音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ

エレクトロへ原点回帰 巨匠・鷺巣詩郎と示す鎮魂とダークネス

いち原作ファンとして「ベルセルク」の世界を表現したい

──やなぎさんは原作コミックの「ベルセルク」も読まれていたんですか?

はい。昔からずっと読み続けていた作品なので、こうして関われるのはすごくうれしいと同時にびっくりしています。大作ですし。

──プレッシャーや気負いはありませんでした?

やっぱり原作のファンの方がすごく多くて、皆さんがイメージされている「ベルセルク」の世界があるじゃないですか。そこにエンディングテーマという形で私の解釈が加わることに関して、プレッシャーみたいなものもなくはなかったんですけど、だからといって萎縮するようなことはなかったですね。むしろ自分もいちファンとして「ベルセルク」の世界を表現したいっていう欲求が勝ったというか、そこはすごく楽しんでやってました。

──やなぎさんなりの「ベルセルク」の世界を表現する作業とは、具体的には作詞だと思われますが、順調でした?

モチーフをどうするかという点と、どこまで詞を作品に寄せるかという点ではけっこう悩んだんですけど、「ベルセルク」というタイトル自体が北欧神話に由来しているので、私も北欧神話からモチーフを探してみようと。そこで歌詞にも出てくる「einherjar(エインヘリヤル)」という言葉に行き当たったんですよ。

──「戦死した勇者の魂」を意味する言葉ですね。

北欧神話をいろいろ読んでいたら、勇者たちが互いの腕を磨くために朝から殺し合いをして、そこで死んだ者は夕方には復活してまた翌朝戦うっていうお話があったんです。「ベルセルク」の世界でも終わらない戦い、あるいは救われない戦いが続いているので、その部分とエインヘリヤルを重ねてみました。このモチーフが決まってからはわりとするするっと書けた感じです。

ガッツとやなぎなぎの共通点とは?

──「ベルセルク」は中世が舞台のダークファンタジーで、やなぎさんが選んだエインヘリヤルというモチーフもなかなか血生臭いものですが、歌詞の言葉には優しさも見て取れます。

北欧神話の中の死んだ勇者たちは夜には酒盛りをしたりして楽しそうでもあるんですけど、やっぱり毎朝、死んでも戦い続けるっていうのはつらいだろうなって。なので私としては、いつか彼らが安らげるときがきてほしいっていう、願いみたいなものを込めたというか、彼らがどこに安らぎを求めているのかを想像して、物語を作るような感じで書きました。今回の歌詞はだいぶ客観的だと思います。

──「安らげるときが来てほしい」というのは「ベルセルク」の主人公、ガッツに対しても言えそうですね。

ガッツは見ていて本当につらいキャラクターですよね。でも、そこがダークファンタジーの真骨頂というか。報われない中で、ものすごく小さな光をちょっとずつたどりながら前を向いて進んでいく姿には惹かれます。

──ガッツにご自身を重ねたりは?

ガッツほど壮絶な人生は送っていないですね(笑)。でも、例えば「今日は何をやってもうまくいかなかった」とか、誰でも大なり小なりある種のままならなさみたいなものを抱えているし、報われなくてもがんばらなきゃいけない局面もありますよね。それはガッツの苦悩とは比較にならないちっぽけなものでしょうけど、そういう人間的な部分は共通しているかなと思いますね。

歌詞の対比も面白い英語バージョン

──今回のシングルには「瞑目の彼方」の英語バージョンも収録されていますが、これにはどんな狙いが?

やっぱり「ベルセルク」は世界的に人気がある作品なので、海外の方にも歌詞を理解したうえで聴いていただきたいなと。訳詞についても伝わりやすさを重視して、日本語の歌詞をほぼストレートに訳していただいてます。

──日本語と英語では言葉の響き方も違いますし、両方の歌詞を並べてみると情報量も違うのがわかって面白いですね。英詞のほうが言葉の情報が多くて。

かなり言葉が増えましたね。特にサビは日本語だと「救いを(す・く・い・を)」という4つの音しか発しないフレーズでも、英語だと「reaching your hand」と、4音節分の単語が入れられるので。

──サビ以外でも、例えば1番のAメロの「現実を呑んで」という歌詞は「swallow the real, and hold my tongue」と訳されていて、現実を呑むだけでなく「沈黙を守る」という意味も含んでいたり。

あと、やっぱり日本語は主語を省けるっていうのが一番大きくて。そうすることでふわっとさせられるというか、誰のことを歌っているのか曖昧にできるところがあるんですけど、英語ではそれが「I」なのか「you」なのか、明らかになっていたり。そういうのも面白いところですよね。

ニューシングル「瞑目の彼方」2016年8月31日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCA-0440
通常盤 [CD] 1296円 / GNCA-0441
CD収録曲
  1. 瞑目の彼方
  2. 瞑目の彼方(English ver.)
  3. キミミクリ
  4. 瞑目の彼方(Instrumental)
  5. キミミクリ(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • 瞑目の彼方(ミュージッククリップ)
ライブ情報

やなぎなぎコンセプチュアルライブ
「color palette ~2016 Green~」
2016年9月25日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂

やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年にライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年発表のsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。2012年2月にはテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビューした。その後も2013年7月に1stアルバム「エウアル」、2014年12月に2ndアルバム「ポリオミノ」、2016年4月に3rdアルバム「Follow My Tracks」をリリース。8月31日には自身13枚目となるシングル「瞑目の彼方」を発表し、表題曲はテレビアニメ「ベルセルク」のエンディングテーマに使用されている。