かねもりあやみが、原案協力の久住昌之、監修の青江覚峰とともに手がける「もえこと畑とお寺ごはん」。学生の頃から努力し続けてきた27歳の会社員・若色萌子が、体を壊し、実家で静養中に出会った野菜作りや精進料理に少しずつ癒されていく作品だ。久住、青江、かねもりが手がけた「サチのお寺ごはん」のキャラクターも登場する。
コミックナタリーでは1巻の発売に合わせて、かねもりと、「もえこと畑とお寺ごはん」のファンである声優・ファイルーズあいとの対談を実施。作品の魅力を語り合ってもらった。
取材・文 / Yuuki Honda撮影 / 武田真和
「もえこと畑とお寺ごはん」とは
仕事をがんばりすぎて休職することになった若色萌子。実家でおとなしくしていた彼女は、祖父が耕している畑で野菜作りに目覚める。また幼なじみの穂高と数年ぶりに再会。料理が得意な穂高が作る精進料理にも力をもらいながら、少しずつ元気を取り戻していく。そんな彼女のもとには会社の後輩・宝木舞、農園の息子・豊原実も集まってきて……。同作はエレガンスイブ(秋田書店)で連載されている。
ファイルーズあいと、がんばりすぎて倒れた主人公・萌子の共通点
──「もえこと畑とお寺ごはん」の構想はいつ頃からあったんでしょうか?
かねもりあやみ 結婚して夫の実家がある栃木の田舎に移り住んだんですけど、家の目の前が一面畑で、お米を作ったり、野菜を作ったりしていて。昔1人でやっていた家庭菜園はうまくいかないことも多く、私は野菜作りに向いてないと思っていたんですが、義父のお手伝いをしているうちに野菜作りが楽しくなってきたんですね。自分が育てた野菜がすごく美味しく育って感動しました。その頃はまだ「サチのお寺ごはん」を連載していたんですが、野菜を育てるうちに畑が出てくるマンガを描きたいなと思うようになっていましたね。
──1巻のあとがきに栃木でのお話が描かれていますよね。山で遭遇した猿に威嚇されるエピソードが面白かったです。
ファイルーズあい 「もえこと畑とお寺ごはん」にも猿が出てくるエピソードがありますよね。もえこが猿にとうもろこしの芯を投げつけられるっていう子供の頃のお話。
かねもり あれは私が生まれ育った広島での思い出がもとになっているんです。同級生が5人ぐらいしかいない田舎に住んでいて、猿がたくさんいました。猿がとうもろこしを食い散らかしたこともありましたね。
──そういったかねもり先生の体験が、作中には多く反映されているのでしょうか?
かねもり そうですね。あとは周りの人の影響もあります。萌子が体を壊してしまう話は夫の実体験がもとになっているんです。夫は仕事のために栃木から東京の新橋まで電車で通っていた時期があって。
ファイルーズ え、たぶん2時間以上かかりますよね?
かねもり かかりますね。毎朝5時に起きて、残業して帰ってくるような生活をしていました。せっかく電車に長い時間乗っているからと、車内で資格の勉強もしていたんですけど、やっぱり疲れちゃって、もうこの生活は続けられないと落ち込んで。私は地元で仕事すればいいじゃんって伝えて、今は別の仕事をしています。
ファイルーズ そのエピソードも野菜作りのお話もマンガに反映されていますよね。だからあんなにリアリティがあって、人の心が動かせるんだなって、今改めて思いました。血が通っていて、読んでいると、土の匂いが伝わってくる。温かい気持ちになるし、食に対する感謝も生まれる。本当に素晴らしい作品だと思います。
かねもり うれしいです。ありがとうございます!
ファイルーズ キャラクターも魅力的ですよね。例えば萌子のすごく好きなところが、第1話で描かれた、社内コンペに向けてがんばって準備したのに採用されなかったときの対応です。萌子以外のメンバーは不満気ですが、萌子は結果を悪く解釈するんじゃなくて、じゃあ次はこうしてみようとみんなに明るく声かけていますよね。そうやって自分に言い聞かせつつ、自分の中でポジティブに再定義して前に進もうとしているところがすごく好きで、がんばり屋さんだなって。
──まっすぐで前向きなところが萌子の魅力ですよね。
ファイルーズ はい。萌子みたいに一生懸命に仕事したいって時期は誰にでもあるだろうし、それは私にも経験があります。一方で、自分でも気づかないうちに疲労が体に溜まっていて、萌子は倒れてしまう。私も彼女と同じように、バランスを崩してしまった時期があります。ご飯があまり食べられなくて、体もうまく動きませんでした。忙しくても自分をしっかり見つめ直すための時間は確保しなきゃいけないんだと、身をもって知りました。
──その状態からどうやって持ち直されたんですか?
ファイルーズ そこも萌子と似ていて、食事から見直しました。私は精進料理というわけではないんですけどね。だから彼女には共感するところが多いです。心の健康のためには食事も大切だと書いてある本を読んで、ちょっとずつ意識して健康的な食事をするようにしました。昔は好きなものを好きなように食べていたんですが、今は何かしたいと思い立ったときにすぐ動けるよう健康体でいようと意識しています。
──萌子以外に気になるキャラクターはいますか?
ファイルーズ 穂高と実さんですね。穂高は萌子をいつも名字で呼んでいるのに、心の声では萌子って呼んでいるのがかわいらしい(笑)。
かねもり そうなんですよ。小さい頃は萌子と呼んでいたけど、大人になったら恥ずかしくて名前では呼べない(笑)。
ファイルーズ 穂高が木のスプーンを作る場面がありましたよね。あれを使って萌子とご飯を食べるエピソードがあるのではと予想しているんですが、どうですか?
かねもり 実は考えています。自作のフォークやスプーン、お皿を作って、萌子と一緒に食事するシーンを作ろうかなって。
ファイルーズ おお、やっぱり! 先日プライベートで栃木に行ったんですが、益子焼を手びねりで作ったんです。焼き終わったものが今度届くんですが、それを使ってご飯を食べようと思っていたので、作品とリンクしたみたいでうれしいです。
かねもり いいですよね、益子焼。娘が陶芸好きで、自分で粘土を買って作った器を夫に庭で焼いてもらっているんです。
ファイルーズ 素敵すぎる……憧れますね。
──実についてはいかがですか?
ファイルーズ 初登場時の「ちゃんと土と会話してる?」ってセリフが好きです(笑)。農業を心から愛していて、好きなことにまっすぐ取り組んでいる姿勢が素敵だと思います。
かねもり 実については担当編集さんといろいろ話をして、当初の構想よりもヤバめな人になりました(笑)。ただ、ちゃんとまとまりのあるキャラクターになったと思います。
ファイルーズ 塩梅がちょうどいいですよね。あれ以上言動がヤバいと萌子も引いちゃうかもしれませんし。実さんと萌子の関係も、穂高が嫉妬するかどうかギリギリのラインを攻めていますよね。
かねもり 恋のライバルか、ただのいい人か?みたいなせめぎ合いが穂高の中で起こるようにしたかったので、そう感じてもらえてよかったです。

