映画「キングダム 魂の決戦」特集やまだ豊インタビュー|全シリーズの音楽を担う劇伴作家の哲学

2019年の第1作公開以来、老若男女の胸を熱くさせ続けている、原泰久のマンガを原作とする実写映画「キングダム」シリーズ。その系譜を受け継ぐ第5弾「キングダム 魂の決戦」が7月17日に封切られた。

ナタリーでは、本作の壮大な世界観をさまざまな角度から紐解く特集企画「キングダムナタリー」を展開中。この一環として音楽ナタリーでは、全シリーズの音世界を構築する劇伴作家・やまだ豊のインタビューをお届けする。

前代未聞のスケールで繰り広げられる戦いを、時に激しくドラマチック、時にスリリングで静謐な劇伴で支えてきたやまだ。インタビューでは最新作の舞台裏に迫る制作エピソードはもちろん、音楽家独自の目線で語るシリーズの魅力や“キングダム愛”、お気に入りのキャラクターなど、さまざまなエピソードをたっぷり聞いた。

取材・文 / 岸野恵加

「キングダム」の音楽はビート先行

──「キングダム」シリーズ5作目となる最新作「魂の決戦」では、「秦VS六国」というスケールの大きなエピソードが描かれます。今作の楽曲制作に臨むにあたり、どのような思いを抱いていましたか?

4作目である前作「大将軍の帰還」で王騎という非常に重要なキャラクターが亡くなり、シリーズにおける1つの大きな流れが終わりました。自分の作曲としても、前作で一度燃え尽きた感覚があって。「魂の決戦」には起承転結の“起”に戻った感覚で向き合い、「新しく立ち上げ直すには、相当なアイデアや何かフックになるものが必要だ」という緊張感を持っていましたね。

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

──佐藤信介監督や松橋真三プロデューサーからはどんなリクエストがありましたか?

「自由にやってください」という感じでした。松橋さんから1作目のときに「胸熱」など2、3個のキーワードをいただいたのですが、その後は音楽全体の方向性について指定をいただくことは特になくて。信頼していただけているのかなと思っています。音楽プロデューサーの千田(耕平)さんが担当している、楽曲を映像に付けるタイミングなどについては、何度も打ち合わせを重ねていると思います。僕の楽曲制作については、千田さんと細かく擦り合わせをして作り上げていきました。

──では、千田さんと相談しつつ、どういう部分から楽曲を形にしていきましたか?

頭のシークエンスから話し合っていきました。「魂の決戦」では、1作目の勢いを思い出そうという思いで、1作目のテーマ曲をリミックスして使いました。「大将軍の帰還」があのような終わり方だったので、新しくここから始めようという意図でしたね。

──なるほど。「魂の決戦」ではさまざまなキャラクターのバトルが同時並行的に描かれるので、山場を作るのは大変だったのではないかな……と、試写を観ながら想像していました。

そうですね。今作は基本的に、ありとあらゆるバトル曲を作っていくという作業でした。まずは映像を意識せず、サウンド的にカッコいいと思うものを作って並べていって。優勢あるいは劣勢といった戦況を表現するのか、はたまたそれぞれの将軍のキャラクター感を出すのか、策略を匂わせるのか……バリエーションを持たせて、とにかく楽曲を量産しました。

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

──メロディやビート、使う楽器の音色など……どういう要素から楽曲を組み立てていくことが多いですか?

作品によって変わるんですが、僕はビートを最初に考えることが多くて、「キングダム」は特にビート先行ですね。やはり熱血要素が強い作品ですし、1作目のときに松橋プロデューサーに「思いきり泣ける、熱いものを作りたい」と言われたことも、ずっと自分の中に残っていて。信はとにかくよく走る主人公なので、彼が走る場面にはカッコいいビートを付けたいという思いが常にあります。

──疾走感あるストーリーも「キングダム」の大きな魅力ですよね。劇伴は基本的にはオーケストラサウンドですが、ロック要素も強く感じます。

自分の中でもオーケストラよりロックのイメージで作っているのですが、あまりそう捉えてもらえないので(笑)、ロックと言っていただけてうれしいです。「魂の決戦」では新たに、シンセサイザーを使ったエレクトロ要素を加えました。戦場のシーンはとにかく勢いが大事なので、いろいろとはめてみてカッコいいものを採用していくのですが、蔡沢が暗躍するシーンなど政治的な思惑が強く出るところは、最近のハリウッドっぽいシネマティックなエレクトロサウンドのアプローチにしています。ロック曲でもキックの音をエレクトロな質感にしたり、四つ打ちビートを盛り込んでみたり……さまざまな挑戦をしました。でもシリーズ全体の雰囲気をガラリと変えるわけにはいかないので、バランスを取った部分も多々あります。

──5作目ともなると、これまで定着してきたシリーズの色を踏襲する部分と刷新する部分のバランスを取るのが難しそうですね。

個人的には新しい挑戦を毎作たくさんしているのですが、それを全面に出すのではなく、“適度な違和感”を漂わせることが理想です。まず原作の「キングダム」の世界観があり、それを実写ならではの迫力で見せるにあたって、1作目で描いた方向性がきっちりとハマったと思っていて。5作目ともなると皆さんの頭の中にも「キングダムの音楽はこうだよね」というフレームが固定されているので、新しい挑戦をしつつも、音楽が映像を追い越しすぎないよう、どう共存させるかを綿密に設計しています。

劇伴の醍醐味を一番感じられるジャンル

──やまださんは「キングダム」で2度「日本アカデミー賞」の優秀音楽賞を受賞されていて、ご自身のキャリアの中でも大きな存在となっているシリーズだと思います。「キングダム」に携わったことで、作曲家としてのマインドが変化した部分はありますか?

ここまで壮大な音楽を求められるお仕事は珍しいんですよ。作曲家ならば誰もが憧れるような、劇伴の醍醐味を一番感じられるジャンルですよね。もともとロックとオーケストラの融合に挑戦してみたかったので、そんな自分の理想の創作を試せる機会をいただけたことは本当にありがたかったです。

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

©原泰久/集英社 ©︎2026映画「キングダム」製作委員会

──ほかの担当作品と比べて、「キングダム」ならではの面白さや醍醐味を感じる部分はどこでしょう?

5作品も続いている作品は僕のキャリアではほかにないので、そうした特別感は大きいですね。本当は次作を見据えて制作できるのが理想ですが、あまり余裕がないことが多くて、毎回目の前の作品に集中して、音楽と向き合っています。実は2作目「遥かなる大地へ」の楽曲を制作した際、3作目「運命の炎」と4作目「大将軍の帰還」の展開を見据えた王騎のテーマをすでに作っていたんですが、それは4作目では使わなかったんです。その曲を今回の5作目で使ったりしていますね。そんなふうに都度とにかく全力を出して制作して、想像と違う展開になったら変えてみたり、準備していたものが意外なところで生きたり……ごちゃ混ぜ感はあるかもしれません。

──レコーディングのプロセスについても詳しくお聞きしたいです。

オーケストラに関しては、ヨーロッパのいろいろなところで録っています。1作目は僕も立ち会ってウィーンでレコーディングしたのですが、2作目以降はコロナ禍の影響で、遠隔でレコーディングができるリモートセッションが各国のスタジオで可能になり、最近はオンラインで立ち会って進めています。エレキギターやバイオリン、チェロなどのソロ演奏に関しては日本で録っています。東京のプレイヤーはとてもレベルが高いですね。

──録音の際にやまださんが特にこだわる部分は?

やはり、ビートのノリがいいかどうかです。音程や演奏など細かいところにはそこまでこだわりはなくて。後ろノリなのか、前ノリかなどは細かく調整しますね。ラップを録る感覚に近いかもしれないです。

──キャラクターの勢いや感情の動きに呼応させるように。個人的に「キングダム」の音楽はどこかにライブ感を感じるのですが、そうした背景も影響しているのかもしれないですね。

そうですね。音楽を聴いていても「次はこういう展開が来るだろうな」と予想した通りではなく、思ってもいなかった予想外の展開を入れるなど、音楽単体としても面白みを感じるものにしたいと常に思っています。