升味 果てとチークは、最初は私のソロユニットとして始まりました。2016年にベルリンへ1年間交換留学で行ったときに「演劇をやりたいんです」と言ったら無料で小屋を貸してくれるおじさんがいて(笑)、ベルリンで一人芝居をやったのが旗揚げのきっかけです。その後、小・中・高と一緒だった川村瑞樹が2017年にユニット員となり、2025年に共同主宰になりました。
堤 升味さんは留学をされていたり、韓国でワークショップをされたりと国外でもさまざまな経験をされていますが、それが劇作にどのような形で影響していると感じますか?
升味 初めて海外に留学したのがベルリンの1年間だったんですけど、そのときに自分が圧倒的な人種的マイノリティであり言語的マイノリティであることを感じて「外から見える私のアイデンティティというタグの中に、アジア人もあるんだ」と初めて実感しました。また、言語がうまく使えないと透明人間のように扱われたり、頭の中では大人として思考できるのに、口から出てくる言葉がすごく幼稚だから対等な大人として見てもらえなかったり……その経験が自分の中ではすごく大きくて。日本の移民・難民を巡る問題についてはもちろん知ってはいたのですが、自分が逆の立場になったときに、こういう尊厳の傷つけられ方をするんだとわずかながら実感しましたし、「自分はマジョリティだ」と思っていてもマイノリティになる可能性があるということ、あるいは自分がこれまでマジョリティとして、どれだけ誰かを透明化し、搾取してきたかを理解できるようになって、自分の作品の深度もそこでグッと変わった感じがしました。
また今年4月から5月にかけて、韓国で韓国の俳優や演出家とのワークショップを行い、最終日には成果発表も行った(参照:🔥韓国WS&上演会🔥 - 果てとチーク)のですが、すごく良かったのは、ワークショップが進むにつれて徐々に韓国語で何が言われているのかわかるようになったことです。私は単語やフレーズレベルでしか韓国語がわからないのですが、それでも今ワークショップ参加者が何について話をしているのか、何に困っているのかがわかるようになったんです。また、非常にリスペクトにあふれた稽古場で、みんなが能動的に動いてくれたのも良かったです。
それから4月には韓国のクィア・フェミニストのプロデューサーであるナ・ヒギョンさんとのご縁で「Crossing Vectors」という企画に参加させていただきました。クィア・フェミニストのコミュニティは韓国でもマイノリティではあるんですけど、ナ・ヒギョンさんのおかげでいろいろな方とお話ができ、すごく癒やしになりましたし、強い気持ちになれました。
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わかり合えなくても断絶しないつながり方はないか(升味)



