ナタリー PowerPush - ユニコーン×宇宙兄弟

阿部義晴×小山宙哉「Feel So Moon」対談

人気マンガ「宇宙兄弟」がアニメ化される。オープニングテーマはユニコーンの「Feel So Moon」に決まった。ユニコーンを聴きながらマンガを描いてきたという原作の小山宙哉と、ユニコーンの阿部義晴(Key)の特別対談が実現した。

取材・文 / 山内宏泰 撮影 / 大門徹

「スピード」と「力強さ」と「宇宙っぽさ」

小山宙哉 今回はアニメ版「宇宙兄弟」に素晴らしい曲を作っていただきまして、本っ当にありがとうございます! 昔から大ファンなので、心から感激しています。

対談風景

阿部義晴 こちらこそ。僕のほうも感謝してますよ。ああ今年もなんとか仕事があって良かった、とホッとしたので(笑)。本当は今年もっとお休みしていようと思っていたんで、正直なところ、最初はお受けしなくていいかなと考えていたんです。でもマンガが送られてきて、読んだらこれが面白いんですよ。だから、やりますってすぐお返事した。

小山 ありがとうございます。気に入っていただけて光栄です。

阿部 作品にはすごくスピード感があるじゃないですか。飛んだり跳ねたり、漂ったりとかっていう感覚の描写もすごい。そういうイメージが強かったので、始まりはスピード感を意識しましたね。アニメーション用の曲ということも聞いていたので、わかりやすさというか、強さもあったほうがいいだろうなとも考えました。それに、宇宙の話だから、サビはどうしても無重力っぽく浮かんだり、ねじれたりするようなものにしたかった。ぱっと聴いたときに「スピード」と「力強さ」と「宇宙っぽさ」を感じられるものにしたかったんですね。そういうのをユニコーンでやるとどうなるかと考えて、曲を詰めていったんです。

小山 サビの部分の浮遊感はスゴかったし、かなり意表を突かれました。ロックのサビって曲の中でいちばん激しくなることが多い気がするけど、この曲はサビの前がぐっと盛り上がって、サビに入るとふわりと無重力感が出てくる。宇宙空間にいるみたいな感覚になりますよね。

阿部 普通のサビとは違いますよね。全然サビっぽくない。

小山 でもクセになります。「宇宙兄弟」のこと、こんなにも意識して作っていただけたなんて。

阿部 喜んで作りましたよ。僕は結構、そういうの好きなんですよ。制約があると燃えるタチで。「こういう用途で使うための曲を」とか、条件を限定されたりすると、じゃあその制約の中でどうにか工夫しようと燃えてくる。そのほうが、新しいところに行きそうな気がするんですよ。だからこういう仕事は大好き。

時間をかければかけるほどいいんです

小山 自由が制限される感じで、やりづらかったりはしないんですか。

対談風景

阿部 いや、やりやすいです。特に細かい注文もなかったし。どういう雰囲気でとか、何拍子でとか、そういうのは一切なしだったから。自由に曲を広げていけましたね。それにね、これは今年の始めに作ったんですけど、1カ月くらい時間をかけられたのでとてもよかった。人によって違うんだろうけど、僕の場合は時間をかければかけるほどいいんです。

小山 確かに、聴いていて「ああ、これは時間をかけられたんだろうな」とは思っていました。

阿部 かけましたね。まずは「調べる」時間がある。今回なら原作を読むことから始まって、少しずつイメージを固めていく。イメージだけを考える時間が2~3週間はあったかな。曲を書き始めると1週間でやっちゃうんですけどね、その前の2~3週間こそが大事なんですよ。ずっとベランダでボーッとしていたり、ソファで寝ていたりするだけなんですけど。でもね、イメージのないまま書き始めると、「そのまま」になってしまう。目の前にある材料だけでできあがるというか、すらすら出てきたもので決定しちゃうというか。1回書いてしまうと、もうなかなか一から直すことってできないものだから、かえって怖いですよ。イメージを固めるまでの時間がたくさんいただけたのは、とてもいいことだった。

ユニコーン

ユニコーン

1986年に広島で結成。翌1987年にアルバム「BOOM」でメジャーデビューを果たす。メンバーは奥田民生(Vo, G)、EBI(B)、手島いさむ(G)、川西幸一(Dr)、阿部義晴(Key)の5人。全員が楽曲制作に携わりボーカルを取るフレキシブルなスタイルで、独自の路線を突き進む。「大迷惑」「働く男」「雪が降る町」「すばらしい日々」など数々の名曲を生み出すも、1993年に惜しまれつつ解散。

その後はそれぞれソロ活動を展開していたが、2009年に16年ぶりとなるまさかの再始動。2月にシングル「WAO!」とアルバム「シャンブル」を発表し、3月より全国ツアー「蘇える勤労」を開催した。また2011年は干支にちなみ「兎に角(とにかく)働こう」と年始より宣言。5月にフルアルバム「Z」をリリースし、直後より全国ツアー「ユニコーンツアー2011 ユニコーンがやって来る zzz...」を実施。さらにツアー中の8月にミニアルバム「ZII」を発表する、精力的な活動ぶりを見せつけた。2012年最初の新曲は、アニメ「宇宙兄弟」の主題歌として書き下ろされた「Feel So Moon」。

小山宙哉(こやまちゅうや)

小山宙哉

1978年京都生まれ。初めての持ち込み作品「ジジジイ」で第14回漫画オープン審査委員賞(わたせせいぞう賞)を受賞。「ハルジャン」「ジジジイ-GGG-」などのヒットを経て、2007年12月から「モーニング」で代表作「宇宙兄弟」の連載をスタートさせる。最新刊は2012年3月23日に刊行の「宇宙兄弟」第17巻。また2012年4月から読売テレビ・日本テレビ系でアニメ「宇宙兄弟」が放送。5月5日からは実写映画「宇宙兄弟」が全国東宝系劇場で公開される。