音楽ナタリー Power Push - ZAQ×fhána

ないものねだりのマブダチ対談

世界を肯定する方法を探すfhánaのアルバム

──では、続いてfhánaのニューアルバムのお話を……。

ZAQ さあしよう! 私は4曲目が好きよ!

towana 私もー!

──そのお話も伺うとして(笑)、まずアルバムタイトルは「What a Wonderful World Line(この素晴らしき世界線)」と、非常にポジティブに見えるのですが……。

佐藤 スタートはすごいダウナーなところからなんですよね。アルバムの制作に入る前、僕はとにかく日々に疲れていたし、いろいろつらいなって日々思ってたんです。一所懸命音楽を作ったりしてるけど「それになんの意味があるんだ?」って。そうやって疲弊している自分を癒すというか、奮い立たせるためのメッセージが、アルバムのテーマや歌詞に織り込まれていて。ここで言う「世界線」とは、SF的な、いろんなパラレルワールドがあるうちの、僕らが今いる世界であり、可能性の1つっていう意味なんですけど。

──ほかに可能性があったかもしれないけど「この世界線でいいんだ」というメッセージ。

佐藤 はい。アルバムタイトルはルイ・アームストロングのスタンダードナンバー「What a Wonderful World(この素晴らしき世界)」からインスパイアされているわけですが、この曲はベトナム戦争の時期に書かれたんですね。つまり、世界が素晴らしいとは言い難いときだからこそ歌われた曲。それと同じように、今の時代、この世界線も理想とは程遠い状態だと思うんですけど、だからこそ、それを肯定する方法を探すアルバムにしたかったというか。

ZAQ

ZAQ 1曲目のAメロから「何万回続く寂しさにも 言い訳を言う暇もなくて」って、どんだけ疲弊してるんだこの人は!?っていう。そこから2曲目の、今いる世界線を肯定する表題曲につながるんだから、すごいですよ。

佐藤 この1曲目「The Color to Gray World」における“灰色の世界”というのは、自分が生きる意味も見出せない世界であり、この世界そのものが存在することにすら意味を見出せない状態なんですね。見い出せないというか、実際、生や死や、この世界の存在っていうのは単なる現象であって、別に意味があるわけではないと思うんです。たまたま宇宙があって、たまたま地球に生命が誕生しただけで、それもそのうち滅ぶ。だけど、そこに意味=“色彩”を与えるのは、結局のところ自分の意思なんだよって。

人と人はわかり合えないから、孤独じゃない

──佐藤さんは、発想がSF的ですよね。人間なんて宇宙的な視点から見ればチリみたいな取るに足らない存在だけれど、それでも人間らしく生きなきゃダメなんだっていうSF的なメッセージにも取れます。

佐藤純一(fhána)

佐藤 そうとも言えるかもしれませんし、あるいはもう1つ僕の実感として「人と人はわかり合えない」というのがあるんです。今は過剰に共感を求める時代じゃないですか。例えばSNSで「いいね」し合うみたいに。まあ僕も「いいね」してますけど、それって表面的な共感ですよね。

──そうかもしれません。

佐藤 人と人はわかり合えるっていう前提からスタートすると、わかり合えなかったときにショックだし、ケンカにもなるし、国と国だったら戦争になりかねない。それよりも、わかり合えないという前提で、お互いに理解できないことを認め合うというか、わかり合えなさに折り合いをつけようとするプロセスが大事なんじゃないか。そのほうが建設的なんじゃないかと。逆に言えば、わかり合えないって、普通に考えたら不幸に思えるけど、じゃあもし人々が完全にわかり合えたら、どうなるんだって話で。

──相手の心を読めるのか、相手と同化できるのかって話に。

ZAQ 怖い怖い。

佐藤 それってつまり、自分と他者の境がなくて、極端に言えばどこまで行っても自分しかいない、孤独な世界じゃないですか。やっぱり、わかり合えないから自分と自分以外の他者がいて、だからこそ人は孤独じゃない。1周回って希望を見つけるみたいな、そういうことを歌いたかった曲ですね。

ZAQ やっぱり佐藤さんは繊細だよ。

世界戦略も視野に入れた「Relief」

──先ほどZAQさんは4曲目の「Relief」がお好きとおっしゃいましたが……。

ZAQ めっちゃ最高ですよこれ! サビもサイドチェインベースが効いてて勝手に体が動くし、佐藤さんがこんなテクノポップを書いちゃうんだ!っていう。

佐藤 この曲は、音楽的には僕の趣味枠だったんですよ。

ZAQ マジですか!? 超メインストリームだと思いましたけど。

佐藤 ZAQさんは1人で曲を作ってるから、シングルのタイアップ曲はアニメのテーマに沿って、カップリングで自分を出すっていうバランスが取れてると思うんですね。

ZAQ うんうん。

左からyuxuki waga(fhána)、kevin mitsunaga(fhána)。

佐藤 でもfhánaの場合、今のところタイアップ曲は全曲僕が作っていて、カップリングはyuxukiくんとkevinくんがそのとき作りたいものを作ってるんです。もちろんアニメのテーマに沿っているとはいえ、そこに自分たちの音楽性を掛け合わせているし、それはそれですごく面白いんですけど、たまには僕も自由に作りたくて。

ZAQ もっとそのカラーを打ち出していきましょうよ。これ、歌詞も英語だし、海外で出しても絶対売れますって。世界流通目指しましょう!

towana そういう目的もあって、全編英詞で歌ったところもあるんですよね。

佐藤 去年アトランタでライブをやらせてもらったりして、海外の方からの反響も多くいただいたんです。それで気持ちが外向きになった部分もあって。「Relief」という曲名も「救済」という意味で、世界に向けてどういう歌詞がいいのかなって考えたときに、誰でも何かしら救いを求めてると思ったんですよね。でも、安易な救済は、カルト的な怖さがある。本当の救いは他人から安易に与えられるものじゃなくて、自分の中にこそある。自分を救えるのは自分しかいないし、それが最終的には他人を救うことにもつながる、みたいなことを歌っています。

ZAQ ニューシングル「割レル慟哭」 / 2016年4月27日発売 / Lantis
アーティスト盤 [CD+DVD] 1944円 / LACM-14479
アニメ盤 [CD] 1404円 / LACM-14480
CD収録曲
  1. 割レル慟哭
  2. 星空を歩く音
  3. Page
  4. 割レル慟哭(OFF VOCAL)
アーティスト盤DVD収録内容
  1. 割レル慟哭 Music Video
  2. Making of 割レル慟哭
ZAQ 2ndアルバム「NO RULE MY RULE」 / 2016年7月13日発売 / Lantis
Now Printing
初回限定盤 [CD+DVD] / 4320円 / LACA-35570
通常盤 [CD] / 3240円 / LACA-15570
fhána 2ndアルバム「What a Wonderful World Line」 / 2016年4月27日発売 / Lantis
初回限定盤 [CD+Blu-ray Disc] 3888円 / LACA-35557
通常盤 [CD] 3240円 / LACA-15557
CD収録曲
  1. The Color to Gray World
  2. What a Wonderful World Line
  3. ワンダーステラ
  4. Relief
  5. little secret magic
  6. Antivirus
  7. 虹を編めたら
  8. critique & curation
  9. c.a.t.
  10. Appl(E)ication
  11. 追憶のかなた
  12. ホシノカケラ
  13. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
  14. gift song
初回限定盤Blu-ray Disc収録内容
MUSIC VIDEO
  1. What a Wonderful World Line!
  2. 虹を編めたら
  3. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
  4. ワンダーステラ
リスアニ!LIVE 2016 LIVE映像
  1. 虹を編めたら
  2. コメットルシファー ~The Seed and the Sower~
  3. divine intervention
  4. 星屑のインターリュード
  5. Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~
fhána「What a Wonderful World Line Tour 2016」
  • 2016年5月7日(土)東京都 LIQUIDROOM
  • 2016年5月14日(土)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2016年5月15日(日)大阪府 umeda AKASO
  • 2016年6月4日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO(※追加公演)
ZAQ(ザック)
ZAQ

シンガーソングライター。3歳の頃からピアノを始め、音楽大学のピアノ科に進学。学生時代に触れたアニメソングに衝撃を受け、アニソンシンガーを目指すように。ニコニコ動画主催のコンテストでファイナリストとなったことを契機に、2012年、アニメ「未来日記」のキャラクターソング「正義戦隊ゴ12th!!」のサウンドプロデュースを手がけてクリエイターデビュー。その後もさまざまなアニメ作品に楽曲を提供し、また同年10月にはアニメ「中二病でも恋がしたい!」のオープニングテーマ「Sparkling Daydream」でアーティストデビューを果たした。以来順調にシングルリリースを重ね、2014年4月には初のオリジナルフルアルバム「NOISY Lab.」を発表。また2013年以来、毎年、国内最大級のアニメソングイベント「Animelo Summer Live」に出演している。2016年4月に通算11枚目となるニューシングル「割レル慟哭」をリリース。表題曲はテレビアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」の第2期オープニングテーマに採用された。また同年7月には2ndアルバム「NO RULE MY RULE」がリリースされる。

fhána(ファナ)
fhána

佐藤純一(FLEET)、yuxuki waga(s10rw)、kevin mitsunaga (Leggysalad)という3人のプロデューサーと、女性ボーカリストtowanaによる4人組ユニット。それぞれ個別に活動していた佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunagaの3人が2009年に出会い、ボーカリストを固定しないユニットとして始動した。2012年秋にはゲストボーカルの1人だったtowanaが正式加入。「僕らはみんな河合荘」「ウィッチクラフトワークス」「ぎんぎつね」「有頂天家族」「天体のメソッド」といったアニメ作品でテーマソングを担当して高い評価を集めた。さらにChouChoや相沢舞のプロデュース、さよならポニーテールやDECO*27の楽曲のリミックスなども行っている。2016年4月には2ndフルアルバム「What a Wonderful World Line」をリリース。アルバム発売後には東名阪3都市を回るライブツアー「What a Wonderful World Line Tour 2016」を行う。