「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」水谷京子インタビュー|オフィスラブの名手が溺愛ロマンスファンタジーに挑んだ心境を語る

「蜜談」「野獣は激しく奪う」など、白泉社の女性向け雑誌・Silkyや電子雑誌・Love Silkyにて、大人の恋愛マンガを数多く連載してきた水谷京子が、新境地に挑んでいる。これまでオフィスラブなど現代の恋愛ものを描いてきた水谷の新作は、異世界ファンタジーの溺愛もの「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」だ。

コミックナタリーでは、同作の紙版単行本1巻が発売されたことを記念し、水谷へのインタビューを実施。デビューから20年以上が経った今、なぜファンタジーという新たなジャンルに挑戦しようと思ったのか、また初めて連載の場をマンガParkというアプリに移した心境を聞いた。

取材・文 / 岸野恵加

「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」

「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」1巻

国防のために魔女と騎士が結婚する世界。出来損ないゆえに誰にも選ばれない魔女・エレナは、ある日、絶大な魔力を持つ帝国最強の騎士・政孝と出会う。
その出会いは、やがてエレナと政孝が、それぞれに抱える秘密を大きく揺さぶっていくこととなる──。「想い」が恋と魔力を覚醒させ、やがて溺愛へとつながる物語。水谷京子が新たに挑む、溺愛ロマンティックファンタジー。白泉社のマンガアプリ・マンガParkにて毎週火曜日に更新中。

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20年以上、ファンタジーを描けずに自分の中で抱えていた

──水谷先生は長年数々の恋愛作品を描かれてきましたが、「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」では、ファンタジーという新たなジャンルに挑戦されていますね。どのような経緯で今作を執筆することになったのでしょうか?

実は、「やっと描ける!」という気持ちが一番強いんです。約20年前、私が作家デビューすることが決まって、初めての仕事が読み切りのプロット出しだったんですけれども、そのときに、魔王が拾った魔女を溺愛する物語のネタを提出していました。でも当時の女性誌にファンタジーブームなどあるわけもなく、何より私の実力不足も甚だしく……当たり前ですが、編集部は「ファンタジー、ダメ絶対」という反応で。初連載の頃も、人間が変身するストーリーのネタを出して、当たり前のようにボツを喰らいました。なので20年以上、ファンタジーを描けずに自分の中で抱えていたんですよね。

──そうだったんですね! 今作は、騎士と魔女が国防のために結婚し“魔力欠損”を治癒するという設定がベースになっています。これはどのように生まれましたか。

魔女は昔から好きで、自宅にも魔女の人形などがあったりするんです。まずは薬草とともにある魔女を描きたくて、そんな魔女と騎士をなんとか結婚させる設定を作りたいと考えました。少し官能的なお話にもしたかったので、悩みに悩んでひねり出した……という感じです。

「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」より。

「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」より。

──水谷先生ご自身はファンタジー作品をお好きでしたか?

ファンタジー作品の多いLaLa(白泉社)は一時期とてもよく読んでいたので、マンガ作品は好きなものがいくつもあります。ファンタジー作品と呼んでいいかわかりませんが、樹なつみ先生の「朱鷺色三角」は、第1話を読んでいろんな意味で衝撃を受けました。でもどちらかというと「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」では、人間が変身するという部分や、やたら集団を登場させてしまうところに、小さな頃からスーパー戦隊シリーズやハリウッドの超大作娯楽映画が好きだった影響が出ている気もします。

──ファンタジー作品を描くうえで難しいと感じること、逆に「意外と自分に向いていたな」と感じている部分はどこでしょうか?

難しいのは設定を考えることや、世界観の説明ですね。一方で、ドレスなどを描くのが好きで、そのあたりは自分に向いているということを新たに発見しました。時間があればずっと、レースの模様を描いていたいくらいです。

「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」には、さまざまなドレス姿も登場する。

「出来損ないの魔女は獅子公爵と蜜婚する」には、さまざまなドレス姿も登場する。

──ファンタジー特有の背景やキャラクターの衣装などもしっかりと描き込まれていて、作品の世界観に説得力が生み出されていると感じます。

そう思っていただけたのならうれしいです。私はマンガ家になる前にヨーロッパを何度も旅していまして、特にベルギーは何度も訪れたのですが、その経験が生きている気がします。あとはアンティークが好きだということも、とても役に立っていますね。

ハリウッドでの真田広之さんのセンター感あるカッコよさにやられて

──キャラクターについても教えてください。まず政孝のキャラクターはどのように生まれましたか? ファンタジーの世界観で日本名というのも新鮮でした。

今作は私にとって、「好きなものを惜しみなく全部出していく」がテーマなんです。マンガ家としては高齢なので、出し切っておかないと……という気持ちもありまして。この連載のネタを考えているときに、真田広之さんがハリウッドで活躍されていて、あまりにもセンター感のあるカッコよさにやられたんです。それで「西洋系の話だけど、センターの男性は東方諸国系のルーツにする! だって好きなものは全部入れると決めたから!」という思いで、政孝が生まれました。政孝という名前はいつか使いたかったので、ここで出しておこうかな、と。彼の祖母が東方諸国からやってきたという設定なので、今後そのあたりを詳しく描きたいですね。

ヒロインの相手役である政孝・ルーファス・ズワルトは東方諸国系ルーツという設定だ。

ヒロインの相手役である政孝・ルーファス・ズワルトは東方諸国系ルーツという設定だ。

──なるほど。そして水谷先生の作品のヒロインは、自分の仕事に誇りを持ち、責任感が強い女性が多いですよね。エレナもそうした芯のある女性だと感じました。

エレナは、作者である私が好きになることができて、かつ、ヒーローである政孝も好きになるのはこういう女性かな……という流れで作っていきました。

──ちなみにタイトルに“獅子”の文字がありますが、水谷先生はライオンがお好きだそうで、動物園にもよく通われていますよね。ライオンの魅力をどのあたりに感じていますか?

物心ついた時から、なぜかライオンが好きだったんです。理由とかは特になくて、ただ「好き」としか……。自分が獅子座だと知るのは、それからずっと後のことでした。政孝を“獅子公爵”としたのは、“騎士公爵”を少しひねって、「騎士で高貴で、そしていずれはライオンになる」というイメージを全部乗せしました。ここでも好きなものを全部ぶっ込んでいます(笑)。

──(笑)。これまで培ってこられた現代もののご経験が、ファンタジーを描くうえで生きている部分はありますか?

恋愛部分での流れや表現は、あえて現代ものを描いていたときのままでいこうとしています。逆に省かないように気をつけていますね。