ヒロイズム(her0ism)インタビュー|LA拠点の音楽プロデューサーが見た、世界の音楽シーンにおけるアジアンポップの可能性

アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動する音楽プロデューサー・ヒロイズム(her0ism)が、「MUSIC AWARDS JAPAN」への出席、およびコライティングキャンプ「SONG BRIDGE 2026」への参加のため来日した。音楽ナタリーでは、国内外のトップクリエイターと協働する彼にインタビューを実施した。

「SONG BRIDGE 2026」は、一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会(CEIPA)とTOYOTA GROUPによる共創プロジェクト「MUSIC WAY PROJECT」の一環として、2026年6月9日から11日までの3日間開催されたコライティングキャンプ。今年は国内外から約40組のクリエイターやアーティストが参加した。アーティストとしては、国内からは曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、(sic)boy、PSYCHIC FEVER from EXILE TRIBE、由薫、東南アジアから「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」最優秀アジア楽曲賞ノミネートのCup of Joeらを招聘したほか、アメリカからUMIも参加するなど、国境やレーベルの垣根を越えてグローバルなヒット創出を目指す共同制作が行われた。

本特集では、ヒロイズムに今回のキャンプにおけるコライトの舞台裏や、日本の音楽が海外へ進出するための鍵について話を聞いた。前回のコライトキャンプで誕生したSTARGLOW「My Job」にまつわるエピソードや、ヒロイズムが手がけたヒット曲・NEWS「チャンカパーナ」の誕生秘話、さらに5月にLAで開催された音楽フェス「Zipangu」に見た「個の突破力」の必要性に至るまで、その熱い思いを紐解く。

取材・文 / 小松香里撮影 / 須田卓馬ヘア&メイクアップ / chiaki

きっかけはコーチェラでの「一緒にやろうよ」

──今回ヒロイズムさんは、昨年に続きCEIPAの作曲キャンプ「SONG BRIDGE 2026」および「MUSIC AWARDS JAPAN」への出席のため来日されているとのことですが、「SONG BRIDGE」の意義をどう捉えていますか?

「SONG BRIDGE」ではレーベルの垣根を越えて、しかも日本とアメリカだけでなく、フィリピンなどの東南アジアのトップアーティストや旬のアーティストとコラボレーションができます。今回はリーダーという立場でもありますが、新しいアーティストやクリエイターが力を発揮できる場を一緒に作ることが、自分の役割の1つだと思っています。同時に、自分自身にとっても新たな才能と出会い、刺激を受けられる貴重な機会です。LAを拠点にしていて、日本での作曲キャンプに参加できる機会はなかなかないのでありがたいですね。

ヒロイズム(her0ism)

──去年の「SONG BRIDGE」の収穫は?

去年は初回で手探りな部分もありましたが、STARGLOWの「My Job」を無事にリリースできたことは1年目からひとつの大きな結果を残せたと思っています。たまたま直前に開催された「コーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival 2025)」にSKY-HIも来ていて。僕が仲のいいkeshiや「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」に参加していたケビン・ウーと一緒に話しているときに「5月に京都でキャンプをやるから一緒に曲作ろうよ」と誘ったら、ちょうど彼も「MUSIC AWARDS JAPAN」のレッドカーペットに参加する予定があったので来てくれたんですよ。SKY-HIが参加してくれたことでクリエイターの士気が上がりましたし、曲の出口がはっきり見えました。キャンプの最終日で時間こそ短かったものの、とてもテンション高く制作が行われ、2曲完成しました。そのうちの1曲が「My Job」。京都の興正寺というお寺で作ったんですが、SKY-HIが和な空間でノリノリで踊ってて(笑)。そんな空間のイメージから琴とか和の楽器のサウンドを取り入れていきました。もう1曲は乞うご期待ですね。SKY-HIとはよく連絡を取り合っていますが、お互い忙しいのでコライトをする機会がなかなかなくて。「SONG BRIDGE」のキャンプがあったからこそそういう場ができました。

──「My Job」はSTARGLOWのRUIさんとTAIKIさんが作詞していますが、キャンプの時点でそこまで決まっていたんですか?

SKY-HIの頭の中にはあったかもしれませんが、キャンプではディテールは話さず、とにかく勢いで部分的に仮歌詞を詰めていきました。SKY-HIとは信頼関係ができているので「ヒロイズムパイセンの好きなようにぶっちぎっちゃってください!」って感じで(笑)、特に細かいリクエストはなかったですね。ビートを打ち始めたら楽しくなってきて、その勢いのまま一直線でできました。そんなふうに完成した曲をデビューシングルのカップリングに入れるのはさすがだなと思いましたね。昨日「MUSIC AWARDS JAPAN」のレッドカーペットの待ち時間にSTARGLOWのメンバーと初めてお会いして、「My Job」の話をしたんですが、とても気に入ってくれているようでうれしかったです。あと、「MUSIC AWARDS JAPAN」の会場の平安神宮の写真をストーリーズに上げたとき、海外のクリエイターからの反響がとても大きくて。ビッグアーティストから「ギャラが出なくてもいいからキャンプに参加したい」というリアクションもありました(笑)。「お寺」「京都」といった日本文化の人気を感じました。

──今年のキャンプは数日前に終わったそうですが、コライトできるのが特に楽しみだったアーティスト、クリエイターは?

フィリピンのCup of Joeですね。SNSのフォロワーが2000万人近くいるフィリピンの俳優のライザ・ソベラノという方と今アメリカで曲制作をしているのですが、その方からCup of Joeの話を聞いていて。楽曲を聴いてみたら僕の曲との親和性も感じたので、コライトするのを楽しみにしていました。実際にお会いしたらとても愛くるしいキャラクターで、何より期待以上の曲ができたんです。フィリピンの大スターですが、驚いたことにバンドメンバー以外とコライトするのは初めてだったらしく。最初に部屋に入ってきたときは控えめな感じでした(笑)。「コライトってどうやるの?」みたいな。でもいざ作り始めたらノリノリで進んでいって。これこそが音楽のすごさですよね。

──「SONG BRIDGE 2026」ではどういう形でコライトが行われているのでしょうか?

昨年と同様、今回も何カ所かのスタジオに分かれていました。参加者が多いので全部を見られたわけではないんですが、それぞれのスタジオにプロデューサー、サブプロデューサー、トップライナー、アーティストがそろったチーム構成になっていて、国籍もカラーもまったく違う。リスニングパーティで、今回のキャンプでできた曲を何曲か聴きましたが、昨年よりさらにパワーアップしてると感じました。普段から親交のあるアメリカのトップアーティスト・UMIちゃんが参加してくれたことで、クリエイターやプロデューサーの士気が高まったのもありがたかったですね。UMIちゃんとは日頃から「日本でもっと知られて紅白に出られるようになりたいね」という話をしているので、彼女にとっても大きなきっかけになったらいいなと思ってます。

──UMIさんは藤井風さんや星野源さんと交流がありますよね。

今年の「MUSIC AWARDS JAPAN」では藤井さんと星野さんが同じ円卓に座って、共通の友達としてUMIちゃんの名前を挙げてましたよね。それを聞いて真っ先に彼女に連絡したらすごく喜んでました。

世界進出の鍵は「スピーディにつながること」

──「MUSIC AWARDS JAPAN」は“日本版グラミー賞”を目指すアワードです。本場のグラミー賞に参加経験のあるヒロイズムさんから「MAJ」はどう見えていますか?

「レーベルの垣根を越えて一丸となり、世界に日本の音楽を発信していく」という目的のもと、ものすごいエネルギーが生まれていると感じます。アーティストのパフォーマンスからも強い熱やこだわりが伝わってくる。あれだけのアーティストが集まって、日本中から注目されているアワードの裏で行われているこのキャンプにも、もっと注目が集まるといいなと思っています。いい曲を作り、重要なのはそれが世に出ていくかどうかです。「アワードにノミネートされるような曲を作ろう」という思いを持って参加してくれる人が増えれば、世界中からより多くのアーティストが参加する場になっていく。アワードだけでなく、このキャンプもさらに発展していってほしいですし、僕自身もその力になれたらうれしいですね。例えば今回の「SONG BRIDGE」で僕が一緒に制作したアーティスト、UMIちゃんやCup of Joeが、「あの日本でのキャンプ、すごくよかったよ」と周りに伝えてくれたら、フィリピンやLAで「SONG BRIDGE」の認知が広がって、「参加したい」というアーティストがどんどん出てくると思います。K-POPのレーベルはハイレベルなキャンプをLAでやっていて僕もよく参加させていただくんですが、レベルが高くて、周りのスタッフやアーティストに「すごくよかった」って伝えてるんですね。そうするとすぐに噂が広がって、日本人の後輩たちがみんな「自分も参加したい」と言い始める。今回のキャンプの参加者でアメリカを拠点にしているプロデューサーは僕とNeil Ormandyのみでしたが、結果が出ればもっと多くのアメリカのプロデューサーにも参加してもらえるようになる。そのためにはキャンプからいい曲を出すことが一番大事だと思います。

ヒロイズム(her0ism)

──キャンプとしての成功は、そこからいい曲やヒット曲が生まれるかどうかに左右されると。

そうですね。そして、その「ヒット曲が生まれるかどうか」という確度を一番高められるのはディシジョンメーカー(決定権を持つ人)が参加しているかどうかです。現場で「この曲いいね」となっても、A&Rの方がレーベルに持ち帰ってディシジョンメーカーに「違う」と言われてしまったらそこから先には進まない。アメリカの場合はアーティスト本人がディシジョンメーカーである場合が多いので、当人がキャンプに参加していれば、スピーディにリリースまで進みます。

──アーティストで言うと、「SONG BRIDGE 2026」にはPSYCHIC FEVERのメンバーが複数人参加していましたよね。

PSYCHIC FEVERは僕のLAのスタジオでキャンプをやったことがあるんですが、7月にリリースされる「DIFFERENT」というアルバムの収録曲「Diamond」はそのキャンプでできた曲なんです。そういう関係値もあり、PSYCHICサイドから「UMIちゃんとコライトしたい」という話をもらって。双方といろいろな話を重ねていく中で、今回の「SONG BRIDGE」で初めてコライトする場が実現しました。そうやってアーティスト同士をつなげることも、僕が貢献できる部分なのかなと思っています。スピーディに人と人がつなげることが、世界に進出する近道になると思ってます。