作詞における2者の“無責任”

──尾崎さんと歌詞を共作した谷中さんはクリープハイプについてどんな印象を持ってましたか？

谷中　まずは「面白いじゃん！」という印象が強かったですね、存在感も歌詞も。ボーカリストと一緒にやるときって、どうなるか想像つかないほうが面白いんですけど、自分たちも今回の共演にはびっくりしてたし、それは音楽ファンにとっても同じだろうなって。驚きつつ感動してもらえたらいいなって思ってました。

茂木　うん。

谷中　歌詞を作るときは尾崎くんの歌詞に引っ張られすぎないようにがんばろうと思ったかな。俺が品よくいいことを言おうとしたらそうなりそうな気がしたんですよ。

加藤　ああ、なるほど。

谷中　僕は今回“脱ぐ”ことが必要なんだろうなって思ったんです。大人になるとどうしても着ちゃうというか、大人なりにきちんとした格好で外に出なきゃって気持ちになって、いつのまにか大人しくなっていくんです。人を傷付けないようにとかいろいろな理由で。だけど尾崎くんと一緒にやったことで、自分が「勝手に封印してたところが多かったんだな」って気付かされたんですよね。1人の男としての欲望に向き合いながら言葉を出すということが、尾崎くんを通じてできたというか。歌詞はLINEでやり取りしてたんですけど、それも興奮しましたね。

尾崎　僕もすごく楽しかったです。

谷中　普段は「自分らしさを出さないと」と考えすぎてスランプにハマったりもするんですけど、今回はそんなこともなくて。尾崎くんらしさ、俺らしさとかも関係なく「面白ければいいじゃん！」という感じだったんですよね。どれだけ広げても尾崎くんがまとめてくれるだろうっていう無責任な気持ちもあったし。

尾崎　僕も同じですね。1人で書いてると、余計なことやらないでいいやと思うこともあるんですよ。鍋で料理を作って「めんどくさいから鍋からそのまま食べちゃおう」みたいな感じになるんです。

──きれいに盛り付けをしないで？

尾崎　そうそう。今回は僕も「何をやっても谷中さんがきれいにまとめてくれるはず」と思っていたし、そのぶん可能性が広がったんじゃないかなって思っています。受け止めてくれる人がいるっていうのはすごくいいですよね。作ってるときに、自分の気持ちをぶつけられる相手がいるっていうのはうれしい。「今度はもう1人の自分とLINEでやりとりする感じで作詞をしてみようかな」と思いましたね。

加藤　すごいね、それ。

「あれ？ これ、俺が書いたっけ？」

谷中　何人かで作ってるって感覚が持てるのは面白いよね。尾崎くんは歌詞を書くときに「登場人物を細かく設定する」って言ってたんですよ。女の人だとしたら、何歳で、どんな服装で、どこに住んでいて、どんな男と付き合ってきたのかも考えて。そうすれば、登場人物が動いてくれるって。

──尾崎さんの歌詞にはストーリーがありますからね。

谷中　小説的だよね。一方で僕はそうじゃなくて「いいな」と思う言葉を作っていく感じなんです。人称も気にしてないから自分の親父にも「お前の書く歌詞はわかりづらい」って言われるんですけど（笑）。

加藤　僕としては「原作・谷中敦、脚本・尾崎世界観」みたいなことができたらいいなって思ってたんです。今までのボーカリストとのコラボレーションと同じように谷中さんが書いた歌詞を尾崎くんに歌ってもらうだけでもいいんだけど、尾崎くんの“脚本力”を歌詞に注入することで、さらに面白くなるんじゃないかって。僕は両方のファンだから、2人が一緒に作る歌詞を見てみたかったんですよね。

尾崎　僕は今回けっこう谷中さんの歌詞に影響を受けてしまってるんですよ。

谷中　「爆音ラヴソング」の「叶えた夢に火をつけて燃やす 煙にして吐いてそれで 終わりにしようか」という歌詞は「あれ？ これ、俺が書いたっけ？」って思ったね。

──「爆音ラヴソング」は確かに谷中さん的な世界観が強いですよね。一方「めくったオレンジ」の歌詞は尾崎さんのストーリーテラーとしての資質がすごく出ていると思いました。

尾崎　「めくったオレンジ」は谷中さんがこっちに近付いてくれた感じですね。僕の家に来てくれた、というか。

谷中　「電気を消したあの部屋の中で」は、まさに尾崎くんの部屋で考えた感じですね。

尾崎　そう、「これは僕が書く感じの歌詞だな」って思いました。ストーリーの続きを書いてもらった感覚がすごくあってうれしかったです。