初音ミクをはじめとするバーチャルシンガーの3DCGライブと、創作の楽しさを体感できる企画展を同時開催するイベント「初音ミク『マジカルミライ 2026』」が7月24日に開幕する。
今年は「マジカルミライ」初開催となる静岡・アクトシティ浜松(HAMAMATSU公演)をはじめ、大阪・インテックス大阪(OSAKA公演)、千葉・幕張メッセ国際展示場(TOKYO公演)の3都市で展開される。
「マジカルミライ」では毎年人気ボカロPがテーマソングを制作することが恒例となっており、過去にはAyase(YOASOBI)、sasakure.UK、cosMo@暴走P、柊マグネタイト、*Lunaといったそうそうたる面々が楽曲を書き下ろしてきた。そして今年、「湖のソナーレ」というイベントテーマのもと、テーマソング制作の大役を任されたのは傘村トータ。「贖罪」「あなたの夜が明けるまで」などで知られる、ピアノを軸にした温かみのあるバラードに定評のあるボカロPだ。
音楽ナタリーでは「マジカルミライ 2026」の開催を前に、テーマソング「空に免じて」を完成させた傘村トータにインタビュー。アップテンポなイメージが強い「マジカルミライ」のテーマソングにあえて自身の得意とするバラードナンバー「空に免じて」で挑んだ背景や、かつてないアプローチとなった調声の試行錯誤について明かしてもらった。さらにインタビューの終盤で傘村トータは、音楽ナタリーの「マジカルミライ」特集において恒例となっている「あなたにとって初音ミクはどういう存在ですか?」という質問にも回答。かつてA4用紙に書き出した「マジカルミライのテーマソングを書きたい」という夢を現実にした傘村トータの答えとは?
取材・文 / 倉嶌孝彦
公演情報
初音ミク「マジカルミライ 2026」
HAMAMATSU会場
2026年7月24日(金)~26日(日)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール、展示イベントホール、コングレスセンター 2・3F
OSAKA会場
2026年8月14日(金)~8月16日(日)大阪府 インテックス大阪 3号館・4号館・5号館A
TOKYO会場
2026年8月28日(金)~8月30日(日)千葉県 幕張メッセ国際展示場 1・2・3・9ホール
人生の大事な場面に“空”の曲を
──「マジカルミライ」テーマソングのオファーがあったとき、率直にどう思いましたか?
連絡をいただいたとき、ちょうどショッピングモールのエスカレーターを下っていたんです。驚きとうれしさ、それと緊張と不安で、買い物どころではなくなってしまって。気付いたら涙を流していました。
──「湖のソナーレ」という、例年とはちょっと変わったテーマをどう受け止めましたか?
大きくて広いものを想像しました。器の大きな曲、懐の広い曲にしようと思いました。
──「懐の広い」という表現は、傘村さんが得意とする「空」をテーマにした曲にも通じるところがありますよね。
そうですね。「空」というテーマはこれまで何度か扱ったことがあって、ボーカロイドの楽曲だけではなくて、ReoNaさんに提供した「unknown」という楽曲などもそうです。僕の生きてきた時間の中でも、空を見上げて何か考えるタイミングがとても多く、人生の大事な場面は自然と“空”の曲になることが多かったです。
──傘村さんと言えばピアノを軸にしたバラードのイメージがありますが、「マジカルミライ」のテーマ曲もバラードで挑まれた理由は?
実はクリプトンさんからの依頼の中に「傘村トータが得意とするジャンルで書いていただいて構いません」と書かれていたんです。ライブのノリや、アップテンポであることは意識しなくていいというお言葉をいただいて。だったらここはもうバラードでいきましょう、と心に決めて書いたのが「空に免じて」です。
「生きる」ことが関係のない人はいない
──「空に免じて」の楽曲作りはどのように進めましたか?
僕は歌詞から書き始めるタイプなので、いつも通り詞先で曲作りを始めました。何パターンか書いて、合格ラインの歌詞が出てきたらメロディをはめてみて、というのを何度か繰り返して初稿を作りました。
──いろいろ試行錯誤する中で、ブレイクスルーにつながった一節は?
やっぱり「空に免じて」という言葉はずっと大事なところにいました。この言葉を軸に、曲作りは進んでいった感覚がありますね。
──イベントのテーマソングであることは、制作にどのような影響を与えましたか?
今回はライブで披露されることが前提になるので、ピアノ1本ではなく、バンド主体のアレンジにすることも意識しました。普段のオリジナル曲では編曲をお願いすることは少ないのですが、今回は島田昌典さんにアレンジを手がけていただきました。オーボエをはじめ、さまざまな楽器の音色が響く楽曲にしていただけて、初めてアレンジのデモをいただいたときには感動で思わず泣きました。「ソナーレ」という言葉にもピッタリな素晴らしい曲に仕上げていただいた結果、実は僕の普段の初音ミクの歌わせ方ではどうもしっくりこない部分が出てきまして。
──具体的にどのように感じたんでしょうか?
いろいろな楽器が鳴って、演奏が盛り上がるところで、初音ミクだけが淡々と歌っている印象になってしまって。生楽器の勢いにうまく合っていないのではと考え、普段とまったく異なるアプローチの調声にトライしました。今回の曲作りで大変だったところの1つです。
──どのような調声を?
ここは僕も試行錯誤の末の作業でした。まずは実際のアーティストさんだったらどんな方が、どのように歌うのかを想像して、「なんとなくこういう方だろうな」と決めるところから始めて。その方の歌唱を研究して、ボーカルのダイナミクスをイメージしたものを打ち込んでみました。
──ボーカリストへの楽曲提供でもそのような作業はしないわけですよね?
はい。まったくやったことがない作業でした。とはいえ、これまで僕が手がけてきたボーカロイドの楽曲とかけ離れたものができたという感覚もなく、これまでの道の中にある最高のものが、ちゃんと出すべき場面で出せたという感覚があります。
──「マジカルミライ」のオフィシャルサイトには、傘村さんからのコメントとして「生きる」ことへのメッセージがつづられています。ボカロPによって初音ミクのことをキャラクターと捉える方もいれば、ソフトウェアと捉える人、自分の分身のように捉える人もいる中で、傘村さんが「生きる」をテーマに選んだのはなぜですか?
この曲を聴いてくれる方々みんなに、自分事として聴いてほしかったんです。100万人いたら、100万人に関係するテーマってなんだろうと考えたとき、生きることが関係のない人っていないよなと思って。それに僕は普段から「生きる」をテーマに曲を作り続けてきたので、そこに嘘がないようにしたいとも考えていました。
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