白井晃×生田みゆき×鈴木アツト×岡本圭人座談会 「あたらしい国際交流プログラム」から新作「月を抱く人魚」が誕生

“世田谷から世界へ”を掲げて、開館以来、世界を視野に入れた創作に取り組んできた世田谷パブリックシアター。2024年度よりスタートさせた「あたらしい国際交流プログラム」は、日本芸術文化振興会からの「クリエイター支援基金 文化施設による高付加価値化機能強化支援事業」に採択されたことを受けて実現した若手クリエイターの育成を軸とする事業で、育成対象者はリーディング公演や新作の上演、国際共同制作など、多数の実践に臨む。

本特集では、「あたらしい国際交流プログラム」の育成対象者である生田みゆき、鈴木アツト、岡本圭人、そしてメンターの白井晃にインタビュー。プログラムのこれまでや2026年8月に開幕する「月を抱く人魚」について、そして今後の展望について語ってもらった。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 藤記美帆

もう一歩踏み込んだ国際交流を目指して

──世田谷パブリックシアターでは、“世田谷から世界へ”を掲げて、海外のアーティストを招聘したり、海外公演を行ったりと開館以来さまざまな取り組みを行ってきました。その中で、2024年度からスタートした「あたらしい国際交流プログラム」は、どういった位置付けなのでしょうか?

白井晃 国際交流という意味では、サイモン・マクバーニーやロベール・ルパージュ、フレデリック・フィスバック、ヤン・ジョンウンなど、これまでもさまざまなアーティストを世田谷パブリックシアターに招聘し、さらに日本の俳優、スタッフが一緒に作品を作る、ということもやってきました。そこで、この「あたらしい国際交流プログラム」では、もう一歩踏み込んで海外のアーティストと創作の出発点から一緒に考えながら交流するような展開がしたいと考えています。

──「あたらしい国際交流プログラム」には、コアメンバー4人と、必要に応じて選出されるサブメンバーの、複数の育成対象者が携わっています。本日お集まりいただいた演出家の生田みゆきさん、劇作・脚本家の鈴木アツトさん、俳優の岡本圭人さん、そして本日はいらっしゃいませんが俳優で翻訳・演出も手がける万里紗さんがコアの対象者です。白井さんは若いアーティストとの交流も多いですが、生田さん、鈴木さんに対してどんな可能性を感じていますか?

白井 鈴木さんとは別の現場でご一緒する機会があり、いろいろとお話をしていたのですが、興味を持つものが似ていると言いますか、共通項が多いなと感じて、ぜひ「あたらしい国際交流プログラム」にも関わっていただきたいとお願いしました。

生田さんは2022年にシアタートラムで上演された「建築家とアッシリア皇帝」で演出を担当していただき、そこで初めてお会いしました。生田さんは文芸的なことのみならず音楽にもお詳しいですし、私も舞台芸術における音楽の関わりに興味がある人間なので、生田さんの才能に期待して関わっていただきました。

白井晃

白井晃

──育成対象者に選出されて、生田さんと鈴木さんは率直にどのようにお感じになりましたか?

鈴木アツト 育成対象者としてこんなに歳を取っていていいのかということを最初は感じましたが(笑)、そのことよりも生田さんとご一緒できることが単純にうれしかったです。お話をいただいたのが、ちょうど生田さんが「寿歌」を演出された直後で、(会場となった)BUoYも作品にマッチしていて会場選びがいいなと思いましたし、生田さんの演出は北村想さんの世界観を的確に表しているだけでなく拡張している印象を受けました。だから演出家として生田さんの才能に嫉妬する部分もあったのですが、今回ご一緒できることになって、敵が味方になったような気がしています(笑)。

生田みゆき (笑)。世田谷パブリックシアターさんとの関わりで言いますと、白井さんもおっしゃったように4年前に「建築家とアッシリア皇帝」という作品を上演させていただいて、当時この規模の劇場でやらせていただく経験がまだあまりなかったので、出演者の岡本健一さん、成河さん、スタッフの方々に助けていただきました。今回は、劇場とある期間継続してご一緒できるプログラムにお誘いいただけたのがとってもうれしいですし、私と同世代か少し年下の俳優さんたちとプロジェクトを進めていけることにすごくワクワクしています。私が(周囲に)引っ張り上げてもらうだけではなく、自分も周りをどんどん引き上げていけるような、そういう場を作れたらいいなと思っています。

演出家のエネルギーを浴びて仲間意識が生まれたワークショップオーディション

──「あたらしい国際交流プログラム」ではまず、2025年3月にワークショップオーディションが実施され、100名以上の応募者の中から約半数がワークショップに参加しました。

生田 2025年8月に「不可能の限りにおいて」のリーディング上演を行うことが決まっていたので、そのテキストを使ったり、ほかの日本の現代戯曲も使ったりしながら、1週間弱のかなりみっちりしたワークショップをやりました。そのワークショップに参加してくださった方の中から、「不可能の限りにおいて」や「月を抱く人魚」をはじめ今後展開していくほかのプロジェクトに関わっていただく方を選出させていただきました。圭人さんも3月の時点からそこに参加してくださったんです。

岡本圭人 僕、ワークショップがすごく好きなんです。ワークショップの「みんなで作っていこう」という感じがすごく好きで、アメリカの演劇学校にいたときやイギリス、フランスでもよく参加しましたし、今も舞台がないときは自分で探して応募し、参加しています。今回、「あたらしい国際交流プログラム」の企画意図やそれに関するワークショップがあると聞いて、「ぜひ参加させてください!」とお願いしました。生田さんとはそのときが初めましてだったのですが、僕にとって生田さんは「父親の演出をしている人」というイメージで……。

岡本圭人

岡本圭人

一同 あははは!

岡本 だからすごくドキドキして、ワークショップにも一生懸命に取り組んだのですが、あるワークで「圭人さん、ちょっとそれじゃつまらないな。たとえば……すっごい花粉症の男(の体)でやってみてくれない?」と生田さんに言われて、めちゃくちゃ花粉症の男を演じてみたりもしました(笑)。生田さんの明るいエネルギーや熱い思いをもとにみんなのグルーヴ感、仲間意識が生まれた感じがして、すごく良い経験でした。

生田 そういった時間が持てたのは、やっぱりこの劇場で、この稽古場があったからこそ実現できたことだと思います。

──白井さんもワークショップには立ち会われたのですか?

白井 はい。二十代から三十代までの本当にたくさんの若い方に参加していただいたのですが、その中で生田さんが非常に活発に、エネルギッシュにワークショップを仕切っていて、1つの作品を作るため、役者が持っているものをすべて引き出そうとワークショップを進行していたのがとても印象的でした。

イギリス、韓国との新たな関係性が誕生

──「あたらしい国際交流プログラム」のここまでのスケジュールを振り返ると、2025年8月にリーディング公演「不可能の限りにおいて」とリーディング公演「紅い落葉」の上演、2026年3月にはロンドンで作品開発ワークショップが実施されました。まずは昨年上演された「不可能の限りにおいて」がどんな体験だったのか教えてください。ポルトガル出身の作家ティアゴ・ロドリゲスが紛争地域で働く人たち、医療従事者に取材した内容をベースに描いた作品で、A・Bの2チームで上演されました。

リーディング公演「不可能の限りにおいて」Aチームより。(撮影:宮川舞子)

リーディング公演「不可能の限りにおいて」Aチームより。(撮影:宮川舞子)

リーディング公演「不可能の限りにおいて」Bチームより。(撮影:宮川舞子)

リーディング公演「不可能の限りにおいて」Bチームより。(撮影:宮川舞子)

生田 「不可能の限りにおいて」はドキュメンタリーテイストの作品で、今地球上でこういったことが実際に起きているということを伝える作品だったと思います。リーディングをするときに面白いなと私が感じているのは、俳優が役になるのでなく、俳優自身が見え隠れするところ。特にこの「不可能の限りにおいて」では、冒頭から俳優その人として舞台にいてほしいということを皆さんにお願いしました。私にとってはこの作品が「あたらしい国際交流プログラム」を契機に新しく出会う皆さんとのファーストステップのような作品だったので、役というフィルターを通さずに俳優さんとぶつかりあえたということが本当にありがたかったなと思います。圭人さんはどうでした?

岡本 生田さんがおっしゃる「俳優自身としてその場に立つ」ということが一番難しい!と思っていました(笑)。個人的には、どの役も役としては考えていなくて、自分として捉えているんです。稽古の中で繰り返すことで自分と同化させようとしているので「あなた自身として立ってください」と言われると緊張しますし、その一方でセリフもあるので、非常に難しくて。普段の舞台ももちろん怖いのですが、「不可能の限りにおいて」では今まで培ってきた防具とか武器を全部取り去られたような気がして、めちゃくちゃ緊張しました。ただ、あの作品を役として演じてしまったら、この作品の本質とか中にあるものは、これほど届かなかったかもしれない、俳優が生身で演じたり言葉を届けたりすることが良かったと思います。難しい作品ではありましたが生の自分をお客様にお見せできたこともすごく良い経験でしたし、生田さんの作品や舞台に対する愛の深さも感じて、生田さんと一緒にがんばろうという気持ちになりました。

白井 生田さんは若い俳優たちとこの戯曲に立ち向かうために、紛争地域の医療現場に立ち会っている人たちを役柄として演じるのではなくて、フィルターをかけずに自分の中にその言葉を入れ込んで自分のこととして話す、という手段を選ばれたのが印象的でした。しかも1チームだけでも大変なのに2チーム制で(笑)、大変なことに踏み込んでるなあと。でもそのことによって登場人物1人ひとりに対する役としての“正解”を作るのではなく、俳優それぞれのアプローチの違いが浮き彫りになったのではないかと思います。

──「不可能の限りにおいて」と同時期に、白井さん演出によるリーディング公演「紅い落葉」も実施されました。アメリカの田舎町で穏やかな暮らしを送っていた主人公が、兄と同居を始めたことで、生活が一変していくサスペンス作品です。

リーディング公演「紅い落葉」より。(撮影:宮川舞子)

リーディング公演「紅い落葉」より。(撮影:宮川舞子)

リーディング公演「紅い落葉」より。(撮影:宮川舞子)

リーディング公演「紅い落葉」より。(撮影:宮川舞子)

白井 実は降って湧いたような話だったんですよ。「紅い落葉」はアメリカのトマス・H・クックによる小説「緋色の迷宮」を原作に、キム・ドヨンさんが脚色し、イ・ジュヌさんが演出を手がけた作品で、2021年にソウルで初演されました。韓国との交流を進めていこうと話をしている中で、この作品を日本でもリーディングで上演してみませんかというお話を韓国のプロダクションからいただき、韓国の文化体育観光部の助成も受けて上演することになりました。原作の魅力を大切にしながらも、韓国ならではのエンタテインメント性を織り交ぜたとても良い脚本だったので「ぜひやってみよう」という話になり、気がつけばあれよあれよという間に上演が決まっていました(笑)。ちなみに公演当日は韓国からイ・ジュヌさんも来日され、僕の真後ろで舞台をご覧になっていたんです。オリジナルの演出家ですからね、「どう思われているんだろう、大丈夫かな?」と緊張したのですが(笑)、終演した瞬間に笑顔でこう(サムズアップ)してくれたので、「良かった!」と思いました。

一同 あははは!

──その後、今年2026年3月にはロンドンで作品開発のためのワークショップが行われました。このワークショップでは、今後上演予定のイギリス人劇作家フランシス・ターンリィさんが書き下ろした新作に向けて、共同演出をする予定の生田さんとイギリス人演出家ジェニファー・バクストさんが、岡本さんを含む日英の俳優たちとワークショップに取り組む、というものでした。

ロンドンでのワークショップの様子。

ロンドンでのワークショップの様子。

ロンドンでのワークショップの様子。

ロンドンでのワークショップの様子。

生田 とにかくハードワークな1週間でしたね……(笑)。今後上演する作品の、台本の前半までが書き上がっていて、それを万里紗さんに日本語に翻訳していただき、いくつかのシーンを抜粋して、俳優たちとワークを行いました。ジェニファーさんと私にとっては共同演出がどうすれば実現するかを探ること、そして日本語英語織り交ぜながら、多国籍な俳優たちと一緒にさまざまに試行錯誤して、インターナショナルな作品を創作する意義を考えてみる、この二つを大きな狙いとしていました。圭人さんは英語がお得意だから感じなかったと思いますが、私としては英語でやり取りをして、内容を理解し、返答するということにまず時間がかかって大変でしたし、俳優たちの演技を見ながら「私は普段、稽古の何を見ているんだろう」と改めて考えさせられたりして、大変良い機会でした。

岡本 僕にとっては夢のような時間で、大変だったのかどうか、よくわからないです(笑)。というのも、僕は9歳から14歳まで5年間、イギリスの寮に1人で住んでいて、そこで英語を覚えましたし、演劇自体、海外で学びました。自分にとってイギリスは第二の故郷ですし、夢は海外の舞台で公演することです。だから今回のワークショップも、「お仕事でイギリスに行けるなんて!」とうれしくてうれしくて(笑)。英語で演技をするということは、自分にとってある意味原点なので、イギリスの俳優たちと英語で演技するのはめちゃくちゃ楽しかったです。

生田 本当に水を得た魚のように楽しそうでした(笑)。

岡本 最終日には白井さんもいらっしゃって、びっくりして緊張しました!

一同 あははは!

白井 そうなんです(笑)。5日という短時間にもかかわらず、生田さんがジェニファーさんをはじめ皆さんと意見を出し合いながら、有機的にコミュニケーションを取っていて、ひろがりがある場を作られていることが、羨ましくもあり頼もしかったですし、目覚ましい成果が見られて、今後もとても楽しみに感じました。