2019年に創業したSORAJIMAは、数多くのマンガを送り出す今勢いのある気鋭のマンガ出版社だ。2024年には自社作品のみを集めたアプリ・ソラジマTOONをリリースし、日本のタテ読みマンガ市場を育ててきた。そんなSORAJIMAのCo-CEOの前田儒郎氏が編集長となり、新たに立ち上げたのが、タテ読みオンリーの少年マンガ編集部・少年STOKE。コミックナタリーでは前田氏にインタビューを行い、少年STOKEを立ち上げることになった経緯とその意図、“タテ読みの少年マンガ”にこだわる理由、どんな作家を集めているのかなど、幅広く語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ
今の少年には少年マンガが届きづらくなっている
──まずは新たなマンガ編集部・少年STOKEを立ち上げることになった経緯から教えてください。
これには2つの軸がありまして。1つは、SORAJIMAとして「今世紀を代表するコンテンツを創る。」というミッションを掲げているので、いずれは少年マンガの領域にチャレンジしなくちゃいけないと思っていたんです。少年マンガは世代や時代を問わず、国籍も関係なく老若男女が楽しめるものなので。とはいえ編集能力やビジネス力、経営基盤といったところに一定の練度がないとできない領域であって、難しいチャレンジではある。それが2026年、今のSORAJIMAであればチャレンジできる段階に達していると見ました。それがまず1つ前提としてあります。
──もう1つは?
最初のきっかけはそれだったんですが、あくまできっかけで。そこから僕は「そもそも少年マンガってなんだろう?」ということをゼロから考え始めたんですよ。そこにものすごく真剣に向き合った結果、SORAJIMAの経営者としてではない、別の感情が生まれてきました。少年マンガとは当然少年が読むものなわけですが、子供から大人になる狭間の……まあ「少年」という言葉が一番ちょうどいいんですけど、ただの子供ではなく、でもまだ大人にはなっていない時期の人たちに物語を届ける、という性質が少年マンガにはあるなと。自分自身を振り返っても、少年時代に少年マンガを読んでいろんなことを教えてもらったし、心を動かされてきました。
──わかります。
じゃあ今の少年たちにとってはどうなのかと思い、実際に学校訪問をしたり会社訪問を受け入れたりして、たくさんの中高生に話を聞いたんですけども、彼らは僕たちが少年だった頃に比べて、圧倒的に少年マンガを読まなくなってるんです。といっても決して嫌いなわけではなくて、今はスマホコンテンツがあふれているから、単純に触れる機会が激減しているんですよ。「今の少年には少年マンガが届いていない」ということに気づいたときに、「とにかく今の少年たちに少年マンガを届けたい」という気持ちが芽生えた。それが2つめの軸ですね。
──それで少年マンガに特化した編集部を発足させたと。ところで「少年マンガ」とは、具体的にどういうものを指すのでしょうか。何をもって少年マンガと呼ぶのか。
ひと口に少年マンガと言っても、いろいろあるなと思ったんですよ。小学生向けのものも当然少年マンガだし、高校生に向けられたものも少年マンガだし。という中で、少なくとも大人ではない人たちに届けられるものであり、読んだ人の中で何かを1歩前進させるもの、明るいところへ向かわせるもの。それが広義の少年マンガだと思います。とはいえ広いので、じゃあ僕らが何をやるのかというと中高生寄りですね。スマホを使い始めて一気にマンガから離れ始める、それゆえにスマホを通して伝えれば、一気に少年マンガが届く可能性がある中高生向けに、心が灯されるような感情を届けたい。それが僕らの定義する少年マンガです。
タテ読みは少年に最初の一歩として触れてもらいやすい
──少年STOKEは「少年マンガ」「タテ読み」「アプリ」の3軸からなる編集部と聞いています。「少年マンガ」については今伺いましたが、「タテ読み」に関しては?
僕らが一番こだわりたいのは、やはり「少年マンガを今の少年に届ける」ということなんですよ。そうなると、すべての行動、すべての判断において「少年に届くようにする」が基準になっている必要がある。そのために何がベストかを考えた結果、タテ読みがベストであるという結論に至りました。
──“タテ読みメイン”ではなく“タテ読みオンリー”で、ということですよね。
そうですね。なぜ今少年たちがマンガから離れてしまっているかというと、もっと手近なところにTikTokやYouTubeなどのスマホコンテンツがあって、それらに比べてマンガが手軽ではなくなってしまっていることが大きな要因です。僕らSORAJIMAがこれまでにタテ読みをたくさんやってきた中で得た結論が、「タテ読みの本質は直感的に没入しやすいところにある」というもので、スッと触れられるマンガの形であると。僕自身TikTokをよく観るんですけど、手軽さと快楽があまりにも強くて、ずっと観てられるんです(笑)。「あー、これはマンガ読まなくなるわ」と思わされます。
──逆に、タテ読み形式に限定することのデメリットは何か感じますか?
強いて言えば、作家さんが描くのに慣れていないというのはあるかもしれないですね。ずっとヨコ読みマンガの技法を勉強されてきた方々がほとんどなので、最初はネームの切り方から習得していただくことになる。時間はかかりますが、その分できることも増えるので、その先に表現の選択肢が広がるとは思っています。
──「できることが増える」というのは、具体的には?
タテ読みの表現技法において僕らが主なポイントとして捉えている、2つの仮説がありまして。これまでにたくさんのタテ読みマンガを届けてきた中で、“画圧”と“フリオチ”という概念が見つかったんです。画圧というのは、単純に1画面1画面の圧が強いということで。頭が疲れているときや、何か別のことをしているときでも、画面からパッと圧が感じられる。しかもそれを何回も何回も出せるから、まさにTikTokを次々にスワイプしていくのと同じような快感が得られやすいんです。
──なるほど。それは確かに、ヨコ読みマンガにはなかなか求めづらい部分かもしれませんね。
2つめのフリオチというのは、ヨコ読みマンガで言うと「これから何かが起きるかもよ」というフリがあって、ページをめくった先にオチが待っているわけです。例えばサッカーマンガだったら、まずめちゃくちゃ強いゴールキーパーを描く。これがフリですよね。で、次のページをめくったら、それでも主人公はゴールを決めるっていうオチが描かれていると。これは“ページをめくる”という動作を伴ってこそ効果を発揮するんですが、タテ読みマンガではすべてのコマでそれができるんですよ。
──言っちゃえば、全部が改ページみたいなものですからね。
まさにそうです。だからずっと楽しくいられる。よりエンタテインメント性を内包させやすいのがタテ読みマンガだと思っています。
「ここに来たい」と思える場所を作りたい
──もう1つの「アプリ」という軸についても教えてください。
僕らが一貫して言いたいのは、「少年の心をストークする」ということで。「ストーク」というのは「火をくべる」という意味なんですけど、「心を燃え上がらせる」という意味で使っています。なのでアプリアイコンにもなっているシンボルマークは内側が少年の心の火種で、外側が燃え上がった炎というデザインになっているんですけど。じゃあ少年を熱くするためには何をすべきなのかと考えると、やはり現状はマンガが届いていない。それはマンガ以外のコンテンツがありすぎるというのもあるし、マンガがありすぎるというのもあって。なおかつ、いつでもどこでも自由に読めてしまうから、それではみんなで熱くなることが難しい。
──機会が多すぎるがゆえに、熱が分散してしまうと。
そこにアプリを作ることで、「ここに来たい」と思ってもらえる場所を作りたい。例えば少年STOKEでは、毎週同じ曜日、同じ時間に全作品を同時公開しようと考えています。その瞬間にみんなに集まってほしいんですよ。そのほうが、少年たちが友達と話題にできますから。それを考えると、アプリであれば多くの機能を自由に追加できるため、Webサイトとして運営するよりも我々のやろうとしていることに合致するわけです。
──全作品同時更新というのは、今の常識から考えるとかなり特殊な仕様ですよね。
これまで200人ぐらいの中高生にヒアリングをしたんですけども、彼らはもちろんマンガをはじめとしたコンテンツは好きだし興味を持っています。ですが、彼らにとって一番大事なのは友達とのコミュニケーションなんですね。クラスに溶け込むことが大事だし、打ち解けていない時期には打ち解けるきっかけが必要だし、それが少年たちの一番求めていることなのであれば、そこに寄り添ってあげたい。なのでマンガを交流のきっかけにしてもらうためには、「いつでもどれでも読める」ではなくて「この日にここで読むことに意味がある」という状況を大事にしたいと考えました。
──かつての少年たちが毎週月曜日に少年ジャンプを一斉に読んでいたのと同じように。
そうです。やっぱり最新話が一番みんなと話題の共有になるので。
──それに加え、「全話初回無料」という仕様も挑戦的ですよね。
自分が少年だった頃を思い出すと、マンガって「お金を払って読んで好きになるもの」ではなくて「読んで好きになって、もっと友達と話したいからお金を払って買うもの」だったんですよ。だからまずは読んでもらわなきゃいけないので、最初の1回は誰でも読めるようにしておくべきだろうと。なおかつ、その作品が例えば50話まであったとして、最新話しか読めなかったら過去のストーリーがわからなくて話についていけない。じゃあ1話から50話まで、通しで1回読むぶんには無料で読めるようになっていることが大事なのかなと。極端な話、お小遣いの差で読める人と読めない人がいると共通の話題にならないんですよね。それじゃ少年に届かない。
──あと個人的にすごく面白いなと思ったのが、「連載数に上限を設ける」という方針です。
それもさっきお話しした、「マンガが多すぎる」という現状認識から来ているものですね。マンガが紙からデジタルに移ったことで物理的な制限がなくなり、理論上は無限に棚があるような状態になりました。そうなると、やはり少年たちが話題にしづらいんですよ。どれを読めばいいかわからないし、読み切れないし。そこに一定の制限を加えることで、「これだけ読んでおけば明日の話題にはついていけるだろう」という枠を提示してあげたい。そのぐらいの分量を定義したいなと思っています。加えて、連載数に上限を設けるというのは当然、作品の打ち切りを伴うわけですが、少年にしっかりと届いて求められている作品に絞って密度高く届けていくべきだという判断もあります。
──そんな中で、「少年STOKE第一回漫画賞」の募集が3月から始まっていますね。
少年の心をストークするにしても僕たちだけではできないので、作家さんの力が必須です。それと、僕らがやろうとしていることを作家さんに知っていただく意味もあって、コンテストを始めることにしました。このコンテストでは、大賞1名だけを選出します。最初はとにかく作家さんの数を集めることを考えていたんですが、やはり質と量はトレードオフなので、多く集めれば集めるほど1人ひとりに向き合う時間が減っていくし、リソースが不足していく。であれば、「作品1つが最高に少年の心をストークするものであれば、それが一番の目的なんじゃないか」と考えて、最高の1本に出会うための設計にしました。
──一貫して「分散させると熱が落ちる」という思想があるんですね。
仮に「この作品だ!」というものに出会えなかった場合は、正直に「大賞なし」として翌年に賞金を繰り越し、“最高の1話”に出会えるまでそれを繰り返し続けようと考えています。
──大賞以外は選出しないということですか?
もしかしたら佳作などを選ぶこともあるかもしれませんが、公式に賞金を用意するのは大賞のみになります。もちろん枠をたくさん作ったほうが数も集まりますし、いろんな方に出会えていいかもしれないんですけども、それは多様性であって、少年の心をストークすることではないですから。とくに今回は第1回ということもあるので、自分たちの伝えたいことが一番伝わる形にしたかったんです。9月7日が応募の締め切りなので、ぜひこの記事を読んで興味を持っていただいた作家さんにはチャレンジいただきたいですね。
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少年マンガを思いきり描ける場所でありたい

