ヨルシカ「夏草が邪魔をする」PR

ヨルシカ|気鋭ボカロP・n-bunaが新たに挑む“バンド”という表現手段

「ウミユリ海底譚」「メリュー」など、Vocaloidクリエイターとしてニコニコ動画で100万再生超えの楽曲を数多く生み出す存在であり、近年は他アーティストへの楽曲提供でもその才能を発揮しているn-buna。そんな彼がボーカリスト・suis(スイ)を迎え、新たにヨルシカというバンドを始動させた。

“バンド”と形容したものの、その実像は一般的なロックバンドとはだいぶ異なり、作品ごとのカラーや描かれる世界に応じた表現を行うという、極めてコンセプチュアルなプロジェクト。本稿では、初の作品となる1stミニアルバム「夏草が邪魔をする」の内容を軸に、ヨルシカの結成に至るまでのエピソードや今後の展望をn-bunaとsuisに聞いていく。

取材・文 / 風間大洋

この声の人に運よく出会うことができてよかった

──ヨルシカという活動形態では初の音源となりますが、メンバーはn-bunaさんとsuisさんの2人という認識でいいんですよね?

ヨルシカ「靴の花火」ミュージックビデオのワンシーン。

n-buna そうですね。僕の中の意識は通常のバンドというより、まずボーカルのsuisさんがいて僕がコンポーザーとして曲を作る、その2つが合わさってヨルシカという1つのアーティスト、と考えていて。

──以前行ったn-bunaさんのワンマンライブに、suisさんはボーカルとして参加されてますよね。

suis はい。

n-buna ゲストボーカルとしてお呼びしたんですけど、もともとは共通の知人を通じて知り合って、僕が作曲したほかのアーティスト向けの楽曲で仮歌を録ってもらうお願いをしていたんです。

──suisさんはn-bunaさんの曲はご存知だったんですか。

suis はい。ずっと聴いていましたね、ボカロ曲のいちファンとして。最初に爆発的にヒットしたのが「透明エレジー」だったと思うんですけど、(ニコニコ動画のVocaloid)ランキングにずっと入っているなあと思いながら眺めていたんです。あるとき、ずっとランキング1位にいるくらいだから「そんなにすごいの?」と思って聴いてみたら、「なんでこの曲をもっと早くに聴いておかなかったんだろう」っていうくらい、すごく衝撃を受けて。自分に合う曲調だったっていうのもありますけど、ボカロ曲として考えてもすごく新しいものだったのかなあと思います。最初はメロディに惹かれて……純粋に、こんなメロを作れるなんて天才だなって。そこから、歌詞が自分の人生とマッチしたことで感情移入をできるようになって、どんどんファンになっていきました。n-bunaくんのファンの方はみんな同じように感じていることだと思うんですけど。

──と言うことは、もともと熱心にボカロ曲をチェックしていたリスナーではない?

suis ちょうどn-bunaくんが出てきた頃はあまり聴いてなかったんですけど、昔はボカロ文化そのもののファンとして聴いていて。ボカロPのファンだったり曲単位で何かにハマったわけではなく、初音ミクや鏡音リンのオタクでした(笑)。

──以前から歌を歌っていたんですか。

suis 家の中で掃除するときに大声で歌ったり、料理しながら鼻歌を歌うくらいで(笑)。誰かに聴かせるということはしていなかったです。

──n-bunaさんは、そんなsuisさんの歌声のどんなところに惹かれたんでしょうか。

n-buna ヨルシカのボーカルとして一緒にやっていこうと思えた大きな理由は、声質ですね。僕はロックもポップスも、いろいろなジャンルを雑多に聴いてきた人間なんですけど、それゆえに作りたい曲の方向性もたくさんあるんです。だから、ロックでもちゃんと映えて、かつバラードや浮遊感のある音楽にも対応できるような、ちょっとハスキー成分のある歌声の方を探していて。そこにちょうど当てはまる声質だし、しかも歌がうまい。「この人だ!」と思ってお願いしました。

──じゃあ、もしsuisさんとの出会いがなかったら、こういった活動もなかったかもしれないですね。

n-buna ピッタリだと思える人と出会うまで、延々と探していたかもしれない(笑)。運よく出会うことができてよかったです。

音楽を聴いてこなかったのに歌えるのは、うらやましい才能

──今お話しされていたように、n-bunaさんは音楽を吸収する幅も広い、さまざまなタイプの曲を作れるクリエイターですから、実際に今作「夏草が邪魔をする」の収録曲もそれぞれ違った表情で。そこに乗るsuisさんの歌も1曲ごとに違って聴こえますよね。

n-buna そこなんですよね。例えば「靴の花火」のAメロやBメロでは、僕からはウイスパーを意識したちょっと抑えめの声で歌ってほしいとオーダーしたんですね。suisさんはそういう声が映えるタイプでもあるし。でも、この曲はサビになると楽器も増えるから、そこで埋もれずにまっすぐ伸びてくる歌声も欲しかったんです。その、いろいろな声を使い分けられるところには、すごく助けられてます。

──そういう声色や歌い方での表現の多彩さから、suisさんは何か表現活動をされていた方なのかなと思ったんですが。例えば演技とか。

suis それは特にないんですけど……あ! でもミュージカルを観に行くのはすごく好きです。歌いながら演技をする、演技をしながら歌うっていうところからはすごく影響を受けていると思います。レコーディング前にたくさん観に行っておいてよかったなって。宮澤エマさんがすごく大好きで、メロメロなんです。

──じゃあ、もともとロックとかポップスよりも、ミュージカル系の音楽をよく聴いていたんですか。

suis 実は、そこまで音楽自体を聴いてきた人生ではないんです。ボカロに関しては、オタクだったので「ミクちゃんの声が聞きたい」という理由で追いかけてはいたんですけど(笑)。ミュージカルに関してはここ数年でハマりました。

──それは意外です。

suis インプットするためにももっといろいろなものを聴いたほうがいいんですけど……聴くまでの労力と言うか、気合いみたいなものがいるじゃないですか、初めて聴く音楽って。流し聴きみたいなことができないんです。

n-buna あまり音楽を聴いてこなくて勉強してこなかったのに、歌ってみたらピッチもブレないし声量も出せる、表現に抑揚も付けられるって、なかなかないセンスだと思うんですね。僕は才能論はあまり好きではないですけど、歌っても、うまく歌えない人は歌えないんですよ。僕もそうなんですけど(笑)。音楽と離れた人生を送ってきながら、それができるっていうのはやっぱり才能なんじゃないかなと。うらやましいです。

suis ありがとう!

「私」でも「僕」でも「俺」でも適応できる声

──例えば超高音が出せるとか、特殊な声色が出せるというわけではないと思うんですけど、淡々とした中にメリハリや訴求力がしっかりある、いい歌声ですよね。

suis おお……ありがたいお言葉を……!

──ご自身は、シンガーとしての長所、武器はどこにあると思っていますか?

suis あんまり女っぽくないところ。中性的って言うほどではないんですけど、女性的な響きがあんまりないところが好きですね。性別を感じないと言うか、色気がないと言うか(笑)。「言って。」っていう曲の歌詞は一人称が「私」なんですけど、自分で音源を聴いたときに「気持ち悪いな」と思ってしまったくらいで(笑)。「君」とか「僕」だとしっくりくるんですけど、私の声で「私」って歌うのはちょっとヤバいなって。

n-buna でも言ってしまえば、そういうところも長所なんですよ。「私」でも「僕」でも、極端に言えば「俺」でも、どのタイプの歌詞でも適応できる声質だと思うんです。

──そう思います。

suis 本当ですか! 自分では、次回から一人称を全部「僕」にしてもらったほうがいいかもしれないと思ったくらいだったんですけど。でも、長所って言えるとしたら、自分はそこが好きです。

──音の高低という意味ではなく、フラットな声質なのかもしれないですね。

n-buna 確かに。僕もあんまりキャピキャピした声質は苦手というか、自分の曲には合わないなと思うので、落ち着いた声質のほうが合うと思っていたのかもしれないです。はっきり突き抜ける声だとあまり合わないと思いますし。

──ボカロPとして曲を作っているときでも、n-bunaさんの曲ってVocaloidにキンキン歌わせない傾向がありますよね。

n-buna ああ! 単純にそれが僕の好みなのかもしれないですね。

ヨルシカ「夏草が邪魔をする」
2017年6月28日発売 / U&R records
ヨルシカ「夏草が邪魔をする」初回限定盤

[CD]
1620円 / DUED-1223

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収録曲
  1. 夏陰、ピアノを弾く
  2. カトレア
  3. 言って。
  4. あの夏に咲け
  5. 飛行
  6. 靴の花火
  7. 雲と幽霊

公演情報

ヨルシカ 1st Live「夏草が邪魔をする」

2017年7月9日(日)東京都 新宿BLAZE

ヨルシカ
「ウミユリ海底譚」「メリュー」などの人気曲で知られるボカロPのn-bunaと、彼のライブでボーカルを務める女性シンガーのsuisにより結成されたバンド。n-bunaの持ち味である心象的で文学的な歌詞とギターサウンド、透明感のあるsuisの歌声を特徴とする。2017年4月に初の楽曲「靴の花火」のミュージックビデオを投稿。6月に1stアルバム「夏草が邪魔をする」をリリースした。