椎名慶治「I & key EN III」インタビュー|「目指すは“ダサカッコいい”二枚目半」大人の余裕が生んだミニアルバム

椎名慶治がソロ活動15周年イヤーを記念したミニアルバム「I & key EN III」を5月27日にリリースした。

2014年にリリースされたミニアルバム「I & key EN II」の続編にあたる今作で椎名が目指したのは、“ダサカッコいい”二枚目半。「続・愛のファイア!!(Horn mix)」では嫉妬心に揺れるリアルな心情が吐露され、「妄想煩悩108」では上司の妄想が炸裂している。また「TOWEL」はひたすらタオルの説明をするだけのトンチキソングだ。全7曲、トータル25分弱のコンパクトな尺の中で、大人の余裕に裏打ちされた椎名の遊び心がちりばめられた意欲作に仕上がっている。

音楽ナタリーでは、12年ぶりに続編を制作することになった経緯や、本作の各収録曲についてインタビュー。50歳を迎え、ますます饒舌になった“椎名節”を楽しんでほしい。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 池村隆司

「RABBIT-MAN II」とは戦いたくなかった

──椎名さんは今年ソロ活動15周年を迎えましたが、2年後にSURFACEの30周年を控えている今、「ソロ15周年」はどういう位置付けなんですか?

「この流れで15周年をお祝いするものなの?」というのはあるんですよね。もちろん「14年」とか「16年」よりは区切りとしてわかりやすいんですけど、そこまで強く押し出すものでもないというか。「15周年だ! うわー!」って感じではないかもしれないですね。

椎名慶治

──なんなら15周年ライブ「Yoshiharu Shiina 15th Anniversary!! Requested Songs Live『FACE TO FACE #8』」も昨年のうちに終えていますし。

15周年を迎える前にね(笑)。そうは言ってもやっぱりお祝いムードになってくれたらうれしいし、「椎名さん、ソロになってもう15年もやってるんだ」と認識してもらうにはいいきっかけになったんじゃないかな、と思います。

──そしてこのたび、15周年記念ミニアルバム「I & key EN III」が完成しました。制作はどのように始まったんですか?

順を追って話しますと……まず3年前に僕のソロデビューアルバム「RABBIT-MAN」から干支が1周しまして、また卯年が帰ってくると。「ソロで12年も続いたんだな」という感慨と同時に、「RABBIT-MAN」という言葉がすっかり自分を象徴するキーワードになっているなと思ったんですよ。けっこうウサギのキャラクターをグッズのモチーフに使うことも多くて……もともとウサギが好きってわけでもないのに(笑)。それで2023年の卯年に「RABBIT-MAN II」というタイトルでアルバムを作ったんです(参照:椎名慶治、帰ってきた“RABBIT-MAN”の正体を大いに語る)。

──あのときもSURFACEの25周年と被ってたんですよね。

そうそう(笑)。そこから今回15周年を迎えるということで、自然な流れで「アルバム作品を出しましょう」みたいな空気感になったんですけど、僕の中ではどうしても「RABBIT-MAN II」を超えられるイメージが湧かなくて。次にまたフルアルバムを出して「RABBIT-MAN II」と勝負する形になるのは嫌だと思って、「フルアルバムじゃなければ出します」という話をスタッフとしたんですよ。それで「ミニアルバムでいいんじゃないか」となったときに、そう言えば12年前の「I & key EN II」からミニアルバムを出してないなと。であれば「I & key EN III」としてなら出しやすいよね、というふうにチーム内でパッと意見が合致しまして。

──なるほど。

だから意気地なしと言えば意気地なしなんですけど、「RABBIT-MAN II」とは戦いたくなかった。3年前にあれだけ気合いを入れて作ったものが「もう過去になっちゃうんだ」というのがちょっと嫌で、「椎名慶治の最新アルバムは?」「『RABBIT-MAN II』です」と言える状態をまだ維持しておきたかったんですよね。

──意気地なしというより、むしろ作品に対する敬意ですよね。「RABBIT-MAN II」を特別なものにしておくための判断というか。

そうですね。やっぱり今でもあのアルバムを聴き返すとグッと来てしまうところがあるぐらい、すべてを込めて作ったんで。

椎名慶治

──そしてこれまた奇しくもと言いますか、「I & key EN」シリーズもちょうど12年ぶりのリリースになるんですよね。

そうなんですよ! そんなつもりじゃなかったのに(笑)。でもまあ、タイトルを「I & key EN III」と付けたことにそこまで大きな理由もなくて。そもそも「I & key EN」のコンセプトは「昔から一緒にやっている仲間たちや新たに仲間になった人たちと、自由に音楽を作っていく」というものだったので、今なら「I」や「II」のときとは全然違うメンバーで音が作れるなと。ほかのアルバム名はちょっと浮かばなかったですね。

──もはやアルバムコンセプトというより、椎名慶治のコンセプトに近いですよね。言っちゃえば全部の作品が「I & key EN」であると言っても間違いではないというか。

まさにそんな感じです。はい。

「とにかくダサくしてくれ」

──ただ、「そこまで大きな理由もなく」とおっしゃいましたが、そのわりには「I & key EN」のコンセプトを全力で引き受けるぞ!という作品に仕上がっているように感じました。何しろタイトル曲で始まりますし。

これも最初はそのつもりではなくて、アルバムのオープニングテーマになる短い曲が欲しいなと思っていただけなんですよ。で、アカペラで作っていく中でなんとなく「I & key EN」っぽい曲だなと感じていて、歌詞を書いていったら「合縁奇縁」という言葉も出てきた。そこで、そういや「I & key EN」って曲名では今まで作っていなかったし、これがそれでいいんじゃないかと思い当たって。だから後付けなんですよね。「I & key EN」のテーマソングを作るぞ!って作った曲ではないんです。

椎名慶治

──でも、そういう曲に聞こえますよね。

そのために作ったということにしておきましょうか(笑)。実際は違うんですけど、3作目にしてようやくテーマ曲ができたっていう感じでした。はい。

──内容的にも攻めた曲で、ほとんど展開せずにほぼワンコードで進むミニマルな作りになっています。

やりすぎると“楽曲”になっちゃうんで。あくまでオープニングテーマにしたかったから、アレンジャーにも「あまり起伏を強く出さないでくれ」とリクエストしました。リズムはクラップだけ、メロディもあまりドラマチックになりすぎないようコード進行感も抑えめになっています。

──椎名流「We Will Rock You」ですよね。

そうそう! 本当にそういうイメージです。

──それに続く「We Are the Champions」に相当するのが、「続・愛のファイア!!(Horn mix)」。

これはソロ15周年を迎えるにあたってのメモリアルな曲として、さっきも話に出た去年の15周年ライブのために作ったもので。2025年は新譜を出さなかったこともあって、「ライブでは絶対に新曲をやらなきゃいけない」というルールを事務所が勝手に設けたんです。

──なるほど(笑)。

決定事項として告げられて、びっくりしたんですけど(笑)。で、15年前に「I」というミニアルバムでソロアーティストとしてデビューするとなったときに、最初にデモとして形になったのが「愛のファイア!」という曲だったんですね。それが僕のスタートの曲なんです。その続編を作るというのは面白いなと思って、あの曲で描いたカップルがその後どうなったかを描いて、曲調も近いものにしようと。しかもただの焼き直しではなく、まったくの新曲にするっていう。

──「続」と言いつつ歌詞を書き換えるだけではなく、曲ごと新たに生み出したと。

で、僕がアカペラで作ったものをアレンジャーのコンノ(ユウタ)に渡すときに「言葉は悪いけど、とにかくダサくしてくれ」と伝えました。「歌謡曲なんだよこれは」って。そしたら一発目のデモから今の形になっていて、もうかゆいところに手が届くようなアレンジをしてくれて。実際にライブでやってもお客さんからの支持率が高かったですし、このアルバムで一番キャッチーなものになりましたね。

──その歌謡感なんですけど、最近の歌謡リバイバル的な流れともちょっと違いますよね。“ロックをやろうとしたらうっかり歌謡曲になっちゃった感”がちゃんとあって、これを狙ってやれるのは椎名さんぐらいだろうなと感じました。

「カッコつけようとするんだけど、どこかダサい」っていうのは自分の中ですごく狙っていたことだったから、それをうまく落とし込めたなと思っていて。そこが引っかかりになって、すごく耳に残る曲になってくれた気はしますね。

──おそらく15年前だったら、ここまではできなかったんじゃないかなと。

そもそも「ダサく作ろう」という意識が、15年前はなかったですからね。これは今だからこその、自信の裏返しだと思います。「カッコいいだけのものはいくらでも作れるから、もっと笑えるものを作ろうよ」という余裕の表れですね。

負けたって何も終わらないし

──その次の「妄想煩悩108」は、なんと言うか……B'zですね(笑)。

そうとも言えますね。B'zの「SURVIVE」というアルバムでアレンジを担当していた徳永暁人さんにベーシストとして入っていただいたこともあって、自らB'zに近付けてしまっている部分もあるんですけど、ファンの子たちはまず一発目に「SURFACEだ!」って言うと思います。

──そうか、確かにそのほうが正しい反応ですね。

で、過去の「I & key EN」シリーズには「I'm a サラリーマン」「コンティニュー?」という、サラリーマンソングが必ず入っていたんですね。今回はその新作が作れるなと思って、同じ会社のまた違った主人公を立ち上げて歌詞を作っていったら、いつの間にか変態の妄想みたいな歌になっちゃった(笑)。徳永さんに「いやあ、椎名くんが変態な歌詞書くから、僕も8弦ベースで変態フレーズ弾いちゃったよ」と言われたんですよ。「あれ? 俺、変態の歌詞なんか書いたっけ?」とそのときは思ったんですけど。

椎名慶治

──言われるまで気付かなかったと(笑)。

曲としてはめちゃくちゃカッコいいし、イチ押しの曲だったんですけど、そこで一気に自分の中でも変態ソングになっちゃいました。

──本来は“上司の悲哀”にフォーカスしていたってことですよね。

そうですよ。本来、この歌詞に出てくる「そのネクタイ 素敵です!」というセリフは妄想ではなかったはずなんですけど、徳永さんの指摘によって“そう言ってくれたらうれしいセリフ”に変わっちゃいました。僕にもそうとしか思えなくなった(笑)。

──「続・愛のファイア!!」にも言えることなんですけど、日本語がわからない人が音だけを聴いたら「まさかそんなことを歌っているとは」というものになっていますよね。

だと思います。僕はやっぱり二枚目半でいたいんですよ。ずっと二枚目でい続けるのって、すごく疲れると思うんですよね。僕の中で二枚目の代表といえばTM NETWORKの宇都宮隆さんなんですけど、ホントに三枚目の要素がなくて、逆に二枚目しかできない人なんだろうなと思って見てます。あそこまで徹底できるのはうらやましいし、尊敬しますね。

──しかもTMには木根尚登さんがいますから、安心して二枚目に専念できたのかもしれません。

木根さんがオチを全部引き受けてくれるっていうね(笑)。木根さんといえば、2年ぐらい前から「TMの曲しか歌わないライブを一緒にやろう」って話をしてるんですけど、僕のせいでずっと保留になってるんですよ。それはどこかでちゃんと企画します。