一ノ瀬ワタルが主演を務める映画「四月の余白」が、6月26日に全国で公開される。ある地方都市に佇む全寮制の更生施設・みらいの里を舞台とする同作では、人の痛みや常識を理解できず逸脱した不良少年に「人は変われる」と信じて体当たりで向き合おうとする大人たちの“もがき”がつづられる。「ミッシング」「空白」の𠮷田恵輔が監督を務め、実体験や自身の周囲で起こった出来事をもとにオリジナル脚本を執筆。一ノ瀬がみらいの里の寮長・西健吾、夏帆が不良少年と向き合う教師・草野冬子を演じ、上阪隼人が暴力衝動を抑えきれず問題行動を繰り返す少年・澤海斗に扮した。
このたびNetflixリアリティシリーズ「ラヴ上等」のMCとしても話題を集めたラッパー・AK-69が本作を鑑賞。武道館公演を控える多忙な中、𠮷田との対談が実現した(取材は6月2日に実施)。自らも“はみ出し者”として生きた過去を持ち、番組でヤンキーたちの行く末を見守ったAK-69は、「四月の余白」を観て何を感じたのか? 不良少年の描写や大人たちの“まなざし”、そして「人は本当に変われるのか?」といった根源的なテーマについて語り合った。“背後から迫る金属バット”のビジュアルを模した2人のカットも要チェック!
取材・文 / 大畑渡瑠撮影 / 内堀義之
映画「四月の余白」予告編公開中
“背後から迫る金属バット”のビジュアルを再現!
道を踏み外した過去を思い出しましたね(AK-69)
──お二人は3歳違いということですが。
𠮷田恵輔 今年で51歳になります。
AK-69 あ、じゃあ同世代だ。よろしくお願いしますね。
──本作は全寮制の更生施設を舞台に、人の痛みや常識を理解できない少年たちとぶつかりながらも寄り添う大人たちの物語です。
AK-69 いやあ、考えさせられる内容でした。「リアルにこういう問題ってあるよな」という……近くで見ていた環境というか。
𠮷田 「近くで見ていた環境」というと?
AK-69 俺も道を踏み外して少年院に入っていたことがあるけど、周りの家庭環境を見ても、そもそも両親が両方そろっているやつのほうが珍しくて、俺ともう1人くらいしかいなかったですからね。片親だったらまだいいほうで、おばあちゃん家に住んでたやつとか施設にいたやつ、どこかちょっと愛情不足な子たちで、ゆがんだ考え方のやつもいましたし。育ってきた環境とか、接してくれる大人との関係とかで変わってくるんだなっていう。俺は健吾のように“向き合ってくれる大人”と出会えていたのでギリギリなんとかなった、社会に戻って来れた。そんな過去を思い出しましたね。
──本作は監督の実体験や周囲の出来事がもとになってるんですよね。
𠮷田 そうそう。例えば取り調べを受けている海斗が犯行時に使った重石を見て「持ってきてるんだ」と爆笑するシーンとか、面会で「今度は“ジャンプ”を差し入れして」と言い放つ様子とか、そのまま描いてる。
AK-69 そうだったんですね。
𠮷田 海斗のように、本当に人の痛みがわからないやつもいたんですよ。友達だと思っているやつの物を平気で盗んで「だって置いてあるし」みたいな。仲いいはずなのに平気で殴れちゃうし、でも、そのあとすぐ一緒に遊べちゃう。
AK-69 それめっちゃわかります。俺の周りにもいました。
𠮷田 今振り返ると改めて「なぜそんなことをするの?」と思いますよね。そういったことを実体験ベースで映画にできる人って俺くらいしかいないんじゃないかなって。そもそも映画業界はコンプライアンスが厳しいし、監督はいい大学を出ているような真面目な方が多いですから。
AK-69 じゃあラッパーになったほうがよかったんじゃないですか?(笑)
𠮷田 (爆笑)確かにね。
──だからあんなにリアルな描写ができたんですね。
𠮷田 あと悪い先輩もいっぱいいたけど、本当にヤバいのはコバンザメのようにリーダー格の周囲にいるやつでした。集団の頭みたいな人はやがて職人として親方になっていたりもするから、ちゃんと更生できている。でも喧嘩も弱かった“コバンザメ”は30歳を過ぎてもまだ地元でくすぶっているから、パチンコ屋で見かけると「すぐに帰ろう、逃げよう」ってなるんですよ。
──なるほど。ちなみにAK-69さんが劇中で印象に残ったシーンは?
AK-69 中盤に、退所したけど更生できなかった人を健吾が助けに行くシーンがありますが、そのシャブ中の人の描写がマジでリアルでしたね! 白唾がたまっているのとか。「絶対わかっている人が作ってるでしょ!」みたいな。
𠮷田 今は俺の周りにはそんな人はいないからね(笑)。
本当にヤバい不良は見た目がわかりやすくない(𠮷田)
──なんといっても不良少年・澤海斗の“まったく周囲が手をつけられないさま”が胸に刺さりました。
AK-69 昔の自分を見ているようにも感じましたね。小学生時代に「親が謝りに行く」ということがあっても自分は反省できていなくて、また親が謝りに行くというループになったことがあります。親から「学区内のスーパーマーケットにも恥ずかしいから行けない」と言われてしまって、自分はそれほどに悪いことを悪いと思えていなかったんですよ。
𠮷田 うんうん。
AK-69 でも海斗は健吾に向き合ってもらったことで、過去に縛られて前に進めない父の態度に「かっこ悪いんだよ」と言い放つようにもなるんですよね。彼の中で「何がかっこいいのか / 悪いのか」という価値観が大人の姿を見て少しずつ変わっていく。初めは人間味がなくて「こいつうぜえな、サイコパスじゃん」と思ったけど、やっぱり人間なんで心が動く可能性はあるんだなと感じました。
𠮷田 AKさんは、キレたりするけど、それ以外は普通に友達と楽しく遊んでいるようなタイプ?
AK-69 そうでした。
𠮷田 というのも、不良の映画はひたすら“不良”という感じの作品が多いけど、本当にヤバい人はあんなに見た目がわかりやすくないんですよね。例えば昨日は「めちゃめちゃノリがよくて友達になれそうだな」と思っていたら、今日は「誰々を刺した」とかサラッと話していて、理由を聞くとすごくささいなことだったり。一見おしゃれでかっこいいんだけど、「え、違う人?」って思うくらいの狂気的な一面がある。そういう人こそ俺は「怖い」と思うんですよ。ずっと目つきが悪いとかだったら距離も置けるけれど……。
AK-69 海斗は普通の少年っぽいですもんね。
𠮷田 そうなんですよ。
AK-69 俺も別にゴリゴリのヤンキーの格好してるとか、わかりやすい不良という見た目じゃないのにむちゃくちゃなことしてました。海斗の友人の内藤悠(演:和田庵)は喧嘩早くてわかりやすいヤンキーでしたから、彼のほうがどちらかといえば描かれやすいタイプですよね。
──監督は、そんなリアルすぎる不良を演じた上阪さんにどんな演出を?
𠮷田 彼は俳優としての感覚がよくて、こちらが伝えたことを読み解ける“技術派”。だから細かいことはあんまり言ってないんだけど、セリフとセリフの間にベロで歯の裏をレロレロ舐めるように伝えました。口がちょっと開いて動いているようなやつって不気味で怖い印象があるじゃないですか。そういった不良っぽいしぐさは演出したかな。
AK-69 ああ、つば風船みたいな。
𠮷田 みんなやってましたよね。たまり場の地面が水たまりくらいにビチョビチョになる。
──……つば風船とは?
AK-69 つばで風船をピューと膨らませて、飛ばすんですよ。俺も少年院にいたときはしょっちゅうやってた。
──遠くに飛ばしたほうが勝ち、みたいな……?
AK-69 いやいや、誰かと競っているわけではない(笑)。
𠮷田 真面目な子がペン回ししているようなものかな。
──イメージできました(笑)。
健吾は人として本当にかっこいいですよ(AK-69)
──海斗と徹底的に向き合うのが寮長の西健吾です。思わず手を出してしまう面がありながらも、彼の決してあきらめない“まなざし”には引き付けられました。
AK-69 俺も過去に向き合ってくれた大人たちからはめちゃくちゃ殴られましたね。でもそれはすごく“愛のあるしばき”だったなと。だから今は「傷付いた」というよりは「俺のこと考えてくれてたんだな」という思いのほうが強い。もちろん今は彼のように体罰で子供を導くことはダメだとされていますけど、海斗のように更生まで道のりが遠そうな人にもここまで向き合ってくれる大人がいるのはいいことだと思いますよ。
──監督は一ノ瀬さんとどのようなコミュニケーションを?
𠮷田 “体罰”がナーバスな問題だからこそ、クランクインの前に徹底して対話を重ねましたね。映画で“役”としてやっているといっても、イメージが付いてしまう可能性もあるし。
──健吾は自身も暴力を起こした過去があり、劇中で複雑な立場に置かれていますよね。
AK-69 だから好き勝手に誹謗中傷される場面もあるけど、反論せずにじっと我慢するんですよね。「なんで何も言わないの?」と思っちゃうくらい。今はデジタル社会で憶測も“本当のこと”にされてしまう場合があるし、SNSでは1つの情報にワーワー言う声や、それを見て面白がってるやつもいる。「黙っていると本当のことになっちゃう」という現代社会の恐ろしさも描かれていたような気がします。
𠮷田 その視点もありましたね。
AK-69 でもそんなふうに黙っている彼の姿を子供たちは見ているし、たとえ本当のことを知らなくても、本人からにじみ出る人間性や“目の前のリアル”に人は胸を打たれるんだなと。健吾は人として本当にかっこいいですよ。モデルになった人とかいるんですか?
𠮷田 中3くらいの時期に仲間と団地でたむろすることが多かったんだけど、団地って変なじいさんがいるんだよね。急に怒ってくるみたいな。
AK-69 いたいた(笑)。
𠮷田 急に胸ぐらつかまれて家に連れて行かれたと思ったら、エロビデオを見せられて寿司でもてなしてくれて(笑)。その人は刑務所に入っていた過去があり、若い不良のやつらを家に泊めて更生させるような活動もしていたみたいなんです。「友達を連れてきていいぞ」と言われて、翌日6人くらいで集まったり。みんな「エロビデオを観たい~」って(笑)。
AK-69 ハハハ(笑)。
𠮷田 その人が俺にとっては“大人”のイメージで、初めて「言うことを真面目に聞こう」と思えたんですよね。教えられるのは親や先生と変わらないことかもしれないけれど、俺らに向き合ってくれる目線だったり、過去を抱えて更生した人が言う言葉は重みが違う。「自分もここは直そう」という気持ちにさせてくれたんですよ。昭和の時代にはそんなグレーな大人がいっぱいいたけど、彼らはきれいごとだけじゃない“悪い正しい道”みたいなものに連れて行ってくれた気がしますね。AKさんはそんな人との出会いはあった?
AK-69 中1の頃に問題を起こして隣の中学に転校せざるを得なくなって、不登校になりかけてたんですけど、そのときに先生が家に足繁く通ってくれて、学校に行くように仕向けてくれましたね。グーで殴ってくるぐらい強烈な人だったんですけど、あのときに熱血で向き合ってくれたから今がある。合唱コンクールで指揮者をやって優勝してみんなで泣いたりとか、「中学生日記」のような青春も送れたんですよ。尾崎豊の曲みたいなメッセージを受け取ることができた。その先生は美術の担当で、俺は絵には目覚めなかったけれど、音楽というアートには興味を持ち始めましたし、みんなを奮い立たせて全力で引き込んでいく姿には一番教えられた気がします。今でも連絡を取り合っていて、今度の武道館ライブにも来てくれると思う(取材は6月2日に実施)。
𠮷田 それはいい話ですね。
AK-69 その中学校では数年前にサプライズでライブすることができました。それも、その先生が定年退職する前に「生徒たちにお前のメッセージを伝えてやってほしい」と呼んでくれたことから実現した企画で。そのときの生徒たちの心の動き方もすごくて、「あきらめかけていた進路をもう一度目指そうと思う」など感想を送ってくれました。確かに親や先生と言われることは同じだけど、同じ中学校出身で、かつサバイブしてきた人に言われるとまた違うのかもしれないですね。

