ナタリー PowerPush - Vampillia

気鋭カオティックバンドの実像を探る

Vampilliaは帰宅部の高校生の放課後

──ああいう、いわゆるカオスなものに惹かれる感覚はどういうところから来ているんでしょう?

micci the mistake(B, Dance)

いや、根本的に僕自身はとっちらかっているとは思ってないんです。言われることはわかるんですけど、僕の中ではあれで1つなんで。もともとバンドマンというメンタルがまったくないからかもしれない。アーティストっていう感覚ももちろんないし。ただ自分が面白いと思うことをそのときに出す感じなんで。

──バンドマンとかアーティストという意識がないというのは、Vampilliaの独特なところですよね。それがこの「わけのわからなさ」の謎を解く1つの鍵なのかも。

でもね、バンドをストイックにやられてる方にとっては、僕らはある種の聖域みたいなところを土足で踏みにじってると思います。申し訳ないと思うんですけど、そこの感覚が違うから仕方がないですよね。

──バンドでもアーティストでもないとすると、Vampilliaは何が一番近いと思います?

放課後ですかね。帰宅部の高校生の放課後。そういうノリです。

──なるほど。それで言うとPファンクに近いのかもしれないですよね。Pファンクって、1970年代にジョージ・クリントンという人が街の床屋に集まっているロクデナシたちを集めて立ち上げたグループっていう話を聞いたことがあって。

possession mongoloid(Vo)

僕らの中でもそういう話はしたことありますね。僕もPファンクはすごく好きで。1人ひとりがおしゃれやし、あの感じはいいですよね。

──Pファンクは街の床屋が溜まり場だったわけですが、Vampilliaにおいても、そういう溜まり場があったりしたんでしょうか?

僕らが通ってた高校は大阪の高槻というところにあって、そこにCD屋があったんですけど、そこですかね。街の中古CD屋に僕らがバイトで入ったんですよ。そこで音楽も聴けるし、好きなことができるっていうんで、そのお客さんの高校生の子にマニアックな音楽をどんどん教えていったりして。そいつが今メンバーなんですけど。

最初のほうは、段ボールをひたすら叩く係もいましたね

──Vampilliaのメンバーにはピアニストもバイオリニストもいますよね。それはさすがに音楽的なスキルが必要な楽器だと思うんですけど、どういうふうに引き込んでいったんですか?

Vampilliaで最初にライブをやったとき、今のピアノの人が弾けるの知らなかったんですよ。だから「弾くフリしてくれ」って言って当て振りをしてもらって。あと、テレビを割る係とかもいて。ドラを叩くみたいな感じで、ステージの上でテレビを割るという。最初はそういうところから始まったんですけど、その後、「もうちょっとちゃんと音楽したほうがいいんじゃないか」ってなったときに、ピアノ弾くフリしてたやつが、「私ピアノ弾けんで」って言って。「え? じゃあ最初から弾いたらよかったやん」っていう(笑)。

──バイオリンは?

rei miyaoto(Violin)

ある時期、なんでか忘れたんですけど、クラシックをやってる人を集めないといけないと思ったんですよね。いろんな芸大を回って声をかけていったら、ストリングス隊が集まって。でもクラシックの人って、やっぱりロックみたいなバカっぽい音楽のところで弾いてくれないんですよね。そこでパンクな人はいないかって言って紹介してもらったのが、今のバイオリンです。

──なるほど。ちなみにさっき「テレビを割る係」って言ってましたけど、そういういわゆる通常の楽器プレイヤーじゃないメンバーはほかにもいたんですか?

最初のほうは、段ボールをひたすら叩く係もいましたね。

──その頃のリーダーのステージ上での役割はなんだったんですか?

僕はその頃は、CDJでしたね。最初はステージにいたんです。そこでひたすら関係ないCDをライブ中に流し続ける。実際には音は出ないんですけど。それをひたすら流してるだけでした。

──ステージにいなくなった理由は?

Velladon(Vo, G)

僕らって音が多いじゃないですか。だから、外で鳴ってる音が、自分らの思ってる音とは全然違うことに気付いて。だから僕は外でチェックする係になったんです。しかもほかのメンバーから「ステージが狭い」って苦情が来たんで、じゃあ誰がいなくなるか?っていったら当然俺になるわけで。

──何もやってない人だったから(笑)。

そう。追い出されたって感じです。

──まあ、オーケストラの指揮者と同じようなポジションというわけですよね。

そう言っていただけるとありがたいですけどね。メンバーはそう思ってないでしょうね。空っぽだから。

ヴァルゲイルから「録音してみないか?」って言われて

──今回出るアルバムは、いつ頃から作り始めたんでしょう?

左からワタコ(Cho)、Velladon(Vo, G)。

記憶としては2010年くらいからですかね。カニエ・ウェストが「My Beautiful Dark Twisted Fantasy」を出した頃に一番曲を作ってたかな。

──レコーディングはアイスランドでビョークの制作チームと作ったということですけれど、これはどういう経緯だったんですか?

もともと自分たちが好きで、音源を送ってるんですよね。彼らがやってるレーベルのBedroom Communityに音を送ったら、ヴァルゲイル(ヴァルゲイル・シグルズソン)から返事が返ってきて、「録音してみないか?」って言われて。「おおっ!」って思って行ったという。

──ビョークやSigur Rosは以前から好きだったんでしょうか?

Sigur Rosは「Agaetis byrjun」が好きでしたね。あれを聴いたときに、Mogwaiを超えるものが出てきたって思ったから。あと、ビョークの「Vespertine」も好きだったけど、改めてアイスランドで聴いたら「すげえ!」と思ったし。

──去年にはツジコノリコさんをフィーチャリングした「endless summer」という曲をアナログでリリースしていますけれども、あの曲はどういうきっかけで?

Vampillia

去年の5月くらいにヨーロッパツアーに行くことになって、それがきっかけですね。ヨーロッパではもうアナログしか売れないと言われて。で、知り合いが7inchのレーベルを始めたって言ってたからそこから出してもらおうと思ったんですけど、夏の曲じゃないと出さないって言われたんで、じゃあ作ろうと。

──そういうふうにテーマが与えられたことは、どう作用したと思います?

僕、おセンチ系なんですよね。放課後が好きなんです。そういう曲がずっと作りたかった。ツジコノリコさんの詩世界はぶっ飛んだものが多いんですけど、もっと身近な、誰にもある放課後みたいなのを書いてほしいなってずっと思ってたから、ちょうどいいなと。僕はあの人の声とそういう世界観がすごい好きだし、Vampilliaに合うと思っています。

日本企画盤「the divine move」 / 2014年4月9日発売 / 2310円 / Virgin Babylon Records / VBR-019
日本企画盤「the divine move」
収録曲
  1. lilac(bombs 戸川純)
  2. mirror mirror(bombs BiS)
  3. endless summer(feat. ツジコノリコ)
  4. tasogare(feat. 長谷川裕倫)
  5. good religion(feat. Mick Barr)
  6. dizziness of the sun(feat. ツジコノリコ)
  7. oops we did it again(bombs BiS)
  8. endless(massaka)summer 2014
  9. lilac(bombs 戸川純) perfect ending ver.
Vampillia(う゛ぁんぴりあ)

Velladon(Vo, G)、possession mongoloid(Vo)、吉田達也(Ruins)と竜巻太郎(NICE VIEW、TURTLE ISLAND)のツインドラム、真部脩一(ex. 相対性理論)ら10人(ときにはサポートなども含めた、それ以上)のメンバーからなるバンド。2005年に大阪で結成され、結成当初は元BOREDOMSの吉川豊人が在籍した。あぶらだこ、BiS、赤い公園、撃鉄、DE DE MOUSEら個性派アーティストを招いたイベント「いいにおいのするイベント」を主催している。

2008年、ツジコノリコとニューヨークツアーを敢行。2009年10月にミニアルバム「Sppears」を発表し、2011年にアメリカのimportant recordsより「Alchemic Heart」、イタリアのcode666より「Rule The World-Deathtiny Land」をリリースした。2014年4月には、戸川純、BiS、ツジコノリコらをゲストに迎えた日本企画盤「the divine move」に続いて、1stフルアルバム「my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness」をVirgin Babylon Recordsからリリースする。