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KAAT Dance Series 2017 矢内原美邦&小野寺修二|恵まれてた? そんなことあるわけない!

8月29日に初日を迎える「イマジネーション・レコード」と、その1カ月後、9月29日に初日を迎える「WITHOUT SIGNAL!(信号がない!)」。「KAAT Dance Series 2017」にラインナップされた両作を手がけるのは、Nibrollの矢内原美邦とカンパニーデラシネラの小野寺修二だ。活動黎明期に出会い、それぞれの道を邁進してきた2人が、約20年の歩みを共に振り返りながら、最新作を語る。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 川野結李歌

アビニョンで一緒にチラシを配った

──Nibrollは1997年、水と油は96年に旗揚げされましたが、お二人が出会ったのはいつ頃でしょうか?

左から矢内原美邦、小野寺修二。

小野寺修二 1997年ですね。神楽坂セッションハウスの企画で8組のグループが出るというのがあって。

矢内原美邦 97年って何年前ですか? え、20年も前?

小野寺 そうだよ! そのトップバッターが安藤洋子さんだったことは覚えてて。僕は2人で水と油として出ました。

矢内原 私もNibrollとして出てましたね。あと珍しいキノコ舞踊団の(伊藤)千枝ちゃんもいたし、コンドルズやイデビアン・クルーもいて。みんなで盛り上げるみたいな企画で、何を盛り上げたのかはよくわからないけど(笑)。いろんな人が出てたなあ。

小野寺 バラバラでしたよね。

矢内原 当時、そういう企画があちこちであって。そのあと小野寺さんとはアビニョンでも会ったよね?

小野寺 そう、STスポットだったかな、チラシを見付けて、Nibrollはアビニョンに行ってるということに大興奮して、どうやったら行けるのかを教えてもらって(笑)。

矢内原 一緒にチラシ配ったよね。

小野寺 うん、でも水と油は当時トンがってたから、「Nibrollとは違います、絶対負けたくない」みたいな雰囲気も出してて(笑)。

矢内原 そんなことないよ! そうそう、チラシを配るときに普通のダンスと思われると客が来ないんじゃないかと思って、うちのスタッフが白塗りの舞踏ふうにしてチラシを配ってた(笑)。それ、すごいよく覚えてるな。

小野寺 三味線持ってる人もいたよね(笑)。

矢内原 本番は全然違うのに(笑)。ほかにも、当時知り合ったコンドルズの(近藤)良平さん、千枝さん、イデビアン・クルーの井手(茂太)くんとか、今は取材やコンクールの審査員とかで一緒になるくらいだけど、お互い元気でやってるなあと思って見てます。

小野寺 最近お互いの作品を観に行くこともあまりできてないけど、でも公演をやってることは知ってるから「みんながんばってるんだな」と思ってますね。

Nibrollはそもそもかなりズレてる

──今のお話にあった通り、2000年前後にはさまざまなダンスカンパニーが乱立し、ダンス界が賑わっていました。そもそも20年前にお二人がダンスやマイムといった、身体表現を始めたのは何か理由があったのでしょうか?

矢内原美邦

矢内原 Nibrollはもともと映像学校の集まりなんですよ。当時自主映画を撮ってたんですけど、フィルム代があまりにかかりすぎて途中で撮れなくなって。で、どうやってお金を集めたかと言うと、東洋医学ってところに血を抜きに行って。

小野寺 わかりやすいお金の集め方ー!(笑)

矢内原 30人くらいで行くと30万になった(笑)。で、実際はそんなことないんですけど、「その程度のお金だったら舞台しかできないね」って話になって、舞台をやることになったんです。それでやってみたら「1カ月くらい稽古をすると毎日作品が変わるのが面白いね」ってことで始まった団体なので、そもそもかなりズレてる。最初の「林ん家へ行こう」(1998年)って作品もテーマがちょっとおかしくて、それは伊藤キムさんのワークショップを受けに行ったけど場所がいつまで経っても見付からなくて、ワークショップが終わる頃にようやくたどり着いて残念だった、って思いから生まれた作品で。

小野寺 すごいな、それは(笑)。

矢内原 上演中、ずっとカーナビが流れてて、いつまで経っても林の家に着かないっていう。それを柄本明さんが観てくれて「面白い」と言ってくれたんですけど(笑)、「なんで着かないんだ!」って言って肩を叩いたりビンタしたり、そういうのが当時のダンスには珍しかったんですよね(笑)。私自身は大阪体育大学の出身で、そのあとアメリカのデューク大学に留学して舞踊を専攻してるんです。バレエ、アメリカンモダン、リモンテクニック、マーサ・グラハム・テクニックとかを一生懸命やってたけど、それが嫌になって。

小野寺 そういうことなんだね。でもそれが基礎にはなってるんでしょ?

矢内原 うん、そうですね。この歳になって基礎はものすごい重要だなって学生に教えるときも思いますけど。

小野寺修二

小野寺 僕は、マイムをここまで続ける気は、はじめはなかったかもしれません。普通にお芝居をやりたいと思う中でとっかかりとしてマイムを始めて、そこで出会った人たちと何かやろうという行き当たりばったりな感じだったので。だから「ダンスに衝撃を受けて」というのではないし、(水と油メンバーだった)じゅんじゅん(JunJunSCIENCEの高橋淳)がダンス好きだったから影響を受けた面が多いけど、個人的にはダンスって未知の世界で、観てもよくわからないことが多かった。ただ、自分の中で学生の頃やっていた演劇が頓挫してたので、刺激的ではありましたね。先が見えない状況で右往左往してる感じが居心地いいというのもあり(笑)。何をやってもいいし、ちょっと仲間に入れてもらえたりする感じがありがたいなと。

──水と油はマイムの中でも特殊な存在だったのではないでしょうか。

小野寺 そう、マイムの人たちに全然相手にされなくてアウェーでしたね(笑)。

矢内原 水と油は、マイムから発展してダンスが混ざり、わーっと展開していく、そこが観てて面白いと、みんな感じてたと思いますけどね。コンテンポラリーダンスって、例えばマイムほど歴史が長くないから、どんなジャンルのものでも受け入れてしまう感じがあったと思うし、セッションハウスとかSTスポットとか、50人も入るといっぱいになるような実験的な場所で、お金をかけずにお互いの作品を観られたのは、当時すごく刺激的でした。

小野寺 まじめだったと思う。公演を打つってお金もかかるし人も時間も拘束するし本当に大変なんだけど、周りを見回すと意外とみんなやれてるから自分もやってみようと思えた。カンパニー同士、横のつながりは特になかったけど、それでも周りがいるからやれる感じはあったと思う。

KAAT Dance Series 2017
Nibroll結成20周年
「イマジネーション・レコード」
「イマジネーション・レコード」
2017年8月29日(火)~9月3日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
  • 振付:矢内原美邦
  • 映像:高橋啓祐
  • 音楽:SKANK/スカンク
  • 衣裳デザイン:田中洋介
  • 出演(五十音順):浅沼圭、石垣文子、大熊聡美、中西良介、藤村昇太郎、皆戸麻衣、村岡哲至
KAAT Dance Series 2017
小野寺修二・カンパニーデラシネラ
「WITHOUT SIGNAL!(信号がない!)」
「WITHOUT SIGNAL!(信号がない!)」
2017年9月29日(金)~10月1日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
  • 演出:小野寺修二
  • 出演:Nguyen Thi Can、Nung Van Minh、Nguyen Hoang Tung、Bui Hong Phuong、荒悠平、王下貴司、崎山莉奈、仁科幸
矢内原美邦(ヤナイハラミクニ)
矢内原美邦
1971年愛媛県出身。振付家、劇作家、演出家、ダンサー。高校時代にダンスを始め、全国高校ダンスコンクールにてNHK賞、特別賞など数多くの賞を受賞。大阪体育大学舞踊学科を卒業後、民族舞踊を学ぶためにブラジル各地の大学にて研修。帰国後、映像学校に入学し、1997年にNibrollを結成。国内外のフェスティバルに招聘され、高い評価を受ける。2005年には自身が劇作・演出を手がける演劇プロジェクト「ミクニヤナイハラプロジェクト」を始動させ、07年にはソロダンス作品「さよなら」にて第1回日本ダンスフォーラム賞を受賞。2008年には「青ノ鳥」が第52回岸田國士戯曲賞最終候補作品となる。また、舞台作品を平行してビデオアート作品の制作を始め、off-Nibroll名義で映像作家の高橋啓祐とともに活動。2004年森美術館主催の展覧会「六本木クロッシング」にて森美術館会員特別賞を受賞し、同年9月上海ビエンナーレのほか、世界各地の美術展に招聘された。2012年に「前向き!タイモン」が第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2017年にNibrollは結成20周年を迎えた。
小野寺修二(オノデラシュウジ)
小野寺修二
1966年北海道出身。演出家。日本マイム研究所にてマイムを学ぶ。1995年から2006年、パフォーマンスシアター水と油にて活動。その後、文化庁新進芸術家海外留学制度研修員として1年間フランスに滞在する。帰国後、カンパニーデラシネラを立ち上げる。首藤康之、浅野和之、安藤洋子、南果歩、原田知世、片桐はいりなど、さまざまなダンサーや俳優と創作を重ねており、松本清張作「点と線」、カミュ作「異邦人」、ドストエフスキー作「カラマーゾフの兄弟」、シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」など、小説や戯曲を基にした作品を多数発表している。また、白井晃、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、宮本亜門、松村武、長塚圭史など、人気演出家との仕事も多く、2010年には「叔母との旅」のステージングおよび「ハーパー・リーガン」の振付にて、第18回読売演劇大賞最優秀スタッフ賞を受賞した。2016年には文化庁文化交流使としてベトナムとタイに滞在。11月にSPAC秋→春のシーズン 2017-2018のプログラムの1つとしてカフカ「変身」の演出を、来年2018年3月にカンパニーデラシネラ「『椿姫』『分身』二本立て公演」の演出を手がける。