音楽ナタリー PowerPush - 悠木碧

4匹の怪獣とともに いざ“スキマ”を巡る冒険に

クリエイターの撒いた種を芽吹かせる

──今作の作詞は既発のシングル曲も含め、すべて藤林聖子さんが手がけています。前回のミニアルバム「メリバ」を作るときには新居昭乃さんたち作詞家陣に楽曲ごとのテーマやキャラクターについて細かく書いた資料を渡したとおっしゃってましたけど、今回もそういう作り方を?

いえ、今回は逆算型ですね。最初は「スキマ世界はこちらの世界とは文化や質量の基準が違っていて、スキマ怪獣がいるんです」ということであったり「こちらの世界とスキマの世界をつなぐターミナルのような場所があって」ということであったり、アルバムの全体像のお話をさせていただいただけ。そのあとは藤林さんの詞や、作曲家さんたちのデモをいただくたびに、その詞や曲からもらったインスピレーションをもとに、徐々に人間の世界とスキマ世界の姿や、女の子やスキマ怪獣たちのキャラクターを肉付けしていくという作り方をしてみました。

──具体的にはどの曲からどういうインスピレーションを受けました?

例えば「ダスティー!ダスティーストマック」って3番目くらいにレコーディングしているんですけど、その頃はまだこの先どういうことを歌うか決まっていない状態で。でもその詞の中で藤林さんが4匹それぞれに性格を与えてくださったから「それならそれぞれの怪獣に個別のストーリーがあったら面白いですよね」ってことでこの子たちの物語やキャラクター設定を私が考えて。それをもとに新しい曲の詞を書いていただいています。だから「イシュメル」は、“原案”は私なんだけど、“原作”は私じゃない感じ。私が耕した畑に、藤林さんや作曲家さんたち、それからスタッフさんたちが撒いてくれた1粒の種からいろんな花が芽吹いていった感じなんです。

人間世界の音とスキマ世界の音

──一方、楽曲なんですけど、悠木さんは以前「シングルはなんのかんので表題曲勝負。シングルという絵を描くなら表題曲というキャンバスをカラフルで強い色で塗り込めるべきだけど、アルバムはレイヤー型。収録曲それぞれを好きな色、それも単色で塗っておいて、全収録曲の色を重ねたときにそのアルバムならではの色を出したい」とおっしゃっていました。

そうですね。

──で、今回のサウンドデザインは、アブストラクトな「ビジュメニア」とジャジーな「クピドゥレビュー」という2つのシングル曲をベースにしてはいるんだけど、まさにレイヤー型というか……。

11曲を11色で塗ってみました(笑)。

──ですよね(笑)。「ソラミミPiZZiCATO」は「ビジュメニア」と同じbermei.inazawaさん作編曲なんだけど「ビジュメニア」とは別の色。ガチなエレクトロニカ路線の1曲で、zakbeeさん作編曲の「迷宮舞踏会」や「ダスティー!ダスティーストマック」も打ち込み主体の「クピドゥレビュー」とは違う色。ゴージャスなジャズという意味では一緒なんだけど、もっと生感が強調されていますし。

でも最初、楽曲の選定には本当に悩んで……。というのも、そもそもスキマ世界とはなんなのか、そしてスキマ世界に似合う音とはどんな音なのかをスタッフさんや作曲家さんにお伝えするのが本当に難しかったので(笑)。

──聞くだに大変そうですね(笑)。でもどの曲も歌詞の世界とマッチしたサウンドになっています。

最初に「うーん……」って悩んでいたときにスタッフさんから「そういえばbermeiさんから曲が届いてるよ」って言われて聴いてみたのが「アールデコラージュ ラミラージュ」のデモだったんですけど、すごくビックリしたんです。スキマっていうテーマで作っていただいたわけでは全然ない。「悠木碧に歌わせてみたい曲を書いてみていただけますか?」ってお願いして作っていただいたのに、まさかこんなにスキマ世界っぽい曲が届くとは!って(笑)。この曲のおかげで私もスタッフさんも「この曲をターミナルにすれば、スキマ世界っぽい音と人間世界っぽい音をイメージできる」ってなって。そこからは選曲や新曲のお願いがスムーズにできるようになりました。例えば「『アールデコラージュ ラミラージュ』がターミナルになる!」って思ったから、じゃあ「ビジュメニア」や「twinkAtrick」や「クピドゥレビュー」のようなシングルの曲もちゃんとアルバムにキレイに収録できるぞ!って気付くことができましたし。

──で、その3曲をターミナルよりも後ろ、つまりスキマ世界に置いた。

あと「ダスティー!ダスティーストマック」もそうですね。さっきおっしゃっていたように「クピドゥレビュー」と同じzakbeeさんの曲で、ジャンル的にも比較的近いところにある曲、しかもすごくインパクトの強い曲だったので、この曲が届いたときにスキマ世界の音のイメージが本当に固まって。反対に人間世界の音もイメージできるようになったんです。今回アルバム用の新曲はいつもお願いしているbermeiさんとzakbeeさんのほかにもう1人、辻林(美穂)さんっていう方にも書いていただいてるんですけど、辻林さんはbermeiさんやzakbeeさんとはまた違うタイプの作曲家さんで。とてもあったかくて優しいんだけど、どこか不思議な曲を書く方なんです。だから辻林さんには人間世界の曲を中心にお願いしようっていうことで、ターミナルの手前、人間世界の女の子がスキマ世界に巻き込まれるきっかけの曲である「SWEET HOME」と、スキマ世界の中での話ではあるんだけど女の子とおばあちゃまのことを歌っている「ロッキングチェアー揺れて」、それからBaggyが人間世界のことを思っている「Angelique Sky」を書いていただきました。

1stフルアルバム「イシュメル」2015年2月11日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD+小冊子] 3996円 / VTZL-92
通常盤 [CD] 3240円 / VTCL-60383
CD収録曲
  1. SWEET HOME
  2. アールデコラージュ ラミラージュ
  3. ビジュメニア
  4. twinkAtrick
  5. たゆたうかなた
  6. 迷宮舞踏会
  7. ロッキングチェアー揺れて
  8. ソラミミPiZZiCATO
  9. ダスティー!ダスティーストマック
  10. クピドゥレビュー
  11. Angelique Sky
初回限定盤DVD収録内容
  • 「アールデコラージュ ラミラージュ」MV
  • 「アールデコラージュ ラミラージュ」メイキング映像
悠木碧(ユウキアオイ)

3月27日生まれ、千葉県出身の声優・歌手。4歳の頃から子役として活動し、2003年にテレビアニメ「キノの旅」で声優デビュー。2008年放送の「紅」では初のヒロインに抜擢され、その後さまざまな作品で主要キャラクターを演じる。2011年には「魔法少女まどか☆マギカ」の主人公、鹿目まどか役で大きく注目を集めた。またその一方で2012年3月に1st“プチ”アルバム「プティパ」を発表し、アーティストデビューも果たす。2013年2月には新居昭乃らを迎えた2nd“プチ”アルバム「メリバ」をリリースし、11月には神奈川・横浜アリーナでのアニソン系イベント「ANIMAX MUSIX 2013」に出演。そして2014年1月、表題曲がアニメ「世界征服~謀略のズヴィズダー~」のエンディングテーマに採用された1stシングル「ビジュメニア」を発表し、わずか3カ月後となる4月にはアニメ「彼女がフラグをおられたら」のオープニングテーマ「クピドゥレビュー」をリリース。そして同年夏の「Animelo Summer Live 2014 -ONENESS-」への出演などを経て、2015年2月、1stフルアルバム「イシュメル」を完成させた。