「鉄槌教師」をはじめ、独創的な物語と美麗な作画でさまざまなヒット作を世に送り出した韓国のWebtoonスタジオ・YLAB。そんなYLABの日本法人であるYLAB STUDIOSが、バンダイとタッグを組み、新作マンガをリリースした。
コミックナタリーでは、タッグにより生まれた新作アクション「流星乙女~銀河最強の美少女に選ばれました~」「逆転のノーマーシー~天才ゲーマー、チートアイテムで現実無双~」「キリングガード」を特集。「キリングガード」が公開直後に、LINEマンガにて男性読者基準で最高デイリー1位を獲得するなど、すでに話題沸騰中の新作を、マンガライター・小林聖にレビューしてもらった。
文 / 小林聖
必殺武器はサイリウム!?護衛成功率248%、アイドルを守るため敵地に乗り込むボディガードの爽快アクション
「キリングガード」
護衛成功率248%を誇り、“最強のボディーガード”と恐れられる男、リュウシン。彼は「最初から危険が及ばないように、事が起きる前に脅威を排除すること」を信条とし、敵地へ乗り込み危険人物を排除する日々を送っていた。そんな中、リュウシンが警護を担当するアイドル・リエが、突如テロ組織のトラジェディーに狙われる。リュウシンはリエを守るため、トラジェディーの本拠地に向かうのだった。
編集者やマンガ家とマンガの話をしているとき、しばしば出てくるのが「マンガがうまい」というフレーズだ。いろいろな人が使うようになった表現なので、マンガ好きならなじみがあるかもしれない。
これは「絵がうまい」「構図がうまい」というのとは違う。もちろん絵がうまいというのはマンガにとって大事な要素だが、「マンガがうまい」というのは大雑把に言えば「物語を読ませる能力が高い」というような意味で使われることが多いと思う。コマ割りの妙ももちろんあるが、そういう演出を含めて物語に引き込み、「気づいたら読み進めてしまっている」「読み終わっている」という状態に読者を持っていく。そういう魔法じみたことができる作家・作品を「マンガがうまい」と表現する(人が多いと思っている)。
それでいうと、「キリングガード」は「タテ読みマンガが圧倒的にうまい」。YLAB STUDIOSは「鉄槌教師」をはじめ、数多くのヒットWebtoon作品を生み出してきた韓国・YLABの日本法人だ。縦スクロールマンガの実績や経験値は折り紙付き。LINEマンガで6月27日に掲載がスタートするや、すぐさま男性読者基準で最高デイリー1位、総合最高4位を記録したそうだが、「そりゃそうだろう」と思ってしまうくらい完成度が高い。
本作の舞台は異能を持つ人々が現れるようになり、テロが横行するようになった世界。そんな世界で異能を持たない人を守る最強のボディーガード・リュウシンを主人公にした作品だが、まず目を引くのがその守り方だ。普通のボディーガードは依頼人が襲われたときに守る。だが、リュウシンの守り方は、「襲われる前に狙ってくるやつらを始末する」というものなのだ。
アイデア自体が「おっ」と思わせるものなのだが、それ以上に感心するのは見せ方、作品の作り方だ。これは、いわゆる最強主人公系の作品になる。だから、普通に考えていけば主人公・リュウシンの強さ、敵を圧倒する気持ちよさに焦点を当てた作りになってもおかしくない。
だが、「キリングガード」の第1話を読んで最も印象づけられるのは「主人公の異様さ」みたいなものだ。もちろん敵を瞬殺する気持ちよさもある。だが、例えばリュウシンが作中で最初の敵を倒す場面でも、戦闘能力の高さにはそれほど重点が置かれていない。彼は鞄から思った武器を取り出せるという異能持ち。ナックルをはじめ、サイリウムなどユニークな武器まで持ち合わせているが、序盤の戦いではハンマーひと振りでテロリストを制圧してしまう。「最強」を印象づけるなら、実際にさまざまな武器を出して能力の高さを見せる方がいいはずだ。しかし、そうはしない。あっさりとハンマーでぶちのめす。
これはこれで気持ちいいのだが、それ以上に「受け身でなく攻めるボディーガード」というスタイルの異様さと、表情ひとつ変えないリュウシン自身の異様さが印象に残る。異能の特殊さや「攻めるボディーガード」というアイデアの面白さで読者を引き付け、読み進めるとキャラクターへの興味がグッと湧くように作っている、その取捨がうまくハマっている。この冒頭の見せ方だけでもうまさがわかる。
縦スクロールの演出も巧みだ。例えば第2話、かませ犬的な最初の敵とは違う、S級テロリスト・ニオとの対決のエピソード。ニオが姿も変わっていよいよ本気になったと思ったすぐ次のコマで、リュウシンのパンチが顔面に入って吹き飛ばされる。こういう裏切り的な演出が、縦スクロールでは特に気持ちいい。横読みマンガだと「めくり」で演出する形になりそうだが、縦スクロールだとめくりで生まれる一呼吸の時間すらない。敵が本気を出したと思ったら次の瞬間吹き飛んでいるという、この継ぎ目のない感覚はこの形式だからこそできる体験だ。
そして、そのうえで本作は非常に濃い。縦スクロールマンガは、よくカジュアルに読めること、テンポがいいことなどが特徴として挙げられることが多いが、「キリングガード」は縦スクロールマンガの特徴を凝縮したような構成の濃密さが、ちょっと図抜けている。
第1話にしても異能とテロが生まれた世界という舞台説明、リュウシンという異様な主人公のお披露目に加えて、リュウシンを狙うテロリスト組織の登場にリュウシンの過去や仕事哲学の理由まで一気に盛り込んである。2~3話かけてやってもいいのではと思う内容を、1話に凝縮している。
それでいて読みやすい。これだけ詰め込んだら、情報が多すぎて飲み込みづらくなりそうなものだが、スルッと読めてしまう。そして、読み終わってみれば世界観と主人公のことがよくわかり、ニオとの対決の結末や、リュウシンのこれからの運命が気になるという状態になっている。
縦スクロールマンガは、快感装置の連続のような作品も少なくない。絶望からの派手な逆転や復讐といった、気持ちいい展開の連続になるようなタイプだ。もちろんそれもフィクションとして魅力があるのだが、本作は「そういう作品ばかり」と思って敬遠している人にも読んでみてほしいと思う。気持ちよさやテンポのよさを持ちつつ、リュウシンをはじめとしたキャラクターの魅力やコメディ要素など、日本の横読みマンガに親しんできた人が思わず読んでしまう魅力が詰まっている作品だ。
学園ラブコメ×SF×アクション!美少女宇宙人、幼なじみ、ギャル、宇宙ポリスにモテまくる、ハチャメチャ物語
「流星乙女~銀河最強の美少女に選ばれました~」
「あの星の雨が降りそそぐとき、あなたに奇跡が訪れるはずよ」という言葉を残し、雨宮星空の母親は姿を消した。それから数年後、平凡な男子高校生に成長した星空。ある夜彼の目の前に隕石が落ちてきて、中から謎の美少女・シホが現れる。さらには星空を襲う宇宙人が現れ危機に陥るも、シホが救ってくれたのだった。宇宙人の脅威から星空を守るために来たというシホ。そんな彼女とのはちゃめちゃな同居生活が始まる。
YLAB STUDIOSとの共同プロジェクト作品で生まれた作品は「キリングガード」だけではない。6月にはこのほか2本の作品が配信スタートしている。その1つ、「流星乙女~銀河最強の美少女に選ばれました~」はちょっと新感覚な作品だ。
天文学部をチンピラ系陽キャに乗っ取られて迫害されている少年・星空にある日転機が訪れるという、縦スクロールでは王道の1つと言える展開から始まる話なのだが、面白いのはそこから典型的な復讐ものにならないところ。星を見ていた星空が、不良同級生に襲われて逃げているときに、空から火球のようなものが落下。そこから裸の美少女が現れるという、伝統の「親方! 空から女の子が!」を地で行く展開になるのだ。
混乱しているところにさらに別の裸の女の子が登場。同級生ともども襲われるのだが、そんな絶体絶命の星空を、最初にやってきた美少女が守って戦い始める。学園逆転ものから始まり、SFアクション、ラブコメが入り交じった展開になっていく。
星空がなぜ宇宙からやってきた者たちに狙われるのか、この先どうピンチを切り抜けていくのかといったサスペンス要素が大きな縦軸なのだが、ラブコメ要素も本作の見どころだ。
空から落ちてきて星空を守ると宣言した宇宙人のシホだけでなく、天文学部の女の子・小夜に、星空をいじめていたギャル系の南條凪、果ては宇宙ポリスなど、恋愛事情でも複数のヒロインの思いが交錯していく。
しかも、この恋愛事情の結末が非常に読みづらい。作中、星空がもともと惹かれているのは小夜だ。同じ大学に行こうと約束していて、同級生に襲われたときも彼女だけは助けようと星空は奮闘する。同時に、ラブコメ読者からすればこのポジションは明らかに負けヒロインの立場。いわゆる「幼なじみは負けヒロインになりがち」というやつだ。
こういう場合、定石でいえば正ヒロインは突然やってきたシホになる。実際、シホはわけもわからないまま星空の住む部屋に押しかけて共同生活をするようになり、記号のようなややこしい識別コードしかなかった彼女に星空が「シホ」という名前を付けるといった、“強い”イベントも発生する。
だが、一筋縄ではいかないのは、シホが宇宙人である点だ。地球の、人間の常識が通用しない。服を着るという風習もなく、騒ぎを起こすと迷惑になるということも理解していない。いわゆる恋愛感情があるようにも見えない。
そして、何よりシホはその目的がわからない部分がある。星空を守ろうとしていることはわかっているが、なぜ守るのかはまだはっきりとは見えない。さらに、守り方が星空の望む形なのかもわからない。とにかく星空を守ることが最優先で、小夜をはじめとしたほかの人間にとっていい存在といえるのか、微妙なところがある。そういう意味で、シホが本当の意味で絶対的な味方なのか判断しづらいところがある。ヒロインだが、恐ろしい存在でもある。
話が進むとともに凪などほかのヒロインもここに加わり、ラブコメ的な人間関係もより複雑になる。ハーレム系ラブコメは珍しくはないが、それぞれの心の内も秘密が多く、ミステリ・サスペンス的な側面が強い。SFアクション部分だけでなく、ラブコメとしても先が読めない作品になっているのだ。
また、地球のルールを知らないシホとの共同生活は、ドタバタコメディでもある。服を知らない、食べ物も知らない、学校が何なのかもわからない。そういうシホが、地球での生活を知っていく過程は、かわいく、おかしい。
宇宙人に命を狙われるハードな運命とアクション、先行きの見えないラブコメの側面、宇宙人との生活という日常コメディと、かなり読み味の異なる要素が絡みあいながら進む本作は、読んでいて感情の動きが妙に忙しく、独特な読み味の作品になっている。挑戦的な作品という印象だ。
転移するのは主人公ではなくゲーム内アイテム!?現実世界でプロゲーマーが繰り広げるハラハラ異能バトル
「逆転のノーマーシー~天才ゲーマー、チートアイテムで現実無双~」
国民的人気を誇るeスポーツ「ヒーローファイターズ」の伝説的プレイヤー“ノーマーシー”ことハン・ヨヌ。手の負傷で引退した彼は、妹の治療費を稼ぐため、苦しい日々を送っていた。そんな中、ヨヌはVR版「ヒーローファイターズ」に誘われ、誰も倒せなかったラスボスを撃破。するとゲーム内のアイテムが現実世界に現れ始め、それを手にした人々が強力な力を得て暴れ始める。混沌へと塗り替えられた世界で妹とともに生き残るため、ヨヌは戦いに身を投じるのだった。
もう1つの6月新作「逆転のノーマーシー~天才ゲーマー、チートアイテムで現実無双~」も、最初の印象と少し違った読み味が面白い作品だ。
本作は、eスポーツの世界で“ノーマーシー”(無慈悲)と呼ばれたハン・ヨヌが主人公。彼はその異名通り、無慈悲なほどに強い伝説的なプレイヤーだったが、持ちかけられた八百長の約束を破ったことで恨まれ、故意と思われる事故によってeスポーツの選手生命を絶たれてしまう。病気の妹の治療費を稼ぐために借金をしながら苦しい生活を送る彼が、コントローラーを握らなくてもできる新たなVRゲームへ誘われ……というのが物語の導入だ。
「逆転」「無双」といったフレーズが並ぶように、苦境からの圧勝の気持ちよさに重点を置いた作品なのだろうと思って読みはじめるのだが、すぐに意外とそう単純な話でもないことに気付かされる。
確かに治らない妹の病気や借金、苦しい生活といった境遇から逆転していく物語で、圧倒的な強さによる気持ちよさもあるのだが、より気になるのは、世界に何が起こっているのかという部分だ。ノーマーシーは誘われたVRゲームで見事にゲーマーとして復活。β版のスタート以来誰も倒せなかったボスを倒すのだが、それと同時にゲーム世界のアイテムが現実世界に現れるようになり、世界が一変してしまう。ボスのドロップした謎のアイテムを持つノーマーシーも、彼をうらやみ、妬んでいたプレイヤーたちに狙われ、何もわからないままバトルに巻き込まれていく。
「逆転」というのは復讐の一種とも言える。理不尽な不幸、力で虐げる悪役、不公平な階級差などを、逆転という形で叩きのめしていく。そこには人間や状況への復讐的な爽快感がある。
だが、この作品の場合は復讐すべき相手が見えていないのが序盤の肝だ。ゲーム世界が現実に侵食してきた理由も、ノーマーシーをそのゲームに導いた人間の狙いも、彼が手に入れた謎の指輪の本当の力も、何もわからない。わからないまま、生き残るために彼は戦うことになる。ノーマーシー自身も、もともとのプレイヤースキルとアイテムの力によって強烈な力を持っているが、扱い方を完全に理解していないから、バトルでも単純な最強系キャラというわけではない。窮地に次ぐ窮地というハラハラ感の色合いの方が強いだろう。タイトルやプロローグ的なパートから受ける印象を裏切る展開に新鮮味を感じる。
そして、読み進めるうちにキャラクターの面白さも出てくる。病気の妹・ソユンや、ノーマーシーをゲームに誘った少女・ラナ、彼を狙う変わり者ギタリストのカン・チャンなど、さまざまなキャラクターが加わり、その内面も語られるようになる。ノーマーシーの強さや運命だけでなく、そうしたサブキャラクターたちとのかけあいや、彼らが生き残れるのかにも関心が広がり、物語世界が徐々に広がっていく。特にノーマーシーが戦う大きな動機となっている妹・ソユンとの過去の絆が垣間見える第10話あたりは、序盤の人間ドラマ面でのひとつのクライマックスといえるだろう。このあたりから、グッとキャラクターへの親近感が増していく。
また、本作で忘れてはいけないのがバトルの面白さだ。「無双」と銘打たれているが、前述のとおり本作のバトルは決して単純な爽快系ではない。それは、ノーマーシーが持つアイテムが謎に満ちていることも理由だが、襲ってくる敵たちの持つアイテム・武器が多彩であることも重要な要素だ。
バランスを崩すほど強いアイテムや武器というのは、現実のゲームにもある。だが、そうしたいわゆる「チートアイテム」でなくても、もし現実に現れればチート的な強さだろうという武器は無数にある。
本作では、そうした反則的な武器が次々に登場する。自在に巨大化・縮小して掴んだものを粉々にするグローブ、次元を切り裂く腕輪、百発百中のライフルなど、どう攻略すればいいかわからない武器ばかりだ。ある種の異能バトル的な作品と言える。だからこそ、どう攻略するのか、次はどんな武器が出てくるのかというドキドキ・ハラハラが絶え間なく続いていく。
世界とゲームの謎に、次なる敵への期待感、そして主人公たちが生き残ることができるかというハラハラ。シンプルな無双系ではない、謎と未知が絡みあった展開に引き込まれる良作だ。
※記事初出時、フッターの「キリングガード」「逆転のノーマーシー~天才ゲーマー、チートアイテムで現実無双~」のクレジットに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
