目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。「七月大歌舞伎」夜の部「鎌髭」では、中村福之助と中村鷹之資が修行者快鉄実は悪七兵衛景清に初役で挑む。歌舞伎十八番のひとつである「鎌髭」では、鍛冶屋四郎兵衛実は三保谷四郎が、悪七兵衛景清の首を鎌で切ろうとするが、景清が不死身であるため切れない……という一幕を描いたもの。ステージナタリーでは5月末、歌舞伎座の稽古場で行われたビジュアル撮影に潜入。さらに後半には2人が大役に挑む思いを語ってくれた。
取材・文 / 川添史子撮影 / 藤田亜弓
まずは福之助が景清に…
歌舞伎座「七月大歌舞伎」夜の部では、市川團十郎が海老蔵時代に新たに構成した「壽三升景清」より、歌舞伎十八番の内「鎌髭」が久々に上演される。平家の武将、悪七兵衛景清が不死身の力を見せる豪快な荒事で、安永3(1774)年に四代目市川團十郎が初演したとされる同演目。景清は鍛冶屋の主人に髭剃りと見せかけて大きな鎌で首を掻っ切られるが、不死身のためまったく傷つかず、源氏への憎しみを胸に引かれていく……という場面が見せ場だ。豪快な大役にWキャストで挑んでいるのは、近年の成長目覚ましい中村福之助と中村鷹之資の2人。2人は今年1月の新橋演舞場「初春大歌舞伎」でも、同じく歌舞伎十八番「鳴神」の鳴神上人をWキャストで勤めている。今年は彼らの俳優人生において、エポックメイキングな年になるだろう。
本特集では5月末に歌舞伎座の稽古場で行われたビジュアル撮影に潜入。「これぞ歌舞伎」とワクワクするような姿でカメラの前に立つ、二人の様子を覗かせてもらった。
この日、最初にカメラの前に登場したのは福之助。勢いのある立派な隈取りがよく似合う! よくよく顔を見ると赤と青の2色が使われており、勇ましい中にも、影がある役柄がうまく表現されていることがわかる。
身体が1.5倍ぐらいの大きさに見える衣裳のゴージャスなこと。上は紫色の別珍地に三ツ亀甲の柄、その下に海老茶色地に三升と牡丹の縫いが入った綿入れを重ねており、成田屋にちなんだ「つくね牡丹」と「三升」のあしらいが特徴。下の綿入れはちらっと見える程度だが、鮮やかな刺繍が施された豪華な仕様でなんとも贅沢。
鬘も特徴的。頭の上の部分は、道を外れた大悪党や盗賊などに使われる「大百日」。もみあげは扇型にブワッと広がる「しっちゅうのたれ」。これも強さを表しているとか。この2つをつなぐ耳の上あたり、ピカピカとなで付けられた部分が「やはず鬢」。ワイルドに耳の横から下がる長い髪の束は「太白のシケ」。天下を乗っ取ろうとする悪人、「金閣寺」の松永大膳などにも使われている。太白は金星の意味だ。後ろの豊かで長い毛は無造作に束ねられ、金の縄が結んである。これらのパーツを上から全部をつなげて呼ぶと「大百日やはず鬢しっちゅうのたれ金の縄付き太白のシケ」。な、長い……床山さんに尋ねると、このコンビネーションの鬘は「鎌髭」だけらしい。演者と職人のコラボレーションによって生まれた作品である。
するとここに、團十郎が颯爽と登場! 「もっと大きくならないかな。(衣裳の中に)タオルを2枚入れて」「東からげ(着物の裾を腰の両脇でたくし上げ、下部を広げる着付け)がもっときっちり見えるといいね」とアドバイスをしていくにつれ、どんどんスケールの大きな役に見えてくる。あっという間の出来事、「はい、OK」と自身の出番の準備に帰っていく背中の頼もしさ。魔法のような時間を見せてもらった。
ちょうどいい角度で肘を張って大きく見せるため、撮影中の福之助いわく「想像以上に腕が痺れて大変」だそうで、肘や足の位置によって、身体の大きさが違って見えるのも難しく面白い。十分に気合いをみなぎらせた撮影が終わり、ホッとした福之助の表情が印象的だった。
続けて鷹之資の撮影がスタート
さてお次は鷹之資の登場。こちらの衣裳は十二代目團十郎から引き継がれた景清の衣裳。柄は「亀甲に牡丹」で、皮色の部分は「尾錠縫い」という、絨毯のように目の詰まった独特の縫い方で重厚感を演出しているとか。その下に織物の綿入れを重ねることで、「牢破りの景清」と称される豪勇な役柄を引き立てる仕立てとなっている。裾には「馬簾」と呼ばれる房が付いており、舞台で身体を動かすたびに派手に揺れてさぞや華やかだろう。なんともステキな配色で、鷹之資によく似合う。
ここに再び、團十郎登場! 細部を的確にアドバイスして「うん、いいね。じゃあよろしく!」と爽やかに去っていく様に筆者、拍手をグッとおさえる……稽古場に花道があるかと思いました。聞くところによると、出番の合間を縫ってやってきたとか。その後、福之助が鷹之資の撮影を覗きにやってきて、大役を勤めることのうれしさが身体から滲む2人が仲良くおしゃべりする様子も見られた。撮影終了後、稽古場に置いてあった大太刀(萌黄皮柄中刀)を「せっかくの機会だから」と構えていた鷹之資のお茶目な表情も微笑ましい。
重厚感ある衣裳でじっとしているだけでも一苦労。しかし2人とも泰然と、役について考え、表情を作っていく様子を見るうちに、本番への期待がどんどん高まっていった。ひと月この拵えで動いて演技するのだから、歌舞伎俳優とは大したものだ。ぜひ彼らの初役、奮闘を目に焼き付けてほしい。
中村福之助
──出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
お話をいただいたときはとても驚きましたが、とても嬉しく、「気を引き締めてしっかりと勤めなくては」と気合いが入りました。なにより歌舞伎座のチラシで“書き出し”(演目の主役)で名前が載るのがとても楽しみでした!
──歌舞伎十八番に挑む意気込み、景清を演じるうえで大事にされたいことを教えてください。
お正月に歌舞伎十八番の「鳴神」をさせていただいたときにも、父に習い、「ここは歌舞伎十八番らしく」と言われた箇所が何箇所かありました。今回も「十八番らしく」というところに重きを置いて、作品の良さをお客様に伝えられるよう勤めます。
──本番通りの拵えで挑んだ宣伝ビジュアル撮影。印象的だったことを教えてください。
こうして撮影いただく機会はそうありませんので、写真として残していただけることはとてもありがたいことですし、今回は團十郎のお兄さんも来てくださいました。衣裳を着るとより一層実感が湧き、楽しみになりました!
──福之助さんが着られる衣裳について解説ください。
團十郎のお兄さんが海老蔵時代に歌舞伎十八番の復活にご尽力された際、当時の衣裳さんはじめ職人の方々と協議を重ねて作り上げた新しい衣裳と伺っています。Wキャストでまるっきり同じではなく、違いを出していただいたのも携わってくださる皆様の優しさだと思いますし、立派な拵えに負けないようにがんばります。
──1月の「初春大歌舞伎」に続いてお二人のWキャスト。お相手へのメッセージをお願いします。
鷹之資くんは僕とはまったくタイプの違う役者さんだなと常々感じます。後輩ではありますが、学ぶことも多々ありますし、今回も自分のプラスになるのとは吸収しながら共にがんばりたいと思います。
プロフィール
中村福之助(ナカムラフクノスケ)
1997年生まれ。中村芝翫の次男。祖父は七代目中村芝翫。2000年、初代中村宗生を名乗り初舞台。2016年、三代目中村福之助を襲名。8月に「八月納涼歌舞伎」、来年4月から5月にかけて「第五回 神谷町小歌舞伎」に出演予定。
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中村鷹之資
──出演が決まった時のお気持ちを教えてください。
歌舞伎座で出し物を、それも歌舞伎十八番を勤めさせていただけるということで、本当にありがたく、うれしい気持ちでいっぱいでした。同時に、この機会を与えてくださり、ご指導を賜る團十郎の兄さんに本当に感謝しております。一日一日を大切に、全力で勤めます!
──歌舞伎十八番に挑む意気込み、景清を演じるうえで大事にされたいことを教えてください。
歌舞伎十八番で一番大切なのは“におい”。今年の一月、新橋演舞場で「鳴神」を勤めさせていただいた際に、團十郎の兄さんがおっしゃっていたことです。「鳴神」の経験を生かして、歌舞伎十八番の“におい”が感じられるような「鎌髭」を目指したいです。また、景清は荒事のプラスのエネルギーの中に、滅亡する平家の負のエネルギーも持った役だと思います。そういった役の魅力も醸し出せるように、團十郎の兄さんのご指導のもと、勤めたいと思います。
──本番通りの拵えで挑んだ宣伝ビジュアル撮影で印象的だったことを教えてください。
当初、團十郎のお兄さんはお出番の関係で「見にこられないかもしれない」とおっしゃっていたのですが、当日には駆けつけてくださり、顔や衣裳のこと、頭の毛の流れ方まで細部にわたって見てくださって、本当にうれしかったです。その甲斐あって、いい写真になったと思います。しかし「本当に大きな拵えだな」と衝撃を受けました(笑)。
──鷹之資さんが着られる衣裳について解説ください。
今回私が着けさせていただく亀甲の衣裳は、團十郎のお兄さんや十二代目の團十郎のおじ様がお召しになっていたものです。古風な感じが自分にも合っていて、とても気に入っています。福之助さんの衣裳と印象もガラリと変わって、Wキャストを両方ご覧いただける楽しみが確実に増えたと思います。衣裳にはお召しになった先人たちの思いやパワーも込もっていると伺いますが、当代、先代のお力をお借りして勤めさせていただく気持ちです。
──1月の「初春大歌舞伎」に続いてお二人のWキャスト。お相手へのメッセージをお願いします。
「鳴神」の際は、福之助さんとお互いに刺激し合いながら勤めさせていただきました。福之助さんは、分け隔てなくいろいろなことを話してくださるので、一緒にWキャストをさせていただく時間はとても楽しく、刺激になりました。今回は共に團十郎のお兄さんにご指導いただいて勤めます。また共に高め合いながら走り抜けていきたいです。ひと月、よろしくお願い致します‼︎
プロフィール
中村鷹之資(ナカムラタカノスケ)
1999年生まれ。五代目中村富十郎の長男。2001年、初代中村大を名乗り初舞台。2005年、初代中村鷹之資を披露。2013年より自身の勉強会・翔之會を主宰している。
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