2025年5月より行われてきた八代目尾上菊五郎と六代目尾上菊之助の襲名披露興行が、「六月博多座大歌舞伎」でひとつの節目を迎える。博多座へは3年ぶりの登場となる今回、菊五郎は、昼の部「茨木」で伯母真柴実は茨木童子、夜の部「ぢいさんばあさん」で美濃部伊織を初役で勤めることでも注目を集めている。さらに、ご祝儀舞踊「寿式三番叟」や市川團十郎が五郎蔵を勤める「男伊達花廓」、親子襲名にふさわしい「連獅子」などの演目が、八代目菊五郎・六代目菊之助の襲名を寿ぐ。
ステージナタリーでは、公演を目前に控えた八代目菊五郎にインタビュー。演目の見どころや襲名から1年を迎えた現在の心境に加えて、大名跡を継承した八代目としての思い、そして未来への展望を語ってもらった。
取材・文 / 川添史子撮影 / 山本聡子
寿ぎに満ちた空間をお客さまと共有したい
──昨年5・6月に歌舞伎座でスタートし、7月に大阪・松竹座、10月に愛知・御園座、12月に京都・南座を巡ってきた大名跡襲名興行。襲名から1年が経ち、現在の心境はいかがですか。
父である七代目尾上菊五郎は健在ですので、当初は七代目と八代目が並び立つことに戸惑われた方もいらっしゃったと思います。でも父が「七っちゃん、八っちゃんと呼んでくれ」と申しましたように、最近では私も「八代目」と呼んでいただけるようになり、自分の中でも、ようやく“菊五郎”という名前が少しずつなじんできた感覚があります。
──6月の博多座公演で、大劇場での襲名披露はひとつの区切りを迎えます。
博多座に伺うのは2023年以来3年ぶりで、菊五郎として博多座の舞台に立てることを、大変うれしく思っております。昼の「茨木」、夜の「ぢいさんばあさん」で演じる役はいずれも初役ですし、今回、博多座公演では新たな祝幕もお披露目いたします。ある著名な作家の方に手がけていただいたもので、とても華やかで、音羽屋を象徴するような祝い幕になりました。まだ詳細は申し上げられませんが、ぜひ劇場でご覧いただきたいです。
──初役に祝幕と楽しみが尽きません。博多観光と併せて、全国から多くのお客さまが訪れそうです。
口上がある公演は襲名ならではですし、親子同時襲名による寿ぎにあふれた空間をお客様と共有できればと思います。
鬼の悲しみと人間の業が交錯する「茨木」
──では演目について伺ってまいります。昼の部の幕開きを飾るのは「寿式三番叟」。能楽「翁」を題材とし、天下泰平や国土安穏、五穀豊穣を祈る御祝儀舞踊です。襲名披露のスタートとなった昨年の「團菊祭」でも、若手による清新な舞台が話題となりました。
尾上菊之丞さんの振付で新たに作り上げた演目です。5人の三番叟が登場し、通常は黒の衣裳で踊ることが多い三番叟を、今回は五色の衣裳で華やかにご覧いただきます。翁に坂東彌十郎さん、三番叟に大谷廣松さん、中村鷹之資さん、中村莟玉さん、中村玉太郎さん、上村吉太朗さんがご出演してくださいます。
──続いて「菅原伝授手習鑑 車引」。のちに学問の神様となる菅原道真と政敵である藤原時平に、それぞれ分かれて仕える三つ子(梅王丸、松王丸、桜丸)が、運命に翻弄される物語です。
九州は菅原道真公ゆかりの地でございますし、歴代の菊五郎は道真公を深く信仰しておりました。昨年6月にも倅の菊之助が梅王丸を勤めましたが、この1年さらに稽古を重ねておりますので、その成長もご覧いただければと思います。
──そして菊五郎さんご出演の演目、河竹黙阿弥の舞踊劇「茨木」。伯母真柴実は茨木童子は初役です。
昨年大阪で演じた「土蜘」と同じく、五世菊五郎が制定した「新古演劇十種」のひとつです。羅生門で鬼の片腕を斬った渡辺綱のもとへ、伯母の真柴に姿を変えた茨木童子が腕を取り返しにくる物語です。鬼には人間以上の情がある。鬼の悲しみ、人間の業と欲のようなものも感じていただければと思っています。
──五世菊五郎の死後、五世の台本をもとに長唄「綱館」で復活した「梅幸型」と、その後六世菊五郎が能の原曲を発見して復活した「菊五郎型」、二通りのやり方があるそうですね。
そうですね、使用する曲によって型が違いますので、花柳寿楽先生にご指導いただき勤めます。祖父・七世尾上梅幸もたびたび演じておりますので、先生からお話を伺いながら、祖父が遺した型をしっかり継承していきたいと思っています。
──音羽屋の家の芸「新古演劇十種」の復活は、八代目菊五郎さんの大きなお仕事となりそうです。上演が途絶えた演目も含まれていますが、どのような特色があるのでしょうか。
尾上家ゆかりの当たり狂言を十種選びまとめた演目で、“この世ならざるもの”、つまり妖怪変化を扱った作品が多くございます。化け物と呼ばれてしまった者たちの思い、そしてそれを退治する人間の思いが描かれていきます。五代目は古典を大切にしながらも、同時代のお客さまに楽しんでいただけるよう工夫を凝らしました。私もその思いを受け継いでいきたいと考えております。





