ナタリー PowerPush - トリツカレ男

原田郁子が舞台初挑戦! いしいしんじ&郁子が語る「トリツカレ男」の本質

自分が「トリツカレ男」にならなければ説得力は生まれない

──郁子さんは今回「トリツカレ男」への出演を依頼されたときに、どう感じました?

郁子 うーん、演技するだなんて、全然自信なかったし、興味本位でやっていいものだとも思ってなかったから、実は何回もお断りさせてもらいました。でもどうしても、ということで。いしいさんの原作だった、ということは自分の中では大きいかなぁ。不思議な縁みたいなのを感じてしまったから。

──いしいさんは舞台化のお話を聞いてどうでしたか?

いしい 僕のところにアトリエ・ダンカンの池田さんが「『トリツカレ男』を芝居にしたいんです」って言いに来はったとき、「何か注文はないですか?」って聞かれて、「書いてあるストーリーをそのまま移し替えるだけの芝居には僕は興味はないです」って言ったんだよね。アトリエ・ダンカンがやるんやったら、アトリエ・ダンカンにしかできない表現になっててほしい。アトリエ・ダンカンが「トリツカレ男」になってへんと説得力がないんじゃないかっていうのを、俺は好き勝手に言ってて。

郁子 わぁ、その言葉、稽古場に貼り出したいな、教室みたいに。大きな文字で「おまえ自身が『トリツカレ男』になれ! by いしいしんじ」って。

いしい そう、そうなんよ。あれをやるってことは、トリツカレ男とかトリツカレ女にどれだけなれるかってことやから。表現をするっていうときに「原作に忠実に」なんてことを言ってる場合じゃないんだよね。だから「それぐらいの覚悟でやってもらったら俺はすごい楽しみなんですけど」みたいなことを言って。でもすごく面白かったのが、その池田さんが「確かジュゼッペが取り憑かれたものは23個あったと思うんですけど」って言い出して(笑)。「うわ! この人取り憑かれてる!」って思って、あははは(笑)。俺そんな数とか知らんのにさ、この人十分取り憑かれてんねや、と思って。あと、「いしいさん、実はひとつだけ決めてることがありまして」とか言って「なんすか?」って言ったら「ツイスト親分は尾藤イサオにやらせようと思ってるんですよ」って。

インタビュー写真

郁子 そこが始まりなんだ、うんうん(笑)。

いしい それで「この人はもうわかってる!」って思ったから、俺はもう「喜んでお願いします」って。で、その池田さんがたぶん郁子ちゃんにペチカ役をやってもらおうって決めたんやと思うねんけど、それはすごい手柄やと思ってる。今、郁子ちゃんは普段使わへん身体と精神使って稽古して大変やと思うんだけど、それは筋トレみたいなもんで、その筋肉が付いたときにどうなるか。だから別に「トリツカレ男」一発だけじゃなくてもね、郁子ちゃんが今回の経験を通して「私こんな筋肉もあったのか」って、別の何かを世の中に響かせてくれるっていうのもあるかもしれへんし、これを通過した向こう側になんか別のもんがあったらいいなあっていうのは思うよね。

郁子 今日、私は稽古場からここに来たんですけど、なにもかもが初めてづくしでとまどうことばかりなんですね。だけど、台本っていうのは音楽でいうところの譜面と同じなんだなって、今だんだんわかってきてて。決まったセリフはあるけど、その内側にはそれぞれの心があって、気持ちがあって、お互い呼吸やリズムで反応してくもんであって。あぁ、これは音楽と一緒だなって。だからこの「トリツカレ男」は「音楽劇」って言ってるけど、それがどういうことかというと、芝居やダンスの場面も含めて、舞台全体が音楽的であればいい。ダイナミクスや伸び縮みをみんなで作っていければいいんだ、って今は思ってる。

──この「音楽劇」というのは「ミュージカル」とは違うものなんですか?

郁子 うん、いわゆるミュージカルっていうものがあるとしたら、その型をどんだけ壊せるかっていうのがひとつの課題でもあって。ああいうミュージカルの音楽のあり方というのは、しっかりしたセリフを話すシーンがあって、そこにドーンと音楽がかかったら、また音の中でも芝居のときと同じぐらいのセリフの量で説明をするでしょう。「私はこんなにあなたのことが好きなのに~♪」っていう歌が入って、それが終わった後に芝居に戻って。だからミュージカルっていうのは結局ずっと芝居なんですね。でも音楽っていうのは、そもそも言葉にならないこと、なんとも言えないもの、そういう部分から出てくるものだと思うから、そこを、今回ダンスもあるので、ダンスと芝居と音と、全体を使ってどれだけ伝えられるかだなあと思ってる。

いしい うん。音楽劇っていうのをひっくり返して劇音楽って言ってもいいよね。

郁子 あっ、いいね。めっちゃくちゃ激しいの?(笑)

いしい “激”音楽?(笑)

郁子 “激”音楽!

音楽と芝居と踊りはもともと同じものだった

いしい もともとは、3万年ぐらい前に火とか焚いて「ウゥー!」とかって言い始めたときと同じなんだよね。「今日マンモスとか見てんけどさあ、めっちゃでっかいマンモスやってんけど、牙片っぽしかなかってんけどな、あれどうしたんやと思う?」みたいなことをウゥーとかダンダン!とかやりながら物真似で伝えるわけよ。

郁子 一生懸命説明するんだ!

いしい うん、たぶんね。「じゃそれはたぶんあれちゃう? どっか引っかけて痛かったろうねえ!」みたいなことを「ウゥー!」って言いながら伝えてるわけやん。で、それっていうのは、音があって話があって踊りがあって、実は一番根っこはそれなんちゃうかと思うのね。で、その後でいろいろみんな賢くなってきたから、音楽と芝居と踊りとかっていうふうに分けていった。それがさっき言ってた根っこのところなんよ。だから演技とか踊りとかさ、全部の始まりはたぶん何万年か前にあるわけ。それをやっぱみんな感じてるんとちゃうかな。

郁子 ああー、うんうん。ほんとにそうだね!

インタビュー写真

いしい だからそういうことをやろうとしてるって思ったら、なんかいいよね。ピカソとかもやってたやん。ピカソとかコクトーとかエリック・サティとかが「パラード」っていうバレエとか絵をやってて、みんなそのとき一緒にやっててん。歌舞伎役者とかもみんな同じところで、音楽もあり、美術もあり、芝居もありみたいなことをやってて。それをバラバラにしてそれぞれを鑑賞しましょうか、みたいなことになったのって、たかだかこの100年200年ぐらいのことでしょ。本当はだからそういうもの、全部まとまったものっていうことのほうが先なんちゃうんかな。

郁子 すごい。そうかも。「鳴」るって漢字があるでしょ、口に鳥って書く。あれはもともとは神事、神授の行事で四角い器を鳥がくちばしでポポンって叩くと、その音が響いたっていう状態から来てるっていう話を聞いたことがあって。そこには踊りと芝居的な要素と音楽と神話がぜんぶ混ざってて、それを残すために漢字にしたわけで、やっぱり全部が入ってるんだよね。

いしい うん、たぶん全部が入ってる。ただ、それをまたそのまま同じようにやろうっていうのは今は違ってて、つまり俺らは原始人ではないし、自分らに与えられてるのはピアノやったり鉛筆やったりっていうもんしかないので、できるだけそれを一生懸命使って、今の自分にできることをやって、遠くにある何万年前かの種みたいなものがちょっと感じられたらいいかなっていう。ただ、今、郁子ちゃんは舞台の上でいろんな人達がそれを持ち寄ってやってるわけやから、そういうところでは何万年の種っていうのが、くっきり見えてきやすいかもしれんね。いろんな人のスポットライトがこう合わさって。

アトリエ・ダンカン プロデュース 音楽劇「トリツカレ男」

あらすじ

ジュゼッペのあだ名は「トリツカレ男」。何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかり。オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繍、ハツカネズミetc. そんな彼が、寒い国からやってきた風船売りに恋をした。無口な少女の名は「ペチカ」。悲しみに凍りついた彼女の心を、ジュゼッペは、もてる技のすべてを使ってあたためようとするのだが……。

公演情報
東京公演
2009年9月4日(金)~13日(日)
天王洲銀河劇場
料金:一般7000円/カジュアルシート5000円/学生券4000円(全席指定)
4日(金)19:00
5日(土)14:00/18:00
6日(日)14:00/18:00
7日(月)19:00
8日(火)19:00
9日(水)14:00/19:00
10日(木)19:00
11日(金)19:00
12日(土)14:00/18:00
13日(日)14:00
福岡公演
2009年9月16日(水)19:00
Zepp Fukuoka
料金:7000円(全席指定)
名古屋公演
2009年9月19日(土)13:00/17:30
名鉄ホール
料金:7000円(全席指定)
大阪公演
2009年9月22日(火・祝)13:00/17:30
シアタードラマシティ
料金:S席7000円/A席4000円(全席指定)
キャスト&スタッフ
  • 原作:いしいしんじ(新潮社刊)
  • 脚本:倉持裕
  • 演出:土田英生
  • 振付:小野寺修二
  • 音楽:青柳拓次・原田郁子
  • 出演:坂元健児、原田郁子(クラムボン)、浦嶋りんこ、小林正寛、尾方宣久、尾藤イサオ、江戸川卍丸、大熊隆太郎、榊原毅、鈴木美奈子、中村蓉、藤田桃子