さだまさし「神さまの言うとおり」インタビュー|ゆかりのアーティストに聞く「さだまさしが愛される理由」

さだまさしがオリジナルアルバム「神さまの言うとおり」を5月13日にリリースした。本作はソロ46枚目、グレープ時代から数えると通算51枚目のアルバムとなる。

「関白宣言」をはじめ数々のヒット曲を生み出し、国民的シンガーソングライターとして多くのファンから長きにわたり絶大な支持を集めてきたさだまさし。デビュー53年目を迎えた今もなお、彼は精力的に楽曲制作に励み、自らの音楽活動について「ミュージシャンとしてまだ5合目にいて、今後8合目までを目指したい」と語る。音楽ナタリーでは、さだまさしにインタビューを実施。新作の話題を軸に、デビュー以来衰えることのない彼のクリエイティビティの源泉に迫った。

加えて特集後半には、今井美樹、EXILE TAKAHIRO、スガシカオ、伊達みきお(サンドウィッチマン)、三浦大知、和田アキ子という、さだとゆかりのある6人のアーティストのコメントを掲載。新作の感想とともに、それぞれが思う「さだまさしが長きにわたり人々に愛される理由」について答えてもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 須田卓馬

ハイペースでアルバム完成

──通算46作目のアルバム「神さまの言うとおり」、素晴らしかったです。

ありがとうございます。映画主題歌「神さまの言うとおり」以外の9曲は、わずか1カ月で作ったとは思えないでしょ?

さだまさし

──びっくりしました。制作期間、すごくタイトだったそうですね。

そうなんです。曲のネタはね、いっぱいあるんですよ。あれも歌いたい、これも歌いたい、こんな音楽性の曲をやりたいとか。ただ、それを形にするためには力が要るし、どれから出てくるか自分でもわからないんです。

──アルバムの起点になった曲は、「神さまの言うとおり」ですか?

はい。この曲は映画(「お終活3 幸春!人生メモリーズ」/ 5月29日全国公開)の主題歌として作って。もちろん映画に合わせてるんですけど、「天の神さまの言うとおり」って子供の頃によく言ってるじゃないですか。「いいことも悪いことも、天の神さまの言うとおり」という気持ちで生きられたらいいだろうな、と。で、この言葉にメロディを付けたときに、これはビッグバンドだなと思って。総勢23人のミュージシャンと一緒にレコーディングしたんですけど、今どきこんなに手間とお金をかけることもそんなにないと思うんです。僕、自分の仮歌を聴きながらミュージシャンが演奏してくれるのが好きなんですよ、本当に。「神さまの言うとおり」の録音もそうだったんですけど、「いいね!」なんて言い合いながらやってると、どんどん演奏がよくなる。ただ、1曲仕上げるのに3週間以上かかってしまったんです。それで追い詰められてしまって。「アルバムを5月にリリースするのは無理じゃないか?」という話も出ていたんですが、どうにか間に合いました。

──そこから制作のペースを上げた。

まず、そのときに僕の体の中にあった「どうしても今歌っておきたいもの」から順番に形にしていこうと思って。「ふりだしにもどる」「美しい雨の名前」あたりがスッとできたんですよ。そこから「せっかく『神さまの言うとおり』でブラスを使ったから、もう1曲やりたい」ということで「身も蓋もないBOOGIE-WOOGIE」に取りかかった。長崎を舞台にした曲も欲しいなと思って「木蓮の庭」を書いたら、プロデューサーの吉田政美(グレープ)が「これはグレープじゃない?」と言うもんだから、「じゃあ2人でやるか」ということになり、バンドアレンジをしないで吉田と2人でギター2本でやろうと。さらに「さだまさしのアルバムにはやっぱりバラードが要るよね」ということで「永遠の少し先」を作ったら、周りのみんなが「すごくいい曲だ」って喜んでくれてね。その後は「夏の名残」。クラシックの要素を取り入れた曲ですね。そして、バイオリンと歌をユニゾンさせたらどうだろう?というアイデアが浮かんで、「やかましい妖精」を作った。その時点で8曲そろったんだけど、「1曲目と2曲目に合う曲がないな」と思って、さらに時間をもらって「ミモザの小夜曲」と「イップス~yips~」を作ったんです。これで10曲。今の自分が歌いたい曲もあるし、音楽的にもいろんなことをやれて、バラエティ豊かなアルバムになったなと。

──それを1カ月くらいでやり遂げたわけですね。

ほぼ1カ月ですね。動き出しちゃえば、それくらいの速度でやれるんですよ。過去には一晩で6曲書いたこともあるし、まったくイメージの違う曲を並べるのは、追い込まれたときによくやるやり方でもあるので。もちろん、もうちょっと時間があったらなとは思いますよ。

今思ってることを今歌うというのが一番やりたいこと

──では収録曲について聞かせてください。1曲目の「ミモザの小夜曲」はクラシカルな雰囲気のラブソングです。

1曲目はクラシカルなものがいいなと。セレナーデはいっぱい作ってきたんですけど、今回は春の切ない曲にしようと思ってね。ミモザは香りがいいし、たわわに花を咲かせるでしょ? そんな様子を、あふれる自分の思いをグッと抑えながら窓辺でつぶやいている姿と重ねてみたらどうかなって。歌詞は文語体で書いています。すべて文語体にすると理解してもらえないから、ある程度は口語も混ぜながら。そういう作り方は難しいんだけど、この曲ではどうしてもそれをやりたかったんです。あとは転調。自然な感じで転調して、何気なく元の調に戻っているんですが、これもなかなかできないんですよ。バイオリン弾きじゃないと作れないメロディだし、一般の方が歌おうとしたら音痴になっちゃうかも(笑)。

──作詞にもコードの構成にも経験に裏打ちされた技術が込められているんですね。

そうかもしれないですね。困ったときに引っ張り出せるアイデアがあるっていうのは、「これまでがんばってきてよかった」ということでもあるので。まだまだありますよ、開けてない引き出しが。僕は変わり者だから、誰でもやれるようなことはやりたくないしね(笑)。

──「イップス~yips~」は「誰にもまだ言ってないけど 僕の心が イップスになったみたいだ」という歌詞から始まります。ホルムズ海峡に停留しているタンカーのこと、ウクライナ侵攻を想起させる「ザポリージャの老婆」というワードもあって、まさに今の歌だなと。

今思ってることを今歌うというのが、僕が一番やりたいことなんです。今に対して何を感じているのか、それをどう伝えたいのか。それをやらないと意味がないというのかな。ただね、「戦争反対」だとか「バカ野郎」って言うだけでは音楽が美しくならない。「タンカーは無事に海峡を抜けられたんだろうか」「ザポリージャの老婆は今も無事で暮らしているのかな?」と歌うことで、そのことを感じている人はちゃんと腑に落ちますから。そこはもう聴き手に任せて、僕は「これ、おかしいよね」と感じていることを歌に乗せるだけだなと思っています。一方で「ずっと残る曲を作りたい」という思いもあるから、そのせめぎ合いは難しいところなんですけどね。

10年後に振り返ったときに恥ずかしくない歌を書きたい

──その瞬間に感じていることを歌にして、それを後世まで残す。確かにすごく高いハードルですよね。

それはずっと考えてますね。若い頃もね、僕は大人に対して「バカヤロー」って歌ったことがないんですよ。僕は21歳でデビューして、当時(1972年)は「大人なんてダメだ」みたいな歌がいっぱいあったんだけど、どうしてもそれには乗れなかった。その理由は、自分もすぐ大人になるから。それよりも、10年後に振り返ったときに恥ずかしくない歌を書きたいと思ったんですよね。それは今も同じです。10年後があるかどうかわからないけど(笑)、それはね、ステージを与えられた人間の責任でもあるんです。これからステージを作らなくちゃいけない若い人は、他人を蹴飛ばしてでも上に行きたいというエネルギーが必要だろうけど、僕はもう、ある程度のステージをもらえている。集まってくれてる人たちの前で、「バカヤロー」なんて歌ってもしょうがないでしょ。今の社会をダメにしたのは自分たちの世代だという反省もあるし、だからこそ「これはヘンだよね」「これはダメだよ」「これでいいのかな」という歌を歌っていきたいんです。

すぐに自分に飽きてしまうから、どんどん違うことをやりたくなる

──3曲目「やかましい妖精」についてはどうでしょう?

先ほども言いましたが、歌とバイオリンのユニゾンですよね。最初はもうちょっとケルティック風にするつもりだったんですけど、作ってるうちにスコティッシュなほうがいいかなと。バート・ヤンシュがいたPentangleというスコティッシュフォークグループのイメージもあったかな。僕らが青春時代に、すごく好きで聴いてたグループです。ただね、全部ユニゾンだと退屈してくるんですよ。バイオリンを弾いてる自分も歌ってる自分も。なので、サビのおいしいところだけハモってます。録音はうまくいったと思うんだけど、ステージで再現しづらいかもね。ライブで弾くとなると譜面にしなくちゃいけない。そうすると音楽がつまらなくなるんですよね、こういう曲は。

さだまさし

さだまさし

──この曲の歌詞は、「心の中にやかましい妖精がいて、あれこれと指導してきて困る」という内容です。

そういうことは誰にでもあるんじゃないですか? 自分を俯瞰しているもう1人の自分がいて、その人が「それはよくない」「こうしたほうがいい」と言ってくれる。そのおかげで自分自身も「こんなことをするとカッコ悪いな」って見栄を張れることもあるだろうし。それ以外にも僕には、やかましいスタッフがいっぱいいるんですよ(笑)。本当に遠慮がなくて、ツアーをやってるときも「あんな言い方は、さだまさしらしくない」だとか「今日のMCには不愉快な言い方があった」とか言ってくる。やかましいと思うこともあるけど(笑)、「確かにそうだな」と直すこともある。実際「直してよかった」ということも多いし、やかましい妖精の存在は僕らパフォーマーにとっては非常に重要だと思います。

──ファンの方の意見も参考にするんでしょうか?

それはあまり聞かないですね。どう言ったらいいか難しいけど、ファンの皆さんはクリエイターではなくて、受け手ですから。僕らは「どう伝えるべきか?」と悩み続けているわけで、それを受け取った人の「ここがよかった」「ここはイヤだった」というのは感想ですからね。ファンの皆さんに対して不愉快なことをしたら申し訳ないと謝りますけど、それ以外の要望は聞かないようにしてます。だって「『秋桜』みたいな歌をもっと作ってください」と言われても、「『秋桜』聴いてよ」と思いますもん(笑)。“のような”歌を本人に作らせてどうするの?って。

──確かに。

僕のヒット曲って、本当にバラバラなんですよ。「精霊流し」「道化師のソネット」「防人の詩」「雨やどり」「関白宣言」って、全部違うでしょ。すぐに自分に飽きてしまうから、どんどん違うことをやりたくなるんです。今回の「神さまの言うとおり」は、ひさしぶりに新しい扉を開けたという手応えがありました。