中村獅童が思い込める、「子連れ狼」を現代の人に向けたエンタテインメントに

目まぐるしく変化していく日々、ふと非日常的な時間や空間に浸りたくなったら、“ゆるりと歌舞伎座で会いましょう”。6月3日に開幕した「六月大歌舞伎」では、中村獅童と中村夏幹が「子連れ狼」で親子共演中だ。「子連れ狼」は、小池一夫(原作)・小島剛夕(作画)による時代劇で、中でも1970年代に獅童の叔父・萬屋錦之介が主人公・拝一刀役を演じたテレビドラマ版が大ヒット。今回獅童は拝一刀役に、夏幹はその息子・大五郎役を演じている。

ステージナタリーでは5月下旬、「子連れ狼」の稽古が始まったばかりの獅童と夏幹にそれぞれインタビュー。さらに夜の部「華舞於河賑」にて、長女・小川加奈絵が歌舞伎座に初出演する中村萬太郎に、父としての思いを聞いた。

取材・文 / 川添史子撮影 / 平岩享

叔父・萬屋錦之介から引き継ぐ「子連れ狼」

かつて6月の歌舞伎座は、映画スターとしても知られる(萬屋)錦之介や(中村)嘉葎雄が主軸を担い、古典あり、書き物(新作)ありと、趣向に富んだ興行が恒例化していた時期があったという。獅童は折に触れてそれを懐かしみながら「小川家の祖母(三代目中村時蔵の妻、小川ひな)が亡くなって途絶えてしまいましたが、『いつか復活させたい』という気持ちが、僕の中にずっとあります」と語ってきた。そして3日に初日を迎えた歌舞伎座「六月大歌舞伎」は、小川家が一堂に会すひと月となる。

昼夜変化に富んだ演目が並ぶ中でもやはり注目は、小池一夫(原作)と小島剛夕(作画)による有名劇画を、新作として上演する「子連れ狼」だろう。柳生一族の画策により汚名を着せられ地位を追われ、妻を殺され、“刺客道”を歩むことになった孤独な親子──萬屋錦之介の当り役である主人公・おがみ一刀いっとうを獅童、その息子・大五郎を獅童の次男・中村夏幹が勤める話題作。獅童が同作に興味を持つきっかけは、なんと海外における“子連れ狼との再会”だった。

「子連れ狼」ビジュアル(撮影:加藤孝)

「子連れ狼」ビジュアル(撮影:加藤孝)

「2006年にクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』の撮影でアメリカに滞在していたとき、現地のスタッフと雑談する会話の中に“ローンウルフ(Lone wolf=一匹狼)”という単語が出てきたんですね。詳しく聞いてみると、それが『子連れ狼』だとわかった。当時のロサンゼルスはコミックや時代劇といった、日本カルチャーブーム真っ只中。そのあと仕事で滞在していたドイツのホテルでテレビをつけたら、錦之介の叔父の『子連れ狼』がドイツ語で放映されていた……なんてこともありました。『一人のシングルファーザーが子供と復讐の旅をする物語として、広く世界のファンを獲得しているんだ。なるほど、現代の人に向けたエンタテインメントとして成立するかもしれない』と確信した瞬間です。すぐに松竹の方に歌舞伎化の可能性を探っていただきましたが、当時はハリウッドスターで映画化するプロジェクトが動いていたらしく、いろいろと権利関係が難しいことがわかりました。なので長年、諦めていたんですね。が、昨年ぐらいから一気に事態が動き、こうして上演できることになりました」

「子連れ狼」は、映画、テレビドラマと数多くの映像作品が制作され、中でも1973年から1976年にかけて放映された萬屋錦之介主演のテレビドラマシリーズは大ヒット。実は1974年6月歌舞伎座「萬屋錦之介特別公演」では、現代劇の役者も入れて舞台化されている(黄門さまでおなじみ、西村晃なども出演)。ただ、完全に歌舞伎俳優のみで上演するのは今回が初だ。

「今まで僕が作ってきた新作のように、歌舞伎にこだわった構成がいいのか、それとも時代劇寄りがいいか、テイストに関してはかなり悩みました。結果、古典が多い演目ですし、色合いを加える意味でも、オーソドックスな時代劇のつくりがいいのではないか?と思い至った。錦之介の叔父がいた頃のスタイルを復活させる意味でも、それがいいでしょうし。ドラマ版で使われていた音楽も流す予定です」

中村獅童

中村獅童

脚本は市村萬次郎の次男・市村光が手がけ、獅童と映画監督の井上昌典による共同演出。さまざまな感性がミックスされた、令和の“子連れ狼”となりそうだ。

「光さんは文章を書くのがお得意らしく、ドラマ第1シーズンの第1話をベースにまとめてもらいました。最初に上がってきた台本が2時間以上あり、カットに随分と苦心してもらいましたね。当初は、“一刀が大五郎の前に手まりと刀を置き、刀を選べば父と共に刺客道へ、手まりを選べば亡き母のいる黄泉の国へ送る──”というドラマの名場面も泣く泣くカットする予定だったのですが、ファンの方にとって大事な要素なので諦めきれず。どうにか復活して構成しています。井上監督は京都撮影所で修行を積んだ方。特に照明は今回肝となる要素で、僕も監督もこだわりがありますし、撮影所のスタッフと歌舞伎座のスタッフによるコラボレーションでどこまで理想に近づけるか、ドキドキしています」

“子連れ狼”と呼ばれるようになった親子のもとに、宿敵・柳生烈堂は次々と刺客を放つ。戦いの場面は大きな見どころとなるだろう。

「アクションチームにも入ってもらう予定で、現代劇でもお世話になった渥美博さんに殺陣をお願いします。うちの一門の立師である(中村)獅一と一緒に組み立ててもらう予定で、ここもコラボレーションとなりますね。渥美さんはもともと『子連れ狼』に深い思い入れがあるらしく、かなり凝った殺陣を考えてくださっているみたいで……若い頃にご一緒した『浪人街』(2004年)の殺陣が、とにかくものすごいハードだったんですよ。今回も渥美さんの気合いが入りすぎていて、久しぶりに体中がアザだらけになる予感(笑)。演じる役の職業によって、刀の持ち方から振り方から足の運びから、全部変わってきます。拝一刀はケレン味を使ってやるような立廻りではありませんし、独特な刀の握り方があって、そこはしっかり意識したいです。話が少しずれますが……叔父の当たり役に、大酒飲みの蘭方医が主人公の『破れ傘刀舟悪人狩りやぶれがさとうしゅうあくにんがり』という時代劇もあって、これも痛快でいいんですよ。破れ傘に高下駄姿、『てめえら人間じゃねぇ! 叩っ斬ってやる』の決めゼリフで知られる、スカッとした時代劇。これもいつかやりたいと構想しています」

中村獅童

中村獅童

大五郎役の中村夏幹も気合い十分

会見では記者から「大五郎の髪型は気に入っている?」と尋ねられ「気に入ってません!」と元気に(?)回答していた中村夏幹(5歳)。おしゃれ感度の高いお兄ちゃんの陽幹(8歳)の影響で、前髪を伸ばし中というオシャマさん。テレビカメラのリクエストに応え、拝一刀を呼ぶ「ちゃん!」という呼び声を、会場中に響き渡る声で何度も言えたのも立派だった。

中村夏幹

中村夏幹

会見後「セリフは随分練習しましたか?」と尋ねると「自然と言えるようになりました」とこれまた頼もしい回答をしてくれた。箱車の乗り心地を聞くと「ぜんぜん狭くないです、大丈夫!」とのこと。舞台は「楽しいです。でも大変なときもあるし、楽しくないときもあります。ゲームをしていたいこともあります」と子供らしく真っ正直なアンサーに、思わず笑ってしまった。最後にお客様へのメッセージをお願いしたら、とっても大きな声でお行儀よく「6月、歌舞伎座でお待ちしております!」とのこと。大変よくできました……!