ナタリー PowerPush - 岡村靖幸

ファンから岡村靖幸へ53の質問 おしゃべりエチケット特別編

「だいすき」

小倉 今回ビデオクリップが作られたということで、「だいすき」がリードトラック的な扱いになるんでしょうかね。

岡村 そうですね。このアルバムは初めて聴く人の入門編にしてほしいっていう気持ちもあるんで、そういう意味で「だいすき」はポップだし、わかりやすいし、いいかなと思って選択しました。

小倉 ビデオクリップにはTシャツがいっぱい出てきて。

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より

岡村 あれはスタッフの近藤さんにTシャツを作りたいっていうアイデアがあって、ファンの人たちからデザインを募集してみようと。それで集まったデザインを見ているうちに近藤さんが「ビデオクリップで使おう」とおっしゃって、ああいうふうに結実したんですよね。インターネットでアップしたら1日でものすごいアクセスがあって、すごい評判が良かったりして。僕は全くかかわってないんですけど、すごくうれしいなと思ってます。

小倉 みんなが岡村くんのことを待ってたっていうのがよくわかりますよね。

岡村 ねえ、本当ありがたいことですね。ラッキーだなと思います。

「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」

小倉 「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」も収録されていますが、実際に学生時代にバスケットをやってたんですか?

岡村 中高とやってました。高校2年生くらいまでやってたんですけど、2年生くらいまでだと大した試合も出れないし、大して活躍はできなくて。1年生2年生は練習の量が多くてただ単に走らされてました。

小倉 あはは(笑)。歌詞に「35連敗」って出てくるんですけど、実際にそうだったんですか?

岡村 実際にはそうじゃないですけども、でも確かにすごく弱いチームでした。

小倉 そのバスケット部は上下関係が厳しかったんですか? それとももっと和やかにサークルのような形で?

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より

岡村 いや、上下関係はすごく厳しかったと思います。

小倉 そこから学んだことってあります?

岡村 ほぼないですね(笑)。なんかあの、こんなことあったんですよ。入部してすぐ、夏に合宿があるんです。そこで夜に1年生が先輩に呼ばれて「このままバスケット部を続けたかったら悪いんだけどスポーツ刈りにしてもらう」っておっしゃって、半分くらいはやめていって、半分くらいはスポーツ刈りにしてったんですけど。

小倉 岡村くんはどうしました?

岡村 僕はスポーツ刈りにしました。

小倉 あはは(笑)。そこに抵抗はしなかったんだ。

岡村 嫌な気持ちでしたけど、それをやると初めて正式に部に迎えられて、なんかこうバスケット部の正式なスウェットがもらえるっていう。その魅力に抗えなかったんですね。

小倉 今回改めて思ったんだけど、岡村靖幸の歌の中には「青春」という言葉がいっぱい出てきますよね。あれはどういう理由ですか?

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より

岡村 ただ単に好きなんじゃないですか? あとリアリティがあるというか。例えばティーンエイジャーの頃の特別な思い出とかその頃に感じたこととかって、そのタイミングを過ぎてから、郷愁として年齢関係なく思わずときめいたりすることがあって。誰にとってもそれは素敵なことだし、誰にとってもリアリティのあることだし。

小倉 共感できる普遍的なテーマのひとつだもんね。

岡村 と思うんですよ。だからまあ、自然にそういうことを歌ってるだけですね。

小倉 きっと青春時代のいい思い出がいっぱいあるんでしょうね。

岡村 いえいえ、もう、あれですよ、いい思い出は少ないですよ(笑)。うまくいかなかったしモテなかったし、だからこそ願いとして「ああだったらよかったのに」「こうだったらよかったのに」って思って、その報われなかった思いが昇華されずに、僕の中で悶々としてるんです。きれいなキラキラとした思い出として完結はしてないわけで、ゆえに「完結したいな」という願いはあるし。願いがあるからこそ努力するんじゃないでしょうかね。

「セックス」

小倉 岡村くんの歌に、セックスの歌がすごく多いっていうのは意図してのこと?

岡村 どうでしょうね。まあ、好きなんです。

小倉 でも性に関する個人的な体験を作品にするのって、あまり例がないでしょ?

岡村 日本語っていう意味ではそうかもしれませんけど、基本的にはトラディショナルな行為ですよね。単に日本語で叙情的に、直接的な比喩であんまり歌われてないだけであって、そういうことを謳歌しているような内容の歌っていうのはかなり伝統的ですよね。

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より

小倉 黒人音楽では特にね。

岡村 だから僕の中ではとても普通のことですけどね。だからその僕がオススメするのはやっぱりライナーノーツと歌詞カード。歌詞カードが入ってるレコード買ったほうがいいですよね。まあ値段のこととか考えると輸入盤っていうのはいいのかもしれないですけど、歌詞わからずにレコード聴いてるっていうのは、その楽しみを半分くらい逃してると思ってて。「こんなこと歌ってるんだ!」って思うときありますからね。だから歌詞をちゃんと読んでれば黒人音楽でセックスのことを歌うのがトラディショナルなことだっていうのは一目瞭然ですよ。

小倉 「セックス」はどういうふうに生まれた曲だったんですか?

岡村 あんまり覚えてないですけど、あの曲は珍しく詞先だったような気がします。たまたま浮かんだんですね、詞が。

小倉 ほかにもセックスについての歌はたくさんあるんだけど、それは曲ごとにいろいろシチュエーションを考えるわけ?

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より

岡村 自然と思い浮かんだりとか、シチュエーションを思い描いてそれに沿って作るみたいのも確かに曲によってはあるかもしれませんね。でも、最初にコンセプトというかイメージみたいのができて、そこからだいたい七転八倒、四苦八苦して書いていくっていうのが多いですね。

小倉 今回みたいにセルフカバーしてみて、昔書いた歌詞を読むと新しい発見があったりする?

岡村 あります、あります。まあ、なんか時代は変わっても違和感はないなと思いますね。あと、歌ってて楽しいですよ。

「祈りの季節」

小倉 岡村靖幸と言えばリズミックなファンクナンバーが多いですけど、バラードに対する思い入れはいかがですか? 書くのも演奏するのも……。

岡村 好きですね。

小倉 歌詞の世界をじっくり伝えられるから?

岡村 そうですね。それも絶対あります。

小倉 バラードタイプの曲で、今回「祈りの季節」っていう曲が入っていますよね。セックスのことや高齢化社会、「なんでみんな子供産まない」っていう少子化の問題とかを歌ってる。あの歌ができたきっかけっていうのはなんだったんですか?

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より

岡村 少子化の問題というのは、以前聞いたんですけど、子供が減れば国は滅びていくわけですよね、当然。逆ピラミッド型になればなるほど国は滅びていくわけです。会社は小さくなるし、学校も小さくなる、政党も小さくなる。何もかも小さくなって、そしたら国としての力も小さくなるわけで。だから少子化っていうのは大きな問題だってその当時聞いた記憶があるんですよ。で、少子化を防ぐには営みしかないわけでしょ? 昔の終戦直後に比べて国としては潤ってるはずだし、生活も豊かになってるはずなのに、少子化に向かっていってるってことは何を意味しているんだろうと思ってた。そのときに作った曲なんじゃないですかね。

小倉 今よく話題になってる「草食男子」みたいな言葉があって、性的関係が希薄になってる青年たちが多いわけでしょ。

岡村 多いですね。「少子化」っていうことは、何を意味していると思います?

小倉 私はそれはわからない。

岡村 僕もわからないからお伺いしていて。一説には、人間が生き物として生殖能力みたいなものが弱まっているんじゃないかと。食事やホルモンや環境の影響で。

小倉 じゃあ「祈りの季節」っていう歌は、そういう世の中に対するメッセージ、警鐘みたいな思いを込めて書いたわけですか?

岡村 そこまで大げさではないですけど、自分も含めてどうなってんだろうなとは思ってました。うまくやりくりできない現実に対して「なんでだろうな」みたいな疑問ですね。世の中に警鐘を鳴らすほどのことではないですけど、自分はすごく不安です、自分の心の引き出しにうまく入れられませんと。それで「みんなどう思う?」みたいな感じですかね。

「どぉなっちゃってんだよ」

小倉 「どぉなっちゃってんだよ」っていう曲は、今回ガラッと様変わりしましたね。この曲を作ったときはどういうことを考えていたか覚えてますか?

岡村 はっきりとは覚えてませんけど、当時はすごくメッセージ性が高いもの、かつ実験的な音でバランスをとって作った記憶がありますけど。

小倉 面白いですよね。世の中に対する警鐘・警告みたいな意味合いもあるし、自分自身に問いかけてるところもある。

岡村 メッセージソングというよりも、自問自答みたいな感じですね。

小倉 今回はリズムをより強調した、パーカッシブなアレンジですけど。

岡村 ライブで盛り上がる曲なので、ライブバージョンにしてお客さんの声も入れようかなと思ったんですけど、全部ナシにして、ああいうシンプルな形で仕上げてみたらすごく良かったんですよね。

小倉 なるほど。今回お話できてすごく面白かったです。最後に何か言い残したことはあったりします?

岡村 あの、今回ライナーノーツっていうのがひとつのテーマだったんですけど、今の僕のクリエイティビティもライナーノーツや歌詞カードにすごく影響を受けてるんです。僕が小中学生の頃ライナーノーツを読んで「こんなことを歌ってるんだ」とか「ウエストコーストってどんな場所なんだろう」とか思いを馳せていて。そうやって知的好奇心をくすぐられて。それはとてもいいことだと思うんですよね。だから変な話ですけどレコードを買うときには、歌詞カードと訳詞、ライナーノーツがあるものをオススメしたいです。

「岡村靖幸のおしゃべりエチケット ライナーノーツに憧れて」より
岡村靖幸アルバム再発記念「岡村靖幸アルバム・ライナー・ノーツ」募集企画
  • 応募締め切り:2011年12月10日(土)※郵送の場合は締め切り日必着
  • 入賞作品(対象アルバム各タイトル1作品、計6作品)は、2012年2月発売予定の再発盤アルバムのブックレットに掲載されるほか、副賞としてサイン入り特製楯を贈呈
  • 応募要項は特設サイトにてご確認ください
岡村靖幸アルバム6タイトル再発 / 2012年2月発売予定
  • 1stアルバム「yellow」オリジナル盤発売日 1987年3月21日
  • 2ndアルバム「DATE」オリジナル盤発売日 1988年3月21日
  • 3rdアルバム「靖幸」オリジナル盤発売日 1989年7月14日
  • セレクションアルバム「早熟」オリジナル盤発売日 1990年3月21日
  • 4thアルバム「家庭教師」オリジナル盤発売日 1990年11月16日
  • 5thアルバム「禁じられた生きがい」オリジナル盤発売日 1995年12月13日
岡村靖幸LIVE TOUR2012「エチケット+(プラス)」
  • 2012年1月10日(火)
    東京都 SHIBUYA-AX
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年1月11日(水)
    東京都 SHIBUYA-AX
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年1月13日(金)
    宮城県 仙台市民会館
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年1月15日(日)
    北海道 Zepp Sapporo
    OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2012年1月19日(木)
    愛知県 Zepp Nagoya
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年1月22日(日)
    広島県 広島アステールプラザ
    OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2012年1月24日(火)
    福岡県 Zepp Fukuoka
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年1月27日(金)
    新潟県 新潟りゅーとぴあ劇場
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年2月1日(水)
    大阪府 なんばHatch
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2012年2月2日(木)
    大阪府 なんばHatch
    OPEN 18:00 / START 19:00

ニューアルバム「エチケット(ピンクジャケット)」 / 2011年8月24日発売 / 2800円(税込) / V3 Record / disk union / V31

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岡村靖幸(おかむらやすゆき)

1965年生まれ、神戸出身のシンガーソングライター。作曲家としての活動を経て、1986年にシングル「Out of Blue」でデビュー。R&Bやソウルミュージックを昇華したファンキーなサウンド、青春や恋愛の機微を描いた歌詞などが支持され、熱狂的な人気を集める。90年代以降は作品発表のペースを落とし表舞台から姿を消すが、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動は継続する。2004年には約9年ぶりのアルバム「Me-imi」をリリースし、全国ツアーも開催。2011年8月にニューアルバム「エチケット」を2枚同時リリース。野外フェス「SWEET LOVE SHOWER」でライブ活動を再開し、同年9月に東名阪ツアー「エチケット」を実施した。

2011年11月10日更新