心優しきゲイの動物飼育員・波多野玄一、クールなゲイの中学教師・作田索、トーヨコに通う訳あり中学生・楠ほたる。“社会のすみっこ”でつながった3人が、少しずつ居場所を育てていくホーム&ラブコメディ「ぼくたちん家」のBlu-ray / DVDが6月24日に発売された。
放送終了後の現在まで反響が続き、国内外でさまざまな声が寄せられた本作。その裏側には、演出を担当した鯨岡弘識と、ゲイ当事者の視点から制作に参加したインクルーシブプロデューサー・白川大介による対話と試行錯誤があった。
及川光博・手越祐也・白鳥玉季らキャストの話から、婚姻届をめぐる印象的なシーンの舞台裏、映像特典として収録されたメイキングの見どころまで2人に話を聞いた。
取材・文 / 金須晶子撮影 / 清水純一
婚姻届の展開は想像を超えていた
──ドラマ放送終了から少し時間が経ちましたが、改めて周囲からの反響はいかがでしたか?
鯨岡弘識(演出) 配信も含めて放送終了後も反響が続いていて。「ずっと観ていたい」といった感想をもらうことが特に多くて、そうした言葉は本当にうれしかったです。
白川大介(インクルーシブプロデューサー) ゲイ当事者の観点で関わった身としては、HUB Awards 2025(※ボーイズラブ・ガールズラブ作品に特化した国際アワード)で「最優秀社会的インパクト賞」をいただいたことが印象的でした。運営側が作品を見つけてくださって投票が集まり、突然(開催国の)ブラジルから受賞コメントの依頼が会社に届いて(笑)。台湾の方からも「全話観ました」とXでメッセージをいただいたりして、これまで経験したことのない国際的な反響に驚きました。
──作品の世界が地続きに感じられたので、登場人物たちもすごく身近に思えました。制作の前後で作品の捉え方に変化はありましたか?
鯨岡 正直、最初はこの作品がどんな人に届き、どんな感想をもらえるのか想像がつかなかったんです。ただ撮影が始まると、現場と俳優の芝居が自然と一体化していって。「この時間を丁寧に積み重ねれば、テーマや伝えたいことはあとから付いて来る」と感じるようになりました。繊細なテーマだからこそ配慮すべきことはたくさんありますが、人と人の関係を描くうえで根本的なところに立ち返れた気がします。
白川 やってみて初めて見えることってありますよね。今回はオリジナル脚本だったので、内情を明かすと、制作が始まった時点では少なくとも僕は結末を知らない状態でした。監督もですか?
鯨岡 筋書きは見ていましたが、ゴールが見えないまま走っていましたね。
白川 例えば、第1話に登場する婚姻届。あれがのちのちどういう意味を持つのか見当もついていなくて。物語の展開を知ったうえで改めて第1話を振り返ると、答え合わせみたいな感覚になりました。「ああ、こう回収されるんだ」みたいな(笑)。
──ある意味、視聴者と同じ感覚ですね。
白川 物語の根幹は脚本の松本優紀さんと河野英裕プロデューサーが作っていて、僕はできあがったものに助言する立場でした。「こういうエピソードをやりましょう」と提案する役割ではなかったんです。その中で、玄一と索が、受理されないとわかっていながら婚姻届を出しに行くところまで進むのは、正直想像を超えていました。僕自身は、途中のパートナーシップ登録の場面がひとつの幸せの到達点というか、ある種の結末になるのかなと思っていたんです。でもこの作品はそこで終わらなかった。婚姻とパートナーシップは違うということを丁寧に描いてきたからこそ、その先の2人の行動に結び付いたんです。
鯨岡 そうですね。
白川 松本さんや河野さんの中にはきっと最終的な構想があったんだと思います。でも僕はそれを知らずに関わっていたので、最後に「ああ、ちゃんとつながった」と感じられてうれしかったです。
受理されないと承知で……実際に聞いた声
──2人が役所へ婚姻届を持って行き、受理はされないものの窓口の職員が「このことはきちんと各所に報告します」と応じる場面はとても印象的でした。先ほど「想像を超えた」とおっしゃいましたが、筋書きを最初に読んだときは率直にどんなお気持ちだったのでしょうか。
白川 「そう来ましたか」と(笑)。でも、とてもうれしい驚きでもありました。同性カップルが登場する作品で、パートナーシップ制度を検討したり登録したりして、それがひとつのハッピーエンドとして描かれるケースは増えてきました。でも僕自身は、これまで関わった作品でも「パートナーシップ制度と婚姻制度は違う」ということに触れてほしいと伝えてきたんです。この作品は、その違いを物語の大きな軸として真正面から描いていた。すごいことをやろうとしているなと感じました。
一方で、実際にこういうことが起こり得るのかは確認したかった。筋書きを読んだ時点では「こんなにいい職員さんいるのかな?」とも思っていて(笑)。だから、受理されないことを承知のうえで婚姻届を提出した同性カップルの方々に話を聞きました。どのくらい待たされたのか、どんな気持ちだったのか、窓口の対応は……。すると、ドラマのセリフそのものではないにせよ、受理できない中でも自分なりの言葉を掛けてくれた職員がいたという話があったんです。だから、「この筋書きで進めましょう」と判断できました。監督は、あの展開をどう感じましたか?
鯨岡 この作品は、回を重ねるごとに大きなテーマを扱っているように見えて、最終的には社会的なテーマそのものではなく、玄一と索のよりパーソナルな物語へ着地していく。そこから自然にメッセージが浮かび上がる構造がすごいと思いました。だから婚姻届の展開も、そこに至るまでの感情や時間を丁寧に積み重ねたからこそ成立すると感じましたし、「これでいい」と確信できたんです。何より白川さんが実際に取材してくださって、その声を聞けたことは大きかったですね。
対話の積み重ねから心に宿った“AI白川”
──撮影現場では、鯨岡監督と白川さんが密にコミュニケーションを取りながらリアリティを落とし込んでいったそうですね。
鯨岡 俳優陣と演技について話し合う際には、白川さんに細かなニュアンスを相談させてもらっていました。特に印象に残っているのは、玄一と索が街中で手を繋ぐシーンです。
白川 「周りを歩くエキストラの数をどれくらいにするか」という話をしましたね。「少し人通りを減らして、人が途切れた瞬間に繋ぐほうがリアルだと思う」とお伝えしたら、鯨岡監督は2人が目で合図を交わして「今ならいいかな」と確かめ合う空気まで演出してくださって。それがすごくうれしかったです。
鯨岡 一度、台本に指示がないシーンで「ここは手を繋ぎたい」と思ったことがあったんです。婚姻届を提出したあと、2人が歩くシーンですね。婚姻届は受理されなかった。でも多幸感があって、絆も深まっている。その感情を考えたときに「やっぱり手を繋ぐべきだ」と感じました。ただ、その日は白川さんが現場にいなくて……。“心の中の白川さん”に相談したら「繋ぐべきだけど、喜びだけじゃなくて、これから先へ進む決意も感じられるように」と返ってきた気がして(笑)。それで確信を持って撮影しました。
白川 1話からやり取りを重ねてきたので、“AI白川”が宿ったんですかね(笑)。北川瞳監督もそうですが、「白川だったらこう言いそう」という感覚まで吸収してくださっていたので、後半はむしろ細かい議論をしなくなりました。リハーサルを見て、問題なければ「いいですね」とアイコンタクトだけして。
鯨岡 本当に心強かったです。
