音楽ナタリー Power Push - 吉田健児×西原誠(ex. GRAPEVINE)

武骨シンガーが不器用に生き残る手段

地元で行政書士の勉強してました

──今回のアルバム、吉田さんにとって活動7年目にして初の公式音源になりますよね。満を持してというところがあったんじゃないでしょうか?

吉田 ため込んで出す機会を伺っていたわけではないんですけどね。1年間地元に逃亡していましたし。

──逃亡?

左から吉田健児、西原誠。

吉田 周りに「売れるぞ、売れるぞ」って言われたことがプレッシャーになってしまって。西原さんもほったらかしにして帰ったんです。

西原 東京に戻って来て連絡がきたときは「ふざけんなよ! 謝れ!」って思いましたけれど(笑)。

吉田 1回死んだようなもんやから、もう自由にやろうと。だから、“満を持して”っていう感じではなかった。

──やっぱり歌いたかったんですね。

吉田 1年間音楽も聴いていなかったんですけど、なんだかんだ東京にいたときは面白かったのを思い出して。上からの期待も下からの期待も全部裏切ったので、もう1回思いっきりやってみようかなって。

──プロフィールを見ると行政書士の資格も持っているのに、やっぱり音楽で生きていきたかったと。

吉田 いや、これは大阪に戻った1年で取った資格なんです。やることなくて。

──やることなくて勉強したんですか!?

西原 IQが高いバカなんです(笑)。

吉田 資格が取れたら音楽に戻ろうかなって。

──資格が取れたら音楽をやめよう、じゃなく?

吉田 はい。あんま仕事にする気はなかったんで。

西原 「ヒマだから勉強する」って、古いバンドマンからすると意味がわかりませんよ(笑)。

吉田 西原さんに「ネジ外れてる」って言われるんですよね。俺はそういうつもりはないんですけれど。

アンプのつなぎ方もわからないし

──吉田さんが音楽に駆り立てられる理由って、どういうところにあるんですか?

吉田健児

吉田 俺は作家が好きなんですけど、こないだ石原慎太郎が「人生には作品を残さないと」と言っていて。俺も何かを残すために生きたいなって思うんです。ほかのアーティストと比べたら、音楽にあまり固執しているわけではないと思うんですけれどね。小説でもよかったかもしれないし、そんなに不平不満がたまっているわけではないし。

西原 たまっているようには見えるけどね(笑)。

吉田 1曲を通して描きたい景色はあるんですよ。でも、歌詞で言いたいことは1行だけで。

西原 でも芯を食ったところは1行でも、そこに持っていくための情景描写が必要なんじゃないかな。音楽で景色を見せられる人と一緒にやっていると楽しいんですよ。演奏が下手でも「おっ!」って思うものを作れるんです。逆にいくら演奏技術があっても、風景が見せられない人は、聴いていても感情が無にしかならなくて。

吉田 レコーディングでも、例えば僕が「女性が崖っぷちにいる」みたいなイメージをバンドメンバーに伝えるんですけれど、わかってもらえないから、西原さんにそれを具体的に指示してもらっています。

西原 まあ、通訳みたいなものですね。

──うまくイメージを伝えることができなかったから、最初に西原さんが聴いたアレンジはめちゃくちゃだったんでしょうね。

西原 そうでしょうね。そういえばお前、音楽を始めてどれくらいで上京してきたんだっけ?

吉田 ゼロです。

──ゼロ!?

吉田 だからライブハウスで演奏しようと思っても、アンプのつなぎ方もわからなかったし。

西原 準備してこいっていう感じですけれど(笑)。

左から西原誠、吉田健児。

吉田 でも、1カ月も経たないうちにバンドメンバーがそろって、すぐにライブができて。

──しかも、それまでバンドを組んだ経験が一度もないんですよね。

吉田 そうですね。いわゆるバンドが書いた曲って弾き語りでは成立しない曲のオンパレードですけど、ロックな曲であろうが弾き語りでも成立する曲しか書かないっていうポリシーもあるし。まあ、性格的にも向いていないんでしょうね。

西原 確かに協調性ないもんな(笑)。

吉田健児 1stアルバム「forthemorningafter」2016年7月13日発売 / 2160円 / ZERO COOL / ZCST-034
「forthemorningafter」
収録曲
  1. ハダカ
  2. I'm a cat
  3. ロックンロールなんてジョークだ
  4. シルシ
  5. BIRD
  6. ベガ
  7. 逢いたいと願えば

<ボーナストラック>

  1. ニセモノ(STUDIO LIVE)
吉田健児(ヨシダケンジ)
吉田健児

大阪出身のシンガーソングライター。2009年に上京し、下北沢CLUB Queや渋谷La.mama、新宿LOFTなどを拠点に音楽活動をスタートした。ライブハウスシーンを中心に注目を集め、2016年7月にはプロデューサーに西原誠(ex.GRAPEVINE)、ゲストギタリストに西川弘剛(GRAPEVINE)を迎え、自身初のアルバム「forthemorningafter」をリリースした。

西原誠(ニシハラマコト)

GRAPEVINEのリーダー、ベーシストとして音楽活動を開始。2002年に同バンドを脱退し、現在は自身のバンド「JIVES」のギタリストを務めている。吉田健児のアルバム「forthemorningafter」でプロデュースを担当した。