YUKI|変幻自在なYUKIが自分自身へ贈る2度目の1stアルバム

YUKIが2月6日に9thアルバム「forme」(フォルム)をリリースした。「2度目の1stアルバムのような気持ちでフレッシュに作った」とYUKIが語る本作は、彼女が敬愛するミュージシャンたちに作曲を依頼し、音楽を楽しみながら作っている空気までを封じ込めたようなアルバムに仕上がった。音楽ナタリーの特集ではこのアルバムに込めた思いをYUKIに聞いた。

取材・文 / 矢隈和恵

いつも100%満足ということはない

──前作「まばたき」は、“暴れたがっている”自分を全面に詰め込んだというアルバムになりましたが、その後何か気持ちの変化はありましたか?

前作「まばたき」のときもそうだったんですけど、私は「自分はどこまで自分の理想に近付けるのか?」といつも思っているんです。ソロ1枚目の「PRISMIC」(2002年3月発売)を作ったときは本当に七転八倒して、どうしていいのかよくわからない状況でしたけど、自分の取り柄を探しながら得意なところを形にしていきました。でもレコーディングの技術的な部分はやっぱりわからないことばかりでしたね。1枚目のアルバムを完成させてからは毎回自分の理想に近付きたい一心で制作を進めてきたんですけど、それでもマスタリングが終わるたびに「この曲はもっとこうしたらこうなっていたのかも」「こうすればもっとよかったかも」と思うことがあります。いつも100%満足ということはないんです。

──「次はもっとこういうものを作りたい」という欲求が常にあるんですね。

はい。「まばたき」までしばらくの間、自分のことを歌うアルバムを作っていなかったので、「まばたき」ではとにかく「自分だけの世界を作り上げよう」と思っていました。それはある意味、自分のことしか考えていない……何度目かの思春期みたいでした。思春期の短さや儚さはまばたきに似ている……その一瞬の感じを詰め込んだのがあのアルバムだったんですよね。「まばたき」を作ったあとにまたしても探究心のようなものが出てきて、これまでに培ってきたスキルや勉強してきたことを生かして、自分1人でアルバムを作ったら「どんな曲ができるんだろう?」「どんなアルバムができるんだろう?」と聴きたくなってしまって。

──それが今回のアルバムをセルフプロデュースで作るきっかけになったんですね。

そうですね。「まばたき」は自分のことだけを書いた歌ばかりにしたらどうなるだろう、「Wave」(2005年9月発売の4thアルバム)は自分が主人公ではない歌を歌って、どこまで表現を突き詰められるだろう、「FLY」(2014年9月発売の7thアルバム)はヒップホップやラップ、ダンスミュージックというものを“YUKIの曲”としてどこまで追求できるだろうと考えていたんですよ。そういうことをいつも試しながらアルバムを作っているんです。今回はなるべく多くのことを自分がコントロールすれば、ひょっとしたら思い描いているところに正確に行けるんじゃないかと思ってセルフプロデュースでアルバムを作りました。

「今これが歌いたいんだ!」

──今回のアルバムではYUKIさんが敬愛するミュージシャンの方々に作曲をオファーされていますが、それはどういう思いから出てきたことなんでしょう。

誠実に曲に向き合う方法を考えて、1stアルバムを作ったときに好きなミュージシャン1人ひとりに声をかけたように今、自分が好きで聴いているミュージシャンの方々に曲をお願いしてみたいと思ったんです。1stアルバムで日暮愛葉さんやズボンズのドン・マツオさんに曲をお願いしたときのように。今の私がそれをやったらどういうふうにアレンジをして、どういう曲に仕上げるんだろうと興味があった。自分以外のどこにも逃げ場がなくて、誰かのせいにもできない、自分で責任を取るアルバムを作りたかったんです。あと自分が好きでずっと聴いてきたミュージシャンの作る音楽を自分でも歌いたいと思いました。私はいろいろな音楽を聴くのが好きですけれど、シンガーという部分にすごく誇りを持って活動をしていて、どんな曲であっても歌えるという自信はこの何年かで付いていました。だからこそ、自由度を高く、もっと自分の好きなものを作りたいと思ったんです。

──作曲をお願いするアーティストの人選は大変だったんじゃないですか?

はい。それが1枚目の頃の私とは違う部分ですね。1枚目のときは闇雲に、ただまっすぐドーンと曲にぶつかっていくことしかできなかったけれど、今回はアルバムが完成したちょっと先を見据えて、「この人にお願いしたらきっとこんなものができて、私はこういうふうにやれるだろうから、楽しく素晴らしいものができるはずだ」と思える人選をしました。

──好きな音を作るために、自分が好きでいつも聴いている音楽を作っているアーティストと一緒に曲を作ろうと思ったんですね。

いつも聴いている大好きな音楽をどうして自分で作ろうとしないんだろうと思ったんですよね。「『今これが歌いたいんだ!』という歌を歌うことに、何か怖いことが1つでもある?」と自分に問うたとき「何もないな」と思いました。だったら自分の思うままに、とことん好きな音を作って、自分が「今これが歌いたいんだ!」という曲の精度を上げることが大事だと思ったんです。

子供の頃から、私はなりたいものになれる

──アルバムタイトルの「forme」というのは、どこから出てきた言葉なんですか?

ありがたいことに私には、ずっと求めてもらって、歌っていいよと言ってもらえる場があって。「こういう歌を歌ってほしい」「こういう曲を作ってほしい」という依頼があれば、その世界の登場人物になって歌を作ってきました。これを「なんと言うんだろう?」と思ったときに、“フォルム”という言葉が出てきたんです。私はいくらでも形を変えられる。それはきっと、私がシンガーソングライターではなくシンガーだからだと思ったんです。私は歌い手であって、語り部であって、伝え手である。例えば「joy」(2005年2月発売の3rdアルバム)からの流れで言うと、作曲家の方に作っていただいたメロディから「こう歌ってほしい」というメッセージが聞こえてきて、導かれるように歌詞を書くこともありました。

──そうだったんですね。

そんな中で「自分の責任はすべて自分で負いたい」という気持ちが芽生えてきたタイミングで手元に来た曲がテレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマ「さよならバイスタンダー」。原作を読んだら主人公の気持ちとシンクロニシティが生まれて、「これは私の今の思いをこのメロディに乗せられる」と思いました。そういうギフトのような出来事が、私には幾度もあるんです。これは偶然ではないと思います。「こういう思いをこういうメロディで、こういうふうに私が歌ったら最高だ」という曲がベストなタイミングでちゃんと来る。そして私はその曲を自分自身で選んでいて、その曲の主人公になれるんです。それは私が子供の頃から憧れていたお姫様ごっこや着せ替えごっこと同じ。私はなりたいものになれる。

──自分自身のフォルムを変えられるんですね。

そうです。私は子供の頃からずっと変身願望があって、それは今でも変わらないし、JUDY AND MARYの頃もそうでした。たぶん私は子供の頃からずっと地続きでフォルムを変えてきたんだと思います。ここ数年は自分の体をもっと楽に使いたい、自分の動作を思い通りにコントロールできるようになりたいと思って自分を磨いてきましたし、うまくメタモルフォーゼしてきました。このアルバムはその集大成でもあります。だからタイトルが「forme」になったんだと思います。一番いい状態の“自分の中身”を出したとき、それがもっとも表れる場所は“私の外側”なんですよね。私の顔や体、手の動き、そして歌に表れる。だからこそ中身からしっかり鍛えて、それがきちんと“純正YUKI”として外側に出ていればいいなと思います。