ナタリー PowerPush - やなぎなぎ

ディープなサウンドで攻める2ndシングル完成

ちょっと影のある話を見たり聞いたりするのが好き

──同じくinazawaさんとのコンビによる2曲目「白くやわらかな花」は、「ヨルムンガンド」の第4話限定のエンディングテーマですけど、シリーズ全体のエンディングテーマ「Ambivalentidea」とは制作方法に違いはありましたか?

あまり変えてないですね。アニメのスタッフの方から「4話は特別なエンディングを作りたい」というお話があってから、「じゃあ、inazawaさんの思うように書いてみてください」って感じでお願いして。そこからできあがってきたデモや4話のストーリーから、イメージを拾いながら作詞しました。

──第4話って、ココの命を狙う殺し屋コンビ・オーケストラのチナツがココの私兵に殺されるお話ですよね。

はい。なので、1人の女の子がどうやって生きてきて、どうやって死んだのかを、「花が枯れて、種を残して」というふうにちょっと抽象的に表現しようと。この曲ではずっと女の子をお花に例えています。私、チナツちゃんの生き方が好きなんです。

──殺し屋に両親を殺されてその一員として暮らしていくうちに、殺しの師匠に依存しなきゃ生きていけなくなったあげくに撃ち殺される女の子の生き方が、ですか?

ちょっと影のあるお話というか、「子供の頃に何か事件があって、そこからドラマチックな人生を送る」みたいな話を見たり聞いたりするのが昔から結構好きで。チナツちゃんのことも、彼女が殺されちゃうシーンで一緒に「うっ!」ってなっちゃったくらい好きなんです。だからこそ、その人生を描いてみたかったんです。

歌うときは常に景色や情景を思い浮べてる

──お話を聞く分に「Ambivalentidea」も「白くやわらかな花」も、シンガーソングライターとしてご自身の思いや自我を伝えるというよりも、物語を作っていくような感覚で作詞してますよね。

そうですね。「矛盾」や「ドラマチックな生き方をした女の子」っていうテーマから、スピンオフというか、私なりの新しい物語を作り上げている感じはあります。これは今回に限らずどんな曲でもそうなんですけど、歌うときは常に景色や情景を思い浮べてるんです。

──「Ambivalentidea」の歌詞にある「圧し掛かるエゴに潰されていく」様子や、「白くやわらかな花」の「甘い毒が腕に絡む」情景を?

歌詞とはまた別で、例えば「Ambivalentidea」なら、最後に人が神様と対決する曲だから、思い浮かべたのは女の子が教会で歌っている風景。その女の子は元々はただの人だから、曲の最初のほうではテクニカルな要素は一切カット。ビブラートさせない声でポツポツと歌い始めて、だんだん歌詞の内容が神様に近づいていくにつれて、その子の歌にも抑揚を付けていって、最後は神様相手に激しくガッといく(笑)。歌うときは、いつもそんなイメージを明確に持っていて頭の中をグルグルさせてるんです。「白くやわらかな花」ならもうちょっと直接的で、歌詞にも出てくる「降り出す音」、つまり雨の匂いというか、ズブ濡れになりながらボーッと空を見上げているイメージだったり。

──歌詞に書かれている風景とはまた別の風景を思い浮かべて歌っているっていうのはちょっと面白いですね。その上、風景が歌唱法すらも左右するわけですよね。

しかも私、これまでビブラートを全く使わない歌い方をしたことがないという(笑)。ほかの楽器の場合、使ったことのないテクニックをいきなり使うのは難しいけど、より自分の肉体に近いボーカルっていう楽器なら、少しは自分の思いどおりになってくれるから、新しい引き出しを探しやすいんです。これはボーカリストの特権なのかもしれないですね。

自分の好きなものや風景を正確に伝えたい

──3曲目の「halo effect」ですが、まずこのタイトルの意味は?

「光背効果」っていう心理学用語で、例えば「あの人は有名大学を出てるから、きっと性格も良くてスポーツもできるに違いない」っていうふうに、ある人のある一面が優れていると、ほかの面についても良い方向に評価を歪めてしまうことってありますよね。その心理現象のことなんです。逆に、ある商品のCMに嫌いなタレントさんが出ていると「あの人が出ているからダメな商品に違いない」「絶対買わない」ってネガティブな気持ちになったりするのも光背効果の一種らしいです。

──なぜ光背効果をテーマに? ご自身もCDをリリースしたりステージに立ったり、こうやってインタビューを受けたりすることで、そういう誤解を与えたりねじれた評価を受けたりするから?

そういった心理が恐ろしいと思うと同時に、面白いなとも思っていて。私自身がそういう対象になるから、っていうのも少しありますね。そんなつもりはないんですけど、歌に対するイメージがひとり歩きするのか、よく「天然」って言われたりするので。実際はもっと腹黒いのに(笑)。それに私自身にもそういう思い込みってあるし。すごく好きな人が私のイメージとちょっと違ったことをすると、勝手にガッカリしたり嫌ったりしちゃいますから。そしてそのあとで、ものすごく申し訳ない気分になったりするんです。

──この曲の作編曲は飛内将大さんです。「ビードロ模様」のカップリング「concent」のアレンジャーを改めて起用した理由は?

いろんな方の曲を聴かせていただいて。特に作家さんのお名前は気にせず聴いてたら、もちろんレベルの高い作品ばかりだったんですけど、結局なぜか飛内さんの音を選んでたんです。

──「concent」のとき、ご自分でアレンジを依頼したくらいだし、やっぱり肌に合った?

だと思います。やっぱり耳に馴染んだので。それでいて、サビで高速の16ビートを打ったり、「concent」のときと同じように私には絶対にできないアレンジをしてくださっていたから、一目惚れならぬ一聴惚れしちゃったんだと思います。

──しかし、新人アーティストの2ndシングルとは思えないほど、冒険的な1枚になりましたよね。シンフォニックでスケール感のある楽曲2曲と、ド派手なテクノ / エレクトロのパッケージって。

確かにボリューミーですよね。ただその分、聴き応えはあるし、いろんな聴き方のできるものになったと思っています。「ヨルムンガンド」自体「なつまち」よりも大人っぽい作品なので、アニメをきっかけに私の曲を聴いてくださる、20代後半から30代の方には詞の意味を読み解いてみてもらいたかったりするし、「ビードロ模様」で私を知ってくださった10代の方たちには「こんな面白い音楽もあるんだよ。こっちにおいでよ」って伝えてみたいですし。私自身、中学時代からエレクトロニカや音響系を聴いてるんですけど、周りに同じ趣味の人がいなくてちょっと寂しかったんで、音楽友達を増やしたいんです(笑)。「自分の好きなものや風景を正確に伝えたい」っていう思いで音楽をやっている部分もあるので、10代の人たちにとってこのシングルが、私の好きな、でも、みんながあまり知らない音楽を知るきっかけになってくれたらうれしいですね。

ニューシングル「Ambivalentidea」 / 2012年6月6日発売 / 1260円(税込) / ジェネオン・ユニバーサル / GNCA-0240

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CD収録曲
  1. Ambivalentidea
  2. 白くやわらかな花
  3. halo effect
  4. Ambivalentidea (instrumental)
  5. 白くやわらかな花 (instrumental)
  6. halo effect (instrumental)
やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンウィークリーチャート11位にランクインした。6月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマを含む2ndシングル「Ambivalentidea」をリリース。