音楽プロデューサー / ボカロPのOrangestarが現在TOKYO MXほかで放送中のテレビアニメ「春夏秋冬代行者 春の舞」のオープニング主題歌とエンディング主題歌を書き下ろした。
「春夏秋冬代行者」は「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の作者・暁佳奈が原作を務める四季の物語。「春の舞」では10年間行方不明になっていた春を司る代行者・花葉雛菊が、その護衛官・姫鷹さくらとともに失われた春の顕現を目指していく。これまで「Henceforth」や「Surges」といった夏の情景が広がる曲を多く生み出してきたOrangestarは、今回“春の歌”で雛菊とさくらたちの物語を彩る。
ボーカルに夏背を迎えたオープニング主題歌「Petals」とエンディング主題歌「花筏」は、Orangestarにとって充電期間を経てひさしぶりにリリースされた楽曲でもある。音楽ナタリーでは彼にインタビューを行い、楽曲の制作過程についてはもちろん、ここ数年の近況やアーティストとしてのスタンスについてなど、じっくりと語ってもらった。
取材・文 / 柴那典
活動に区切りがついた感覚があった2024年
──まずはテレビアニメ「春夏秋冬代行者 春の舞」のオープニング主題歌とエンディング主題歌の書き下ろしという話を受けて、どう思いましたか。
昔からアニメの主題歌はやりたいことで、大きな目標としてあったので、うれしかったです。ちょうど何か新しいことに挑戦したいと思っていた時期でもあったので、「自分でいいなら、ぜひやってみたい」と思いました。2024年に「And So Henceforth,」のリリースツアーが終わり、夏にEP「Postscript」を出したことで一旦自分の活動に区切りがついた感覚があったんですよね。
──2024年にライブツアーを終えたときはどんな手応えがありました?
1つは達成感ですね。2022年に最初にライブをやったときは初めてのことだらけで、いい経験ではあったんですけど、できなかったことも多くて。絶対にもう1回ライブをやりたいと思っていたところから、今度はすごくいい形でツアーができた。そのあとにライブに向けて書いた「Postscript」という曲を投稿して。そこに「白紙の夏」という歌詞があるんですけど、そのあとのことは本当に何も考えていませんでした。
──そうだったんですね。活動の予定は何もなかった。
「これから自分は何をするんだろうな?」ぐらいの感じでいました。ライブをやるたびに、燃え尽き症候群じゃないですけど、本当に何もできなくなっちゃう期間があって。2024年にツアーが終わったあとは、3カ月ぐらい船の中で過ごしてました。その間は曲も作れないし、ちゃんとした仕事を受けられる精神状態じゃなかったので。
──抜け殻のような感じだった。
そうですね。ちょうどその頃、タイアップのお話をいただいて。ただ、アニメ主題歌というのはやりたいことではあったんですけど、そのときは2曲ちゃんとスケジュール通りに完成できるだろうかという不安のほうが大きかったですね。
──ちなみに、船ではどういうところに行かれたんですか?
横浜から出て香港、ケープタウン、レイキャビク、ニューヨーク、イースター島など、島や港町を20カ国くらい回りました。
──Orangestarさんの曲を聴いて、情景が浮かぶように感じるリスナーは多いと思います。まさに船の上とか、移動中に聴くとしっくりくるというか。
それはあるかもしれないですね。これまでも乗り物に乗りながら曲を作ることは多かったです。船の上で作ったわけではないですけれど、昔はバスの中で作っていたこともあったり。自転車に乗ってるときにフレーズが降りてきたり、飛行機に乗ってるときにいろいろ考えたりすることもあります。移動中に音楽を聴くことが多いので、移動中に聴きたい曲を作っているのかもしれないですね。例えば「DAYBREAK FRONTLINE」は、当時免許を取ったばかりのときに、車の中で自分が聴きたい曲を作ろうと思って作った曲だし。あとは「アスノヨゾラ哨戒班」は日本からアメリカに引っ越したときに、飛行機の中から見た景色にインスパイアされて作ったので。3rdアルバムの「And So Henceforth,」は空港をモチーフにしたアルバムでしたし、振り返ると乗り物とのつながりは確かにありますね。
──新曲について、制作に取り組むにあたってどんなことを考えましたか?
曲を作り始める前は、何をしようかなという感じでした。以前、活動休止してボカロや音楽から2年ほど離れていた時期もあって。帰ってきてもう一度ボカロシーンを追ってみようとは思ったんですけど、そのタイミングでコロナ禍があったり、YouTubeやサブスク配信が主流になっていたり、シーンにいろんな変化が起こっていて、それにちょっとついていけていない感覚があったんです。曲は作っていたんですけど、私自身、ボカロを普段から聴かなくなっていたし。でも、自分の音楽の中心にはボカロがあって……自分の作っているものと、これから何がしたいのかというところに、ギャップがありましたね。
──ボカロPとしてのキャリアもあるし、求められているものもそこにあるけれども、個人のアンテナを張っている先はもっと広がっていたという感じでしょうか。
そうですね。ボカロはもちろん好きだし、自分の表現手段として最適解だと思っていて。「自分だけで完結できる」「好きなように、歌わせたいように歌わせられる」というのが自分に合ってるなと思って、今も使っています。でも、そのうえで新しいことをしたい気持ちもある。人の声で自分の思った通りに歌わせられる方法があるならそれでもいいし、自分で歌うことも少しずつ増えてきたので、そういうことをやってもいいのかなということを考えていましたね。
誰にでも平等に季節は巡る
──「Petals」「花筏」の2曲は、とても力がこもっている曲ですよね。最初は不安があったということでしたが、実際に取りかかるにあたって、どういうところから制作に着手していったのでしょうか。
「春夏秋冬代行者 春の舞」の主題歌のお話をいただいたとき、最初は「なんで私なんだろう?」という気持ちでした。どこかに所属しているわけでもなく、ずっと個人で曲を作っているだけだったし、春の曲を作るイメージもなかったと思うので。そういうことを先方に伝えたときに、アニメ側のスタッフの方がオファーの理由を説明してくれたり、どういう曲を作ってほしいかということを教えてくださって。その話を受けて、そこをスタートに曲を作ろうという気持ちになりました。
──原作を読んでの印象はどんな感じでしたか?
原作のキャラクター、特に主人公の雛菊とさくらというキャラクターがすごく好きだなと思って。私は普段から、自分の好きな絵や物語などを元に制作を始めることが多くて。今回は「春夏秋冬代行者」という物語をベースにして、いつも通りそこから曲を作った感じです。キャラクターから曲も作りやすいし、いい物語だなと思いました。作品に向けて書いたというより、その物語があったからこそ書けた2曲ですね。
──物語が持っている情景やイメージに触発された作曲だった、と。具体的にはどのようなことをイメージしながら作っていきましたか?
普段からゴールが見えない状態で曲を作り始めるんですけど、今回もそうでした。オープニングの「Petals」に関しては、「冬から春へ」という大きなテーマを最初にもらっていて、そういう曲は作ったことがなかったのでチャレンジだったんですけど、春らしいメロディを最初に意識して作り始めました。エンディングの「花筏」は雛菊、特に現在の雛菊の視点で、さくらと昔の雛菊を見るようなところから歌詞を考えました。雛菊は、春の代行者でもありつつ、作中で“あの子”というかつての自分の代わりとして生きている。その意味で言うと、季節の代行者でもあり、かつての雛菊の代行者でもあるというところで。その設定がすごく好きで、それをベースに曲を作り始めました。
──「Petals」にも「花筏」にも、歌詞には共通して「涙」という言葉が入っています。「Petals」は春らしい疾走感ある曲調ではあるけれども、決して高揚感だけではなく、何かしらの痛みのようなイメージもある。「春夏秋冬代行者」のストーリーが持つある種の切実さとリンクするようなものを感じたんですが、歌詞を書いているときにどんなイメージがありましたか?
「Petals」では「涙」という言葉が3回出てきますが、それぞれ違ったニュアンスがあって。昔作った「快晴」という曲で「泣いていたって空は晴れるよ 君が濡らしたって滲まないほど」と書いていて、1つはそれと同じようなイメージで。人の思いとは無関係に、誰にでも平等に季節は巡る。それが無情にも思えたり、希望でもあったり。あるいは、ただ悲しみだけじゃなく、それを乗り越えた先の「涙」というイメージで書いた部分もありました。
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「自分でも人と一緒に曲を作ることができるんだ」という希望



