ナタリー PowerPush - 矢沢永吉

自由でいいかげんな40周年アルバム「Last Song」に込めた想い

矢沢永吉がニューアルバム「Last Song」を8月1日にリリースした。前作「TWIST」から2年2カ月ぶりのオリジナルアルバムにして意味深なタイトルを冠した本作には、極上のロックナンバーが11曲収められている。

ナタリーではこれを受けて矢沢本人に初のインタビューを実施。デビュー40周年を迎えてなお攻め続ける彼のバイタリティの源泉に迫った。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 福岡諒祠

いいかげんな音楽がカッコいいってわかった

──今回、アルバムのミックスを何度もやり直されたそうですね。最終マスタリング盤を先日じっくり聴かせてもらったんですが……。

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良かったでしょ! 聴きやすくなった?

──はい、そう思います。

最初の音質から結構いじってるんですよ。6、7回はミックスしてるんです。多分、軽く聴くだけだったらどこが変わったかわかんないと思う。作ってる本人のこだわりだから。でもよく聴くとものすごくわかりやすくなってる。ストンと入りやすくなってるんですよ。

──その、聴きやすさを重視したミックスやマスタリングのスタイルは、リミックスアルバム「YOUR SONGS」シリーズ(2006~2007年発売)以降の特徴ですよね。ボーカルを中心に、どの楽器の音もくっきりと聞こえるようになっている。

「YOUR SONGS」は僕が実験してたんですよね。実験台の上でガタガタガタガタやってた。それをはっきり確信持ってやり始めたのが「ROCK'N'ROLL」(2009年発売)から。今回の「Last Song」は相当わかった上でやってますから。

──その確信というのは?

例えばアルバムはこう、あんまりきっちりかっちり作ると、かえってつまんなくなるんだっていうことがわかったんです。ちょっと、いい意味でのいいかげんさが加わったほうが、よりロックが際立ってこちらにグイグイ来るはずだっていうのを、僕はものすごく感じてて。それもやっぱり早くから海の向こうに行ったりして向こうの連中とやってたからなんですけど。

──当時、矢沢さんは自分のサウンドを最先端の洋楽に近付けようとしていたわけですよね。

そうです。一時期は洋楽の音作りにハマって、本場ってすごいな!って言ってた。だけどそのうち、何かものすごく大事なものを忘れてるなあ、なんなんだろうって思うようになって。洋楽一辺倒でやってても、結局はそれはただのコピーでしかないんですよ。うまいミュージシャンを揃えて、洋楽まんまのミックスをやって。だけどね、つまんないんですよね。何がつまんないのかなって思い始めてわかったんです。そうか、もっとパーンとお膳をひっくり返しちゃうようないいかげんな曲。いい意味で「関係ねえよ!」っていう、そういう音楽がカッコいいんだってわかったんです。だから今回そこをすごく意識して作ってますね。

──でも今回も海外のミュージシャンを起用していますよね。

確かにベーシックトラックのドラムやベースはそうそうたる連中がやってるわけですけど、とにかく“洋楽にしない”ってことを意識して。だからベーシックはL.A.で録ってますけど、それを東京に持って帰って、ほとんど僕のプライベートスタジオで仕上げてますからね。コーラスもエンジニアも何もかもジャパニーズだから。

ラブを感じないものは音楽じゃない

──でも「かっちり作りすぎない」と言っても、そのさじ加減は難しそうですよね。

なんていうのかな。きっちりかっちり作らないっていうことが言えるのは、それは相当にカチッと決められる奴らがやるから言えるんであってね。そこを知らない奴がやったらただのつまんない音楽で終わっちゃう。それはもう僕のキャリアですよ。40年以上やってるキャリア。あとこのアルバム、ほとんどテイクワンですよ。

──一発録り?

そうです。11曲ありますけどほとんどが4分以内でレコーディング終わってますからね。コード間違えたりしたところはあとから差し替えたりもしますけど、ドラムもベースも基本のところは一発録りで。だからものすごい、グルーヴがあるんですよね。揺れ感がある。だから聴いてたら多分、何かわからないけど一緒に歌いたくなっちゃうような……。

──どこかに粗さとか隙があるから、入り込みやすい?

そうかもしれないです。だからもう一緒にアコースティックギター持ってきてコピーしたくなっちゃうような。コピーしてるうちに「いいコード使ってるなあ!」っていう(笑)。

──あはは(笑)。

この自由さといいかげんな部分がボンボン入ってるところが、化学反応を起こしてパワーになってますね。だからセクシーなんですよ。

──なるほど。

それと、詞の内容とかメロディ、多分歌い方もあるんでしょうけど、ものすごい、ラブを感じる。僕が言ったんじゃないですよ。これを聴いた人が「矢沢さんこのアルバムはラブですね」って。すごく愛を感じるんだって。1人や2人が言ったんじゃなくて、かなりの人がそう言ってくれて「ああ、そういうふうに聴こえますか」って答えて、僕はなんかものすごくうれしかったですね。「ラブを感じる」。いいじゃないですか。愛があるんだって。あったかいんだって、このアルバム。今の時代、ラブを根底に感じないものは音楽じゃないですよね。そう思う。

──そして温かさと同時に、どこか切なさみたいなものも感じます。

それは多分あれじゃないですか。かっちりきっちり作ってない分、すっと入りやすいし、そこへ持ってきてこう、マイナーコードをやたら使ってるから同じエイトビートでやってても哀愁があるんじゃないんですか? それがどこか妙に懐かしかったりね。

声が出てマイク蹴れる限りはステージに立つ

──ところで矢沢さんはデビュー40周年を迎えて、ロックアーティストとしては前人未踏の領域に突入しているわけですが、現在のご自身の立ち位置についてはどう捉えていますか?

僕は今ものすごく「サンキュー」っていうような立ち位置で、スティル、ライブやれてる、ロックやれてるっていうのはありがたい、うれしく思ってますね。だから今年も6万5千人くらい集めて40周年のステージやるんですけど。……暑いだろうなあ。多分暑いですよね? 9月1日。

──暑いと思います。

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でも考えてみたら武道館にしても、今117回で今年また5回加わるから122回ですか。キャロルでデビューしてから40年。いろんな面白いことやってきましたよ。そういう意味じゃ一生懸命走った40年ですよね。だから後ろから来てる若いロックバンドの連中たちも「矢沢さん、どういうふうにカッコいいフェードアウトの仕方を見せてくれるのかな」って思ってる人がいっぱいいるんじゃないですか。

──矢沢さん自身、自分の引き際について考えたりしますか?

いつまで歌うのかなあっていうのは、それは思いますよね。でも多分声が出てまだマイク蹴れるんだったらステージでずっとやりたいなって思ってます。

──その言葉、ファンとしてはうれしいですね。

もうやめようかなというときも何度も何度もありましたけどね。でも僕からライブ取り上げたら何が残るのかなあっていうことも思うわけだし。海の向こうの有名な連中もまだ世界ツアーやったりしてる。その気持ち、僕はわかるわけ。みんなやっぱりこう、ステージでやり続けていないと身の置き場がないんだろうね。僕ももう62歳になって、40年走ってきて、僕の前にまだ現役でやってる人がいないんですよ、ロックで。現役でまだ万単位集めてバリバリやってる人が今いないでしょ? フォーク部門はいっぱいいるんだろうけど、ロックやってる連中はいないわけ。だから自分でも楽しいんだよね。これをどうやって終わらせるのかな、って。

ニューアルバム「Last Song」/ 2012年8月1日発売 / GARURU RECORDS

CD収録曲
  1. IT'S UP TO YOU! [作詞:馬渕大成 / 作曲:矢沢永吉]
  2. 翼を広げて [作詞:馬渕大成 / 作曲:矢沢永吉]
  3. 夢がひとつ [作詞:Ginger / 作曲:矢沢永吉]
  4. BUDDY [作詞:馬渕大成 / 作曲:矢沢永吉]
  5. パニック [作詞:加藤ひさし / 作曲:矢沢永吉]
  6. 「あ.な.た...。」 [作詞:Ginger / 作曲:矢沢永吉]
  7. JAMMIN' ALL NIGHT [作詞:小鹿涼 / 作曲:矢沢永吉]
  8. Mr.ビビルラッシー [作詞:加藤ひさし / 作曲:矢沢永吉]
  9. 吠えろこの街に [作詞:馬渕大成 / 作曲:矢沢永吉]
  10. サンキュー My Lady [作詞:馬渕大成 / 作曲:矢沢永吉]
  11. LAST SONG [作詞:山川啓介 / 作曲:矢沢永吉]
EIKICHI YAZAWA 40th
ANNIVERSARY LIVE「BLUE SKY」

2012年9月1日(土)
神奈川県 日産スタジアム
OPEN 14:00 / START 15:30

<出演者>
マキシマム ザ ホルモン / The Birthday / ギターウルフ / 怒髪天 / ザ・クロマニヨンズ / 矢沢永吉

矢沢永吉(やざわえいきち)

プロフィール画像

1949年広島県出身。中学時代にTHE BEATLESを聴いてロックに目覚め、高校卒業後に単身で上京。1972年に伝説のバンド、キャロルを結成する。1975年にソロに転向し日本人アーティストとして初の日本武道館公演を成功させるなど、ロックシンガーとして不動の地位を確立する。自伝「成りあがり」はバイブル的な人気を誇り、日本を代表するロックアーティストとして崇拝するファンは多数。近年はロックフェスティバルなどにも積極的に出演し、若い世代のファンからも熱い視線を集めている。2008年には初めて長期間にわたりライブ活動を休止し世間を驚かせたが、2009年8月に原点回帰とも言えるアルバム「ROCK'N'ROLL」をリリース。さらに同年9月に東京ドームライブを大成功に収め、健在ぶりを証明した。2012年8月にデビュー40周年記念アルバム「Last Song」を発表。


2012年8月3日更新