シンガーソングライターNakamura Hakクロスレビュー|“異端の新人”の音楽がもたらすもの

2026年春、音楽シーンに彗星の如く現れたシンガーソングライター・Nakamura Hak。メディアを通じて楽曲を耳にし、「この生々しくエモーショナルな弾き語りはいったい誰?」と気になった人は少なくないはずだ。

人気マンガ「とんがり帽子のアトリエ」のテレビアニメと、テレビドラマ「るなしい」のテーマソングアーティストに抜擢されたこともトピカルだが、驚くべきはその音源の録音手法。アコースティックギターの弾き語りで、修正、加工、編集などを一切行わないという異例のスタイルを貫いている。

そんな“異端の新人”、Nakamura Hakが1st EP「白は夢」と1stシングル「ただ美しい呪い」をCDでリリースする。これに先がけ、音楽ナタリーでは天野史彬、石角友香という2人の音楽ライターにレビューを依頼。彼女の音楽に真正面から向き合ってもらい、その歌や言葉に触れた瞬間の心境の機微をありのままつづってもらった。

天野史彬 レビュー

誰しもがひとり。もう一度そこから話を始めるために、耳を傾けるべき音楽

過激な音楽である。Nakamura Hakの音楽を聴いている間は、自分からあらゆる帰属意識や肩書きが剥がれ落ちていく。作り笑顔でつなぎとめてきたさまざまな関係性が脆く崩れ去っていく。そして、幼い頃からずっと、自分が孤独であることを思い出す。世界と折り合いなんてついていない心が、まだ自分の中にはあるのだと。

Nakamura Hakの楽曲は、一切の修正も編集も加えず、歌とアコースティックギターを同じマイクで録った一発録りの音源がそのまま作品化されている。「ただ美しい呪い」という楽曲はテレビアニメ「とんがり帽子のアトリエ」のエンディングテーマだが、アニメで流れる部分を切り抜くことはせず、アニメ用の89秒尺の音源をフルサイズとは別で一発録りしているという徹底ぶり。Nakamura Hakのこうした音源に対するスタンスは、加工や編集、修正が当たり前のこの時代においてかなり異端であり、孤高である。ともすれば、Nakamura Hakの音源はデモやラフスケッチの類に近い、未完成なものなのか……?と思われるかもしれないが、そういうわけではない。歌とアコースティックギターの一発録りで、Nakamura Hakの音楽世界は充分、完成されている。この静けさ、激しさ、近さ、緊張感、自由さ──これがNakamura Hakの音楽にとってベストな選択であると感じさせるだけの歌声の強さ、曲の強さ、言葉の強さがある。

ヘッドフォンなどを通して聴くと、このすごさがよりわかるだろう。耳に直接飛び込んでくる、歌声と言葉。息を吸う音やギターのボディを叩く音、指が弦をキュッキュッと擦る音もダイレクトに聞こえる。まるで、楽曲にパッケージングされた「時間」が、聴き手である私たちの人生に流れ込んでくるような感覚。こんなふうに、音楽を通して「人間」を感じられるのは、とてもぜいたくなことだ。このぜいたくは、金を積み上げれば得られるものではない。優れた表現者と、それを受け取る者がいなければ得られない。どんなゴージャスな装飾を施した音楽にも生み出せないぜいたくな音楽体験を、歌とギターだけで作られたNakamura Hakの音楽はもたらす。

Nakamura Hakというシンガーソングライターのプロフィールについて、レーベルから提供された資料には「田園調布生まれ、OL。」とだけ記されているのだが、現段階で、それ以外にNakamura Hakの人物像について書くことのできる情報はない。ただ、自分と社会との間に猛烈な軋轢を感じながら生きている人間が作った音楽であることは、その楽曲を聴けばわかる。この社会で、我を忘れて数字を積み上げていくゲームに熱中するには、あまりにも純粋で、醒めていて、無力で、それゆえに尊い眼差しを持った人が作った音楽であることも。例えば、1st EPの表題曲であり、全国のラジオ局で続々とパワープレイに選出されている「白は夢」ではこんなふうに歌われる。

そろそろスタートラインには立てたかい?
人々の常が常にできないちっぽけな僕は
平等な舞台には立てやしない
流されて生きてきた人生
周りに造られたような僕に
何も知らない奴らが数字をつけ始めた頃
水滴のピアスが揺れる 間も無く落ちた(「白は夢」)

タイトルの読み方は「しろはゆめ」だが、「ハク」とも読める象徴的な言葉「白」が冠されたこの曲には、確かにあった夢と、それが潰えていく現実、それでも続いていく人生の予感……それらが約5分30秒に及ぶ弾き語りで描かれている。どうしても世界に、生きることになじめない。生きていれば徐々に汚れていき、麻痺していく感覚があることを知りながら、それでも、なかったことにできないものがある。胸の内に秘めた不安を、手のひらに握り締めた怒りを、いつか見上げた空の美しさを、忘れることができない。そんな魂の声が、Nakamura Hakの音楽からは聞こえてくる。あからさまな希望なんてものは提示されない。ただただ、「それでも、生きていく」という痛切な感覚が歌われる。「生」の断崖絶壁に呆然と立ち尽くしながら、空を見上げている。そこから飛び降りるメロドラマよりも、「直視して、生きていく」という険しい道を選ぶ人間の悲しさと強さが、どうしようもなく胸を刺す。

冒頭に書いた「とんがり帽子のアトリエ」のエンディングテーマ「ただ美しい呪い」を表題曲にしたシングルに収録された3曲には、その「生きていく」という壮絶な決意が深く刻まれている。特に3曲目に収録された「光り」は、その力強い歌声とギタープレイが、「生きる」というそのもののように痛ましく、美しい。

乱暴な書き方をするようだが、誰もがNakamura Hakの音楽を聴いて、自分の中に潜んでいる孤独を思い出せばいいのに。誰もがもう1回、「自分は確かにひとりぼっちなんだ」と痛感すればいい。そして、その孤独の隣にこそ自由があることを思い出せばいい。最近あまりにも、1人の人間の命を軽んじるような出来事をニュースで見る機会が多いからか、そんなことを私は思う。現実と記憶の狭間で、汚れと美しさの狭間で、大人と子供の狭間で、こんなにも「私は1人だ」「お前は1人だ」と叫んでいる音楽がある。誰しもが、1人だ。もう一度そこから話を始めるために、私たちは今、Nakamura Hakの音楽に耳を傾けるべきだ。

Nakamura Hakキービジュアル

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石角友香 レビュー

外界にも内側にも攻撃的なようで、自分の足で地面に立つ力がみなぎる感覚

東京・田園調布生まれで会社員とシンガーソングライターの活動を並行していること。歌とアコースティックギターのみという録音手法。しかも修正も編集も一切施していない。そして1stシングル「ただ美しい呪い」が人気マンガ「とんがり帽子のアトリエ」のアニメ版エンディングテーマとして書き下ろされた楽曲であること。テレビドラマ「るなしい」のオープニングテーマも歌っていること。このアナウンスされている情報のみ入れた状態で、現状聴くことができる9曲をEP、そしてシングルというリリース順に、ぶっ通しで聴いてみた。まずEP「白は夢」を聴き進める中でNakamura Hakの声と言葉から筆者の内面に自然に浮かび上がったのは「生きてるだけで意味がある、なんてことがあるはずがないだろうよ」という、身に覚えのある言葉。外界にも内側にも攻撃的なようで、自分の足で地面に立っているという力がみなぎる感覚だった。

もしあなたがCDリリースされる作品を曲順通りに聴くならば、「十七」が最初にNakamura Hakの声と正面から対峙する曲になる。意を決するようなブレスの次の瞬間、耳元で鳴る独白のような近く小さな声。アコースティックギターの弾き語りの体はとっているが、それは伴奏ではなく音楽的な意味を持つ。現在の音楽はテクスチャーが8、9割を占めると言われる中で、Nakamura Hakの手法は弾き語りの再生産ではなく明確に聞こえ方を主体的に選択している。ほとんどのティーンエイジャーが疑いなく、そして本人の不安も手伝って引かれたレールの上を歩かざるを得ない現実があるが、そうした“普通”に耐えられなかった自分を「認めてあげたい」と歌う声はまだとても弱い。だが、その音の弱さや少なさが、過去を認めてあげたい自分自身のギリギリの足元をこの上なく表すのだ。

そしてEPのタイトルチューンである「白は夢」。声をギターが励まし、時に支える、1つの体から発されるグルーヴに気付くとき、ようやくNakamura Hakの音楽が弾き語り一発録りであることに確信を持った。修正や編集がなされていないことは情報として知っていたものの、Nakamura Hakがバンド編成や精緻なトラックよりも弾き語りを選択した根拠が、この曲でついに浮かび上がる。“僕だって頬を上げて歌えるような詩が歌いたかった”主人公は、しかし「流されて生きてきた人生 周りに造られたような僕に 何も知らない奴らが数字をつけ始めた頃」と、どこか不本意な思いにとどまらないキャリアにおける過去をつづる。この時点ではまだ歌いたかった詩は手から離れていないのかもしれない。でも自分の意志で選択した人生でないことと他者からの視線に違和感を覚え、それが一気に押し寄せたとき、人は壊れる。壊れる理由になり得る。

そして曲の後半に立ち現れる「いつかはなるようになるだろうきっと なんて その時自ら毒を飲むとも知らないで 僕の腐った考えは一生清まることはない」という断罪と諦観。これは想像でしかないのだけれど、Nakamura Hakは何の濁りも躊躇もない前向きな歌を一度は書いていたのではないか。だが、歌うことで拓けていくはずだった未来は訪れなかった。その理由は自分自身にだけあるわけではないが、自分にしか歌えない何かから目を背けた過去を断罪しているように思えたのだ。それが前出の「生きてるだけで意味がある、なんてことがあるはずがないだろうよ」という、いつかの自分自身の記憶と符号してしまったのだ。だが、その息苦しいまでの自覚なくして次の一歩は踏み出せない。「白は夢」と題されたこの曲でNakamura Hakは「白が似合う僕に 空が似合う僕に なりたかった いつかなれると思ってた」と歌う。これはNakamura “Hak”というアーティストネームの由来であろうことは想像できるし、それゆえに改めて自分自身を始める決意をこの曲に強く感じる。ほかのレパートリーに比べて尺も長く、ストーリー性をたたえたこの曲は、他の情報を遮断してでもNakamura Hakを知る手立てとして最も重要な1曲だと思う。

Nakamura Hakキービジュアル

Nakamura Hakキービジュアル

自分が以前作った音楽が無価値に思える瞬間。モノづくりをする人間にとって肝が冷えるが、それは必ず訪れるだろう。「刃物と月」という冴えざえとした絶望のメタファーはそんな心象を表すタイトルとして最高だ。愛らしく丸い声の輪郭、涙声に近い脆弱な声の輪郭。歌われていることの達観した絶望感とのギャップがあればあるほど、Nakamura Hakがもう歌うことをやめられない切実さが増す。もっと日常的で優しい歌のほうが似合うと他者に言われたかもしれないし、自身がその型にはめようとしたこともあったかもしれない。だが、それはもう無価値なのだ。最低限のギターの爪弾きはどこまでも真夜中の独り言の温度感で、いつかのあなたを部屋の天井から俯瞰する気分にさせるだろう。EP「白は夢」にはほかに3曲が収録されているが、ここで挙げた「十七」「白は夢」「刃物と月」は始まったばかりのNakamura Hakを最も象徴する3曲だ。

EP「白は夢」に続いてCDリリースされるシングル「ただ美しい呪い」はアニメ「とんがり帽子のアトリエ」エンディングテーマとして書き下ろされた表題曲「ただ美しい呪い」を含め、眼差す対象が生まれたという意味で「白は夢」と異なるフェーズにある作品だ。その中でも「夜に浮かぶ」の穏やかな強さは「白は夢」で徹底的に自己開示した先にある他者への思いなのではないか。変わらずアコースティックギターの弾き語りではあるが、空間に奥行きが増した音像と震える声は、怒りではなく「夜に浮かぶ 冷たい光の粒」と表現される景色を体現しているようであり、その透明感のままサビの「正しさで飛べ」という思わぬ確信に満ちた言葉に自然につながっていく。音像も相まって、同じ夜でも閉塞感のある「刃物と月」とは違う、開かれた場所が想起されるのだ。

私はNakamura Hakの来し方を知らない。だが、Nakamura Hakの音楽はそれ以上のことをすでに教えてくれている。その意味でもこの音楽の在り方を祝福したい。

「とんがり帽子のアトリエ」原作マンガの作者・白浜鴎が描き下ろしたイラスト。©白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

「とんがり帽子のアトリエ」原作マンガの作者・白浜鴎が描き下ろしたイラスト。©白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会

プロフィール

Nakamura Hak(ナカムラハク)

東京・田園調布生まれのシンガーソングライター。2026年春にデビュー。歌とアコースティックギターのみで録音された楽曲は修正や編集が一切なされておらず、張り詰めた空気や生々しい息づかいが封じ込められている。新人ながら人気マンガ「とんがり帽子のアトリエ」のアニメ化作品のエンディングテーマと、同じく人気マンガが原作のテレビドラマ「るなしい」のオープニングテーマに抜擢。さらにノンタイアップ曲の「白は夢」が全国のラジオ局から続々とパワープレイに選ばれ、さらなる注目を浴びている。2026年5月20日に1st EP「白は夢」、6月10日に1stシングル「ただ美しい呪い」をCDのみでリリースする。