2022年に赤坂ACTシアターで開幕し、ロングラン公演を続けてきた舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」日本公演が、2026年12月27日をもって閉幕する。今年は“ラストイヤー”と称し、10人の豪華キャストがハリー・ポッター役のバトンを回しながら、ラストランを盛り上げる。
その中の1人が、映画「ハリー・ポッター」シリーズでハリー・ポッターの声を務めてきた小野賢章だ。“満を持して”の小野の登板に、作品ファンから歓喜の声が上がったが、当の本人は舞台版のハリー・ポッターは自身が声を務めたハリー・ポッターとは「地続きではない」と冷静な視点で作品を見つめていた。「新しい演じ方、感じ方でハリー・ポッターに臨みたい」と語る小野の姿からは、穏やかな雰囲気の中にも、声優、舞台俳優として自身の表現に挑もうとする静かな闘志が感じられた。
ステージナタリーでは、複数回の読み合わせの稽古を終え、これから本格的に作品と向き合おうとしている小野に、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」出演への心境を聞いた。特集後半では、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」日本公演スタートから公演に深く関わり、ラストイヤーでハリー・ポッターの1人を担う、上野聖太が思いを寄せる。
取材・文 / 大滝知里撮影 / 藤田亜弓
[小野賢章]ヘアメイク / 齋藤将志スタイリスト / DAN(kelemmi)
いよいよラスト、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」を閉幕までにもう一度!
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」日本公演の開幕に合わせ、2021年12月から約半年間の大規模改修工事を経て、専用劇場として生まれ変わったTBS赤坂ACTシアター。客席に向かう階段にはホグワーツ魔法魔術学校の4寮のフラッグが掛けられたほか、校章をモチーフにしたカーペット、壁に描かれた神秘的なパトローナス(守護霊)の姿など、劇場全体が観客を劇世界へと誘う。なお、東京メトロ千代田線赤坂駅から地上に出る階段にも装飾が施され、作品世界への導線が丁寧に引かれた。
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、原作者のJ.K.ローリングが演出家のジョン・ティファニー、脚本家のジャック・ソーンと共に手がけた舞台作品。2016年にイギリス・ロンドンのパレス劇場で初演され、当初は前編と後編が別立ての2部制で上演されていた。2021年にアメリカ・ニューヨークのオンブロードウェイで上演されるにあたり、前編を1幕、後編を2幕にした1本立ての構成に変更され、同形式のプロダクションが2022年に日本でスタート。日本公演はアジアでは初、世界では7番目の上演となった。
劇中では、「ハリー・ポッター」シリーズの最終巻から19年後の世界を舞台にしたストーリーが展開する。37歳になったハリー・ポッターが、父親としての立ち居振る舞いや仕事の重圧に悩みながらも家族や友人たちと寄り添い、問題を乗り越えていく様子が、次男アルバス・ポッターの冒険を交えて描かれる。
また、作品の世界観を表現する重厚な舞台装置が建て込まれた舞台上では、照明を駆使した視覚的な演出、攻撃魔法の激しい応酬など、アッと驚く仕掛けが多数展開。一瞬たりとも目が離せない。
なお、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」日本公演では開幕から約4年にわたり、10人の俳優がそれぞれの個性でハリー・ポッター役を立ち上げてきた。2026年7月からは歴代キャストの藤原竜也、石丸幹二、向井理、藤木直人、大貫勇輔、吉沢悠、稲垣吾郎、平岡祐太、上野聖太に、新キャストの小野賢章が加わり、ファイナルシーズンを盛り上げる。もう何度も観たという人も、実はまだ観ていないという人も、悔いが残らないよう、このラストチャンスで舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」を堪能しよう。
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」
2022年7月8日(金)~2026年12月27日(日) 東京都 TBS赤坂ACTシアター
ハリーを演じていたときと“地続きではない”舞台版
──原作者のJ.K.ローリングが演出家のジョン・ティファニー、脚本家のジャック・ソーンと共に手がけた舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」。小野賢章さんは、初年度に観劇され、その後、ハリー・ポッター役オーディションのオファーを一度断られたそうですね。今回ご出演を決意された理由を教えてください。
初めて舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」を観たとき、人が消えたり、炎が出たりして、本当に魔法を見ているような感覚になって驚いたんです。でも、自分が演じることに対してはイメージが沸かなくて。年齢が役に追いついていなかったということもあるし、子供を持つ父親の気持ちはわからないので、それを表現できるタイミングではないなと思ったんです。今回、出演を決めた大きな理由は、日本公演がラストイヤーだということ。これを逃したら今後、ハリー・ポッターという役を舞台で演じる機会は訪れないのではないかと思いましたし、前回オーディションのお話をいただいてから年齢を重ね、今だったらできるかもしれないと感じたんです。不安はありますが、“挑戦してみたい”という気持ちのほうが大きくなりました。皆さんの期待に応えられるかというのは少しプレッシャーですけど。
──これまでさまざまな役を演じ、声を務めてきた小野さんにとって、幼少期に長年携わったハリー・ポッターという役はどのような存在ですか?
十代の頃は要所要所にハリー・ポッターの存在があって、居るのが当たり前という感じでした。1年に1度くらいは必ず映画「ハリー・ポッター」シリーズの吹き替えの仕事があったので、夏休みにおばあちゃん家に行く、みたいな感覚に近いというか(笑)。当時はそんな気持ちでしたが、大人になってから「『ハリー・ポッター』をずっと観ていました」とか「大好きな作品で」と言っていただく機会がたくさんあって、作品が終わったあとのほうが、作品の影響力を実感することが多かったです。今回の舞台出演もそうですが、10年以上経っても作品関連のお仕事が続くというのは、本当にすごいことだなと思っています。
ただ、今回の舞台では、ハリーを演じていたときの自分と“地続きではない”というのはすごく感じています。舞台版では、声を務めていた映画のシリーズが終わった直後のストーリーが描かれるわけではありませんし、自分も当時から10年以上の時間がしっかりと経っている。それに、ヴォルデモートのことを舞台版では「ヴォルデモー」と言ったりして、違いがあるのが僕の中では新鮮で。僕が演じることの意味の1つでもある、「映画の吹き替えで聞いていたハリー・ポッターだ!」とお客さんに思ってもらえる瞬間は、個人的には作っていきたいとは思いますが、舞台版では新しく、自分の感じ方、演じ方でハリー・ポッターを表現していけたらと思っています。
過去の自分と重なる、アルバスの“あのハリー・ポッター”という感覚
──本作では原作小説の最終巻から19年後を舞台にしたストーリーが展開します。ハリーには3人の子供がいて、舞台版ではホグワーツ魔法魔術学校に入学する次男アルバスとの関係性を軸に登場人物たちの思いが描かれます。舞台版のストーリーを、小野さんはどう感じましたか?
想像と全然違いましたね。ハリーと子供たちとの描写は、映画では最後にアルバスたちをホグワーツに送り出すという、あのシーンだけでした。そのときのハリーがどんな仕事をして、家族間でどんな問題を抱えていているのかというのはまったく描かれていませんでしたし、血のつながりがある人物は映画にはほぼ出てこなかった。いてもダーズリー家くらいだったので、その新鮮さを舞台版では感じました。それにハリーは、家庭や職場で大小いろいろなことにフラストレーションを抱える、日本社会で言うところの“サラリーマン”みたいなんです(笑)。それが面白いなと思いました。僕自身は父親との関係は良好で、兄弟も仲が良かったので、父親は忙しくて家にあまりいないこともあったのですが、“寂しい”と感じることなく育ちました。なので、ハリーとは環境的には少し違うかなと思います。
──すでに読み合わせを何度かされているとお聞きしました。先ほど小野さんがおっしゃられた“プレッシャー”に打ち勝つためのヒントはありましたか?
読み合わせでは演出助手の方に「自分が思うハリーでいい」と言っていただいているんです。今回のラストイヤーもそうですが、これまでも何人もの方がハリーを演じてきて、人によって役へのアプローチや、セリフの言い方が違うんです。自分の中で生まれるハリー・ポッターの感情がどのようなものなのか、今の段階ではいろいろ考える余地があるなというふうに思っています。先ほども言いましたが、やっぱり“父親”というワードが自分の中で大きいんですよね。そこが役作りにおいて悩みポイントの1つなのですが、改めて脚本に向き合ってみると、ハリーは、19年経って3人の子を持つ父親ではあるけど、“父親じゃない面”もけっこう持っているんです。実際、アルバスが劇中でハリーに見ているのは、“パパ”の顔ではなく、“あのハリー・ポッター”の顔だったりする。その捉え方というのは、僕がハリー・ポッターを演じていたときの感覚と似ているんですよね。親も、子供への接し方を試行錯誤して、失敗を重ねて親というものになっていくと思うんです。なので、変に“父親になろう”としなくてもいいんじゃないかと思うことで、不安が解消されつつあります。本格的な稽古が始まって、視野が広がってきたら、どういうふうに演じるべきかという自分なりの指針が見えてくるのかなと思います。また、ハリーが家族と接し、変化していく中で、自分にどんな感情が芽生えるのか、1本通して役を演じ切ったときに何が生まれるのか、というのは自分としても楽しみにしているところです。
──映画シリーズとは別に、舞台版から小野さんが受け取るメッセージやテーマは何でしょうか?
“人の話を聞く”ですね。相手とどう向き合っていくかというのが、舞台版の大きなテーマになっていると感じます。ハリーは冒頭で、アルバスに対して「自分はこうだった」とか「僕はこういう経験をしたから」と、自分の話をすることが多くて、彼が抱える悩みに寄り添ってあげることができないんです。それを、親が子供に教えるのは当たり前だという考え方ではなく、親が子供から教わることもあるという視点を大事にして、台本を読んでいます。
自分の“真ん中”に戻るために、舞台に立つ
──ラストイヤーには、2022年7月に日本公演がスタートしてからハリー・ポッター役を務めてきた錚々たるキャストがそろいます。そんな中で演じられる小野さんの思いとは?
本当にすごい方々の中に参加させてもらって……ありがたいです。皆さんそれぞれのハリー・ポッターとして舞台に立たれると思いますので、その中でも僕は、僕ができることをやるだけだと、今は思っています。
──ラストイヤーでハリー・ポッター役を演じられる1人に、小野さんが子役時代からお知り合いの上野聖太さんがいらっしゃいます。上野さんは日本公演スタート時からアンサンブル&ハリー役カバーとして作品に携わられ、2026年1月にハリー・ポッターとして本役デビューされました。そんな上野さんと再び出会い、同じ作品の同じ役を演じる心境はいかがですか。
すごく不思議な縁だなと思いますね。やり続けていればどこかで一緒に仕事ができるんだと。僕がハリーを演じることが決まる前に、聖太さんが本役デビューされたことをSNSで知ったときはうれしかったですし、同じ役なので舞台上で共演することはありませんが、とても頼りにしている存在です。
──小野さんの読み合わせに上野さんが参加されたとか。
そうなんです。「ハリー・ポッター」の世界観は、20年以上かけて作り上げられたものなので、セリフ1つとっても背景や情報が膨大です。本当に、何を手がかりにやっていけばいいのかとパニックになるくらいなんですけど(笑)、そんなときに聖太さんが丁寧にフォローしてくれるんです。カバー時代から数えると、すごく長い時間をかけてハリーと向き合ってきた聖太さんの言葉は、経験も含めて実感があるので、すんなり受け入れられます。これほど頼りになるものはないなと、感謝の気持ちでいっぱいです。
──小野さんは現在、声優としてご活躍の傍ら、「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」(2020年)、ミュージカル「ジャック・ザ・リッパー」(2021年)など、舞台にも出演されています。定期的に舞台作品に身を投じるのはなぜですか?
ものすごいシンプルで、“楽しい”からですね。何かを表現することが好きなので、お芝居ができる場所ならどこでもいいみたいなところは、正直あったりします(笑)。それが舞台でも、声の現場でも。とにかくお芝居ができたらいいなと思って日々生活していて。ただ、もともと自分のキャリアが舞台から始まっていますし、それを捨てて声優1本でやっていくという気持ちには、なかなかならなくて。隙間があれば、舞台に立って初心に帰るというか、自分の芝居が作られてきた舞台という場所に立ち戻れる機会があればやっておきたいなと思っています。声の仕事だけをしていると、表現が声のアプローチになるというか、リアクションが大きくなってしまうんです。たとえば、誰かが部屋に入ってきたときに「ハッ」っていう息的な芝居をするとか、反応が自然と大きくなるんですが、それはアニメならではの表現だと僕は思っていて。舞台には必要ないんですよね。声だけの仕事をしていると、その“大きな反応”がどこまで必要なんだろう、ないのが普通だけど……という状態に陥ってしまうんです。なので、一度その思考をバツンと断ち切って、自分を“真ん中”に戻す。フラットな状態にするために、僕にとって舞台という場所があると思っています。
──これから本格的なお稽古が始まりますが、小野さんが出演に向けて楽しみにされていることは何ですか?
ハリーはさまざまな大人ならではの葛藤を抱えているので、演じるうえで、心情的にはかなりしんどいなと思っています。だからこそ、舞台上での魔法の部分が楽しみですね(笑)。以前観劇させていただいたときに、「あの仕掛けはどうなっているんだろう!?」っていう、客席からではわからないことがたくさんあったんです。たとえば人が魔法省に行くときに消える演出は、本当にどうやっているのかわからなかった。これは出演者の特権だと考えていますが、その秘密を教えてもらえる日が来るのが、今はすごく楽しみです。
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上野聖太コメント




