「ドキュメンタル」シーズン3|「ドキュメンタル」徹底解剖

寄稿 てれびのスキマ
お笑いマニアのためだけじゃない!
実は誰もが楽しめる番組

芸人たちの楽屋での笑わせ合い

「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」シーズン3のワンシーン。

「一番面白いものは何か」。このシンプルで壮大な問題を常に問い続けてきた松本人志。「その成れの果て」と松本自身が形容するのが「ドキュメンタル」だ。密閉された空間に、10人の芸人たちが集まり、そこで笑わせ合う。笑わせる方法もタイミングも自由。トークでもボケでも、持ち込んだ小道具を使ってもいい。もちろん、相手の言動にツッコミを入れて笑わせてもいい。「笑いの無法地帯」だ。松本も言うように、地上波のテレビではなかなかできないであろう原始的で究極的な笑いの戦場である。

そう言われると、敷居が高くなってしまって、お笑いマニアのためだけの番組だと思ってしまうかもしれない。けれど決してそんなことはない。イメージでいえば道場マッチ。いわば、芸人たちの楽屋での笑わせ合いを覗いている感じだ。それに「笑ってはいけない」という緊張感が加わるため、余計面白い。だから、実は誰もが楽しめる番組なのだ。

ハプニングこそが面白い

東京ダイナマイト・ハチミツ二郎

中でも印象的だった笑いをシーズン1とシーズン2から挙げてみたいと思う。前述の通り、ルールは何でもあり。小道具の持ち込みも自由だ。それを最大限活用したのは、シーズン1のハチミツ二郎。彼は数あるプロレスマスクコレクションを持参。次々と面白マスクを被り変える、まさに「千の顔を持つ男」となり、相手を笑わせようと目論む。そんな彼がもっとも爆発的な笑いを呼んだのが、そのマスクではなく、マスクを被りコーナーポストからのダイブよろしく、イスから飛ぼうとしたとき。イスが滑り激しく転倒したのだ。用意したボケよりも、その場で起こったハプニングこそが面白いという笑いの真理を皮肉にも証明していた。

陰のMVP、表のMVP

シーズン2の陰のMVPといえるのが、ジョイマン高木である。出場していないのに陰のMVPと言われても、観ていない人には何のことか意味がわからないと思うが、彼の“存在感”が破壊力を持ち多くの笑いを誘った。

左からFUJIWARA藤本、ジミー大西。

ジョイマンが陰なら表のMVPはフジモンこと藤本敏史だろう。とかくジミー大西など大ボケの独壇場になりがちなところで、ほかの芸人たちに振るなど裏回し的に場の流れを作る姿勢は番組の成功に大きく貢献したが、それ以上に「とにかく笑わせればいい」という「ドキュメンタル」のルールをもっともうまく乗りこなしていたことでも際立っていた。

笑いを競うということになった場合、どうしても脚光を浴びるのは「ボケ」だ。しかし、『ドキュメンタル』はツッコミでも笑いを取ればいいルール。細かな部分に目を光らせ、数々の「ガヤ」を駆使してきたフジモンの本領が発揮される。ちょっとした違和感による笑いどころにいち早く気づき、「え?」とツッコむフジモンが数多くの笑いを誘発させていた。

一方で、このルールが難しいのは、本当に面白い人は基本的に“ゲラ”だということだ。面白い人というのは、誰よりも笑いに敏感だ。だから、攻撃力は高いが、防御力は低くなってしまう。また、あらゆる種類の面白さを知っていると、どうしようもないほど面白くないものを面白く感じることがある。

「世界一面白い人って、きっと世界一面白くない人なんです」。松本が言うような哲学的な境地まで感じさせてくれるのが「ドキュメンタル」なのだ。

芸人のメンタルが試される場所

天竺鼠・川原

そんな中で、攻撃力も防御力も高い稀有な出場者がシーズン1の天竺鼠・川原だ。終盤になり、ほかの出場者がイエローカードやオレンジカードをもらって追い込まれている中 、川原はまだ無傷。カードに余裕があるんだから一度笑ってみたら、と言われて繰り出したボケは痺れるものだった。満面の笑みを見せたのだ。笑ってはいけない場面であえて思いっきり笑うという、残りのメンバー全員を一発で笑わせようという肉を切らせて骨を断つボケ。結局、ギリギリでほかのメンバーは耐え、自分ひとりがカードをもらうという結果に終わったが、松本も賞賛していたように、強力なメンタルを見せつけた印象的なボケだった。

「ドキュメンタル」はその名の通り、芸人としてのメンタルが試される 。最後まで生き残ることだけを考えれば、相手のボケに背を向け、自分からもボケなければいい。笑いはその態勢に入っていなければ、起こりにくいからだ。だが、芸人である以上、それでいいわけがない。相手のボケに対する受け身を取った上で、自ら積極的に仕掛けることこそが、芸人としての本懐といえる。

松本人志

シーズン3は、レイザーラモンRGやロバート秋山を筆頭にシリーズ屈指の強心臓の猛者たちが集まった。オードリー春日は、大きなカバンにあふれそうなほどの大荷物を入れて登場してきた。逆にまったくの手ぶら、ノープランで乗り込んできたサンドウィッチマン伊達。

そして、今回の目玉の1人といえるのが、極楽とんぼの山本圭壱。再起をかけメンタルも充実しているだろう。芸人が追い込まれたときの爆発力は、松本が絶賛したシーズン2の最終盤で証明済み。シーズン3もきっとそれを見ることができるはずだ。

てれびのスキマ(戸部田誠 / トベタマコト)
1978年生まれのテレビっ子。ライター。著書に「タモリ学」(イースト・プレス)、「有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか」「コントに捧げた内村光良の怒り」(ともにコア新書)、「1989年のテレビっ子」(双葉社)がある。笑福亭鶴瓶の“スケベ”な人生哲学を紐解く、最新刊「笑福亭鶴瓶論」(新潮社)も発売中。
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Contents Index
テレビっ子・てれびのスキマと「ドキュメンタル」徹底解剖
マキシマムザ亮君が語る「ドキュメンタル」
岡井千聖が語る「ドキュメンタル」
Amazonオリジナル作品
「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」
シーズン1
Amazonオリジナル作品「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」シーズン1

出演者
FUJIWARA藤本 / 宮川大輔 / ジミー大西 / ダイノジ大地 / 野性爆弾くっきー / 東京ダイナマイト・ハチミツ二郎 / とろサーモン久保田 / 天竺鼠・川原 / トレンディエンジェル斎藤 / マテンロウ・アントニー

シーズン2
Amazonオリジナル作品「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」シーズン2

出演者
FUJIWARA藤本 / 宮川大輔 / ジミー大西 / バナナマン日村 / アンジャッシュ児嶋 / バイきんぐ小峠 / 森三中・大島 / ダイアン津田 / 平成ノブシコブシ吉村 / ジャングルポケット斉藤

「ドキュメンタル」シーズン2特集
シーズン3
Amazonオリジナル作品「HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル」シーズン3

出演者
極楽とんぼ山本 / TKO木下 / ケンドーコバヤシ / 野性爆弾くっきー / フットボールアワー後藤 / サンドウィッチマン伊達 / ロバート秋山 / レイザーラモンRG / オードリー春日 / プラス・マイナス岩橋

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2017年9月13日更新