百合太郎×ネブクロ×パレゴリック バンチ25周年記念、ホラー作家鼎談

新潮社のマンガレーベル・コミックバンチが、2026年5月に25周年を迎えた。2001年5月の週刊コミックバンチ創刊以降、月刊コミック@バンチ、月刊コミックバンチ、そして現在のコミックバンチKaiと変遷をたどり、2013年10月にはWebマンガサイト・くらげバンチ、2025年11月にはマンガアプリ・くじらバンチをリリース。紙からWeb・アプリと姿を変えながら、多彩な作品を世に送り出してきた。

そんなバンチの25周年に合わせて、「カヤちゃんはコワくない」の百合太郎、「訳アリ心霊マンション」のネブクロ、「ニクバミホネギシミ」のパレゴリックの鼎談をセッティング。ホラー作家3人に、恐怖を演出するための術を語り合ってもらった。

取材・文 / 小林聖

百合太郎、ネブクロ、パレゴリック、ホラー作家3人のルーツ

──今回はホラー系の作品を描いているお三方に集まっていただきましたが、皆さん、ホラーを描くきっかけは何でしたか?

パレゴリック 私はマンガ賞からのデビューだったんですが、賞をもらったときに担当編集さんからホラーを描いてみませんかと提案してもらったのがきっかけです。それまでホラーってまったく描いたことがなくて。ホラー映画なんかはよく観てましたけど、それも軽く楽しむ程度でした。

百合太郎 え、意外!

パレゴリック 当時は自分がどういうジャンルに向いているのかもわかってなくて、ただ物語を作りたいという気持ちだけで描いていたから、「ホラーどうですか?」って言われたときも「じゃあ描いてみようか」という感じで。それで練習で描いたものをpixivにアップしたり。

──描いてみたらハマった、と。

パレゴリック そうですね。ただ、私自身は怖い物語を観てもあんまり怖がれないタイプなので、自分で描いているものが本当に怖いのか不安です。

ネブクロ 怖いですよ(笑)。

百合太郎 めっちゃ怖いですよね。昔担当編集さんに「この作品、めっちゃ怖いから読んでみてください」って言われて紹介されたのがパレゴリック先生の「見ろ」という読み切りで。軽い気持ちで読んだら、「こわっ!」ってなりました。

ネブクロ そうそう、あれ怖いですよね。

「見ろ」の扉ページ。同作はくらげバンチで公開中。

「見ろ」の扉ページ。同作はくらげバンチで公開中。

百合太郎 それからしばらくして「ニクバミホネギシミ」の連載が始まったから、もともとホラーが好きなんだと思ってました。

パレゴリック 全然そうじゃないんです(笑)。ボディホラー(身体の変容や破壊をテーマにしたホラー)的な絵を描くのは好きだったんですが、それをホラーだと認識してませんでした。皆さんはどうですか?

ネブクロ 僕はもともと少年マンガ系の読み切りを他誌に持ち込んで担当さんと一緒に賞をもらおうとがんばってたんですけど、なかなかデビューのきっかけがつかめなくて。それで、息抜きで全然違うジャンルのものをSNS用に描いてみようと思ったのがきっかけです。洒落怖(しゃれこわ。旧2ちゃんねるオカルト板の名物スレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」やそこに集まった怪談の総称)ってあるじゃないですか。あそこに書かれている怪談が好きで。YouTubeの怪談動画なんかもよく観ていたので、自分なりの解釈で怪談を描いてみたらどうなるんだろうと思って挑戦してみたんです。それがくらげバンチの編集さんの目に留まって声をかけてもらいました。

百合太郎 私はもともと怪談やホラー映画全般が大好きでした。基本的には観るだけだったんですけど。

パレゴリック 百合太郎先生に初めて会ったとき、怖い映画とかめちゃくちゃ教えてもらってすごく勉強になりました!

百合太郎 推しを語るオタクみたいになってたよね、私(笑)。それで連載前に担当編集さんと読み切りを考えてるときに実話怪談のコミカライズがアイデアとして出て。結局その話は流れちゃったんですけど、実話じゃなくてフィクションホラーで何かできないかって考えて生まれたのが「カヤちゃんはコワくない」の前身みたいな読み切りでした。

──百合太郎先生は前職が幼稚園の先生だったんですよね。

百合太郎 そうです。身近な怖いことを考えたときに、幼稚園のヒヤリハット(大事には至らなかったものの危険な状況に直面し「ヒヤリ」としたり「ハッ」とすること)が頭に浮かんで。ヒヤリハットと怪談のヒヤリを掛け合わせたら怖くなるんじゃないかって思ったんです。

「カヤちゃんはコワくない」1巻

「カヤちゃんはコワくない」1巻

怪談好きも唸らせる“パレゴワールド”

──ホラーを描いている皆さんから見て、それぞれの作品の魅力やすごいところってどこだと思いますか?

ネブクロ 「ニクバミホネギシミ」はとにかく怖い。自分の「訳アリ心霊マンション」は怖いけど最後ギャグで落とす作品ですが、「ニクバミ」は不気味に始まり不気味に終わるじゃないですか。そういう話ってやっぱ憧れますね。クダンをモチーフにした弊呼(べこ)の話(第8話「弊呼殺し」)とかすごく好きです。

パレゴリック なんかめっちゃ褒めてもらうんですよね、あの話。

ネブクロ 僕もこういう話を描きたいです。

「ニクバミホネギシミ」第8話「弊呼殺し」より。

「ニクバミホネギシミ」第8話「弊呼殺し」より。

百合太郎 「ニクバミ」って完全にオリジナルな話もあれば、有名怪談や古典怪談、都市伝説みたいなインスピレーション元がある話も多いじゃないですか。その解釈や展開の仕方がうまいですよね。私は怪談が好きだから元ネタを知ってることも多いんですけど、もとの怪談をただなぞるんじゃなくて、思いもしない展開になっていたりする。私みたいな斜に構えたホラー好きでも驚くし、ぞっとする話が多いんですよね。唯一無二の“パレゴワールド”だと思います。ホラーは詳しくなかったと言ってましたけど、すごく勉強してますよね?

パレゴリック いや、けっこう泥縄ですよ(笑)。私は物語を作るとき、最初にサブタイトルから考えるんです。これをモチーフにしようって口当たりのいいサブタイトル考えてから、そのテーマに絡められそうなものを調べてチャンポンにしていく感じ。フックなんてあればあるだけいいだろうって思ってるので。

百合太郎 それであの沼深い世界を……!

「ニクバミホネギシミ」1巻

「ニクバミホネギシミ」1巻

肉感がある「訳アリ心霊マンション」の霊の怖さ

──「訳アリ心霊マンション」はどうですか?

パレゴリック 「訳アリ」はすべてのキャラクターが立ってるのがすごいと思います。「訳アリ」の構成的に毎回新しい怪異が出てくることになるじゃないですか。だから、絶え間なくキャラクターが増えるんですけど、その全員にちゃんとバックボーンがある。ボディホラーもそうですけど、私、変わってしまったものが好きなんです。もともとこういう人間だったのが、こうなってしまった、という話。「訳アリ」はまさにそういうビフォーアフターがちゃんと描かれているじゃないですか。もともとの人間と、それが怪異になってしまった経緯や理由がしっかり描かれていて、だから執着するものもはっきりわかる。私はキャラ作りが苦手なので、たくさんの魅力的なキャラクターを生み出せるのがすごいなと思ってます。

ネブクロ ありがてえ!(笑) それぞれの怪異を物語のアイテムで終わらせたくないなとは思っています。もともと人間だったお化けも多いし、お化けをただのお化けで終わらせてしまうと深みも出ないですから。

パレゴリック 私はアイテムで終わらせてしまいがちなので、見習いたいです。

ネブクロ ただ、今はマンションの住人になったあとの霊たちってどうなってるの?というところも気になっていて。その辺が課題ですね。

パレゴリック じゃあ、今まで出てきた住人たちのその後のストーリーがもっと読めたりするかもしれない?

ネブクロ そうですね。そういう話も描けたらいいなと思ってます。

「訳アリ心霊マンション」1巻

「訳アリ心霊マンション」1巻

百合太郎 バックボーンの話ももちろんですけど、「訳アリ」の霊ってめっちゃ肉感ありません? あれが怖いですよね。風とかで飛んでいきそうにないというか。

──フワフワした霊体って感じじゃないですよね。第2話の飛び降り自殺の怪異とかかなり嫌な動きをしてくる。

百合太郎 そうそう。ジャパニーズホラー的な霊というより洋画ホラー的な、肉体を持って襲ってくるような怖さがある。だから、実際にいたら一番命の危険を感じる怪異ですよね。近づいたらヤバいやつって感じがすごいする。

「訳アリ心霊マンション」第2話「飛び降り自殺」より。
「訳アリ心霊マンション」第2話「飛び降り自殺」より。

「訳アリ心霊マンション」第2話「飛び降り自殺」より。

ネブクロ 個人的にはやっぱり百合太郎先生とかパレゴリック先生が描く浮遊感のある幽霊描きたいんですよね。僕が描くとなんか飛ばないんですよ。

百合太郎 私は自分にない魅力なのですごく魅力的に感じてますよ。で、みんなパニックになっているところに主人公の大家さんが出てくると一気に安心感が生まれるというか。水戸黄門の印籠じゃないですけど、読者の「よ! 待ってました!」という気持ちを満たしてくれる。幽霊が怖ければ怖いほど、最後カタルシスが生まれるんですよね。ホラー畑の人間が考えがちなただ怖い話とは違う魅力がある。

「訳アリ心霊マンション」第2話「飛び降り自殺」より。
「訳アリ心霊マンション」第2話「飛び降り自殺」より。

「訳アリ心霊マンション」第2話「飛び降り自殺」より。