2024年秋に行ったビルボードライブ・ツアーから約2年。「ビルボードライブは大好きな会場なので、定期的にやらないと心が保てない」と言う中田裕二が気心知れたバンドメンバー、小松シゲル(Dr / NONA REEVES)、千ヶ崎学(B)、カトウタロウ(G)、sugarbeans(Key)とともに今年も3都市のビルボードでライブを行う。
10代の頃から大人への憧れが強く、「大人の文化を大事にしたい」と考える中田が、ビルボードライブに惹かれる理由はなんなのか。加齢を武器として成長を続ける彼の現在地と併せて、ビルボードの魅力について話を聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 入江達也
公演情報
中田裕二 ビルボードライブ・ツアー “THE BLUE SEAGULLS”
2026年6月19日(金)大阪府 ビルボードライブ大阪
[1st]OPEN 16:30 / START 17:30
[2nd]OPEN 19:30 / START 20:30
2026年6月26日(金)神奈川県 ビルボードライブ横浜
[1st]OPEN 16:30 / START 17:30
[2nd]OPEN 19:30 / START 20:30
2026年7月3日(金)東京都 ビルボードライブ東京
[1st]OPEN 16:30 / START 17:30
[2nd]OPEN 19:30 / START 20:30
感じ取ってくれる人が必ずいるはず
──まずは中田さんのここ数年の活動を振り返ってみたいと思います。2024年5月にリリースされたアルバム「ARCHAIC SMILE」は、作詞作曲はもちろん、ギター、ベース、鍵盤など、すべての楽器演奏も中田さん自身で行った作品でしたね。
何から何まで自分でやったのは「ARCHAIC SMILE」が初めてだったんです。それまでもアルバムの中の何曲かを1人で構築したことはあったんですけど、「アルバム全体を自分自身で完結させることはできるんだろうか?」と思って。なんとか完成させることができて、ちょっとずつ成長できるのかなという実感も持てました。
──そもそもすべてを1人で構築しようと考えたのは、どうしてなんですか?
それまではデモ音源をセッションミュージシャンに渡して演奏してもらうパターンが多かったんですけど、いつも「このまま出せばいいじゃん」と言われていたんです。これまでは自分でデモをしっかり作って、それをうまい人に演奏してもらうのが一番いいと思っていたんですけど、だんだん「1作くらい、自分1人でやってみようかな」と。当たり前ですけど、全部自分がやりたいようにやれるじゃないですか(笑)。どんなに仲がいいミュージシャンでも遠慮してしまうというか、「ここはもうちょっとこうしてほしかった」という齟齬はあるし……もちろん、それが化学反応につながることもあるんですが、「ARCHAIC SMILE」ではそういう部分をなくして、100%の中田裕二みたいなアルバムにできたのかなと。お客さんからもかなり評判がよかったし、自分自身のグルーヴを客観的に捉え直せたのもよかったと思います。
──「ARCHAIC SMILE」の中には、現代社会に対するシビアな認識が反映された楽曲も収録されていました。
社会派と言いますか、そういう雰囲気の曲もけっこう入ってますね。コロナ禍がとりあえず落ち着いて、これから少しずつよくなるのかなと思いきや、逆にどんどん社会の状況が悪くなっている気がして。人間の心が育っていない印象もあったし、僕自身、曲を通してそれを風刺せずにいられない性分なんですよ。特定の誰かに向けて書くことはないですけど、批判や風刺みたいなものを取り入れるのは、バンド(椿屋四重奏)の頃から自分の表現の核になっているのかなと。「ARCHAIC SMILE」の歌詞に関しては、あえて語気を強めているところもあります。変に濁すのもよくないというか、なかなか真意が伝わらないことが最近のストレスでもあって。より率直に、受け取りやすい言葉遣いになっている感じはありますね。
──比喩や文脈を解釈してもらえないというか。
そこは芸術家の力量が試されるところでもあると思っています。全部説明しちゃったら歌にする意味がないし、最近はさらに意識しながら言葉に向き合っています。自分の真意が100%伝わることはないし、もちろん聴く人の感性にも左右されるんですけどね。でも、今は「全員に伝えたい」とは思ってないかも。しっかり感じ取ってくれる人が必ずいるはずだと信じてやってます。
──もちろん音楽のカッコよさも大事ですよね。
そこはもう趣味みたいなもので、音楽的にやりたいことは常にあるので。最近はあまり狙ったりしないで、楽しむことを優先してるんです。「こういうメッセージ、こういう曲調だったら、こんな楽器を入れて、こういうサウンドにしよう」みたいなことを自然にやっているというか。
──トレンドも気にせず?
気にしてないです。洋楽は好きなのでずっと聴いてますけど、海外のアーティストはアレンジに無理がないんですよ。カクカクした感じがなくて、全部がスムーズにつながっていて、ストレスなく聴けるものが多い。そういうものは参考にしてますね。あと、1人だけで制作しているうちにだんだん楽器がうまくなってきたんです。歌もそうですけど、やれることが増えているし、技術も上がっていて。それが楽しくてどんどん作ってるのかもしれない(笑)。
──ライブについてはどうですか?
ライブは生演奏派で、なるべく同期や打ち込みの音を使いたくなくて。音源の雰囲気をできるだけ崩さず、人力でどうやるか?ということなんですけど、制作とは違う面白さがありますね。演奏については、ミュージシャンの皆さんにお任せしてます。音源に近い形できっちり弾いてもらってもいいし、アドリブを入れたくなったら入れてもらって。
──そこはプレイヤーのセンスに任せようと。
そうですね。インプロビゼーションも好きだし、それがライブの醍醐味でもあるので。
年齢を重ねたからこそ歌えることがあるはず
──そして昨年9月にはシングル「GARIGARI」をリリースされました。「あなたの幸せは人を踏みつけ得たもの」という歌詞にも表れている通り、アルバムに引き続き、煩悩だらけの現代社会を批判するような歌ですね。
もっととがってきてる気がします(笑)。「ARCHAIC SMILE」を出したことでストレスが解消できるかと思いきや、そんなことはまったくなく。言いたいこと、訴えたいこと、歌いたいことがいっぱい溜まってるんですよ。アルバム1枚では全然足りなかった(笑)。
──(笑)。信じられないニュースが毎日続きますからね。
そうですよね。若いミュージシャンはともかく、大人の皆さんからもそういう歌が全然出てこないのも不思議で。SNSなどで社会問題について発言する方はいらっしゃいますが、僕はそれを音楽でやりたいと思ってるんですよね。自分たちの世代、40代半ばになった人たちが今の時代に対する思いをちゃんと歌にするのって、すごく大事じゃないかなと。加齢を生かすと言いますか、年齢を重ねたからこそ歌えることがあるはずなので。それも最近のテーマですね。
──年齢と印象の感覚って、ひと昔前とはだいぶ変わってきていますよね。40代だとまだ若いというか……。
それもいいのか悪いのかわからないですよね。だって「SAY YES」を出したときのCHAGE and ASKAなんて、30代前半ですよ? それであんなに壮大で大人っぽい曲をやってたんだから、今の感覚とはだいぶ違うじゃないですか。今の音楽シーンやエンタメは全体的に子供っぽい。もちろんそういうよさもあるんだけど、僕としては大人の文化を大事にしたいし、そういう楽曲を届けていきたいんです。
次のページ »
我利我利亡者



