音楽ナタリー Power Push - やなぎなぎ

ニューシングル「オラリオン」が示す 彼女と言葉、彼女と他者の距離

複数の他者と自分ばかりを描く人

──実はやなぎさんのその態度ってずっと気になってたんです。「春擬き」リリース時には、私の思う“本物”も他人から見たらフェイクなのかもしれないからタイトルに「擬き」と付けたと言っていて。

はい。

──今も集団のありようを俯瞰することに興味があると言っている。これってどちらも相対的な話だと思うんです。曲中の主人公やご自身の視点、振る舞いを、複数の他者の視点や振る舞いと対比させているってことだから。

そうですね。

──やなぎさんは「やなぎなぎ」という絶対的な看板を掲げて活動していて、しかも評価も集めているのに「やなぎなぎ的には!」という詞は書かない。最大の関心事は「いろんな人たちのいろんな振る舞いがある中での私」というか。例えば「もう周りが見えなくなるくらい、あなたと私はラブラブで」という2人だけの絶対化された世界を描くラブソングは……。

まず書かないですね(笑)。確かに「複数の他者の中での自分」のことばかり書いている人も珍しいのかもしれないですね。

──もはや曲中の人物を徹底的に相対化させることが、やなぎなぎの絶対的な武器になっている気すらします(笑)。

あはははは(笑)。自分自身に興味がないわけではないし、感情的になることももちろんありますけど、うーん……。どこか自分のことを一歩引いて見ていることは多くて。例えば誰かと意見を交わす場面だと、まずはみんなの意見を聞いちゃうんです。「あっ、そういう意見もあるのか」「確かにそれもアリだな」ってなったら、そこからまた自分の考えを新しいものに発展させていったりとか。自分の意見ももちろんあるんですけど、周りの意見とか外的な要因を受けた上で自分が発信するっていうことがよくあって。それが歌詞にも影響を与えている気はします。

──「誰か」の存在が「私」になんらかの変化を及ぼすことに期待している?

そうですね。その「誰か」は人でもいいですし、天気でもいいんですけど、日々変化していくことはきちんと見ておきたいし、感じたいな、と思っています。毎日同じ電車に乗ってても、そこにはいろんな人がいるじゃないですか。例えば隣の席で一生懸命スケッチしている人とか(笑)。

──また変わった人に出くわしてますねえ(笑)。

そうやって意外な人と出会えるのは面白いなあ、と思いますし、晴れた日には晴れた日なりの、曇った日には曇った日なりの気分になることもありますし。そういう出会いが私に与える影響について考えるのが好きだから、大勢の他者や社会とのかかわりについての詞が増えるのかもしれないですね。

やなぎなぎ=ピアノを燃す人

──あと「zoon politikon」が面白かったのが、作曲・編曲が齋藤真也さんであるということで。「オラリオン」とは別の作家さんが書いているのに、同じくストリングスが牽引するドライブ感のあるロックナンバーに仕上がっている。2曲のトーンが同じになったのって意図的なものなんですか?

まったく(笑)。結果こうなった感じです。「zoon politikon」のほうが先にできあがってましたし、その時点では「オラリオン」と同じシングルに入るかどうかもわからない状況だったので。私自身、マスタリングのときに改めて通して聴いてみて「おや? この2曲」って思いました(笑)。

──その齋藤メロディはいかがでした?

真也さんはデビューしてから一番ご一緒している作家さんなので「オラリオン」ほどビックリ感はなかったです(笑)。以前もお話したかもしれないんですけど、真也さんは私の声の生かし方をメチャクチャ考えてくださっているので。今回もサビのメロディラインであったり、コーラスであったりとか、私の声の特徴を生かしながらも新しい要素を盛り込んでくださっていて。だんだんテンポアップしていく感じなんかがまさにそうだと思うんですけど。

──確かに「『オラリオン』と比べると」ビックリ感は少ないものの、この曲もいい意味でストレンジですよね。なんで作家さんたちは、やなぎさんを前にすると何かを仕掛けたくなるんでしょう?(笑)

確かに(笑)。でも本当にそうというか、藤間さんや斎藤さんとはまた別の作家さんの話なんですけど、2人の作家さんにそれぞれ別のデモを作っていただいたら、お2人がまったく同じソフトウェア音源を使っていたということがあって。しかも、その音っていうのが「バーニングピアノ」っていう、ピアノに火を付けて弾いた音をシミュレートしたもので……。

──あはははは(笑)。

私のイメージそれなんだ……って(笑)。無意識ではあるんですけど、私自身や私の曲からは何か私らしさみたいなものがにじみ出ていて、それを皆さんに感じ取っていただけているんでしょうね。

──その“らしさ”が作家陣に「やなぎなぎはピアノを燃すだろう」と思わせる、と。

あはははは(笑)。でもすごくいい音ですし、そう思っていただけているのはうれしいですね。

ニューシングル「オラリオン」 / 2015年12月9日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
初回限定盤 [CD+DVD] 1944円 / GNCA-0406
通常盤 [CD] 1296円 / GNCA-0407
CD収録曲
  1. オラリオン
    [作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  2. zoon politikon
    [作詞:やなぎなぎ / 作曲・編曲:齋藤真也]
  3. オラリオン(instrumental)
  4. zoon politikon(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • 「オラリオン」Music Video
ライブBlu-ray / DVD「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」 / 2015年12月23日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
「やなぎなぎ ライブツアー2015『ポリオミノ』渋谷公会堂」
Blu-ray Disc 5400円 / GNXA-1169
DVD 4860円 / GNBA-1410
やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始するや注目を集め、2009年にはsupercell「君の知らない物語」にnagi名義でゲスト参加。幅広い層の支持を集める。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビュー。以来「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」など、話題のアニメのテーマソングを立て続けに発表し、2013年7月には1stアルバム「エウアル」を発売。以降もアニメ「凪のあすから」の前期エンディングテーマ「アクアテラリウム」、「ブラック・ブレット」のエンディング曲「トコハナ」などを発表し、また2014年12月には2ndアルバム「ポリオミノ」を完成させた。そして2015年6月、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続」のオープニングテーマ「春擬き」をリリース。10月には弦楽四重奏を伴ってのコンセプトライブ「color palette ~2015 Silver / Gold~」を開催し、12月にはアニメ「『終わりのセラフ』名古屋決戦編」のエンディングテーマ「オラリオン」を発表する。