心の奥深くに突き刺すような歌を届けてきたMOROHAのアフロとシンガーソングライターのヒグチアイ。2人による天々高々は、“お日さまボイス”と“お月さまボイス”、共通点と相違点を持つ2つの個性が絶妙なバランスで響き合うユニットだ。あふちゃん、あいちゃんというキャラクター設定でスタートし、「好きだ」の連呼がインパクトを放つ1stシングル「ロマンス」で2025年2月にデビューして以来、私たちの日々の暮らしを明るく照らすような楽曲を次々に発表してきた。
音楽ナタリーでは1stアルバム「祝祭日」のリリースに合わせて2人にインタビュー。音楽活動において“ずっと2人だった”アフロと“ずっと1人だった”ヒグチが、匿名で始まった天々高々の活動を通じて感じたことは? また、社会一般で言われる“普通の幸せ”を歌うことについてどう考えているのか、質問をぶつけた。
取材・文 / 張江浩司撮影 / YOSHIHITO KOBA
MOROHAとヒグチアイの“反対側”を一緒に探る
──天々高々を結成するきっかけは、ヒグチさんが2020年にアフロさんから詞提供を受けて「シャボン玉」という曲を発表したことだそうですね。
ヒグチアイ そうですね。そのあたりから始まってます。
──ヒグチさんは当時「今わたしは歌がかけない。どうしてもコロナ禍の現状を無視した曲が書けない」とコメントされていましたが、アフロさんの詞なら歌えると思ったのはなぜでしょう?
ヒグチ 私が知っている中で一番理解できるというか、信頼できる人だから。アフロさんは全部に意味がある歌詞を書く人だなと思っていて。自分が理解できない比喩がたくさん使われているような曲を聴くのは好きだけど、それを歌えるかというと別の話なんですよね。で、アフロさんが、女性が歌う前提の歌詞を書いたと聞いたので「ちょっと見せてほしい」と声をかけました。ライブもストップしてやることがなかったから、いろんなことをやってみたいと思える時期でもあったので。
アフロ 歌ってもらえたのはうれしかったですね。包容力のある歌声で。最近あまり好まれる言葉じゃないけど、母性みたいなものがすごくあるなと。
ヒグチ お互いにグッと人を刺しにいくような曲ばかり書いているタイプだったので、“真逆のこと”をやるとしたらどんな感じになるんだろうと思ってたんですよ。1人でやると、どうしてもヒグチアイをなぞってしまうし、同じような感覚を持って反対側を一緒に探れるような人はいないかなと。「シャボン玉」を作ったあとも、「こういうメロがあるよ」「こういうフレーズができた」とアイデアを投げ合って遊んでたのが、リリースにつながった感じです。今も遊んでるような感覚はあるかな。
──アフロさんも真逆の表現に興味があったんですか?
アフロ 真逆というか、禁断のエリアを解放したっていう感じですかね。MOROHAでは、個人的な話に特化しないと体重が乗らないんだと自分に言い聞かせていて、それ以外をやろうとすると「ダメダメ!」と自分で止めていたんです。今はそういう縛りをなくしました。「ロマンス」なんかは、自分の気持ちを書いてるという点では変わらないですし。
ヒグチ 20代の頃は1つの道を突き進んで何かを成し遂げたい気持ちがあったけど、30歳を過ぎたくらいから「違うアプローチもあったんじゃないか」と考えることが多くて。自分を固めたくないと思うようになった時期に天々高々を始めて、この活動を通して「私、こんなにハッピーな部分があるんだ」と発見できました。その分、闇も深くなってるんですけど(笑)、それをまたヒグチアイに還元していくという。天々高々の明るい曲をやってると、暗い歌詞を書きたくなること、ない?
アフロ 今のところまだないかな。そういうタイミングが来るかもしれないけど。
“ブチギレ”と“野心”をコーティング
──アフロさんは今、そういうモードなんですね。先日発表された新曲「タメ」(2026年4月にミュージックビデオ公開)も肩の力が抜けた楽曲でしたし。
アフロ うーん、でもブチギレてますよ(笑)。昔は怒りをそのまま怒りとして外に出してましたけど、今は内心ブチギレながら明るい表現をしている。そういう自分に安心してる部分もあります。MOROHAは「全員ぶち殺す」みたいな気持ちでやっていて、プライベートも含めてそのモードだった結果、挫折したんですよ。人生はそれだけじゃないはずなのに、それがすべてだと思い込もうとしている不自然さに気付きつつ、それを振り切って貫いてしまった。その結果、いろんなところで無理がたたったんですよね。そんな自分に対する怒りがあります。で、天々高々を始めたら、以前の俺を追いかけるリスナーの声が聞こえてくる。これに対しても、やっぱキレてるんですよ。こうやって、喧嘩腰で自分を肯定してます。
──天々高々が持つハッピーさの根底には、そういった感情が隠されていると。
アフロ やっぱり俺の根底は変わってなくて、野心があるんですよ。この野心をそのままゴロっと形にするのはMOROHAでやりきって、あそこまでしか行けなかった。これからも同じやり方を続けるんじゃMOROHAを止める必要はなかったし、まず自分がワクワクしない。だったら、野心を違うものでコーティングしてみようと。その結果、野心をぶちまけていたときよりも、野心を達成できるんじゃないかという手応えがあるんです。ただ、それを最優先にしてしまうと不健康になるから「落ち着けよ。まずは楽しんで、周りのみんなも関わってよかったと思えるプロジェクトにしようぜ」と自分に言い聞かせてます。だから、例えば「やったぜべいべー」は現状に満足した人間の歌にとどまってほしくない思いもあって。この歌の主人公は渋滞にハマりながら家族の寝顔を見て幸せを感じてるけど、それは妥協して得たものじゃない。現状を否定しないけど、さらに強固な人間になっていく過程の歌であってくれという願いがあるんですよ。そこまで伝えられるように歌っていきたいですね。
ヒグチ 私は、あの曲は「野心がなくてもいいよ」と言ってくれてるような気がして、好き。そういうものを忘れても、今持っているものだけでも素敵な生活なんだよ、みたいな。
アフロ うん、それも素敵です(笑)。
──お二人で曲の解釈について話したりはしないんですか?
ヒグチ 私がメロディ、アフロさんが歌詞を書く担当で、かなり分業しているので、あんまり言わないし言われないですね。「メロディはこっちのほうがいい」とか「ここの歌詞の単語はこっちにしたほうがいい」とか、聞かれたら答えますけど、歌詞の世界観みたいなことは詰めないようにしてます。絶対に揉めるんで。
アフロ 揉めたくないんですよ。
「本当に嫌だった」「魂の交歓だと思ってた」
──以前ヒグチさんにインタビューしたときも、人と音楽を作ることがいかに大変かという話をされてましたね(参照:ヒグチアイ×meiyo「JASRACイベント」振り返りインタビュー)。
アフロ こらこら!(笑)
ヒグチ レコーディングでどう感情を乗せるか?というところでぶつかったことがあって。そのときはけっこう嫌な空気になったんですよね。
アフロ 「びゅてぃほう」のとき?
ヒグチ そうそう。
アフロ 怖い話なんですけど、俺はあのレコーディングはいい時間だったと思ってるんですよ。
ヒグチ え? 本当に嫌だったんだけど。今でも思い出すもん(笑)。
アフロ ホラーですよ(笑)。魂の交歓ができたと思ってた……。
ヒグチ これは今まで2人でやってきた人と、ずっと1人でやってきた人の違いだと思います。私はああいうことが今後も起きるならめんどくさいと思うタイプで、アフロさんはそれも楽しめるんだと思うので。
アフロ でも、結果的にはアイちゃんの歌い方を採用したじゃない。
ヒグチ それも「アフロさんのやりたいことを曲げちゃった」みたいな気持ちになっちゃうんですよ。
アフロ 「我慢させちゃった」と思うってこと? なるほど。でも、それもすごくいいと思うんだよね。やっぱり、俺とアイちゃんが今までと全然違うことをやってることに意味があるから、一緒にやることでお互いにフォームを崩したい。「30歳」とかを歌ってもらうことで、アイちゃんに今までになかった丸みが見えるというかさ。レコーディングのときも「ちょっと口角を上げるようなイメージで」とお願いしたし。誰と一緒にものを作ったか、ということが、自分のオリジナリティになっていくと思う。天々高々をやっていると、それが増えていくのを感じます。
ヒグチ 「口角上げて」って言われたときもムッとしちゃったから。「うるさいな」って。
アフロ 人とやるの、向いてないねえ!(笑) でも、俺は“向いてない人とやるのが向いてる”のかもしれない。結果が薬になるからさ。いいレコーディングができれば、ムッとすることもだんだん減っていくかもしれないし。
ヒグチ どうかなあ。
アフロ ダメ? 根強いわ(笑)。
どうやったらお客さんに楽しんでもらえるか
──「30歳」と「青春」はヒグチさん1人のボーカル曲です。「アフロ作詞のヒグチアイ名義の曲」として発表することもできますよね。
ヒグチ 自分にはボーカリストとしての才能がないから、歌うだけじゃ成立しないと思ってるところがあるんですよ。でも、天々高々にはそういうハードルを設けないようにしています。書いてもらったものを歌ってみたらどうなるんだろう?って。反応がよくなければやめるかもしれないし、好きだったら続けるかもしれない。思いついたらやってみればいいのが、天々高々なんですよね。ヒグチアイではやらないけど天々高々ならやる、みたいな線引きはあるかな。
──だから最初は「あふちゃん、あいちゃん」というキャラクター設定でスタートしたんですね(参照:天々高々がバレンタインに1stシングル「ロマンス」発表 メンバーは“言葉”を信じ、こだわるあの2人)。
ヒグチ はい。ハッピーな楽曲を発表していくうえで、私の容貌が合わないというか、うまくできない気がして。曲だけで広がっていくかもしれないし、あふちゃんというキャラクターがしっかり前に出れば、私ががんばって明るく演じなくてもいいんじゃないかなと。でも、アフロさんが「とにかく顔を出したい、そのほうがやりやすい」と言ってたんで、早めに出すことになりました(参照:天々高々がMOROHAアフロ&ヒグチアイであると公表、フジロックには10人編成で出演)。
アフロ 俺、たぶん陽キャなんですよ。
ヒグチ 根は明るいと思う。
アフロ だからMOROHAであんなに暗い表現をやっても、戻ってこられたんだと思いますね。本当に暗い人が暗い音楽をやってることあるけど、「よくやれるな」と思ったりするから。アイちゃんも、シリアスな根元を持ってシリアスな表現をやってるよね。俺とは違うなと思う。
ヒグチ そうかも。あんまりエンタメをやってないというか。オンとオフの切り替えもないし。ステージ上でも降りてもずっと自分のままなんで、しんどいですよ。楽しい瞬間はあんまりない。でも、天々高々はすごく楽しくて、まだ自分にも音楽を楽しめる部分が残ってたんだなと、びっくりしますよ。……なんか暗いインタビューになってない?
アフロ 大丈夫だよ。
ヒグチ 心配になってきちゃった(笑)。普段とは違うことを楽しんでるし、それに合わせた歌い方とか、技術を高める課題をもらっている感じもあります。どうやったらお客さんに楽しんでもらえるのかも、ずっと考えてます。私が歌う部分は少ないから、そこだけでなんとか聴いてもらわなくちゃいけない。アフロさんはすごいデカい声でラップしてるし、前に出る才能があるので、自分の出し方をすごく考えるようになりました。引くことで目立つこともあるよな、とか。
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あふちゃん、責任感で顔が怖くなっちゃう



