国の政治や軍事、経済活動を地理の側面から読み解く学問・地政学。「地政学ボーイズ ~国がサラリーマンになって働く会社~」(以下「地政学ボーイズ」)では、世界を「オフィス地球」という会社に見立て、日本をはじめとする各国、各地域のキャラクターたちがサラリーマンとして働くさまを地政学の面から描き出している。漫画は理央が手がけ、原案・監修は沢辺有司が担当。ヤングチャンピオン(秋田書店)にて連載中だ。
同作は最新9巻が発売中。このタイミングで電子版を除く既刊1~8巻が重版出来し、小中学生にも読みやすいよう、マンガ本編にふりがなが付いた状態で刊行されている。
コミックナタリーでは最新巻の発売を記念して、大のマンガ好きとして知られるパンサーの菅良太郎に「地政学ボーイズ」を読んでもらい、インタビューを行った。擬人化されたイケメンがわちゃわちゃしているエンタメ的な楽しさだけでなく、リアルな世界情勢も自然に学べると太鼓判を押す菅。パンサーのメンバーを例えるならどの国?どんなネタをやる?といった無茶振り質問にも答えてもらっている。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 入江達也ヘアメイク / ごぼうび
「地政学ボーイズ ~国がサラリーマンになって働く会社~」とは
国の政治や軍事、経済活動を地理の側面から読み解く学問・地政学をテーマにした擬人化コメディ。世界を「オフィス地球」という会社に見立て、日本であるヒノモトをはじめとする各国、各地域のキャラクターたちがサラリーマンとして働くさまを、リアルな世界情勢を反映させながら描いていく。ヤングチャンピオン(秋田書店)にて連載中で、単行本は9巻まで刊行されている。
面白いし勉強にもなる。教科書にしたらいいのに
──今回菅さんには、政治や経済を地理的要因から紐解く学問・地政学をテーマにした擬人化コメディ「地政学ボーイズ ~国がサラリーマンになって働く会社~」をお読みいただきました。まず、率直にどんなことを感じましたか?
面白いですよね。シンプルに面白いし、勉強にもなるというか、地政学の知識がスッと入ってくる。そもそも地政学って、僕はそんなに勉強してきたことはなくて。ニュースなどで目や耳にしたことはあるんでしょうけど、それだけじゃ頭に入ってこないんですよね。それをこうやって擬人化してもらうと、出来事や国同士の関係性がスッと飲み込める。そこが素晴らしいなと思いましたね。国がイケメンキャラクターに変換されると感情移入もしやすくなるし、イメージとしてつかみやすいんだなと。
──キャラクターがすごく生き生きしていて魅力的、というのは大きいですよね。
国ごとの特徴をギュッとまとめたら、こうなんだろうな。なんとなく持っていたイメージとズレてないし、深くは理解できていなかった部分も「あ、こうなんだ」って人となりが見えてくる感じは面白いですね。
──それぞれの国に漠然としたイメージはあった中で、「こういう歴史があったから、結果的にそういう国になってるんだな」というのが自然にわかるんですよね。
そうそう。で、仲のいい国同士なのかなと思ってたら、実は裏ではそうでもないとか(笑)。そういうのを人間関係として見せてくれることですごくわかりやすいのが面白いし、それを1つのオフィスにまとめるっていうアイデアもいいですよね。
──地球全体をオフィスに見立てることで構造が単純化されて、より関係性が浮き彫りになる。
でも実際、国際関係ってそういうことっすもんね。フロア内でのデスクの近さが関係性にすごく影響するとか、「なるほどね」っていう。「この人とこの人に挟まれたら嫌なんだ」とか。
──北朝鮮くんの席が近いから紙飛行機が飛んで来ちゃう、みたいな。
あれはもう発明っすよね! 飛翔体を紙飛行機で表現するってのは。北朝鮮くんのミステリアスな雰囲気とかもすごくわかりやすいし、韓国くんと見た目がそっくりっていうのもいいですよね。もともと同じ国が分断されていることを表現するのに、ビジュアルの同じ兄弟という設定は見事だと思いました。
──マンガならではの表現ですよね。
リアルな歴史を学ぶとなると、残酷な現実に心を痛めちゃう人もいるじゃないですか。でもこうやってマンガっぽい表現に置き換えられるとそこまで生々しくならないから、勉強の取っかかりにはしやすいですよね。そこは本当に素晴らしいなと思います。
──ウクライナくんの置かれている状況なども、マンガだからこそ背景をちゃんと知るきっかけになりやすいでしょうしね。
「ロシアくんとウクライナくんだけでなく、実はアメリカくんも絡んでるんだ」とかってね。それこそニュースで見ているだけだと、知識がないとわかりづらい部分じゃないですか。たぶんマンガで読んでたら、そのあたりの事情を知らなくても普通に「ウクライナくん、振り回されててかわいそう」って思うんじゃないかな。それによって前より歴史を深く理解できるようになる。
──たとえ話としてよく言われる「国際関係といえど人間関係である」ということが、文字どおりの形で表現されている作品だと思います。
トップの鶴の一声で変わっちゃうこともあるだろうし、「実はこのぐらいのバランスで成り立ってるんだ?」っていうね。だからこそ「民主主義国家に暮らす僕らは、議員さんをちゃんと選ばないとこういう関係性も根本から変わっちゃうんだぞ」という学びにもなる。教科書にしたらいいのにって思いますね。するべきだと思いますよ。
“イマジナリーサン”(想像上の息子)は面白がってくれてますよ
──基本的にヒノモトくん目線で描かれるので、日本人としてはスッと読めますよね。
そうなんですけど……ヒノモトくんはちょっと弱気ですよね。
──(笑)。
同僚に対して何か思うことがあっても強く言えなかったりして、それもめっちゃリアルだなと思いました。実際そうですもんね。変に美化して描いたりしていないところがいいです。
──かといって必要以上に悪くも描かれないですし、リアルでありつつマンガとして楽しく読める絶妙なラインだなと感じます。
アメリカくんが冗談めかして「ヒノモトは俺の舎弟だから」みたいな態度を取るじゃないですか。あれも、ジョークではあるけど「本当にそういうとこあるよな」と思わされるし。その点、カナダくんとかはアメリカくんに対して「それは乗れないよ」と率直に言えたりして素敵だなあと思いますね。
──だからこそさっきおっしゃったように、そんなヒノモトくんに対して「もうちょっとこうなってほしいな」と思うところがあると、「ちゃんと選挙に行こう」という気持ちになれる部分もありますね。
民主主義ってそういうことですからね。僕らが議員さんをちゃんと選ぶことで、ヒノモトくんの性格を変えられるんですよ。バイデンさんかトランプさんかによって、アメリカくんの言動も違ってくるわけじゃないですか。だから若い人がこれを読んで、「もうちょっと意見を言えるヒノモトくんになってほしいな」と思ってくれたらうれしい。それは本当に思いますね。
──それを実際に変えられるわけですからね。間接的な読者参加型マンガでもある。
俺、結婚もしてないし子供もいないですけど、我が子に読ませたいですもん。“イマジナリーサン”(想像上の息子)には読ませてるんですけど。
──イマジナリーサン(笑)。
面白がってくれてますよ。「日本はこのままじゃダメだ」って言ってます(笑)。
──理想の読者ですね。
ははは(笑)。甥っ子姪っ子はリアルにいるんで、その子たちにプレゼントするのもいいなと思いました。親も喜ぶだろうし、まず普通にマンガとして面白いんで、子供たちにも喜んでもらえると思いますね。
──あまり“大人からの押しつけ感”もないですしね。擬人化表現を事実に再変換する過程で、想像力も鍛えられますし。
最近、この手の“勉強になるマンガ”が増えてるじゃないですか。いろんな専門知識を擬人化コメディとして読ませてくれる作品がいっぱい出てきていますけど、すげえいいブームだと思っていて。もっともっといろんなジャンルでこういうのが増えてほしいですね。「地政学ボーイズ」みたいに、エンタメとして再構築してもらえるのはありがたいです。
推しキャラトップ3は?
──推しキャラなどはいますか?
俺、ドイツくん好きなんですよ。もともとドイツの人たちに対して“真面目で勤勉”みたいな、ちょっと日本人と似ているイメージを持ってたんですけど、まさにそのとおりのキャラクターで。こういうやつって損するんですよね。昨今、お笑いの世界では“クズ芸人ブーム”みたいなのがあるんですけど、「なんで人の道を逸れているやつが人気出るんだ?」と俺は常日頃思ってるわけですよ。真面目なやつこそ評価されるべきなのに。
──それはわかります(笑)。
でもやっぱり、ちょっとズレていておかしなやつのほうが注目されるし、インパクトもあるから人気出るんですよ。それを思うと、俺はやっぱりドイツくんが愛おしくてしょうがない。報われてくれ!と思って見ています。だから1位はドイツくんですね……あくまでこのマンガの中での話ですよ?(笑) 国としてのドイツにそこまで思い入れはないんで。好きではありますけどね、ビール大好きだし。
──ベスト3ぐらいまで選んでいただいてもいいですか?
アホの子が好きなところもあるんで、ギリシャくんとか好きですよ。本当はお金ないのにEUに入りたいからウソついて入れてもらうとか、普通に考えてヤバいですよね(笑)。「入っちゃえばなんとかなるだろ」みたいな……友達関係ならまだわかるけど。
──粉飾決算のことですね(笑)。あまり日本人には想像しづらいメンタリティではありますよね。
あとは「カッコいいな」と思うのが、イギリスくん。帝王感みたいな、ロイヤルな感じが好きっすね。選ぶとしたらその3人。全然タイプが違いますけど、友達にほしいのはギリシャくんで、仲間にしたいのはイギリスくんって感じです。その2人は同率2位っすね。で、ドイツくんは友達としても仲間としてもいてほしいタイプです。
──3人ともヨーロッパのキャラクターですね。
あ、そうっすね。なんか、ヨーロッパの自由な感じに憧れるのかもしれないです。日本ってインフラも整ってるし社会のルールもみんな守るし、それがいいところではあるけど、ちょっと息苦しい部分も否定できないっていうか。そういう意味では、自由なキューバくんとかもいいなって思いますね。ベスト3として3人選びましたけど、そこまでがっつり差があるわけじゃないです。アメリカくんやロシアくんも好きだし、キャラ造形でいえば韓国くんと北朝鮮くんがかわいらしくてお気に入りなんで。
──推しキャラを聞いておいてアレですけど、この作品ってキャラクター単体というよりも“関係性”を推したくなる作品でもあるのかなと感じていまして。
そうなんですよね。同じキャラクターでも、誰と関わるかによって違う表情を見せるのが面白い。「ここに対してはスンとするけど、こっちには尻尾振るんだ?」みたいな(笑)。それって人間関係そのものなんで、国際関係の比喩ではあるけど自分事に置き換えやすいんですよね。
──作中には「シーパワー(海洋勢力)/ランドパワー(大陸勢力)」などという概念も出てきます。
このマンガを読むまで、国に対して「シーパワーかランドパワーか」なんて考えたこともなかったし、聞いたこともなかった気がします。とくに、「隣国と地続きの国にはそんな苦労があるんだ?」という驚きがありましたね。日本という島国に生まれ育つと、生活の中にその感覚がないじゃないですか。実は恵まれた環境だったんだな、ということがすげえよくわかる。逆に、江戸時代に黒船が来たあと、よく世界中に戦いを仕掛けにいきましたよね。こんな小国が。
──それは本当に思いました。ヒノモトくんらしくない行動というか(笑)。
そうそうそう。あのときのヒノモトくんはちょっと様子がおかしかった(笑)。もちろん、そこでいろいろあったから今のヒノモトくんがあるんだろうし、アメリカくんとの関係がこうなってるってことではあるんですけど。
──国の歴史を「人に歴史あり」みたいな感じでスッと飲み込めるのも、本作の大きな特徴ですね。
世界って絶妙なバランスで成り立ってるんだな、というのも改めて感じますよね。
──「バッファゾーン(緩衝地帯)」という用語も出てきますが、実際の人間関係でもそういう人いますもんね。「あの人が間に挟まることでどうにか均衡が保たれている」みたいな。
たぶん、誰が読んでも「あの人はあの国っぽい」と当てはめられますよね。国際関係がオフィス内の人間関係として描かれているからこそ、教室とかにも置き換えやすいだろうし。「あの人に近い席だと、あの人はいいけどこの人は嫌なんだな」みたいな(笑)。
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パンサーの3人を国に例えると……

