土岐麻子がビルボードライブ横浜および大阪でスペシャルライブ「土岐麻子×TENDRE with 高木大丈夫」を開催する。
シンガーとしてはもちろん、作詞家やエッセイストとしても活動の幅を広げながら、2024年にソロデビュー20周年という節目を迎えた土岐。今回の公演には、作品やライブを通じて音楽的な信頼を深めてきたTENDREに加え、近年バンドマスターとして土岐のライブを支える高木が、ギタリスト兼シンガーソングライターとして参加する。3人それぞれのオリジナル楽曲やカバーを織り交ぜた、この日限りのコラボレーションステージを披露する予定だ。この特集では、3人の出会いから、それぞれが惹かれ合う音楽的な魅力、このステージに込めた思い、そしてビルボードライブという特別な空間だからこそ描けるステージの構想まで、たっぷり語り合ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 堅田ひとみ
公演情報
土岐麻子×TENDRE with 高木大丈夫
2026年8月10日(月)神奈川県 ビルボードライブ横浜
[1st STAGE] OPEN 16:30 / START 17:30
[2nd STAGE] OPEN 19:30 / START 20:30
2026年8月21日(金)大阪府 ビルボードライブ大阪
[1st STAGE] OPEN 16:30 / START 17:30
[2nd STAGE] OPEN 19:30 / START 20:30
「この2人と一緒にやったら絶対面白い」
──まずは、この3人でビルボードライブを開催することになった経緯を聞かせてもらえますか?
土岐麻子 きっかけは、今年5月に国営昭和記念公園で開催された「東京蚤の市'26 SPRING」でした。同じ日に私とTENDREさんが出演することが決まり、一緒に作った「眠れぬ羊」を高木くんも交えた3人で演奏する予定だったんです。でも私が体調を崩して出演できなくなってしまって……。そうしたら、午前中に出演していたTENDREさんが、午後の私の出演時間にも急遽ライブをして、「眠れぬ羊」を弾き語りしてくださったんです。「土岐さん、早くよくなってね」というメッセージまで添えてくださったのを、あとから動画で観て本当に感動しました。同時に、「本当は3人でできるはずだったのに」という悔しさも残っていて。2人は同い年で、デビューも一緒なんですよね?
TENDRE そうなんですよ。大学も一緒でした。
土岐 しかも、私は小西遼くんのソロプロジェクト・象眠舎とも何度も共演しているので、「この2人と一緒にやったら絶対面白い」と思っていたんです。そんなタイミングでビルボードライブ横浜と大阪での公演のお話をいただいて、「じゃあ『蚤の市』のリベンジをここでやろう」と(笑)。そんなふうにして、今回のライブが決まりました。
──土岐さんと高木さんは、どんなきっかけで知り合ったんですか?
土岐 小西くんの象眠舎のリハーサルですね。私がゲストボーカルで出演したライブで、「Cry For The Moon」を演奏してもらったんです。大所帯のバンドだったんですけど、初めて音を合わせたとき、後ろから聞こえてきたエレキギターのフレーズや音色がすごくよくて。「この人と一緒に音楽をやりたいな」と思って振り返ったら、高木くんでした。ライブのあとに話しかけようとしたんですけど……全然目が合わなくて(笑)。
高木大丈夫 学生の頃から土岐さんの音楽をずっと聴いていたので、普通に緊張していたんです(笑)。あれは東京キネマ倶楽部と大阪の味園ユニバースでやったライブですよね。2022年の終わりか、2023年の初めくらいだったと思います。ゲストもたくさん出演する大きなライブでした。
土岐 その場ではあまり話せなかったんですけど、そのあとスタッフを通じて正式にお声がけして。それ以来ずっとサポートをお願いしています。今ではバンドマスターも務めてもらっていますし、トリオ編成でもフルバンドでも、いつも隣で弾いてくれていますね。
──土岐さんから見て、高木さんの音楽的な魅力はどんなところにありますか?
土岐 とにかく演奏のセンスですね。すごく神経が細やかに行き届いていて、アンサンブルの中でも“正解しか出してこない”という信頼感があります。
高木 恐縮です(笑)。そうありたいと思いながら、いつも演奏しています。
土岐 私たちは、ちょうどひと回り離れた同じ辰年なんですけど、音楽的な知識に関しては、むしろ私が学生だった頃の先輩たちに近い感覚が高木くんにはあるんですよ。60年代や70年代の音楽にすごく詳しくて。
高木 特に60~70年代の音楽は好きで、ずっと掘り下げて聴いてきました。
土岐 もちろん私もその時代の音楽は大好きなんですけど、高木くんはもっとディープに掘っている。だから年下というより、音楽的には先輩のように感じることがありますね。
──高木さんは、一緒に活動するようになってから土岐さんへの印象は変わりましたか?
高木 リスナーだった頃は、洗練されたサウンドや歌そのものに惹かれていました。でも一緒に活動するようになってからは、歌詞の世界観により強く惹かれるようになりましたね。この前、土岐さんと代々木上原のイベントに出演したんですよ。代々木上原は土岐さんが生まれ育った街で。僕も小田急線沿線の出身なんですけど、あの街をゆっくり歩いたのは初めてだったんです。「なるほど、この街で育つと土岐さんみたいな歌詞が生まれるんだな」と思いました。
土岐 そんなこと考えながら散歩してたの?(笑)
高木 土岐さんがよくおっしゃる「都会だけど都会じゃない、田舎だけど田舎じゃない」という感覚が、街を歩いてすごく腑に落ちたんです。都会的だけどどこか懐かしい。その空気感と、土岐さんの歌詞や音楽から感じる質感がつながった気がしました。
日常感や生活感がほとんど見えなかったTENDRE
──土岐さんとTENDREさんの出会いについても、改めて聞かせてもらえますか?
TENDRE 最初の出会いは、坂本真綾さんの楽曲制作でした。僕が作曲、土岐さんが作詞で参加することになって、それで打ち合わせをしたんです。当時はコロナ禍だったので、最初の顔合わせはZoomだったんですけど、土岐さんの背景がものすごい豪邸に見えたんですよ。あとで聞いたら、映画「パラサイト 半地下の家族」に出てくる豪邸をバーチャル背景にしていたらしくて。
土岐 そうそう。ネットで見つけた写真を背景にしたら、光の加減が思いのほかなじんじゃって(笑)。
TENDRE 本当にリアルだったんです。「土岐麻子さんクラスになると、こんな家に住めるのか……」と勝手に思い込んで、やたら緊張していました(笑)。真綾さんの曲は基本的にリモートでやりとりしながら進めていったんですけど、そのあと土岐さんから「今度は一緒に曲を作りましょう」と声をかけていただいて。そこから直接お話しする機会や、ライブでご一緒する機会が増えていきました。
土岐 私は真綾さんの制作より少し前から、TENDREさんの音楽は聴いていたんです。すごくカッコいいなと思っていたんですけど、どういう人なのかはよくわからなくて。Instagramを見ても世界観がきちんとディレクションされているからか、日常感や生活感がほとんど見えない。音も歌もすごく洗練されていたから、「ミステリアスな人なんだろうな」という印象でしたね。
TENDRE そうだったんですね(笑)。
土岐 初めて直接お会いしたのは「眠れぬ羊」のレコーディングでしたよね? その後、「TMC week 2021 ~TOKYO MUSIC CRUISE Spin-Off~」で初めて客席からライブを観たんですけど、音源やSNSから受けていたクールな印象とはまったく違って、ステージでは人間味や熱さをすごく感じました。私はどちらかというと、ステージでは少し張り詰めた空気で歌うタイプなんですけど、太朗さん(※TENDREの本名は河原太朗)には自然な解放感がある。それがまさに私が欲しいものだと思いましたし、一緒にステージに立つたびに、いつもいい刺激をもらっています。
同世代にこんな音楽家がいることがうれしい
──TENDREさんと高木さんは同じ大学の出身ですが、在学中は面識がなかったそうですね。
TENDRE はい。僕は音楽音響デザイン学科で、ゲーム音楽志望の人が多い中、現代音楽やアレンジに興味があってドビュッシーの研究なんかをしていて。他学科との交流もあまりなく、高木がいたジャズ科は、演奏のうまいプロっぽい人たちが集まっているイメージがあって怖かった(笑)。
高木 全然怖くないですけどね(笑)。でも僕ら、フロアが違うだけで毎日同じビルに通っていたのに、まったく接点がなかったのは不思議です。
TENDRE ちなみに校舎は「ブラックホール」という名前でした(笑)。
土岐 ブラックホール!(笑) 一度入ったら音楽の沼から抜け出せない、みたいな。
高木 そんな感じですよね(笑)。在学中は一度も話したことがなかったんですけど、太朗ちゃんのバンド・ampelの名前は知っていました。
TENDRE 今思うと、この界隈は本当に狭いですよね。卒業してから高木といろんな現場で会うようになって、小西ともその頃に仲よくなりました。彼が僕たちをつないでくれた部分も大きいと思います。
──卒業後にお互いの音楽に触れたときは、どんな印象でしたか?
高木 初めて太朗ちゃんの歌を聴いたときは、「同じ匂いがする」と感じましたね。僕はチェット・ベイカーやフランク・シナトラ、ビング・クロスビー、細野晴臣さんのような、低い声で語りかけるボーカルが昔から好きなんです。太朗ちゃんの歌には、ジャズとポップスの境界が今ほどはっきりしていなかった時代の空気がある。ああいう質感は、幼い頃からそういう音楽を自然に浴びてきた人だからこそ出せるものだと思いました。
TENDRE うれしいですね。僕も高木とは、音楽の捉え方や考え方がすごく近いと感じています。ギターも歌も、とにかく響きが豊かなんです。音楽への情熱や知識ももちろんですが、アコースティックな楽器を持ったときの表現が本当に素晴らしい。象眠舎で初めて高木の歌を聴いたときも、その声の距離感や牧歌的な温かさにシンパシーを感じました。オリジナル曲も、聴くほど細部までこだわりが見えてきて、作り手として悔しくなるくらい完成度が高い。同世代にこんな音楽家がいることがうれしいですし、こうして3人で共演する機会を作ってくださった土岐さんには、本当に感謝しています。
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最初から最後まで3人が有機的に絡み合うコラボステージ



