インストゥルメンタルユニット・TSUKEMENのリーダー、TAIRIKによる初のソロアルバム「Mother」がリリースされた。
さだまさしの長男という恵まれた音楽環境で育ち、日本を代表するバイオリニストの1人として活躍しているTAIRIK。ソロアルバムには彼が人生で初めて作曲した「風の記憶」をはじめとしたTSUKEMEN楽曲のリアレンジバージョンに、壮大なテーマを奏でる新曲「Mother」を加えた、バラエティ豊かな全8曲が並ぶ。
音楽ナタリーではTAIRIK本人に全曲解説を依頼。「このアルバムが、マインドフルネス、瞑想みたいな場所になるといい」と語る彼の言葉を通じて、本作の魅力を紐解く。新曲「Mother」を完成に導いた母とのエピソードや、“花形”のバイオリンと“中間管理職”のビオラを操る二刀流ならではのユニークな視点にも注目だ。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 須田卓馬
無償の愛をコンセプトに
──TSUKEMENのリーダーにして数々のオーケストラとの共演、同じくバイオリン奏者の古澤巌さんとの品川カルテット、バイオリン奏者・水谷晃さんとのデュオMIZUTANI×TAIRIKUなど多方面で活躍されているTAIRIKさん初のソロアルバムが完成しました。TSUKEMENの人気曲を新たに解釈し、書き下ろしのタイトル曲「Mother」を加えた全8曲で構成された本作。まずは制作のきっかけからお聞かせください。
2年前にオーケストラ・アンサンブル金沢さんとチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35」を共演させていただいた際(2024年に長野・長野市芸術館で行われた「ヴァイオリン×ヴィオラ クラシック×クロスオーバー 二刀流ステージ」)、1つの大きな作品に向き合うのっていいなと思ったんです。そこからバイオリンとピアノのためのソナタで大きい曲に毎年挑戦していこうと思い、今年リサイタルを企画したんですけど、せっかくだからソロとして名刺代わりになるCDを作ってみようというのが始まりでした。
──満を持してのソロメジャーデビューということで、TSUKEMENのメンバーお二人にも相談されたんですか?
結果的にソロデビューという形ですけど、自分の中ではそんな気負いはなくて。クラシックは再現音楽なので、自分が作曲するなら今の世の中で起きていることに対してアプローチしたCDを作ろうと思ってるんだよね、みたいな話は2人にもしましたが、「これでひと旗揚げていくぞ」みたいな思いはなかったです。
──選曲のテーマについてお聞かせください。
昨年戦後80年を迎え、今年は東日本大震災から15年という大きな節目の中、自分のオリジナル曲を中心に聴いてくださる人に寄り添い、鼓舞する曲を選びたいと思いました。老若男女誰しもお母さんから生まれてきたし、母親の子供に対する愛は無償のもの。「愛があれば戦争はなくなる」と言いますが、その最たる例がMother(母)だなと思ったので、これをコンセプトにしようと。この作品をどう捉えられるかというより、傍らに置いてもらえる存在になったらいいなという気持ちで作りました。
バイオリニストが向き合った「日本らしさってなんだろう」
──それではアルバム収録曲について、オリジナル制作当時の思いや時間が経ったからこそ気付いたことなどを含めて、セルフライナーノーツ的な解説をお願いします。まずは1曲目の「風の記憶」から。
TSUKEMENの楽曲でファン投票を取った際、自分が作った楽曲の中で一番人気だった曲です。これは2011年に出した「KIYARI」という3作目のアルバムの収録曲ですが、制作順でいうと自分が人生で初めてメロディを書いた曲。コンクールに落ちて、くじけそうになったときに作りました。なので思い入れはあるけど、そこまで自信がなくて、なんならボツにしようかなと思っていたとき、TSUKEMENのピアニストのSUGURUに聴かせたところ「いい曲だから出そうよ」と言われて日の目を浴びた曲なんです。不思議なもので弾いていると、その頃、自分の周りに吹いて新しい方向性を示してくれた風を感じます。年を重ねたせいか、今の環境のせいなのかわからないですけど。聴いてくれる人にも、自分にとって思い出すべき時間の空気を運んでくれたらいいなと思ってます。これはもう1曲目だなと、すぐ決まりました。
──続いて「JONGARA」は、青森の津軽民謡「じょんがら節」をモチーフに能や歌舞伎の要素も取り入れた楽曲です。
これは2年前、音楽之友社さんが楽譜(邦人作曲家によるバイオリン小品集「JONGARA じょんがら」)を出版してくださることになって、1音単位で音を書き換えたり、かなり時間をかけて再構成したものをもとに再録しました。クラシック音楽をやっていると、当たり前のようにブラームスとかベートーヴェンとか弾いてますけど、そこから離れて和のテイストのオリジナル曲を作ろうとしたときに、そもそもバイオリンってヨーロッパ由来の楽器だから日本文化とは本質的な違いがあるだろうなと思ったんです。しかもそれで津軽っぽい曲を作る訳ですから。和ってなんだろう、日本らしさってなんだろう。心の奥底にあるルーツをどうやったら表現できるんだろうと感じていた時期に作った曲なので、自分探しの旅みたいな部分も含まれている感じがしますね。
──津軽三味線の「じょんがら節」とは違う曲調ですが、根底に流れる同様のエッセンスを感じました。
津軽三味線の名人・高橋竹山さんの「津軽じょんがら節」をずっと聴いてて、カッコいいなと思いながら、その裏に流れるマインドを栄養にさせてもらった曲です。最初はオマージュで同じ一節を入れようかなとも思ったんですけど、結局、イメージだけいただきました。
「KIYARI」で作品全体に“バフ”をかけたい
──3曲目の「KIYARI」では、ビオラの音色を堪能できます。
もともとバイオリンで作った曲を今回は何曲かビオラで弾いていて、これもその1曲です。「JONGARA」と同じく、自分が日本人として意識していることを表現しました。
──「木遣り」とは、集団で仕事をするときに掛け声や合図として歌われた労働歌だそうですね。
もともと山の神様にお願いして、参加している人たちの無事を願いつつ鼓舞する曲なので、この作品全体にバフ(RPGで使用キャラクターの攻撃力や防御力を強化する効果)をかけたいと思って(笑)。
──TAIRIKさんは4歳から中学生まで長野県の諏訪で過ごされていますが、諏訪大社の「御柱祭」は全国的に有名ですね。
そうですね。ただ、御柱祭は7年ごとの開催なので、1回くらいしかまともに参加してないんです。小学校2年くらいのときでしたけど、木遣り歌を歌った記憶は鮮明にあります。
──アルバム音源には、冒頭に「おい」「よいさ」という掛け声も入っています。
木遣り歌にもいろんな種類があって、YouTubeで調べても、記憶にある木遣り歌がなかなか出てこなくて。それで諏訪の「木遣保存会」の方たちにお願いして実際の掛け声をかける様子を見せていただいたら、「これこれ! これですよ!」みたいな。1人ずつ歌って見せてくださるんですけど、皆さんいい意味で脱力した感じなんです。「次、名人の番です」と言われて、どんな感じだろうと身構えていたら、一節歌って「あ、今日ダメだわ」って止めちゃったり(笑)。日によってダメなことがあるんだなとか、いろいろ勉強させてもらいました。
次のページ »
光が当たるとは限らない、だからこそエモいビオラ



