音楽ナタリー PowerPush - 吉澤嘉代子

少女時代の終わり

誰かに対しての歌を歌えるようになった

──そのあとは「美少女」「チョベリグ」「ケケケ」「シーラカンス通り」と、メジャーデビュー後の2枚のミニアルバムから2曲ずつがチョイスされています。「美少女」「ケケケ」はそれぞれのリードトラックですけど、「チョベリグ」と「シーラカンス通り」についてはなぜこの2曲をチョイスしたんですか?

吉澤嘉代子

「箒星図鑑」が今の私を表した、どれを聴いたらいいか迷ってる人に「これがいいよ」っておすすめするアルバムだとしたら、バリエーションの端っこにあるものを選んだほうがいいと思ったんです。バリエーション要員、というとヘンですけど、それが「変身少女」だと「チョベリグ」、「幻倶楽部」の中なら「シーラカンス通り」かなって。

──「泣き虫ジュゴン」はインディーズ盤「魔女図鑑」からの1曲ですけど、書いたのは17歳の頃だそうで。

最初にレコーディングをしたのは21歳のときなんですけど、17歳の気持ちのままではないから、歌詞は直前まで何度も書き換えたんです。レコーディング当日まで歌詞を書き直して、曲の中に入り込んだまま歌っているような、ドキュメンタリーのような気持ちで録りました。今はその頃の自分とも違うから、録り直すのは気が進まなかったんですけど、今回リード曲として「泣き虫ジュゴン」が前に出ることがすごくうれしくて……そしたら今の自分の歌を歌わないとなと思って録り直したんです。でもやっぱりうまく歌えなくて。誰に向かって歌えばいいのか。レコーディングはライブと違って、自分自身と向き合い、真空パックするようなもので。考えすぎてよくわからなくなっちゃって「ちょっと歌えないんですけど」みたいな感じで中断したりしました。

──それってどうやって解決したんですか?

去年デビューしたあと外にも出たくない時期があったんですけど、時間やお金を割いて観に来てくれるお客さんの前でライブをやっている間だけは、すごくラクになれたんですね。ライブが自分にとって大事なものになっていることに気付いて、お客さんありがとうという気持ちを込めて歌ってみたら、自分の中でストンと落ち着くものがあって。誰かに対しての歌を歌えるようになったんだな、という自分の意外な変化に気付きました。

──ライブのステージって、大勢の他人が一斉に自分を観ているという、かなり特殊な環境ですよね。もともと心を閉ざしがちだった吉澤さんがそれを楽しんで、あまつさえ救ってもらってすらいるという。すごく不思議な感じがするんですけど。

そうですよね。やっぱりライブはずっと苦手だったんですけど、ワンマンライブをやって考え方が変わりました。わかりやすいじゃないですか。本当に観たいと思った人がお金を払ってきてくれてるわけで、それがどんな気持ちにせよ……私の歌が好きで来てくれている人も、「吉澤嘉代子ってどんな奴だろう」と思って来てくれている人も、観たいと思ってくれる気持ちは信じられるんです。

親友に捧げる歌

──「雪」は親友に向けて書いた曲なんですよね。

はい。ゆきちゃんっていう、フリースクールに通ってた頃にできた友達で。いろんなことがあったから、友達という感覚ともちょっと違うんですけど。友達以上の感覚……ちょっと難しいですね。曲を書くのが今までで一番苦しかったです。なかなか書けなくて、レコーディングも1日飛ばしてしまったし。

──それでも書きたかったし、歌いたかった。

自分の少女時代を書く上でその子は欠かせない人なので。本当につらかった。誰かに対して書くのが初めてだったし、形に残っちゃうからヘタなことは書けないと思って。歌詞を書くたびに自分の底の浅さを思い知るという作業でした。

──もう本人には聴いてもらったんですか?

いや、本人に「できたよ」って伝えたら「CDができたときに聴きたい」って。

──じゃあ、曲としては完成したものの、おそらく吉澤さんの中ではまだ完結していないですよね。

曲を書くのに苦労してるとき、本人にも電話で「全然書けないんだよね」って言ったんです。そしたら「この曲はずっと完成することはないのかもね」って言ってくれて。なるほどなと思ったら気持ちが軽くなって、曲にすることができました。

少女時代の終わり

──そしてラストの「23歳」は、自分自身のことを歌うにもストレートに表現することはなく、あくまで物語の中に落とし込む形で曲を作ってきた吉澤さんとしては異例な曲ですよね。

吉澤嘉代子

そうですね。これは初めてワンマンライブをやったときに、自分だけを観に来てくれたお客さんにどんなおもてなしができるか考えて……私にとってのいいライブは、いい演奏とか歌じゃなく、その人柄に触れられるライブだと思うんです。いつも物語として曲を書いている中で、本当の自分をこのワンマンという場所で出さなくちゃいけないなと思って、当日に書いた曲ですね。でもこれはその場限りの曲で、二度と歌うことはないと思っていたんです。これを歌っている限りは23歳の自分からステップアップできないんじゃないかって。でも「また聴きたい」というお客さんの声も届いていたので、入れるならこのタイミングしかないなって。

──大人として生きることへの割り切り、諦念を歌った内容と言えると思うんですけど、「泣き虫ジュゴン」と同じようにこの曲にも「夢」という言葉が出てきますよね。吉澤さんが歌う「夢」というのは何を表してるんでしょうか。

「ストッキング」でも歌っているように、もう私は自分が特別な人間じゃないとわかっているし、夢から覚めなきゃいけないと思っているんです。すごく夢のない、さめた感じに聞こえるかもしれないけど、それでも私は子供の頃に戻りたいとは一度も思ったことはなくて。

──それはなぜ?

子供は不自由だからです。子供は誰かによって何かをしてもらうことでしか願いが叶わないから。私は魔女に連れ去られる夢を見てから、ずっと魔女修行をすることで、魔女の力で自分を変えてもらおうと願っていたんですね。でも人は夢から覚めたときに、初めて後天的に何かを得ることができる。自分の手でつかんだ能力や美しさといった望むもの……私にとっては曲を作ることですけど、それは先天的に持って生まれたものよりも尊いと思っていて。それを自分でつかみ取ることができるのが大人だと思うんです。

──全13曲、これまでの自分に落とし前を付けるようなアルバムになったと思うんですけど。

はい。すごく安心しました。ずっとこういう作品を作らなきゃという使命感があったので(笑)。これからはもっと自由になれると思います。

──もう次のステップが見えていると。

そうですね。これからみんなにアルバムを聴いてもらうのに急ぎすぎかもしれませんけど(笑)。でも今まさに絶賛少女時代の人がこのアルバムをどう聴いてくれるのか気になりますね。こうやって歌っていると、自分に近い子とか、同じように魔女修行をしている子からお手紙をもらうことも増えてきて。私はもう大人になっちゃったけど、子供の頃の自分が友達を見つけたような気持ちになってうれしくなりますね。

1stフルアルバム「箒星図鑑」 / 2015年3月4日発売 / 3000円 / e-stretch RECORDS / CRCP-40399
1stフルアルバム「箒星図鑑」
収録曲
  1. ストッキング
  2. 逃飛行少女
  3. 未成年の主張
  4. ブルーベリーシガレット
  5. なかよしグルーヴ
  6. キルキルキルミ
  7. 美少女
  8. チョベリグ
  9. ケケケ
  10. シーラカンス通り
  11. 泣き虫ジュゴン
  12. 23歳
吉澤嘉代子 箒星ツアー'15
2015年5月9日(土)岡山県 MO:GLA
OPEN 17:30 / START 18:00
2015年5月10日(日)福岡県 Gate's 7
OPEN 17:30 / START 18:00
2015年5月12日(火)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
2015年5月15日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
2015年5月16日(土)東京都 赤坂BLITZ
OPEN 17:00 / START 18:00
料金:3800円(全公演共通・ドリンク代別)
一般発売:2015年3月21日(土)
「箒星図鑑」CD購入者チケット先行受付:2015年3月4日(水)12:00~3月12日(木)18:00
「箒星図鑑」発売記念イベント
2015年3月4日(水)東京都 タワーレコード渋谷店 1F店内イベントスペース
START 19:30
2015年3月7日(土)東京都 タワーレコード秋葉原店 7F店内イベントスペース
START 14:00
2015年3月8日(日)埼玉県 タワ-レコ-ド浦和店 浦和PARCO 1F正面入口
START 14:00
2015年3月8日(日)埼玉県 HMV大宮アルシェ店 店内イベントスペース
START 18:00
2015年3月15日(日)愛知県 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店 9Fイベントスペース
START 13:00
2015年3月15日(日)愛知県 HMV栄 イベントスペース
START 17:00
2015年3月28日(土)大阪府 タワ-レコ-ド難波店 5Fイベントスペ-ス
START 19:00
2015年4月5日(日)東京都 dues新宿
START 17:00
2015年4月5日(日)東京都 ヴィレッジヴァンガード下北沢店
START 21:00

※各イベントの詳細はこちらから

吉澤嘉代子(ヨシザワカヨコ)

吉澤嘉代子

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街で育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月にヤマハ主催のコンテスト「"The 4th Music Revolution" JAPAN FINAL」に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年6月にインディーズ1stミニアルバム「魔女図鑑」でCDデビューを果たす。同年11月には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて初のワンマンライブ「吉澤嘉代子 ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~」を開催。翌12月より「魔女、旅に出る。」と銘打ったライブハウスツアーで各地を回った。日本クラウン、ヤマハミュージックアーティスト、ヤマハミュージックパブリッシングの3社が合同で設立した新レーベル「e-stretch RECORDS」の第1弾アーティストとして、2014年5月にミニアルバム「変身少女」でメジャーデビュー。同年10月にメジャー第2弾ミニアルバム「幻倶楽部」を発表した。2015年3月に1stフルアルバム「箒星図鑑」をリリース。5月には5都市を回るライブツアー「吉澤嘉代子 箒星ツアー'15」を行う。