原田郁子が舞台初挑戦! いしいしんじ&郁子が語る「トリツカレ男」の本質
話題の舞台「トリツカレ男」が9月4日より全国4都市で上演される。いしいしんじの同名小説を原作に、アトリエ・ダンカンがプロデュースを手がけたこの公演は「音楽劇」と名付けられたユニークな内容。劇中音楽は青柳拓次(LITTLE CREATURES、KAMA AINA)と原田郁子(クラムボン)のコンビが制作し、青柳は全日生演奏を披露する。原田郁子は音楽だけでなく、風船売りの少女・ヒロイン“ペチカ”役として登場。舞台デビューを果たすこととなる。
今回ナタリーでは、この公演の魅力を掘り下げるべく、いしいしんじと原田郁子の対談を企画。2人の出会いから始まった会話は、音楽や芝居という枠を超えた“表現”そのものの本質にまで迫っていく。「トリツカレ」た表現者2人の素顔を浮かび上がらせる、深くて長いこのテキストをぜひ読み進めていってもらいたい。
取材・文/大山卓也 撮影/佐藤類
──いしいさんと郁子さんは、いつ頃からお友達なんですか?
いしいしんじ 一番最初は「はなれ ばなれ」(クラムボン)っていうのを、錦糸町のHMVやったと思うねんけど、そこで試聴したのが始まり。聴いて「あ、これ買わな」と思って。俺が浅草に住んでたときやから、あれ何年前? 「はなれ ばなれ」って。
原田郁子 ちょうど今年で10年です。99年。
──郁子さんがいしいさんの作品を初めて読んだのは?
郁子 「ぶらんこ乗り」っていう小説で。もうまったくのジャケ買いだったんですけど。
いしい ハードカバーでしょ、まだ。
郁子 そうです。荒井良二さんの絵で。あれ何年に出たんだろ。
いしい 2000年。
郁子 じゃあ新刊ではなかったけど、たぶん本屋さんで平積みになっていて。それにビャって目がいってパッと手に取って、ちょっとめくったら「あっ、もうこれ絶対面白い」と思って、そのまま買って帰ったのが最初です。で、そのときちょうど私初めてソロのアルバムを作るっていうことになっていて、やっぱりやるんだったら今までやったことないことを何かやってみたくて、歌詞を誰かに書いてもらうとか、誰かと一緒にそういうことをしてみたいなって思ってたんですね。そこにドカーンっていしいさんの本がやってきて。読み終わる前から「この人に歌詞を書いてもらったら、たぶん今まで誰も聴いたことがないような歌ができる!」って思ってしまって、それで出版社の方を通じて連絡を取らせてもらって、直接会いに行ったんです。
──じゃあ特に交流があったわけではなく、最初はそれぞれお互いの作品のファンだったんですね。
いしい まあ、前世ではなんかあったかもしらんけどね(笑)。
郁子 でしょうね(笑)。
いしい なんかあの、サイとハチドリとかね。まあ、人間と人間ではなかったと思うねん、たぶんね。
郁子 あはは(笑)。
いしい 藻とウミウシとかね。
郁子 すごいわかる。そうかも(笑)。だから人間はしんどい、と。
いしい あのとき、最初に郁子ちゃんが三崎に来たのって何年?
郁子 2003年かな。
いしい そっか。そのとき俺、三崎っていう港町に1人で一軒家で住んでて。で、バスで来るっていうから、バス停に迎えに行ったらもう来てて、なんや古着着てて……。
郁子 小汚い(笑)。
いしい そういう姉ちゃんが1人いるから、あれかなと思って「原田さんですか?」とか言ったら「あー、いしいさん」とか言って。で、2人で商店街歩きながら「ここはこういうところでね」とかって。本当にね30mぐらい歩いてたらもう、ひさしぶりに田舎帰って来て懐かしいやろみたいに町を案内してるおっちゃんとイトコみたいな感じになって。
郁子 全然初対面っぽくなかったよね(笑)。
いしい うん、今とおんなじ感じやった。
──そのとき郁子さんは1人で会いに行ったんですね。
郁子 そうですそうです、完全に1人で。そのほうがいいなと思って。ぞろぞろスタッフが来るのも違うかなって。
いしい で、魚屋とか行って、家に上がってもらって、お茶とか出して、歌の歌詞をっていう話はもちろん聞いて、じゃあ喜んでみたいな感じで。あとは「僕こんな音楽好きなんです」とか「こういう本が好き」とか、そういう話を2人で延々日暮れぐらいまで、茶飲みながらやっててね。「ほな帰りますわ」「じゃあまたねー」ってまたバスで見送って。そんときどんな歌詞にしてくれとか、どんなアルバムにするとか、そういう音楽的なことは一切なし。お互い聞かなかったし、すごい楽しみやな、どないなるやろって思ってただけ。
──じゃあ打ち合わせをしたわけではなく。
いしい うんうん、ひさしぶりに会うみたいな感じで。
郁子 それで、そのあと1週間くらいして「かじき釣り」の歌詞がある日ドーンとやってきたんだったと思います。
いしい 「こんなんできたんやけど」みたいな。
郁子 あのときはすごくびっくりした。「あー、私には本当に書けないな」って。そこに物語があって、文字なのになんか音楽みたいに聴こえてきたし、「これはたいへんだ!」と思って、そのときオオヤくん(Polaris)に手伝ってもらってたんだけど、2人で楽器も持たずに、机を叩いたりリズムを口で言ったりしながら曲を作っていったの。
いしい そういう作り方はあんまりしない?
郁子 あんまりない。やっぱり楽器のコードとかから作ることが多いから、本当に言葉に引っ張れられるように作ってって。
ジュゼッペのあだ名は「トリツカレ男」。何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかり。オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繍、ハツカネズミetc. そんな彼が、寒い国からやってきた風船売りに恋をした。無口な少女の名は「ペチカ」。悲しみに凍りついた彼女の心を、ジュゼッペは、もてる技のすべてを使ってあたためようとするのだが……。